「誕生日おめでとう、高耶さん。」
甘い声で囁いた直江を見上げ、高耶は戸惑った顔で尋ねた。
「…これ…俺に選べってことだよな?」
目の前の皿には、美味しそうなケーキが3個、乗っている。
脇に添えられたフォークは1つ。
まさか俺に全部を食えと…?
いくらなんでも、そんなに食えない。
それに、もしそうなら直江の分が無い事になる。
でも2人で3個って…
首を傾げる高耶に、直江はちょっと困った顔で微笑んだ。
「本当は1つに決めるつもりだったんですが、3軒とも良い店で、どれも食べさせたくなってしまって…
自分でもこれほど迷うとは思いませんでした。」
「おまえ…これ別々の店で買ったのか?」
目を丸くして、高耶は直江の顔を見つめた。
「ええ。本当に美味しい店なんです。」
屈託なく頷いた直江は、
「シャンパンと合わせると、それぞれ違う味わいがあるんですよ。
全部が無理なら、一口ずつでも試してみませんか?」
と言うと、優雅な手つきでグラスにシャンパンを注いだ。
「じゃあ、おまえも」
シャンパンで乾杯して、高耶はショートケーキを一口食べると、直江の口にもフォークで一片差し出した。
控えめな甘さが、ほろりと口の中に広がる。
そのまま直江の首を引き寄せて、高耶は薄く開いた唇を重ねた。
柔らかな舌が優しく絡んで、ゆっくり離れる。
「美味いな。」
吐息のような囁きに、直江の瞳が抑えきれない熱を孕んで煌めいた。
瑞々しい桃の香りを味わい、滑らかなチョコレートの舌触りを楽しみあいながら、もっと甘くて熱い肌に酔いしれてゆく。
命の熱さに抱かれて、高耶は直江の心をギュッと抱きしめた。
2008年7月23日