六吟歌仙 蚊遣火         なむ・紫野・東人・玉簾・振り子・天気

   蚊遣火のぽつりと暮れてゆきにけり     なむ
     かの大哲の書を積む露台        天気
   四つ辻にインド音楽流れゐて        紫野
     うしろ姿のエレファントマン      東人
   静けさを連れて佇む池の月         玉簾
     極彩色は囮に入れり         振り子
 ウ カルメンの帰郷せる日の空高く        気
     幼馴染の順に密会            む
   阪神戦見ながら腰に手をまはし        人
     たづなを締めて直線の芝         野
   外科室にかぎ裂きの布充たしたる       子
     うはごとを言ふ口を塞ぎて        簾
   猿山に本籍を置き夏の月           野
     役場の裏で亀を助ける          気
   アルゼンチンタンゴに駅長巻きこまれ     子
     その後小指を隠す癖つく         む
   花を追ひ羅盤の方位回転す          簾
     寿司喰ひながら見る蜃気楼        人
ナオ 春燈の淵に李朝の壺を置き          野
     涙で耐へる足マッサージ          簾
   乳踏まずとか俯いておやぢギャグ       む
     埃だらけの鯱が立つ           子
   抱いてくる十大付録の新年号         人
     自分探しのかさぶためくり        気
   蝉丸と七泊八日船の旅            簾
     ダブルベッドで読む罪と罰        人
   歯ブラシをひとつコップに挿し帰る      子
     地軸とともに傾ぐ地球儀         野
   月光の浜に太刀持ち露払ひ          む
     大群衆と不知火を待つ          気
ナウ 黒板のへのへのもへじ身に沁みて       野
     長躯が背を屈める化粧          子
   ふと寝息聞こゆる雪の大平野         気
     仔犬とふたり傘をささうよ        む
   買ひたてのオープンカーは花の下       人
     てのひらにのる春の日輪         簾


起首 2003年 8月 9日(土)12時52分31秒
満尾 2003年10月26日(日)16時00分30秒



五吟歌仙 黒潮         百花・等・四童・宙虫・天気

   黒潮や朝な夕なの蝉のこゑ     百花
     沖より望む陸の万緑      天気
   新参の豆腐屋チラシ配りゐて     等
     市電が曲がる街の直角     四童
   少年の竹刀が月をとらえたり    宙虫
     二百十日に絞る雑巾       花
ウ  山積みの檸檬のひとつ抜き取れば  気
     ほどよく乱る茶筅髪なり     等
   帰す朝世話は爪切るだけにする   虫
     遠近法の揺れる白昼       童
   ダゲールが手を振つてゐる熱気球   気
     終の色見て変はり玉噛む     花
   ぼろ布に液しみ込ます年用意     童
     月艶やかに京の伊達巻き     等
   忍術の学校でまず墨を磨り      虫
     闇のくぼみをさぐるてのひら   気
   散る花に紛れて恋を見失ふ      童
     東京湾の砂吐く浅蜊       虫
ナオ 春宵の羽田へひだり旋回す      花
     下駄のタップに度肝抜かれて   等
   御吸物付で三人前至急        童
     楽屋にでんとかしまし娘     気
   鈴蘭の香りのなかで得度して     等
     猫の首輪を洗ふ滝壺       虫
   穴ひとつ増えし気配に乗る秤     花
     嗚呼人体の七割は恋       童
   乙姫のマットの技のなつかしく    等
     おぼるるによき日本海溝     気
   月の舟入るる港のはるけさに     花
     紅葉が浮かぶぶんぶく茶釜    虫
ナウ 秋天へただひとりなる綱渡り     気
     楽に合はせて象の足踏み     等
   天竺のひと天竺の河の中       童
     南大門は仰ぎてくぐり      花
   透明な傘で出かける花の雨      虫
     米屋に群れる子すずめの尻    等


起首 2003年 7月22日(火)18時28分20秒
満尾 2003年11月 2日(日)12時27分20秒



両吟歌仙 
爽籟                   百花・天気

   爽籟や仰ぎて深き竹の天       百花
     澄みゆく秋のことのをりふし   天気
   幸せの王子落涙月光に         花
     広場にひとつきりの止まり木    気
   先生が鸚鵡へ返す誉めことば      花
     航路は雲のむらだつさきへ     気
 ウ 花束を投げては思ふあすのこと     花
     あかい手帳をめくる指先      気
   外つ国へ追ひかけて行く深夜便     花
     波留麻和解もて紅灯にあり     気
   流れきし観音像を秘仏とし       花
     ヘモグロビンはすごくわがまま   気
   月凍るスパイダーマンの肺活量     花
     けふもおでんにくもる窓から    気
   あつぱれな青い地球の富士の山     花
     このなで肩は父親ゆづり      気
   裾ひいて鹿鳴館の花の宴        花
     ニ弦の鳴るは亀鳴くごとし     気
ナオ 撚り糸の切れたる凧が風に跳ね     気
     松の緑の寸を競ひぬ        花
   銭湯の鏡を前におのこども       気
     芝生にころげチェスのビショップ  花
   鉢ごとに薔薇の名前のながながと    気
     閉園の鐘雲の染むまで       花
   三毛猫の四肢が奏でるピアノ曲     気
     旧婚旅行の腰に膏薬        花
   すれちがふ小娘に目が貼り付いて    気
     夭折したる俳人のこと       花
   しろがねのせなのましらと月の宴    気
     蚯蚓鳴くかと地へ耳寄せて     花
ナウ 受話器から五臓へわたる秋の風     気
     神を拝して受くる湧き水      花
   手品師の寝るときはづすサングラス   気
     安達太良山へ鳩を飛ばせる     花
   風狂も活計も花の雲のした       気
     膾欠かさぬ春のともしび      花


起首 2003年 8月18日(月)15時28分51秒
満尾 2003年10月14日(火)11時19分57秒