傷だらけの飛空挺を労わるように撫でて、男はおもむろに整備に取り掛かった。
あの人のことだ。どうせすぐに飛びたがるに決まっている。
黙々と作業を続ける男の目に、すらりとしたジーンズの足と白いスニーカーが映った。
「こいつの整備も、あんたがしてくれてんだな。」
「ええ。あなたの艇ですから。」
簡潔な言葉の裏には、クレイジータイガーと異名をとる彼への非難が含まれている。
荒くれ達が多い飛空挺のパイロットでも、彼は命知らずな行動と驚異的な操縦で、
敵味方を問わず群を抜いた存在なのだ。
当然その彼が乗る艇は、最高のコンディションが要求される。
整備士泣かせの仰木と呼ばれていた彼、仰木高耶の艇を全て引き受けたのが直江信綱。
つまり今ここにいる男だ。
「知ってるか?この機体の名前…オネスティ503って言うんだ。」
「オネスティ…」
呟いた直江に、高耶が小さく笑う声が聞こえた。
「俺が付けた名前だ。おまえから取った。」
え?と目を瞠った直江が、艇の下から這いでる間に、高耶は走って行ってしまった。
「誕生日5月3日だってな。憲法と同じ日って、ホントお前らしいぜ。」
振り向いて笑う姿を見送って、直江は機体に手を置くと、抜けるような青空を見上げた。
2008年6月14日
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