フクジロ
僕のハンドルネームの「フクジロ」ですけどね、ちょっと紹介しとこうかと思いまして。宮沢賢治ファンの方は知ってるだろうけど、そうでない人は多分知らないだろうから。

「グスコーブドリの伝記」という作品を読んだ人は結構いるんではないでしょうか。この「グスコーブドリの伝記」の準備稿的作品で「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」というのがあるんですが、フクジロはその中に出てくるキャラクターです。どんな奴かというと、

 その時向うから、トッテントッテントッテンテンと、チャリネルいう楽器を叩いて、小さな赤い旗をたてた車が、ほんの少しずつこっちへやって来ました。見物のばけものがまるで赤山のようにそのまわりについて参ります。
 ペンネンネンネンネン・ネネムは、行きあいながらふと見ますと、その赤い旗には、白くフクジロと染め抜いてあって、その横にせいの高さ三尺ばかりの、顔がまるでじじいのように皺くちゃな殊に鼻が一尺ばかりもある怖い子供のようなものが、小さな半ずぼんをはいて立ち、車を引っ張っている黒い硬いばけものから、「フクジロ印」という商標のマッチを、五つばかり受け取っていました。ネネムは何をするのかと思ってもっと見ていますと、そのいやなものはマッチを持ってよちよち歩き出しました。
 赤山のようなばけものの見物は、わいわいそれについて行きます。一人の若いばけものが、うしろから押されてちょっとそのいやなものにさわりましたら、そのフクジロといういやなものはくるりと振り向いて、いきなりピシャリとその若ばけものの頬ぺたを撲りつけました。
 それからいやなものは向うの荒物屋に行きました。その荒物屋というのは、ばけもの歯みがきや、ばけもの楊子や、手拭やずぼん、前掛などまで、すべてばけもの用具一式を売っているのでした。
 フクジロがよちよちはいって行きますと、荒物屋のおかみさんは、怖がって逃げようとしました。おかみさんだって顔がまるで獏のようで、立派なばけものでしたが、小さくてしわくちゃなフクジロを見ては、もうすっかりおびえあがってしまったのでした。
「おかみさん。フクジロ、マッチ買ってお呉れ。」おかみさんはやっと気を落ちつけて云いました。「いくらですか。ひとつ。」
「十円。」おかみさんは泣きそうになりました。「さあ買ってお呉れ。買わなかったら踊をやるぜ。」

こんなやつです。「いやなもの」といってるわりにはなんかカワイイかんじで好きなんです。「よちよち」歩いたり、「踊をやるぜ」なんていってみたり。
フクジロはこのあと押し売りの罪で裁判にかけられるんですが、その処遇がとっても良いんです。

みんなを罪にしなければならない。けれどもそれではあんまりかあいそうだから、どうだ、みんな一ぺんに今の仕事をやめてしまえ。そこでフクジロはおれがどこかの玩具の工場の小さな室で、ただ一人仕事をして、時々お菓子でもたべられるようにしてやろう。あとのものはみんな頑丈そうだから自分で勝手に仕事をさがせ。

う、うらやましい。なんて素敵な仕事を世話してくれるんでしょうか。ネネム世界長、僕にもそんな仕事、世話していただけないもんでしょうかねぇ。

「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」を全部読みたい方はこちらへどうぞ。無断リンクですけどね。なんともいえない奇妙感が素敵なお話です。

http://why.kenji.ne.jp/douwa/96pennen.html

僕はさほど賢治ファンってわけではないんですが、「冬」に、例えば電車の中なんかで読むのが好きなんです。賢治の童話の最大の魅力は季節の描写にあると思ってるんですが、冬に読むとその季節感が際だって感じられるような気がするんですね。
寒いのは嫌いだけど、賢治の本を見ると、ちょっぴりなんですが、早く冬にならないかな、と思うのです。

(2004.08.28)