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●コラム59 残馬山神社の巻き●

残馬峡から残馬山神社跡と白平宮

 「やまの町 桐生」のKさんにお誘いいただき、桐生、忍山川上流の残馬峡から残馬山神社跡を歩きました。
 岩場に祀られた石祠や不動明王像、修験道の名残りの、滝や鉄鎖、鉄梯子などを見てきました。

@ 残馬山神社跡と白平宮
不動明王が祀られた岩場。 12月18日に、桐生、忍山川上流部の残馬峡から残馬山神社の跡地や白平(しろべい)宮を巡り、信仰の名残りの鉄鎖や鉄梯子などを見てきた。白平宮は「白幣」とも書き、「しらべい」、「しらひで」などと呼ぶこともあるようだ。石祠には「白平山」と刻んであった。
 写真は、残馬山神社近くの岩壁。切り立った岩場の中腹あたり(写真右下)に不動明王の石像が祀られている。
 「やまの町 桐生」のKさんにお誘いいただいた。案内は桐生みどりさんで、経験豊富な面々に連れられて歩いた格好である。歩いた距離はそれほどではなかったが、案内がなければ、おそらく単独では行き着けない場所であり、貴重な経験になった。
 残馬山神社については、『桐生市史別巻』の「神社編」の記述や『山田郡誌』所収の岩澤正作氏(郷土史家)による残馬峡の紀行文(昭和10年)などを読み、以前から気になっていた。だが、詳しい場所がよく分からず、これまで自分で行こうとしたことはなかった。
 今回、実際に訪れてみて、残馬山神社が残馬山の山頂からかなり離れた場所にあったこと、忍山林道の終点から割合に近い場所にあることは、やや意外に感じた。もっとも忍山林道は、桐生山間部の、かなり奥部まで通じている林道であるので、残馬山神社が人里から遠く離れた山深い場所に祀られていることに変わりはない。

A 岩澤正作氏の残馬峡紀行
 帰宅してから『桐生市史』や『山田郡誌』などにある残馬山神社の記述を読み返した。とくに岩澤正作氏の残馬峡紀行には興味深い箇所が数多く見受けられる。
 紀行中には地名や岩、滝、沢などの名前が頻出し、位置関係や現地の状況が全く分からない段階で読んだ限りでは内容がうまく把握できなかったのであるが、実地を検分した今に読むと、岩澤氏の記述と自分の記憶が結び付き画像が明瞭に思い浮かぶ箇所もあって、以前よりも、紀行に書かれた内容が輪郭を持って立ち上がるような感がある。
 つまり、岩澤氏が書いている某箇所は、おそらくあの場所を指しているのだろうというふうに、ある程度の想像が付き、文章を後追いできるようになったということである。
 それでもなお、よく分からない部分も多々あり、もう一度行って確認したいという思いもある。

B 資料に見られる残馬山神社−『山田郡誌』
 以下、これまでに集めた資料から残馬山神社について書かれた文章を採録しておく。新たに調べ直す暇もなかったので目新しいものは特にない。
 手元にある登山ガイドを幾つか見たが、残馬山の項に残馬山神社の記述は皆無で、一般的には残馬山の山頂とそこに至る道筋のみが取り上げられ山腹にある神社跡はあまり知られていないようである。

 まずは『山田郡誌』から「残馬山」の項。
「梅田村大字二渡、山地及勢多郡東村大字座間の三大字に跨り、北部郡界山脈の主峯をなす。海抜一、一〇七.四米にして実に本郡中の最高峯たり。その脈南方に延びたるものは桐生川、忍山川の分水嶺をなし、忍山山脈となり二渡に至りて急傾斜を以て桐生川に終る、頂上を里人、怒多子山と称す、頂上に近く残馬神社の廃阯あり、今尚石祠を存す、登路一條は二渡上ノ原より忍山川の渓谷に従ふ。路程凡二里余、その間奇岩怪岩、瀑布、洞窟相点綴して沿道の景観頗る美なり」
 「残馬神社の廃阯」とあることから『山田郡誌』編さん当時の昭和初期の頃にはすでに神社の建物などは荒廃していたことが分かる。
 なお「怒多子山」の呼称は聞かないし、読み方もよく分からない。
 同じ項に所収された岩澤正作氏の残馬峡紀行(『郡誌』所収のものは紀行の一部。初出は『毛野時報第八号』)は長文のため、残馬山神社に関わる部分を抜き出せば以下のようになる。
「前面の山腹は障壁状をなし右側は小渓をなし其処に紫雲瀧が懸り、左前面に小平地がある其処が残馬神社の宮址でやや眺望が開けていた。宮址から来路に下り渓を鉄鎖(かなぐさり)に身を支て対岸の岩壁に移り鉄梯を上ると又一渓中に出る」
 神社は平坦な場所にあり、神社の右手側は岩壁で「紫雲瀧」という滝が流れ、鉄鎖と鉄梯子が架けられていたことが分かる。
「約三十間ばかり上ると上方に三階瀧が懸っているが水少なきを恨とする。されど水量多ければ対岸に移り得られぬであろう。渓の左は残馬山で残馬奥宮を安置し、右は石尊山と呼び石尊神を奉祀している。右手に上り石尊山の背後から登ると、アカマツ、モミ、ツガ等の常緑樹の樹立する間に石祠を安置していた」
「三階瀧の上部を越えて背後から残馬奥祠に登る、(中略)アカマツ十数株樹立する間石祠を安置し、前面は開けて石尊山より展望よろしく桐生市の一角も望まれた」

 神社跡地の上部に三段の滝があり、その滝の左は残馬山と呼ばれて残馬奥宮が置かれ、右は石尊山と呼ばれて石尊宮が置かれていたことが読み取れる。いずれの宮も石祠で、前面が開けた場所に祀られていることが分かる。ここで岩澤氏言うところの「残馬奥宮」とは、「白平山」と刻まれた石祠を指すものであろう。

 その他、残馬山神社跡に至る途中には行者窟と呼ばれる洞窟があり「神変大菩薩」と刻まれた石塔があったこと(「岩壁突出して窟状をなす処に出た、此処を行者窟と呼び、異様な神像を半肉彫とした石塔を安置し、「神変大菩薩」と刻している」)や 奥社(「白平山」の祠か?)の西の沢を下ってゆくと岩角に不動明王の石像を配した「不動瀧」と呼ばれる滝があることなどが書かれている。
 「神変大菩薩」は「じんべんだいぼさつ」と読むらしく、ウィキペディアに「神変大菩薩は役行者の尊称として使われ、寺院に祀られている役行者の像の名称として使われ」とあった。つまり、「神変大菩薩」とは修験道の開祖とされる役小角、あるいは役小角の像のことらしい。

C 資料に見られる残馬山神社−『桐生市史』
 『桐生市史別巻』「神社編」の「残馬山神社」には
「根本山神社は古く梅田町今倉の里宮(大正院)を中心に、北に根本山これを黒幣山と称し、東に上飛駒村町谷の青幣山(城址)、南に赤幣山の赤なぎ、西に白幣山の残馬山神社をおき、修験の霊場としたという」 とある。
 明治十二年の神社明細書の記述が引用されており、それに
「残馬山神社、二渡村、無格社、祭神大山祇命、本社間口二尺五寸、奥行二尺五寸、屋根板葺、上屋間口一間、奥行四尺、屋根杉皮葺、神楽殿あり」とある。
 本社の間口が二尺五寸ということは約76センチで、屋根が板葺きということは、木製の小社であったことがうかがえる。神楽殿があったということに注目すべきであろう。
 他に、次のような記述がある。
白幣神社鳥居の残礎。『桐生市史別巻』P340)・残馬山の入口に「白幣神社」の石柱が立つ。(『桐生市史』が書かれた当時にはあったのだろうか? 未確認だが現存しないような気がする。
 『市史』には、忍山入口にあるという白幣神社鳥居の礎石の写真(左、『桐生市史別巻』P340)が掲載されている。この礎石は現存するのだろうか? これも興味はあるが未確認である。)
・明治に入り、二渡神社(猿石社)に合祀された。
・忍山から忍山川を遡る道が表参道で、梅田町五丁目津久原の長谷寺から沢伝いに通じる道が裏参道であろう。

D 資料に見られる残馬山神社−『根本山参詣ひとり案内』
「白幣宮一の鳥居」の図。『根本山参詣ひとり案内』青木裕編 みやま文庫 P63) 『根本山参詣ひとり案内』(安政6年)には「二タ渡リ 白幣宮一の鳥居 湯元清兵衛」の図があり、図中の説明文字に
「白幣宮一の鳥居あり、山みち二十丁行、忍山温泉湯元清兵衛宅」と書かれている。
 図中の道しるべに「右 根本山道 左 湯元ミち」と書かれていることから、白幣宮の鳥居は、根本山道と忍山道の分岐付近に置かれていたことが分かる。現在でいえば、桐生田沼線から忍山へ行く道が分かれる辺りになると思われる。
(図は『根本山参詣ひとり案内』青木裕編 みやま文庫 1998年から)

E 資料に見られる残馬山神社−『桐生市梅田町の民俗』
 『桐生市梅田町の民俗』(昭和45年)の「信仰」の章に「ザンマ(残馬)様」があり、
「忍山(オッシャマ)の奥にある山の名で、天王(八坂神社)におろして合祀した。二渡神社に合祀したわけである」
と書かれ、以下のような話が載っている。

 炭焼きに従事する者は初午の日には必ず仕事を休むことになっていた。明治の初め頃、初午の日に「竹さん」という人が山を下らずに一人で泊まって仕事をした。炭がまの前で寝ていると「ザンマ様に枕返しをさせられて」、火が燃えている方向に頭が向いてしまい大やけどをした。

 これは、初午の日には炭焼き仕事を休むという禁忌を破った者が「ザンマ様」に懲らしめられるという話である。
 同書の「山の神」の項には「初午に炭焼きの人が休んで祭る。山の神は火早いので、山火事にならないように祭る」とある。
 これらの話を比較すると「ザンマ(残馬)様」の言い伝えの中の「ザンマ様」を「山の神」に置き換えてもそのまま成立する。つまり、民俗的な認識の上では、「ザンマ様」も「山の神」なのである。あるいは「ザンマ様」は「山の神」に含まれ、広義の「山の神」の一形態なのかもしれない。
 したがって、残馬山神社は山の神を祀った神社ということになる。神社明細書によると残馬山神社の祭神は大山祇命とあるので辻褄が合う。

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