激坂についての考察 その1


これまでのヒルクライムの記録から激坂について考えてみました。

●考察のテーマ●

激坂をめぐって、以下のテーマについていろいろ考えてみました。

激坂とはどれくらいの坂か? これまでに走った坂道の傾斜度データを参考にして、どの程度の坂を激坂と言うのか考えます。

@  ヒルクライム記録の勾配データを比べる

A  勾配の数値と傾き感の目安

B  勾配データから気付くこと

C  緩急変化が激坂感を左右する

D  疲労度も激坂感に影響する

E  一般的にはどれくらいの坂が激坂か?

激坂はどこにあるのか? どこの行けば激坂があるのか。激坂の多そうな場所を思いつくままに記します。

@  激坂はどこにあるのか

A  その1 ダム沿いの道

A  その2 植林地の作業道

B  その3 旧い峠道の峠直下

C  その4 河岸段丘の傾斜地崖を登る道

1 激坂とはどれくらいの坂か?

@ ヒルクライム記録の勾配データを比べる

 本ホームページの「はじめに」で本ホームページの目的は自転車のヒルクライムにおいて、どれくらいの坂が激坂なのかを解明することであると書きました。ホームページ開設から1年が過ぎ、ヒルクライムの記録も蓄積されてきました。そこで、坂道を走った時の傾斜の感じ方と傾斜度などのデータを比較検討し、どれくらいの坂が激坂なのかについて考えてみます。

 まず、傾斜度のデータを示します。斜度(角度)ではわかりにくいので、勾配(%)に置き換えました。勾配(%)のほうが坂道の傾斜を表す数値としてよく使われており、傾斜の感じをイメージしやすいからです。第1回の金山城跡線から第29回の長尾根峠までのコースの中から勾配の大きいコースを10コース、順に並べてみると下の表1のようになります。


表1 勾配ランキング
順位 コース名 勾配(%) 勾配B(%)
唐沢山 23.9 34.5
鳴神山 16.3 33.4
金沢峠 13.9 19.1
姥沢峠 11.3 13.3
荒神山 11.1 14.4
小倉峠 9.9 18.2
松風峠 8.8 10.8
唐澤峠 8.6 11.7
菅塩峠 8.4 11.3
10 赤城大胡線 8.0 15.5

 表1には押しや担ぎが必要で、自転車では登れない場所も含まれています。自転車で登れるコースに限定すると下の表2のようになります。

表2 勾配ランキング(全乗車可能コース)
順位 コース名 勾配(%) 勾配B(%)
金沢峠 13.9 19.1
荒神山 11.1 14.4
小倉峠 9.9 18.2
松風峠 8.8 10.8
菅塩峠 8.4 11.3
赤城大胡線 8.0 15.5
城山 7.8 27.6
利平茶屋 7.8 9.6
忍山林道 7.4 9.6
10 小平座間線 7.0 27.8

 表1・2の勾配(%)は次のようにして求めました。まず、走った距離を斜辺の長さ、標高差を垂辺の長さとした直角三角形を想定します。次にその直角三角形の底辺の長さ(=水平距離にあたる)を求めます。最後に、垂辺(=標高差)の長さを求めた底辺(=水平距離)の長さで割りました。式にすると、勾配(%)=(垂辺(=標高差)÷底辺(=水平距離))×100となります。「補足説明―斜度について」を参照。

 このため、表1の勾配(%)は単純に標高差を地図上の水平距離で割った値よりも小さくなります。参考までに標高差を地図上の直線距離で割った勾配の値(表の勾配B)も示しておきました。

 なぜこのような計算方法をとったかといえば、標高差÷水平距離をそのまま計算した勾配(%)の値(表の勾配B)は、スタート地点からゴール地点を直線で結んだ場合の勾配(%)であり、実際に走った感じよりも勾配(%)の値が大きくなってしまうからです。

 現実の坂道は起伏の変化やカーブがあり、急斜面を迂回したりしながら高度をかせいでいきます。一定の傾斜を直登する、滑り台のような坂道は一般道や山道にはありません。実走距離を斜辺の長さとした直角三角形から水平距離を求め、そこから勾配(%)を計算するほうが実際に走った坂道の勾配の感じに近いと考えました。

 単純に標高差÷水平距離から勾配(%)を求める方法は、鉄道のように一定の勾配を直線的に登る場合に適しています。特にケーブルカーの勾配(%)を知る際には有効でしょう。


A 勾配の数値と傾き感の目安

 この勾配の数値が実際の坂道でどれくらいの感じになるのか、思いつくままに記してみます。高速道路で「長い下り注意」などの標示がある坂の場合、その勾配はおおむね3〜4%程度でしょう。

 市街地にある跨線橋(鉄道の線路をまたいで越える橋)で6%くらいです。先日、太田市内のある跨線橋に6%の勾配標識があるのを見つけました。街中で勾配標識を見かけることはあまりないので、印象に残っています。跨線橋はどこも同じような勾配でしょうから、跨線橋の登りで6%とおぼえておけば、よい目安になります。

 自動車道路の急勾配の定義は10%以上だそうです。鉄道の急勾配は、1997(平成9)年に廃線になるまでJRで最も急だった信越本線の碓氷峠で6.7%です。碓氷峠は補助機関車を連結して登っていた区間でもあり、特殊なケースだそうです。JRの線路は3.3%を超えないよう設計されているといいます。2%を越えると急勾配の部類に入るそうです。ただし、私鉄は別で、より急勾配の路線もたくさんあります。(『地図を探偵する』今尾恵介著 新潮社 2004年を参考)

 より急勾配を登る乗り物ではケーブルカーが思い浮かびます。日本で最も急な勾配区間があるケーブルカーは高尾山の高尾登山電鉄だといいます。平均勾配が26.5%、最急勾配が57%(会社のパンフレットでは60.3%)です。(『地図を探偵する』今尾恵介著 新潮社 2004年を参考)

 また、赤城山の東麓には1967(昭和42)年に廃線となった赤城鋼索鉄道の軌道跡が残っています。このケーブルカーの最急勾配は58.6%でした。現在もここを歩くことができます。2004年の夏に歩いてみましたが、勾配が58%もあると歩くのもやっとでした。手をついて、はい上がるくらいの場所もありました。(この廃線跡の散策記はこちらを参照)

 勾配25〜30%と言われたらケーブルカーの勾配を思い浮かべればよいと思います。これくらいの勾配になると一般道ではほとんど見かけることはないでしょう。自転車で登れば間違いなく激坂です。


B 勾配データから気付くこと

 以上、勾配の数値とその傾き感を再確認しました。その上であらためて上の表2を見てみます。表2を見て気付くのは、ひとつに1位の金沢峠は間違いなく激坂であるという点。ふたつめは他のコースはあまり激坂という感じはしなかったという点です。勾配が9%前後もあるのに、金沢峠以外のコースを激坂と感じない理由は、2位から5位までのコースは、どこも距離が短く、すぐ登りきれてしまうためだろうと思います。

 登ってみた印象からすると、表2のコースのなかで一番きついのは6位の赤城大胡線です。このコースも一部激坂と感じられる場所はありますが、全体を通してみると激坂とは言えません。ただ、ある程度の傾斜が長く続くので、ヒルクライムコースとしてはきつい部類に入るでしょう。アタック21のコースのなかでも全国で4番目にきついコースになっています。

 8位の利平茶屋は前半は割と楽な感じで、後半、それもゴールの利平茶屋森林公園の直前がきつく感じました。ゴール前の1、2キロは明らかに激坂でした。けれども、地図を見ると全体を通じてそれほど勾配の変化はなく、利平茶屋森林公園の直前の道路が特に急というわけでもありませんでした。距離が長く、後半でバテたためでしょうか。

 表を見ながら、登った時の印象を思い返してみると、金沢峠のように平均して13%程度の勾配がないと、コース全体を通じて激坂とは呼べないという気がしました。13%というとそれほどきつい坂という印象を受けないかもしれません。しかし、この数値はあくまでも平均です。平均で13%程度のコースになると、一部にはかなりきつい勾配の場所も含まれています。

 また、勾配だけでなく、距離や緩急変化、疲労度なども激坂の感じ方に関係するような気がします。勾配以外の要因については以下で論考します。


C 緩急変化が激坂感を左右する

 表の結果だけから判断すると、どれくらいの坂が激坂なのかと言えば、平均勾配が13%以上の坂道ということになります。しかし、これだけでは激坂とは言えないような気がします。確かに13%程度もしくはこれ以上の勾配を持つ坂にさしかかれば、激坂と感じるでしょう。けれども、勾配が10%から13%の間あたりの場合には、場所や状況によって激坂に感じるか否かが違ってくるのです。激坂には感じない場合もあれば、激坂に感じることもあります。

 勾配が10%〜13%程度の坂道で、激坂に感じるのはどんな場合かといえば、ひとつには一定の勾配で登っていたのに、突然、急勾配になった場合。もうひとつは長い距離を走った後、かなり疲れている時に、このレベルの坂に出くわした場合です。

 これらの点を考慮すると、勾配が10%〜13%の場合、激坂感は緩急変化の度合いに左右されるように思います。それに加えて、坂のさしかかった時の疲労度が影響してきます。ある程度の勾配で登っていて急に勾配が変化した時(変化といっても勾配がきつくなる方向での変化。もちろん勾配が緩くなったり、急に下りに転じる場合は違います。)に激坂と感じるのです。その変化の度合いが大きければ大きいほどより激坂に感じます。

 緩急変化が激坂感を左右するという点については、速度の感じ方を例にとってみればわかりやすいと思います。例えば、車を運転している時の速度の感じ方を思い浮かべてみます。一定速度で走り続けている間は速いか遅いかは感じることができません。速度が急に早くなったり、遅くなったりしたときに早い、遅いを感じるのです。

 一定速度で走っていても速いおそいはわかるという声もあるかもしれません。しかし、それは前後の車との間隔や対向車とすれ違う感覚、スピードメーターの表示、移り変わる周りの景色などから総合的に速度を判断しているのです。一定速度で走っている時に、それらの判断材料なしに、絶対的な速度を感じることはできません。

 このことは走っている新幹線のなかで、ブラインドを下ろした座席にいるという状況を想像してみれば明らかです。一定速度で走っている場合、外の景色が見えなければ、速度そのものを感じることはできないでしょう。早い、遅いを感じるとすれば、それは新幹線が速度をあげた時や減速した瞬間であるはずです。

 高速道路を下りて一般道に入った時に、60キロくらいのスピードで流れているにもかかわらず、やけに遅いな感じることはないでしょうか? 以前に読んだ車の雑誌で「速いクルマ」とは?という記事になかに、クルマの速さを印象付けるのは最高速度ではなく、加速度であるとの記述がありました。速いクルマとは実のところ加速のよい車であると。つまり、人が速い遅いを感じるのは速度そのもではなく、速度の変化の度合いであるというわけです。

 これと似たようなことが坂道の傾斜の感じ方についても言えるのではないでしょうか。つまり、激坂かどうかは、実際の傾斜そのものよりも緩急の変化の度合いに左右されるのです。もちろん、ある程度の勾配があることが前提ですが。


D 疲労度も激坂感に影響する

 疲労度が大きい時に、急勾配に出会うと激坂と思ってしまう、という点についてはそれほど説明はいらないと思います。同じ勾配の坂であっても疲れていれば、その分きつく感じるは当然でしょう。

 4位の松風峠は勾配が8.8%ありますが、距離が1.25キロと短いため、実走した時は激坂とは感じませんでした。しかし、これと同じような坂が赤城大胡線の後半にあったら間違いなく激坂に感じたことでしょう。

 以前にツール・ド・秩父というサイクリング大会に参加したことがあります。この大会は2002(平成14)年まで、埼玉県秩父市でおこなわれていました。秩父の山間部を走る60キロ程度のコースで、ゴール直前の登り坂がえらく大変でした。この坂は丘陵の高台にある秩父ミューズパークへ向かう坂で、普通に登ってもかなりの急坂です。その上、50キロ以上走った後ということもあり、やたらときつかったという印象があります。


E 一般的にはどれくらいの坂が激坂か?

 以上が本ホームページのヒルクライムの記録と激坂の感じ方を比較し、どれくらいの坂が激坂なのかを考えてみた結果です。まとめると「激坂とは平均勾配13%以上の坂道である。ただし、勾配が10%〜13%程度の場合でも、緩急変化や疲労度により激坂に感じられることがある。」となります。

 もちろんこれは私なりの感覚です。激坂の感じ方は個々人によって異なるのは言うまでもありません。では、一般的にはどれくらいの坂道を激坂と言うのでしょうか? この場合の一般的とは自転車を趣味にしている人たち一般という意味です。そこで、自転車雑誌の記事のなかから、坂道の勾配とその傾斜の様子や感覚などが記述された箇所をさがし、一般的に言うところの激坂について考えたいと思います。

 ちょっと古いのですが、たまたま手元にあった『サイクルスポーツ 2003年10月号』をめくってみます。まず、編集部員のヒルクライムレースの参戦記、「九十九折りだよ人生は… 坂バカ草野の"ヒルクラ"日記」から拾ってみましょう。コース説明のなかで「序盤で最もきつい区間、8〜10%勾配が続き消耗させられる。」や「終盤の10%勾配。この写真は傾斜をわざと強調しているが、売り切れかかった脚にはこれくらいの上りに感じるのだ。」などの表現があります。これらから10%程度の勾配というのはかなりきつい坂ということがわかります。

 次に、読者の投稿記事から。群馬県の妙義・榛名・赤城の三つの山を1日で走った記録「上毛三山をロードバイクで走破」のなかには「直線の上りはきついが、勾配は8%程度で問題なし。」「(ギヤの説明の箇所で)ワイドレシオになっていて、15%くらいの急坂まで対応する。」の表現がありました。つまり、この記事の投稿者にとっては、8%=問題のない傾斜、15%=急坂となるようです。

 加えて、勾配の数値の明記はないのですが、「(榛名湖からの下り坂の様子を説明する箇所で)逆ルートで走らなくて本当によかった感じるほどの激坂である。」とありました。地図上で測ると、榛名神社から榛名湖までの勾配は12.5%でした。つまり12〜13%の勾配でも場所によっては激坂と感じているわけです。

 その他には、ジャパンカップ(栃木県宇都宮市)のコース説明の記事中で「(登りのきつい2区間を例にあげて)ともに最大勾配10%以上で勝敗を左右する。」と解説しています。これを文字通りに読めば、プロ選手といえども、レース中の競リ合った状況下においては、10%以上の勾配は勝敗を分けるほどにきつい勾配というふうに解釈できます。

 さらにヒルクライムレースの募集広告から。武尊(ほたか)ヒルクライム(群馬県片品村)の広告に「国内最大傾斜度への挑戦はヒルクライマーの醍醐味です。君は走りきれるか! 最大斜度20%!」の表現がありました。主催者側の文章なので、少しおおげさな気もしますが、20%=国内レースで最大の斜度(=激坂)ということになります。激坂とは書いてありませんが、国内最大斜度=激坂と解釈してもさしつかえないでしょう。このレースに出場した人に聞くと、最大斜度の箇所はあまりの急坂だったので、その人は押して歩いたとのことでした。
(※2005年11月、この武尊ヒルクライムレースに出場してみました。その時の様子はこちらで。)

 これらをまとめると、勾配の数値と傾斜の感じ方の関係は表3のようになるかと思います。

表3 勾配の数値と傾斜の感じ方
勾配傾斜の感じ方
8%〜10%ややきつい
10%〜13%かなりきつい(場所によっては激坂)
13%〜15%急坂または激坂
15%〜20%激坂
 
激坂についての考察 その2 へ進む

トップページ にもどる