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●第47回 近沢峠の巻き●

新しくなった林道近沢線と、近沢峠

 近沢峠を走ってみました。

 近沢峠は、佐野市飛駒(旧安蘇郡田沼町)と同作原を結ぶ峠です。
 旧来から林道近沢線が通じていましたが、近年、トンネルと新道の工事が行われ、道路が新しくなりました。

 今回は、飛駒から新道を走り、近沢トンネルを抜けて作原側に出ました。その後、旧道の峠も訪ねてみました。
 ●コース詳細● 

@ 近沢峠
 近沢峠は、角川の地名辞典(栃木県)に以下のようにある。
近沢峠(ちかざわとうげ) 安蘇郡田沼町彦間の鍋沢と作原の境にある峠。田沼町の中心街から北西に延びる彦間川流域の鍋沢(旧飛駒村)と野上川流域の作原(旧野上村)を結ぶ。標高450m。
 峠道は、古来両地域の通婚圏を含む生活道路であった。現在の道路は基幹林道前日光線の一部として昭和36年に改修されたものである。同道路の完成は、林業を中心とする産業の振興ばかりでなく、田沼町を一巡する交通路の完成を意味し、町勢発展にとって重要な役割を果たすことが期待されている。昭和58年現在、未舗装の部分も多く、一刻も早い完成が待たれる」

 やや記述が古いが、「田沼町を一巡する交通路の完成を意味し」の部分に、近沢峠の地理的な特徴がうまく表現されていると思う。つまり、彦間川流域の飛駒と大戸川流域の作原は、尾根を挟んだ隣り合わせの地区で、距離も近いのだが、近沢峠を利用せずに行き来しようとすると、両河川のはるか下流に位置する田沼町の市街地を大きく回り込まなければならない。近沢峠を越えると、この移動距離が大幅に短縮される。この意味で、地名辞典に「峠道は、古来両地域の通婚圏を含む生活道路であった」とあるように、両地域にとって昔から重要な峠であったということは大いにうなづけることである。

 また、『栃木県の地名』(平凡社)の「上彦間村」の項に、
「東は近沢峠で作原村、西は老越路峠で上野国山田郡二渡村(現桐生市)と結ばれる」とあった。私にとって大戸川流域の作原は桐生梅田の裏側のような地理的イメージがあって山の向こうで遠い場所との印象があるが、老越路峠と近沢峠を利用すると、桐生梅田から思いのほか近い。梅田方面から自転車で走ってみると、このことが実感できるのである。
鍋沢線の改修記念の石碑。近沢線開設記念碑。 このように、近沢峠は、同地域にとって生活道路の要所となるので、古くから峠道が開かれていたらしく、旧5万図にも峠名の記載がある。
 峠道の改修もたびたび行われてきたようで、そのことは、鍋沢地区内の、近沢線入口付近に建つ道路改修の石碑(昭和8年 写真左)や峠にある「近沢線開設記念碑」(昭和38年 写真右)などからうかがい知ることができる。
 鍋沢地区に建つ記念碑の碑文は、「飛駒村ヨリ隣村野上村ニ通スル村道鍋澤線ハ」の文言で始まる。「屈曲多ク坂路急ニシテ車馬ノ交通頗ル不便」であったため、地区住民の総力を結集して(「(集落民の)労力奉仕ニヨリ」)道路を改修した、と書かれている。昭和7年12月16日に着工し、昭和8年3月25日に竣工した。この時に改修したのは、「起点 字遠原ヨリ 終点 字大立岩ニ至ル 延長二千米 幅員四米」の道路であったという。

 近沢峠の頂点に建つ「近沢線開設記念碑」に林道近沢線の建設経緯が刻まれている。碑文には、以下のことが書かれている。
・昭和29年3月30日、田沼町に三好村と野上村が合併する。
・昭和31年9月30日、(新)田沼町に、さらに新合村、飛駒村が合併する。
・田沼町は、野上川と飛駒川の二つの流域に分かれ交通が不便であった。
・両地域を結ぶ近沢峠は、人の歩行すら困難な道であった。
・両地域を結び田沼町を一巡する交通路の実現が待望されていた。
・町の主導のもと、県および野上、飛駒両森林組合の協力により道路建設が計画された。
・昭和33年着工、昭和38年3月25日に、近沢線は全線開通した。
 延長は3,376m、総工費は、当時の金額で「壱千参万九千八百八拾円」(1千3万9千8百80円)とあった。
近沢トンネル。 近年は、さらに峠の下に、延長458mの近沢トンネルが開通し、新道の付け替え工事も完了し、新しい近沢峠となった。
 以前の近沢線は、細く曲がりくねった舗装林道であったが、新道は、道幅も広く、急なカーブもない。わずかな距離でトンネルに達する。車での通行は大変便利になったことであろう。
 ただ、自転車で坂道を登る楽しみ、という観点から、非常に身勝手なことを言わせてもらえば、誠につまらない道になった。

A 鍋沢から近沢トンネルまで

基幹林道前日光線の7路線。基幹林道前日光線の案内図。 近沢峠に通じている林道近沢線は、基幹林道前日光線の一区間である。前日光線は、足利市松田から日光市まで通じている7路線の林道の総称で、佐野市・鹿沼市北西部の山間に連なるいくつかの谷と尾根を横切るようにして延びている。総延長は、64.05キロとのこと。峠越えを繰り返しながら足利から日光まで走れるわけで、山岳系サイクリングのコースとして魅力的だ。
 写真は、長石線の起点(足利から登れば終点)に設置されていた前日光線 の案内板である。基幹林道前日光線のうち長石線が路線番号7で、これから登る近沢線は、路線番号6の林道ということになる。

近沢線の起点?。鍋沢自治会館の前。 老越路峠を越えて飛駒に下る。県道208号飛駒足利線を彦間川の上流に向かって少し走り、近沢線500mの案内を見て右折(東)する。
 林道起点の標示などはとくに見当たらなかったので、正確な起点はどこか分からないが、道路の造りや集落の様子から、鍋沢自治会館のわき辺りが起点になると思う。道路工事が完了して間もないので、この付近の道は新しい。最奥の民家を過ぎると植林地の中を行く道となる。

旧道が下に見える。旧道との分岐。 途中に旧道との分岐があった。旧道は、新道から右に分かれて、やや暗く見える植林地の中に下っている。写真を見ると、新旧の道幅の違いがよく分かる。旧道の路面にはスギの枯葉がたくさん落ちていた。新道が完成し一般車両の通行が途絶えたためだろう。進入禁止のゲートや看板などは見えず、いまも普通に入れるようであった。
 新道を走りながら下に旧道の道筋が見え隠れする場所があった。旧道は、ほぼ沢沿いにくねりながら登っているが、新道は、沢筋よりもかなり高い山側斜面を、大きく切り崩して造られている。そのため、急なカーブや細かな屈曲は皆無で、勾配も緩やかである。

B 近沢トンネルから旧峠へ
近沢トンネル、飛駒側。 近沢トンネル、作原側。 旧道の道筋を見下ろしながら、新道と旧道の造りの違いのことなどを、なんとなく考えながら登っていると、あっけなくトンネルに着いてしまった。
 近沢トンネルは、近沢峠の下を抜けているようだが、トンネルの入り口から上を見上げると、稜線は、かなり高い位置にあった。ここから旧道にそれて峠に行くとしても、まだまだ距離があるように見受けられた。
 トンネルの中も、道は登っているようなので、道の勾配が下りに転じる場所まで走り続けることにして、トンネルに入った。入口の標示板にトンネル延長は458mとあったが、内部の照明は暗く、もっと長いように感じられた。トンネル内も道は登り続けている。
 作原側に出て少しすると、道の勾配は下りに転じた。この地点でサイクルコンピューターの距離表示を確認する。飛駒の鍋沢自治会館から2.69キロであった。思っていたよりも、短い。

近沢峠。 近沢トンネル作原側出口の左手(西)に旧道への分岐がある。旧道の入口には、ゲートが設置され「関係者以外立入禁止」の看板があった。 が、ここは、ゲートのわきを抜けて旧道に進入する。
 道は北に面しており、陽が陰り暗い。車両の通行が無いため、路面に落葉や枯れ枝が散乱し荒れた印象があった。立入禁止の場所を走っている後ろめたさも手伝って、いくぶん心細さを覚えながら道を登った。
 トンネルわきの分岐から1キロほど走ると、峠に着いた。峠の向こう側から斜めに陽が射し込んでおり、峠は明るかった。少しほっとする。
 峠には道路西側の高まった場所に、石祠が一つ、それと「近沢線開設記念碑」と刻まれた石碑があった。祠の銘を見ようとして近づくと、前面や側面にコンクリートが塗りたくられている。祠の傷みを補修しようとしたのかよく分からないが、なんだかぞんざいな扱いのように感じられ、その処方の仕方は不可解であった。記念碑の裏側に刻まれた碑文をメモする。長文で書き写すのに15分ほどかかった。
 合併以前の「田沼町 作原」、「田沼町 飛駒」の境界標識が残っていた。下にトンネルと新道ができて、この峠は人の利用がなくなった。通るのは林業、工事関係者くらいであろう。旧道を撤去するということは、おそらくないだろうから、このまま人の往来がないままにひっそりと時を重ねてゆくことになる。
 峠を後に旧道を下り、飛駒に降りた。
(総走行距離/太田〜足利松田〜長石線〜老越路峠〜飛駒〜近沢峠 往復 64.93キロ)
 
   ●DATA● 

距離2.69km
時間0:13:24
標高差240m
平均斜度6.63°(勾配11.6%)
実走斜度5.12°(勾配9.0%)
緩急変化ほぼ一定。
景観集落から植林地へ入る。

飛駒鍋沢自治会館から近沢トンネル作原側入口まで。
調査日 2012/01/08  

 ●激坂評価● 

 激坂度はです。
 計算上の勾配は9%でけっこう急ですが、実際に走った感じではそれほどきつくありません。
 新道は、距離が短く、すぐにトンネルに着きます。新しいので道はきれいです。
 旧道のほうが走って面白いと思いますが、立入禁止のようです。通行がないためやや荒れています。
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