『きんもくせい』

 

明け方の街。
肌寒い風に肩を竦めた時、ふと懐かしい匂いを感じた。
澄んだ空気に混じる、甘い香り。

いつだったろう?
この香りのする木を、おまえと探したことがあった。
どこで咲いているのか、確かな香りは風に漂っているのに、
花の咲く木が見つからない。

匂いを追って、くんくん辺りを見回して…
いつもは大人の顔をしたおまえが、負けず嫌いの子供のような目で微笑む。

見上げれば、暁の空に浮かぶ面影。
花の咲いてる木は、探せない。
濃い緑の葉に隠れるようにして咲く、小さな金色の花。

けれど、どこかで咲いてる。
優しい甘い香りが、ここまで届いている。

再び歩き出した足元を、風に運ばれた金木犀の小さな花が、
追いかけるように転がっていった。

2008年10月13日

 

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