ビョオオォ
暗く沈んだ空を、灰色の雲がゆく。
海鳴りが聞こえる。
激しく吹き荒れる嵐のように、
ゴオオォ ビョオオォと叫んでいる。
声に出せない、
言葉に出来ない思いが、
ただ胸の内でだけ、叫びを上げて渦巻いている。
どこに行けばいい?
どう流れても、打ち寄せる浜は決まっているのに、それでも心が叫んでしまう。
どこに行けば、あるのだろう?
この思いが鎮まる場所が、どこかにあるなら…
本当にあるなら…
やがて雲が切れ、やわらかな陽射しが降り注ぐ。
肩に着物の重みが掛かった。
「また風邪を召します」
「また」とは何だ!と思ったが、景虎は黙って着物を羽織った。
青い空が、雲を散らして広がろうとしていた。
2007. 12. 12
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