ソファーに座って読みかけの本を広げた。
季節外れの嵐も去って、穏やかな夜が更けてゆく。
「直江、飲むか?」
目の前に差し出されたカップには、ココアが湯気を立てていた。
「頂きます」と受け取ると、
「熱いから気をつけろよ」
と言って、高耶さんは自分のココアを手に、隣に腰掛けた。
「甘くない。いい味ですね」
上品なカカオの香りに混じって、高耶さんが飲んでいる甘いミルクココアの香りが鼻孔をくすぐる。
舌を焼く熱いチョコレートを味わっている気分になって、思わず笑みがこぼれた。
「今日はバレンタインですよね」
ニコニコしながら言う直江に、高耶はそれがどうしたという顔で、
「知ってる」
と言うと、テレビに目をやった。
「ココアの別名も?」
わかっているくせに、俺に言わせようとするな。
じっとテレビを見ている高耶の耳に唇を寄せて、
「チョコレートには催淫作用もあるんですよ」
直江が甘く囁いた。
「ちょっと待て! 俺はそんなの知らねえぞ! 勝手にその気になるなよ!?」
慌てて立ち上がろうとする高耶を見ながら、直江は嬉しそうに微笑んだ。
「やはり知っていたんですね」
グッと言葉に詰まって赤くなった頬を、直江の手がそっと包み込む。
唇から甘い香りが広がった。
2007年2月14日
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