『お花見』

馴染んだ重みが、布団の上からいきなりドスンと被さる。
男は目を閉じたまま微笑むと、愛しげにそれを抱きしめた。
「高耶さん…」
甘い声で囁いた直江の腕の中で、モガモガと動いたそれは、
「寝ぼけてんじゃねえよ! さっさと起きろ!」
情け容赦もなくゴツンと頭にゲンコツを食らわせると、渋々手を放した直江の頬に小さなキスを落とした。

驚いて飛び起きた直江に、
「出かけるぞ」
と笑いかけた高耶は、もう部屋のドアから出ようとしている。
頬に残る一瞬の感覚を、夢ではないかと手で覆いながら、直江は急いで高耶の後を追った。


  出かけた先は、家から少し離れた丘だった。
名所というわけではないが、ここにも桜が咲いている。
その下で持ってきた包みを開いた高耶に、直江は感嘆の声を上げた。

「すごい!!お弁当まで作って下さったんですか?」
混じり気なしの驚きと喜びが、鳶色の瞳に溢れている。
高耶は照れくさそうに微笑むと、箸とお茶を直江に渡した。

「さあ食うぞ。味は保証しねえから文句は言うなよ。」
そう言っておにぎりを頬張る高耶を見つめて、
「ふふ。あなたが作って下さったなら美味しいに決まってます。」
直江は満面の笑顔で断言し、頂きますと手を合わせた。

やわらかな春の光が、花びらを透かして二人の影を桜色に染めていた。
斜面に座って見下ろすと、遅咲きの白い梅の花や、早咲きの桃までが咲いている。
「ほら、いい場所を見つけただろ?」
得意げな笑顔が、愛しくてたまらない。

微笑みながら食べていた直江は、ふと懐かしい匂いを見つけて、問いかけるような視線を高耶に向けた。
「懐かしいだろ? かんずりを入れたんだ。」
甘辛く煮しめたこんにゃくに、ピリリと辛さが効いている。
「謙信公は、かんずりで酒を飲むのがお好きでしたね。」
「おまえもだろ? みんな好きだった。これがあると体があったまるんだ。」
時代が変わっても、変わらず残るものもある。
暖かい日差しに、桜のつぼみがまたひとつ膨らみを増していく気がした。

「きっと今週中に満開だな。あいつらを誘ってまた来るか。」
「そうですね。そのときは酒を持って来ましょうか。」
「そうだな。みんなで酒盛りしようぜ。」
楽しい計画に笑いあって、緩やかに時が流れていく。
通り過ぎる風の思いがけない冷たさも、肩を抱く口実になると思えば苦にならない。

また来ましょう。ふたりだけで…
囁いた直江の肩に、高耶はコツンと頷くように頭を押し当てた。

        おしまい(笑)  2006年4月2日の更新でした。
    お付き合い下さってありがとうございました!!

 

拍手お礼メッセージ、つい長くなっちゃってこれも連打でした(^^;
いつも本当にありがとう。感謝してます。
この季節、やはり一度はお花見しないとね〜♪ と言いつつ、今年はお花見に行ってない。お花見したかったな〜 

背景の壁紙は、こちらからお借りしました。→

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