光のかけら別バージョン

第二十二章 エンディングロール

高耶の携帯に、千秋から電話が入った。
「勝手に引退しちまいやがって。てめえ許さねえ! 俺の夢をどうしてくれんだよ!」
いつものようにふざけた口調でしゃべりながら、声が震えてかすれている。
胸が痛んで、高耶の声も震えていた。
「千秋…悪かったな。ホントごめん。俺でよければ必要になったら呼んでくれ。
おまえが呼ぶなら俺は必ず行く。約束するから…」

「わかった。約束だからな、忘れんなよ。…直江は…」
言いかけて、千秋は言葉を切った。
言わなくても高耶はきっとわかっている。
わかっていてこうしたのだ。
「あいつは大丈夫だ。俺も…大丈夫だから」
淡々とした声に、せつなさと決意が滲む。
「早く会えるようになるといいな。」
そう言って千秋は電話を切った。

それしか言えなかった。
高耶が引退を決めた理由も、誰にも居場所を知らせないことも、
どちらもあまりに高耶らしくて泣きたくなる。
「ホント不器用な奴だぜ…」
呟きながら思う。
そういうおまえだから、失いたくないんだと…

やがて「光のかけら」は、全ての収録を終えてクランクアップした。
その日は、綺麗な青空が広がっていた。
花束を抱えた共演者一同が、並んでテレビの取材に応じているとき、綾子は小道具係りがこっちを向いて手を振っているのを見つけた。
「なあに? あれ何やってんのかしら?」
隣にいた直江の袖を引っ張って耳打ちすると、
「え?」
と顔を向けた直江は、次の瞬間、レポーターもカメラも押しのけて、その人のほうへ走り出していた。

小道具係りの隣にいた青年が、慌てて背を向けて走り出す。
「待ってください! 高耶さん! 誰かその人を捕まえてくれ!」
大声で叫びながら走る直江に、共演者もスタッフも取材陣も、一斉に青年の元へ向かった。
周りを囲まれて逃げられなくなった高耶の前に来た直江は、
「あなたって人は…本当になんてひどい人なんだ。」
そう言うと、高耶の腕を引き寄せて、強く抱きしめた。

もう離さない。
何があっても、どんなにあなたが傷つくことになっても、
俺はもうあなたと離れない。
あなたを愛しているから。
傷つけることを恐れるよりも、あなたと一緒に傷つきたい。
ふたりなら立ち上がれる。
ふたりで一緒に、立ち向かえばいいんだ!

「直江…」
耳元で小さく囁いた高耶の声は、どんな愛の言葉より甘く聴こえた。

「きっとここに来ると思って、見かけたら知らせて欲しいと頼んでいたんです。」
これが欲しかったんでしょう?と言いながら、直江は内ポケットからペンダントを取り出した。
受け取ろうと手を出した高耶の目の前で、直江はにっこり微笑んでそれを自分の首にかけた。
「ダメですよ。あなたはまだわかってないようだ。やはりたった三日では無理だったようですね。」
そう言って、直江は熱い瞳で高耶を見つめた。

俺の思いを伝えるなんて、一生かけてもきっと足りない。
想いは尽きることなく溢れてくる。
あなたへの思いを隠すなんて、考えたことが間違っていたのだ。

「あなたには俺がいます。欲しがるのは本物の俺だけにして下さい。」
うっとりと口付けた直江に、きゃ〜と黄色い歓声が上がり、撮影所は騒然となった。
「ばか。おまえって本当にどうしようもないバカだ!」
赤くなって俯いた高耶の瞳には、煌くような涙のつぶが光っていた。

打ち上げは例の居酒屋で行われ、高耶も来て大いに盛り上がった。
引退会見と、その後の直江の会見は、視聴者にとても好意的に受け入れられ、
特に直江は会見で失神する女性が出たほどの人気で、新しいジャンルの仕事も増えていた。

でもそれは、やはりこの「光のかけら」のドラマが大きな反響を呼んだからと言えよう。
数々の名場面が生まれ、このドラマは伝説となった。
ラストシーンで、鎖の縺れをといた白井が光にペンダントをかけたとき、光が涙を流して微笑む。
そして白井の手を自分の手で包みこんで「ありがとう」というのだが、これを見ながら多くの人々が、光や白井と一緒に涙を流した。
ドラマでは、この先の出来事を追っていない。

ただエンディングロールで、光と洋平が微笑みながら手を繋いで病院の庭を歩くシーン、
同じく病院の庭で、木に引っ掛かった紙飛行機を取ってやる白井と洋二のシーンなどが、
その後の彼らを物語っているようで、ドラマが終わってもDVDやビデオで何度も繰り返し見られていた。

「なあ。いい出来だろ?これは俺たちが作り上げたんだぜ。」
千秋は電話で高耶と話しながら、様々なシーンを思い出していた。
ひとつひとつに、いろんな想いが詰まっている。
そのひとつずつが、光のかけらみたいだと、千秋は思った。
きらきらと光って胸を熱くする。

「また作ろうぜ。いつかまた。
俺たちの新しい光のかけらを。
引退したって、また復活すりゃいいじゃねえか。
ハハハ。おまえには愛は語らせねえよ。どうせ照れて何にも言えないんだろ? 
いいんだよ、それでも。」

夢中になれるものが、きっとそこにある。

光のかけらを集めて、新しい虹をつくろう
君は光
優しく 暖かく 輝き続ける光

             2005年2月14日

 

これは引退会見に間に合わなくて、高耶さんがいなくなってしまった。
という設定の方のエンディングです。
本にはこっちを載せる予定(^^) これが元々のラストシーンだったの。
書いてて辛くなって、つい逃げてしまいました(苦笑)
どちらも心を込めて書いたものです。楽しんで貰えると嬉しいな〜(^0^)

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