『かき氷』

 

うだるような暑さに、汗が流れる。
扇風機の前で団扇をパタパタしていると、直江がスイカを土産に訪ねて来た。

「おっ!よく冷えてんじゃん。」

さっそく台所に運び、包丁で半分に割ったところで、ふと高耶の手が止まった。

「どうかしましたか?」

いつものように黒ずくめのスーツに身を包んだ直江が、不思議そうに声を掛ける。

「何でもねえよ。」

と言いながら、高耶は何やら楽しげな顔で、切ったスイカの半分を冷蔵庫に入れると、
サクサクと包丁を動かし、残りをガラスの器に盛り付ける。

そうして高耶は冷凍室から製氷皿を取り出した。

「待ってろよ。めちゃくちゃ美味い氷スイカ、喰わせてやるから。」

ガリガリ、シャリシャリ

かき氷器のハンドルを、力いっぱい回す。
赤いスイカの上に、白い氷が雪のように降り積もって、やがて二人分の氷スイカが出来上がった。

「うん、イケる。やっぱ甘いな、このスイカ。」

「美味しいです。本当に。…でも…」

あなたの誕生日なのに、これではまるで反対だと、直江は言うのだ。

  違うよ。

 おまえは、ちゃんと祝ってくれてる。

 こんな暑い日に、こうしてオレのところへ来てるんだから。

どんな贈り物よりも、どんな言葉よりも、それが嬉しい…なんてオレには絶対に言えやしない言葉だけど

だから今だけ…少しだけ…

シャクッと噛んだスイカの甘い香りが、口に広がる。
見つめる視線の先に、直江の眼差し。
甘い熱が胸を満たしてゆくのを感じながら、オレは溶けた氷を飲み干した。

 

 
 

                         2011年7月23日     

 

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