笛の音うるむ    


      松江高等学校昭和三年寮歌 

       

 1、笛の音うるむ夕月夜
   袖師ヶ浦に逍遥の
   汀戀しき春たけて
   君くれなゐの(かんばせ)
   水面(みおも)の影にうつろひて
   三春うたゝ夢の中

 2、東雲(しののめ)やぶる郭公(ほととぎす)
   血を吐く思ひ幸盛が
   雄圖の夢や眞陵に
   殘んの月を仰ぐとき
   氣は世を(おほ)ふますらをの
   胸に雄士の思ひあり

 3、大和島根の宮柱
   建業古きいしづえを
   流れて清し簸の川の
   靡爛(びらん)の榮華怒るごと
   夕波さわぎ風荒れて
   我凋落の影ふかし

 4、風(せう)々と雲ひくゝ
   渡る易水さむけれど
   思は同じ六寮の
   壯士一齊さす所
   高き理想の月の影
   俗には媚ぶることなかれ

 5、あゝ若き日の今や逝く
   友よ無量の感いかに
   嵩の山もとさまよへば
   くもりてわかぬ哀愁の
   なげきをこむる()(まみ)
   非常の光誰か射る