心療内科にて



 その5 【 クリスマス会 】 


クリニックでの年間最後の催しはクリスマス会です。今年は「歌で綴る昭和史」と銘打ってOカウンセラーのナレーション、M主任の画像クリック、私のエレクトーン演奏でみなさんに楽しんでいただきました。( 2004.12.22 )
昭和20年代から、出来事を織り交ぜながら10年ごとに進みます。歴史といっても暗いものは無しです。ダッコちゃんやオリンピック、万博などなど。それぞれの出来事にみなさん「ああ、そうだったね」「私はあの時こうやったんよ」とお話をされつつ聞いてくださいました。その時代に流行した曲名も紹介し、まさに「歌は世につれ、世は歌につれ」を私も実感しました。各年代の代表曲を演奏すると、懐かしげに口ずさんでくださいました。
オープニングは《 青い山脈 》で、音楽と共にOカウンセラーはサンタクロース姿、M主任とT看護士はうさちゃんサンタの帽子をかぶって登場し、大受け!でした。演奏したのは以下の曲です。

昭和20年代    《 君の名は 》 《 東京キッド 》 《 東京ブギウギ 》
昭和30年代    《 シャボン玉ホリデーのテーマ 》
            《 こんにちは赤ちゃん 》 《 高校三年生 》
昭和40年代    《 抱きしめたい(ビートルズ)》
            《 また逢う日まで 》 《 学生街の喫茶店 》 《 神田川 》
            《 三百六十五歩のマーチ 》 
            《 世界の国からこんにちは 》
            《 赤い風船 》
昭和50年代    《 オリビアを聴きながら 》
            《 魅せられて 》 《 北国の春 》
昭和60年代    《 天城越え 》 《 人生いろいろ 》

最後の《 人生いろいろ 》は歌詞もお配りしてみなさんで歌っていただきました。
そして、クリスマスケーキとお茶の後、「第九」の《 歓びの歌 》を一番はスタッフの方がドイツ語で、二番はみなさんもごいっしょに日本語の歌詞で合唱しました。10月、11月、12月のお誕生日の方のお祝いもして、会はひとまず終了となりました。

時代の動きと共にそれぞれの方にそれぞれの人生があり、今年一年もいろいろなことがあったことでしょう。これまでの歩みを大切にしながら、明日が文字通りの「明るい日」になるように願いたいと思います。

こちらのクリニックに伺うようになって二年、大変だと思うこともありますが、私にとってかけがえのない経験の場になっていることを強く感じています。スタッフの方のご苦労も身を持って感じ、ほんの少しでもお手伝いできればうれしいと思っています。来年も私なりにがんばっていきたいものです。
スタッフのみなさん、お疲れ様でした。そして、来年もよろしくお願い致します。

《 番外編 》 本日のお料理はビュッフェ形式になっていました。

サンドイッチ おにぎり 焼きそば
鶏の唐揚げ 一口ステーキ
サラダ スティック野菜 手作りの漬物
たっくさんの串焼き (シシャモ・ササミ・つくね・えのきのベーコン巻き・豚バラ肉のシソとチーズ巻き・海老・ししとう・ピーマン・銀杏 etc..... )

私もいただきました。おいしかったです!みなさんもとても喜んでおられました。スタッフの方の準備の成果ですね。




 その4 【 お誕生会 】 


デイケアルームでは、日々のプログラムの他にイベントも企画されます。そのひとつがお誕生会です。年に何回か、2,3ヵ月ごとにまとめてお祝いをすることになっています。みなさんでお料理を作り、ケーキを食べて楽しいひとときを過ごされるのですが、その折にミニコンサートが開かれることもあります。
普段、あまり生で聴く機会がない楽器の演奏を楽しんでいただくという企画です。 これまでに、ハーモニカ、アルパ、ギターとマンドリン、そしてエレクトーンとのアンサンブルがクラリネット、トロンボーン・オカリナ( jetの研修をしてくださる掛橋先生 )、ヴァイオリン、二胡( jetのお仲間のO先生 )などの楽器で行なわれてきました。

そして、今回( 2004.7.28 )はフルート・オカリナとエレクトーンのミニコンサートでした。7月は、デイケアルームがオープンした月でもあり、2周年記念をかねて催されました。
フルート、オカリナを演奏してくださったのは、飯田任淑先生です。以前私が、リコーダーの単発講座を受けさせていただいたご縁で今回お願いしましたところ、快く引き受けてくださいました。

オープニング亜麻色の髪の乙女
フルート・エレクトーン「アルルの女」よりメヌエット
花の首飾り
涙そうそう
川の流れのように
エレクトーン最初から今まで
キサス キサス キサス
オカリナ・エレクトーン北の国から
となりのトトロ
イエスタデイ
エレクトーン珊瑚礁の彼方
小さな竹の橋
フルート・エレクトーンもののけ姫
星に願いを
世界に一つだけの花


Oカウンセラーの軽妙な進行のもと、歌っていただけそうな曲は歌詞カードを用意してみなさんに口ずさんでいただきました。
飯田先生の演奏は、フルートはふくよかな美しい音色で、オカリナはくっきりとしてそれでいて柔らかくとても素敵でした。
最後の「世界に一つだけの花」はOカウンセラーのリードでみなさん歌われて、エレクトーンを演奏していた私自身もとても楽しいものでした。

これまでこちらで演奏させていただいていて気づいたことは、デイケアにいらっしゃっているみなさんはよくご存知の曲、どこかで聴いたことがある曲、そういうなじみのある曲を喜ばれるということでした。思い出の中にある懐かしさを伴った曲、またよく耳になじんだ音楽はストレスケアのためには何よりなのでしょう。今回もその観点で選曲をし、飯田先生にご協力いただきました。
誰もが無意識のうちに抱えてしまうストレス、その解消に音楽や絵などが役に立つということは、それらが心に訴えかける何かを持っているということですね。もし、きょうのようなコンサートがみなさんにとって楽しいものであれば、それは音楽をやっている私にとってとてもうれしいことです。
飯田先生、本当にありがとうございました。お疲れ様でした。
そして、スタッフのM主任、Oカウンセラー、T看護士、お疲れ様でした。

《 番外編 》
最初に「みなさんで料理を作って」と書きましたが、こちらのデイケアルームの献立はとてもすばらしいのです。きょうのメニューです。
キングサーモンのムニエル・豚の角煮、生野菜添え
炊き合わせ( カボチャ・サトイモ・オクラ・いんげん・海老 )のそぼろあんかけ
たこと胡瓜の酢の物
お吸い物( そうめん・手鞠麩・三つ葉 )・ 赤飯
さらに、お茶の時間に出されたチーズケーキとバターケーキはT看護士の手作りでした!おいしい時間もストレスケアに欠かせませんね。




 その3 【 白い粉の誘惑 】 


心療内科にレッスンに伺うと、参加されている方の今の状況を、お話していただけるる範囲でお聞きするようにしています。おふたりが弾かれた曲に対するみなさんの反応だけでなく、お体、気持ちの様子が、素人なりに少しでもわかれば、選曲やアレンジの参考になるかもと思うのです。M主任はみなさんの作品( 粘土細工や手芸の品、絵画など ― とてもすばらしいものばかりです )も見せてくださるので、今どんなプログラムをなさっているのかは、私も知ることができます。
M主任とOカウンセラーはそれぞれの持ち味を生かしつつ、ディスカッションをして日々のプログラムを提供されているのです。そんなある日のこと・・・

みなさんが午前のプログラムを終え、昼食もすみ、午後のひとときをくつろいでいらっしゃった時のことです。Oカウンセラーが、ご自分の机でなにやら黙々とやっていらっしゃいます。参加されているみなさんからは、その後ろ姿が見えるだけです。机の下にはなにか白いものが散らばっています。
「O先生はなにをしよるんやろか」
「えらい静かやね」
みなさん、不思議に思っていらっしゃいました。そこで参加者のおひとりのSさん、
「ちょっとわたしがのぞいてこよう」とそっと見にいかれました。
そこでSさんが見たものは、ゴム風船に白い粉―小麦粉をせっせと詰めているOカウンセラーの姿だったのです。みなさんのところに戻ってSさん、
「O先生、小麦粉爆弾作りよるよ!!」と報告。
「ええっ?」
「そりゃ、きっとMさんにぶつけるつもりやね」
「おおっ! 知らん顔しとこうね」

しばらくしてOカウンセラーが立ち上がり、こちらにやって来られました。
そして、小麦粉爆弾は投げられ、あたりは真っ白な惨状に!!!・・・・・・・なりませんでした。

Oカウンセラーが作っていらっしゃったのは、癒しグッズだったのです。
私も触らせていただいたのですが、風船のゴムと中に密に詰められた小麦粉が良い手触りになっていて、とてもいい感触でした。自由自在に形も変わるし、触れたり握ったりすれば手指の運動にもなりそうです。小粒のペレットが入ったクッションが市販されていますが、それよりもっと「ムニュッ」とした心地よさでした。

小麦粉爆弾ではなくて、みなさんがホッとされたのかそれともがっかりされたのか、私にはわかりません、ハイ、わかりません・・・・・



 その2 【 魚がいっぱい?! 】 


デイケアルームには、EL900mというエレクトーンの上級機種が設置されています。デイケアルームがオープンして 数ヶ月経過した頃、院長先生が楽器を決められたそうですが、ピアノではなくエレクトーン を選ばれたことは、デイケアルームには最適な選択だったように思います。さまざまな音、リズムが出る エレクトーンはいろいろな場面に対応できますし、フロッピーディスクという記録媒体が 付いているということは、その特徴を初心者の方でも容易に活かすことが可能なのです。

エレクトーンを習うことになったお二人―M主任とOカウンセラー―実はエレクトーンを 弾くことなど考えもしなかったお二人なのです。「院長命令」とでもいいましょうか、デイケアルームの スタッフとしてそこに設置されたものを活用すべくレッスンを受けることになったのです。

私がレッスンに伺うお話をいただいた時、「デイケアに参加されている方に聞かせてさしあげるために、 とにかくすぐ弾けるようにならなければならない」という至上命令(?!)が出ていて「えーっ」と 不安がいっぱいでした。
さて、おふたりの音楽経験はというと、M主任はフォークギターのバンドをなさっていたそうで、 またOカウンセラーは学生時代吹奏楽をやっていらっしゃったとのことでした。
ということは、鍵盤楽器は初めてでも、全くの初心者とは違うということだなと安心をしたのですが、 ところが、五線譜は読んだことがない!ということをお聞きして「あらら」と思いました。
実際、最初の頃には、「今週は忙しくてまだ楽譜にドレミもつけていません!」とおっしゃったりされていました。 それでも、知っている曲であればやはり弾きやすいし、右手、つまりメロディーはなんとか なります。そこでフロッピーディスクの出番です。ちょっとフロッピーディスクに魔法(!?) をかけて・・まずはみなさんがよくご存知の曲から始めました。
3回目のレッスンに伺ったらもう「みなさんの前で弾いたんですよ」(「春が来た」「バラが咲いた」など)と おっしゃられて、こちらがびっくりしたりしました。 期待して待っていらっしゃる方(デイケアに参加していらっしゃる方々)がいるというのは、 何よりの励みなのだなと思いました。

そのうちにみなさんからリクエストが来るようになり、その対処に追われるほどになりました。 フロッピーディスクに魔法をかけるのもなかなか骨が折れましたが、「喜ばれましたよ」の 一言を救いにして、私もなんとかやってきました。
でも、うまくいった曲ばかりではありません。思いがけないことが起こったりも しました。
Oカウンセラーが「聖者が町にやってくる」を弾かれた時のことです。原曲のいきさつはともかく、 明るいリズミカルな曲なので、楽しい気分で聴いていただけると思っていたら、 「この曲を聴くと進駐軍を思い出す」と言われる方がいらして、そこから戦時中の 話となってしまったというのです。で、この曲はボツということになりました・・・

それぞれの方にそれぞれの個人史があるように、ある曲を聴いた時に思い起こされる出来事も 人それぞれなのです。楽しいことがよみがえってくる曲は大歓迎だけれど、つらい記憶、 悲しい記憶を呼び起こしてしまう曲はストレスケアにはふさわしくありません。
だからと言って、どの曲がどの方にヒットするのかは誰にも予測することはできません。 様子をみながら、臨機応変に対処していくことが必要なのだということを 私は学びました。

ところで、違う意味で「この曲はちょっと・・・」となってしまった曲があります。
映画音楽やポピュラーは、BGMとして聴いていただくのですが、歌詞のあるものは 全コーラス歌えるようにアレンジしていきます。心暖まる幼稚園ソングの「思い出の アルバム」は7番まであるのですが、みなさん全部歌われるので、M主任は 7コーラス弾かれています。
それで「おさかな天国」もいつものように全コーラス歌えるように準備しました。 しかし、何度か歌ったところで、「サカナが頭について離れないので、この曲は もういいー」と・・・
私も弾いてみた時にサビの繰り返しが多いなとは思ったのですが、歌ってみたわけでは ないので、そのすごさには気づかなかったのです。数えてみましたら「サカナ」は40回 ( ちなみに魚の種類は31種類!! )出てきていました。 もともとスーパーマーケットの鮮魚売り場からのヒット曲なので、当然ですね。 曲に罪はありません。明るい楽しい曲です。伴奏を作る時に気づくべきでした。

こうして、時には間抜けな経験を繰り返しながら、きょうもフロッピーに 魔法をかけ続けているのです。でも、おふたりも上達されました!もちろん、楽譜にドレミをつける 必要などありません。 お忙しくて、練習も 大変なのに続けてこられたおふたりの努力と、それに加えて デイケアに参加されていらっしゃる方のうれしい感想が大きな力となっているのは、間違い ありません。

心地よい時を過ごすのに、音楽が欠かせない存在になっているのは私にとって もうれしいことです。北九州で一番生演奏が喜ばれている場所に違いないと思う今日この頃です。




 その1 【 デイケアとは 】 


「デイケア」というと、どんなことを思い浮かべられるでしょうか。
私は、老人保健施設でのリハビリテーションや、リクレーション、介護されている方への手助け というイメージしか持っていませんでした。
《心療内科》でのデイケアはそれらとは全く異なるものでした。そのデイケアルームに 通われている方は、ストレスケアにいらっしゃっているのです。
「ストレス社会」の現代、どんな方も多かれ少なかれストレスを感じることはあるので はないでしょうか。 うつ病は「心の風邪」と言われています。ちょっとしたことで思わぬ風邪を体がひいてしまうことが あるように、ささいなきっかけで気づかぬうちに心も風邪をひいてしまうのでしょう。
どこも体は悪くないのに、どうも調子がよくないという場合は、思い切って心療内科に 行ってみるというのも選択肢のひとつかもしれません。

さてきょうは、私がレッスンに伺っているデイケアルームのスタッフのご紹介をしたいと 思います。
まずは、M主任、暖かくて親しみやすい人柄と素敵な笑顔で、訪れた人をなごませて いらっしゃいます。そのドジ加減が絶妙で(M主任、ごめんなさい)、癒しのひとつになっているのは 間違いありません。そして、看護士のTさん、調理師の資格もお持ちで、料理のプログラムの 時は大活躍です。もちろん看護士としてもきびきびとみなさんのご相談にのっていらっしゃるのです。 それからもうお一人、Oカウンセラー、歌って踊れて、料理ができて、パソコンの先生で、太極拳が できて、もしかして霊視(?!)ができて・・・もうきりがない才能の持ち主です。経験談などお聞き していると、もしかして100歳???と驚いてしまうのですが、まだ30代の若さです。 このお三方を中心に他の病院スタッフの方のご協力でプログラムが進められているのです。
エレクトーンのレッスンを受けられているのは、M主任とOカウンセラーなのですが、 私が伺い始めて1年余り、たくさんのエピソードが生まれました。少しずつご紹介していきたいと 思っています。

ひとりで閉じこもっているよりも、みなさんで楽しい時間を――その思いがあふれたデイケアルーム、 私にも新しい経験となりました。次回は、エレクトーンのレッスンと活用の様子をご紹介します。