『目に青葉、そして…』

 

晴れた空の下、爽やかな風が吹き抜ける。

のどかな田園を歩きながら、直江はふと聴こえた鳥の声に、立ち止まって耳を澄ませた。

「どうした? 何か気になる事でもあったか?」

前を歩いていた景虎が、気付いて足を止める。

声を顰め、同じように耳を澄ませて、素早く辺りの様子を窺う姿に、直江は急いで横に並んだ。

そっと袖の端を引いて、先を促す。

「どうも致しませぬ。さあ、先を…」

鳥の初音に気を取られたなど、知られたく無い。

怪訝な顔を上げた景虎は、ひときわ高く鳴いた鳥の声に、「ああ…」と納得したように頷いた。

「ほととぎす…か。」

そのまま暫く立ち止まり、景虎は目を閉じて静かに深く息を吸った。

どろどろとした闇の気配とは無縁の、清々しい空気と明るい陽の光。

生きている…

その喜びを歌う声が、生命の輝きが、胸に染み渡るようで、ただ瞑目して息を吸った。

目を開けると、直江が隣りに立って、じっと辺りに気を配っている。

「行くぞ。」

声を掛けて歩き出す。

直江が妙に嬉しそうな顔で、
「御意。」
と応えて後に続いた。

遠い連山の尾根に、まだ白く雪が残っていた。

 

2009年5月10日

 

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