レッスンにて 



 その14 【 名付けたのは? 】 


今年の大河ドラマは「義経」ですね。久しぶりに大河ドラマらしい(?)展開になりそうです。今夜の放送で、義経が、弁慶、そして静御前にそれぞれめぐり会いました。
そこで、ひとつ思い出したことがあります。

レッスン中に、ふみえちゃんが
「あのね、しずかちゃんがね・・・」と話をしてくれます。
「うんうん、それで・・・」とひとしきり聞いたあと、何気なく
「しずかちゃんは、上のお名前はなんていうの?」と聞くと
「えっとね、みなもと」
「えっ?!みなもと?みなもとしずかちゃんていうの?」
「そっ、み・な・も・と・し・ず・か」
「ええっ、みなもとしずか!源 静? すごいねー」
私の頭の中には、源義経と静御前が浮かんでいました。はかなく悲恋に終わってしまった若い恋人達 ― 源さんのお宅に生まれたお嬢ちゃんが「静」という名前なんて・・・ ちょっと感動!と思って、
「しずかちゃんて、同じクラス?」
「ううん、しずかちゃんはのび太君と同じクラス」
「は? のび太君? えっ? もしかしてそれは・・・ドラえもんののび太君!?」
「そっ、ドラえもんののび太君としずかちゃん」
「あ、しずかちゃんて、あのしずかちゃん!」
「そうだよ、しずかちゃんの名前てそんなにすごい?」
「あ、いやいや、ちょっとね、ふみえちゃんも社会の授業で歴史を習ったら、わかるかも・・・」

はぁ、そうか、名づけたのは両親でもおじいちゃん、おばあちゃんでもなく、藤子F不二男先生なのでありました。 もしかしたらこのネーミングは、私のこじつけでそういう意味の名前ではないのかもしれません。
でも、幼いころに絵本で見た「牛若丸」、繰り返しテレビでドラマ化された義経と静のはかない恋物語、それはいつのまにか 頭の中にすりこまれていたのでしょう、反応してしまいました。

アニメやドラマの登場人物の名前を見直してみるとまた新しい発見があるかもしれませんね。




 その13 【 発表会こぼれ話 A 】 



出張レッスンに行っている生徒さんには、発表会で弾くエレクトーンに慣れてもらうために、何度か 私の家で練習をしてもらいます。今回も12月に入ってから、その練習を始めました。
さおりちゃんもそのひとりで、学校が終わる時間を聞いて、校門の前まで迎えに行きました。

私の車に乗ってきたさおりちゃん、少しするとガバッと伏せました。で、しばらくすると「フゥーッ」と言って起き上がります。そしてまた、ガバッと・・・

「さおりちゃん、何しよるん?」と訳がわからない私が尋ねると
「『 ツレサリ 』と思われたらいけんやろ」とさおりちゃん。
「え?『 ツ・・レサリ 』?」
「そ、ツレサリ。あ、またおった!」
そう言って、ガバッと伏せるのです。『 ツレサリ 』って何じゃ??と考えて、気づきました! そう『 ツレサリ 』は『 連れ去り 』です。
〔 校門の前で待っていた見知らぬおばさんの車にさおりちゃんが乗った! 〕というのは、うーん、事件かもしれない!
さおりちゃんの行動を理解した私は、それから小学生の姿を見つけると
「あ、あそこにランドセルを背負った子がおるよ! 隠れてー」と言うようになりました。
そのたびに身を伏せるさおりちゃん。
「あ、黄色い帽子の一年生が! でも、学年が違うからいいっか」
「だめ!一年生にも知り合いおるもん」と、こんな具合で校区を抜けるまでこの状態が続きました。

私の『 連れ去り 』は3回で終わりましたが、今は本当に滅多なことで声をかけたりできないのだなと思います。悲しい事件がたくさんありました。

いつの時代でも子供たちのことの心配が尽きることはないのでしょうが、できれば 子供たちが安心して行動できる社会になってほしい、そう強く思います。




 その12 【 発表会こぼれ話 @ 】 



発表会の準備で、小さな生徒さんたちにもステージア体験をしてもらいました。発表会の曲を練習する合間にちょっと一息ということで、 いろいろな音を出して遊んでみました。

その1
SFX1に《 犬 》があります。アサインをして出してみました。
〔 ウワン! 〕
「おおっ、これは大きい犬だねぇ」
隣には《 馬 》 「これはどんな音かなぁ」
生徒さん「ヒヒーーン!」( これは全員の生徒さんが言いました! )
で、生徒さん自分でアサインしてみると・・・〔 パッカパッカパカ
「なぁーんだ、足音だ!」
「次は《 鳥のエサヅリ 》っと・・」
「は? 《 エサヅリ 》って何?」と見てみると、それは《 鳥のさえずり 》でした。
「猫はないの?」
「ないみたいねー、いつか作ってみよう!」とひとしきり楽しめました。

その2
SFX2では、《 足音(靴音) 》《 悲鳴 》《 笑い声 》でサスペンス劇場をやってみました。
〔 コツコツコツコツ・・・ 〕〔 キャーッ! 〕〔 ウワッハッハッ・・・ 〕
「悲鳴と笑い声の順番はどっちが先の方がいいかなぁ」と何度も試しました。
「フフッ、ちょっとこわいかも!」と「ニヤリ」としたのでした。

ほんの少し、ステージアをのぞいてみただけに終わりましたが、興味は持ってくれたようです。またもっと楽しいことをやろうね! あ、もちろん曲も弾かなくっちゃ!!




 その11 【 発表会 】 



私は2年に一度、発表会を行なっています。今年はその年にあたり、先日( 2004.12.23 )開催しました。先生4名で生徒さんは14名というささやかなものでしたが、私にとっても生徒さんにとっても意義ある会となりました。
新機種ステージアのELS変換、修正、アサイン、シーケンサー、リズムのスタイルなどなど、実際に取り組んでみると見えてくるものがたくさんありました。奥深さはもちろんで、これからまだまだ探求(!)していきたいと思っています。楽しんでできそうだということがわかったのも、私にとって収穫でした。900に比較しての弱点(?)も発見!(さあ何でしょう?)

さて、今回エレクトーンを演奏したのはみんな初歩の生徒さんでした。

「ねこふんじゃった」を演奏したのはO先生の生徒さんのKちゃん 。あらっ?名前を紹介されても出ていこうとしません。顔はニコッとしているので、「どうしたの?」と尋ねても足は前に進みません。「大丈夫、ほらO先生がエレクトーンのところで待ってるよ!」と言って背中を押して私もいっしょに舞台に出ました。あとはきちんとご挨拶をして、上手に弾きました。『ミャーオン』という擬音も入ったかわいらしいアレンジでした。
O先生がおっしゃるには、Kちゃんは行動のテンポが独特なのだそうです。これもひとつの個性。このまま素直にすくすく伸びていってほしいものです。次回会えるのが今から楽しみです。

「アイアイ」を演奏したななこちゃんのお母さんは、以前私の生徒さんでした。顔はお父さん似で、 見た感じはお母さんに似たところは全くないのですが、ありました、そっくりのところが。手指の形がお母さんと同じなのです。それを見つけたときはとてもほほえましく思いました。
今回はお母さんにも登場してもらって、もう一曲「山の音楽家」をエレクトーンで連弾ということにしました。 ステージアのボイスエディット機能とアサインを使って、ヴァイオリン、フルート、太鼓の音をななこちゃんにやってもらいました。お母さんといっしょなので安心だったのでしょう。お母さんがちょっと間違えると「ニヤッ」と笑って余裕!!でした。

「キラキラ星」はこのnoteによく登場してもらっているゆかちゃん。私がアレンジをして音色を作ったのですが、ステージアのキラキラ音を総登場させたようになってしまったので、「ちょっとキラキラさせすぎたねー。少し替えようね。」と言ったらゆかちゃん、「ゆかはいいと思うよ、これで」との言葉でそのままにしてしまいました。うーん、やっぱりボワーンとしてしまって反省。

「ジングルベル〜きよしこの夜メドレー」クリスマスに欠かせないこの曲はゆみこちゃん。遅いテンポで練習していたのですが、前日に速くても大丈夫ということになったがんばりやさんです。頭をちょこっと振りながらリズムに乗って弾いてくれました。

「おもいでのアルバム」ハープのグリッサンドを元気よく弾いたさおりちゃん。発表会は初めてで「やめとく」と言った恥ずかしがりやさんなのですが、曲を仕上げることで欲も出てきたようで、私としてはうれしい結果になりました。

私のピアノの生徒さんはひとり出場しました。

「星空のピアニスト」を弾いたのは高校生の園子ちゃんです。テニス部の練習と両立させながらがんばってくれました。園子ちゃんにはリチャード・クレイダーマンになってもらって、私がオーケストラ部門をエレクトーンで担当して( 生の“伴奏くん”です! )アンサンブルをして、楽しい演奏となりました。

アンサンブルはO先生とI先生で今年話題の「冬のソナタ」から「はじめから今まで」、私はOb先生にご協力いただいて二胡とエレクトーンで「涙そうそう」「自由」を演奏しました。
Ob先生の二胡はすばらしくて、とても素敵でした!
そして、私達の発表会には欠かせないものがあります。それは、F先生の作られるお菓子です。先生仲間では有名なF先生のお菓子が記念品といっしょに生徒さんに渡されるのです。プロのようなおいしいクッキーを生徒さんたちは発表会の思い出話をしながら楽しく食べたことでしょう。

さあ、また2年後です。生徒さんたちがんばってね。先生もがんばります!




 その10 【 空に! 】 



今年はたくさんの台風がやってきました。気圧配置の関係でしょうか、大型のまま上陸して、日本を縦断していきます。みなさんのお住まいの所は大丈夫でしたか。
台風というと、私は平成三年の台風19号を思い出します。この時もあちらこちらに大きな被害をもたらしました。私の家も瓦が飛び、ピアノを置いていた部屋はひどく雨漏りがして困ったものでした。
朝のうちは雨が降っている程度だったのですが、しだいに風も強くなっていきました。
その日は自宅レッスンの日で、あやこちゃんとゆういちろうくんの姉弟が来ることになっていました。ふたりの家から私の家まで、子供の足で15分ぐらいかかります。これ以上天候が悪くなるようでしたら来るのはとても無理になるので、電話をしてみました。学校も午前中で終わったようで、二人とも家にいました。相談をして、私が車で迎えに行くことにしました。
マンションの下で待っていると、ふたりがバタバタと元気良く階段を降りてきました。
「台風来るかねー」と言いながら乗ってきます。 私の家まで、揺れ始めた木やワイパーにはじかれて飛び散る雨粒を眺めながら、少しふたりはワクワク(!?)していたように思います。
そして、レッスンが終わる頃には風がもっと強くなっていました。
「さぁ、これ以上ひどくならないうちにおうちに帰っとこうね」と車でふたりの家に向かいました。 木々の揺れはずいぶん激しくなっていて、風の強さが目に見えます。道にはさまざまな物が舞っていました。三人でそれを見ながら「キャー」「すごーい」など言っていると、あるお宅の車庫の蛇腹フェンスが強風にあおられながら、車道の左車線をふさいでいました。「あぶなーい!」とハンドルをきって避けて進んだその時、あやこちゃんが「あっ、なんか飛んでる!」と言いました。
空を見上げると本当にトタン板が風に乗って飛んでいたのです。ずいぶん高い所をふわふわと。まるで『空飛ぶじゅうたん』のように。
「わぁー、あれはどこまでいくんだろうね」
「どこのお家のだろうね」
「屋根に使ってたんだったら大変だよね」
ちょっと興奮して三人でおしゃべりしながらマンションに着き、ふたりは手を振って私を見送ってくれました。雨と風は強まる一方で、フロントガラスには木の葉や枝が張り付いては飛ばされてゆく中、私も家へと急ぎました。。
あの日の光景は今でも目に焼き付いています。三人で同じ空間と驚きを共有した思いと共に。

あやこちゃんは一昨年、若いお母さんになりました。ゆういちろうくんも社会人です。あやこちゃんがお母さんになる直前、私の家を訪ねてくれた時、あやこちゃんはふと車庫のフェンスのことと空を飛ぶトタンの話をしました。思いは同じなのだなとなんだかうれしくなりました。

生徒さんとは、音楽を通じておつきあいをするわけですが、音楽以外でも共通の思い出を持てるのは幸せなことです。
これからも、台風が来るたびに現実の心配とは別に、この出来事を思い出すことでしょう。




 その9 【 こんなこといいな、できたらいいな 】 



『まだ立てる』のゆかちゃん、国語で「あったらいいなと思うもの」を考えたそうです。
「へぇー、ドラえもんの『どこでもドア』みたいなヤツね。それで、どんなものにしたん?」
「あのね、『なんでも出せるんるん』
「えーっ、かわいい名前だねー」
「うーん、名前はいっしょに考えたこうきちゃんが言ったんよ」
「でも、いっしょに考えたんだからすごいね」
「うん、発表する日はこうきちゃんがお休みしてたから、ゆかがひとりでがんばったんだよ。
あのね、バッグみたいなのにスイッチがついた鏡が入っててね。こんなの」
そう言って、色鉛筆できれいにぬられたバッグと鏡の絵も見せてくれました。
「この鏡にね、忘れ物を書いた紙を写してこのスイッチを押しまーす。
そしたらね、忘れた物がこのバッグに入るんよ」
「うん、いい、いい。あったらいいねー。楽しいねー。他にはどんなのがいいかなぁ」
ふたりで考えました。
『どこでも行けるんるん』は『どこでもドア』といっしょになるねと言って、
『おいしいもの出せるんるん』『おうちがきれいになるんるん』『晴れになるんるん』・・・
ひとしきり言い合った後で、ゆかちゃん
「先生、これはじっさいにはないんだからね。できないんだからね」と真顔で言われてしまいました。
「・・・あ、はーい。では〈 きらきら星 〉弾こうね」とレッスンの始まりとなりました。

私が「あったらいいなと思うもの」それは ―― 『なんでも弾けるんるん』『生徒さんが上手になるんるん』です!!




 その8 【 話せる場所 】 



私はレッスン活動を始めた時、あるホームレッスン会場に伺っていました。普通のお宅のピアノとエレクトーンが置いてある広い部屋をお借りして、そこに生徒さんたちがやってきてレッスンをするという形になっていました。
先生として右も左もわからなかった私が曲がりなりにも今までやってこれたのは、こちらの会場のおかげだと言っても過言ではありません。会場主さんがとてもいい方で、社会的なこと、常識的なことも知らず知らずのうちにに学んでいけました。
そこでは、幼稚園や学校の帰りに生徒さんがやってきて、それぞれ個人レッスンを受けて帰っていました。年齢も環境も異なる子供達がそこで友達になっていく ― それは私から見てとても暖かなほほえましい光景でした。自分のレッスンが終わってもすぐには帰らず、宿題をしたり、その週のできごとを話したり、のどかな時間が過ぎていっていました。

そのお宅の玄関に向かって、ダーッと走ってくる足音がします。その音で誰が来たのかがわかります。あの足音はすみよちゃん。
ガラッと勢い良く戸をあけ、「せんせーい!」と走り込んできます。
「あのね、学校でね、ともちゃんがね・・・・」と息つく暇もなくおしゃべりが始まります。
一週間分のたまっていた話をひとしきりしてから、「フゥー」とため息。
そこで私が「こんにちは」と言うと
「あ、こんにちは、言ってなかったかね。さてっとなにするんやったかね」
「さてっと、レッスンしよ!」と私。そこからレッスンが始まります。
自分のレッスンが終わってからも私や他の生徒さんとたくさん話をして帰っていきます。毎回、ほとんどこんな調子でやってきていたすみよちゃん、ある日ぽつりと。
「私、学校ではおとなしいんよ。ほとんどしゃべらんの」
「ええっ?!」私だけではなく、そこにいた生徒さん達全員がのけぞりました。
「ここでは、こんなに話せるのにどうして?」と聞いてみると
「うーん、なんでかねぇ」
気になった私は迎えにいらっしゃったお母様に伺ってみました。
「そうなんですよ。クラスの雰囲気にうまくなじめないらしくて。家ではよくしゃべるんですけど」とおっしゃいます。
低学年だったのですが、成長していく過程の中で心がうまくほどけていかない、学校がそんな場になっていたのでしょう。それからは、私もより気をつけて会話を聞くようにしました。学校がきらいになっているわけではないようなので、とりあえずはここで思いっきり発散してくれるといいなぁと思っていました。学校の話、兄弟のこと、ご両親のこと ― 夫婦喧嘩の話も! ― 元気のいい楽しい話が多かったので、そんなに心配はしませんでしたが。
そして、学年が変わって少し経った頃、またぽつりと。
「私、学校で話せるようになったよ」
「そう、よかったね―」
クラス替えもあり、担任の先生も変わったことで、すみよちゃんの中でも何かがかわったのでしょう。 本当によかったとホッとしながら、もうあんなにたくさんは話してくれなくなるかなぁと少し寂しく思いました。しかし、その心配は杞憂に終わりました。それからもたくさん楽しい話を聞かせてくれましたから。

自分が自分を出せる場所はどこにでもあるわけではないように思います。音楽教室に来ることが、音楽だけでなく、ふと気持ちがやすらげることのひとつになれるといいのですが・・・




 その7 【 違うんだけど・・・ 】 



ある日のレッスンでの生徒さん同士の会話 @
「ともみちゃん、今度何の曲弾くん?」( 北九州弁で『弾くの?』ということです )
「これ」と楽譜を見せてもらったすみよちゃん
〈 たやけこやけ 〉って曲?ふぅーん」
は?何、そんなたこやきがよく焼けてないような曲があったっけと思って、 楽譜を見るとそれは〈 夕やけ こやけ 〉でした。 漢字の〈 夕 〉がカタカナの〈 タ 〉に見えたのでした。
その後しばらくは、あの曲のことを〈 たやけこやけ 〉とよんで、練習しました。


またある日のレッスンでの生徒さん同士の会話 A
その日、まゆみちゃんは〈 オブ・ラ・ディ,オブ・ラ・ダ 〉を弾くにあたって、私のビートルズの説明をきちんと聞いていました。
「イギリスの4人組のバンドで世界中に影響を与えたんよ。男の人の長い髪はこの人たちが最初だったね 」云々・・・
「ふうん、すごい人たちの曲なんやね」
「そうそう、この曲はちょっとむずかしいところもあるけど、うまくリズムにのれれば楽しい曲だよ」と励ましつつ、ポイントの説明をして宿題となりました。
まゆみちゃんのレッスンが終わって、次に来たなおみちゃんがまゆみちゃんに尋ねました。
「今度は何の曲弾くん?」
「オ・ブ・ラ・デ・オ・ブ・ラ・ダ」
「ふぅーん、誰の曲?」
「うん、ツービートの曲!」
「へぇー、ツービートの曲なん?」
「そっ、なんか楽しい曲みたいよ」だって。
古い話で恐縮です。そのころは漫才ブームで、ビートたけしとビートきよしのツービートが一世を風靡しておりました。
それにしても・・・・・ビートルズだってば!!



 その6 【 タラリー 】 


「タラリー」と言っても冷汗・・・ではなく、「♪ミレミー♪」( 階名で )というメロディーです。
このメロディーで始まる曲は今思い浮かぶだけでもいくつかあります。
ロドリーゴの《 アランフェス交響曲 》 ― ポピュラーにもアレンジされているギターの名曲ですね。バッハの《 トッカータとフーガ ニ短調 》 ― 冒頭の部分はテレビの悲劇的なシーンを印象付けるためのBGM、というより効果音のように使われています。強いオルガンの音が、「ガーン」というショックとこれから起こるであろう心の葛藤を暗示させて、バラエティー番組でもよく聞かれます。S・プルの《 ふたりの天使 》 ― オリジナルはダニエル・リカーリのスキャットで、ふんわり包み込まれるような美しい曲です。

この《 ふたりの天使 》をレッスンしていた時のことです。カナちゃんが「タラリー」と弾いたら、後ろでなにか気配が・・・。振り向いてみると、そこには先にレッスンを終えた弟のヨシ君が
「越後屋、死ねっ!」と鉛筆をグサッと刺すしぐさをしているではありませんか。
そうです。必殺仕事人の飾り職人、秀さんになっていたのです!
「タラリー」は仕事人たちが悪人を倒しに出かける時のテーマでもあったのです。原曲はトランペットのソロが高らかに印象的に流れます。

それにしてもさすがヨシ君、よく気がつきました!もともと、時代劇好きであるのは知っていました。おねえちゃんのカナちゃん曰く
「ヨシ君、いつもおじいちゃんおばあちゃんとテレビを見ているから、『水戸黄門』とか『暴れん坊将軍』とか詳しいんだから」
私とも『水戸黄門』で印籠はいつ出るかとか、なんで悪い商人は越後屋が多いのかとか、越後屋の持ってくるお菓子の箱には小判が隠されているとか、新さんが将軍吉宗だとばれないのは変だとか、よく話していました。
その頃、レッスンが終わって帰ろうとする私に
「おねげぇですだ、お代官さま。わしの頼みを聞いてくんろ」とトランプを持って、せがむので、私もついそれに乗って、七並べかババ抜きか、五十一など少しだけゲームをして帰っていました。
「このババが目に入らぬか」
「おぬしも悪( ワル )よのう」
「お奉行様ほどではござりませぬ。ヌォホッホッ・・」などなど典型的な時代劇のセリフを楽しみながら。

その後、カナちゃんもヨシ君もすくすくと成長しました。姉弟ともとても優秀で、今はカナちゃんは上級職の公務員として、ヨシ君は自動車会社のエンジニアとしてがんばっています。
何年か前、エレクトーンの曲集で「必殺仕事人」「大岡越前」「銭形平次」のテーマがメドレーにアレンジされたものが出版されました。私は、ヨシ君のことを思い出しながら楽しく弾きました。

「タラリー」 ギターか、オルガンか、女声のスキャットか、それともトランペットか、さてどの始まりの曲がお好きでしょう?




 その5 【 すりこみ ― レッスン編 】 


ピアノを習い始めて、いつかは弾きたいと誰もが思うのは《 エリーゼのために 》ではないでしょうか。鍵盤を広範囲に使う美しい名曲ですね。その他にも《 トルコ行進曲 》《 猫ふんじゃった 》!! そして《 乙女の祈り 》 ― 題名からして華やかな愛らしい曲だと思います。この名曲を・・・

エレクトーンの初歩の生徒さんが、主要三和音(コードネームでC,F,G7)を覚えると、このコードだけで弾ける練習曲をいくつかレッスンします。 その中に《 乙女の祈り 》をやさしくアレンジした曲もあるのですが、それをある生徒さんが弾いていると、その場にいた他の生徒さんが、
「あっ、ゴミ取りの曲だ!」
弾いていた生徒さんも
「そうだ、どこかで聞いたことがあると思った!ゴミ取りの曲だ!」
そう、確かにその頃ゴミの収集車は《 乙女の祈り 》のオルゴールを流しながら回って来ていたのです。
「そうだね、でも元はピアノ曲なんだけど・・・」
このやり取りはいろいろな所で繰り広げられました。時、すでに遅し。《 乙女の祈り 》は「ゴミ取りの曲」としてしっかり印象づけられてしまっていました。
「ゴミを集めにきましたよー」のお知らせの音楽で、たまたまこの曲が使われただけなのでしょうが、 新たなイメージが子供たちには植え付けられたのでありました。

実は、私にもあるのです、ある曲を聴くと思い出されるものが。
シューベルトの《 ます 》 ― この曲を聴くと、清らかな流れを気持ち良さそうに泳ぐ鱒のイメージより先に、棕櫚のホウキとブリキの雑巾バケツを思い出します。私の通った小学校では、掃除時間に校内放送で《 ます 》がBGMとして流れていたのです。木造の校舎と、木の机や椅子、みんなの騒ぐ声、黒板のチョークの粉・・・いろいろなことがよみがえります。

あの頃の生徒さんたちは今、《 乙女の祈り 》を聴くとどんな感想を持つのでしょうか。聞いてみたいものです。




 その4 【 思いはひとつ 】 


私はなぜか双子を見分けるのが得意です。友人のお子さんの「わたるくん」と「ゆずるくん」も 写真で見分けられました。名前に合った顔つきのように思えました。もっとも、母親である友人曰く、 「『ゆずる』は譲らない性格」なのだそうですが・・・

一時期、レッスンに双子の男の子が通ってきてくれていました。大リーグの野茂投手に似た面差しの 圭介くんと達也君です。二人は暖かいご両親のもとで、双子の兄弟ということの良さを十二分に 享受していました。それは時には喧嘩をすることもあったでしょうが、助け合い、お互いをきちんと 認め合っているところが、とても微笑ましくまた頼もしく思えていました。
いつもふたりいっしょにやってきて、テキストの進度もほとんど同じに進み、発表会ではふたりとも アニメの曲を弾いたりしていました。
ある日のこと、珍しく圭介くんがひとりでやってきました。
「あれ、きょうはひとり?」
「うん、達也はまだ学校から帰ってないから」
(小学校の方針で、二人はクラスが違っていました。)
「そう、じゃ始めようね」と、ひととおりレッスンをして、最後にソルフェージュの本を開きました。36番です。
わぁー、だいぶん進んだねー」と圭介君。
「そうだねー」と私。歌い終わって 「じゃ、また来週ね。帰り、達也君とすれ違うかもね」とさよならをして、それからしばらくして
「学校で遅くなった!」と達也君がやってきました。
「はーい、大丈夫だよ」と、ひととおりレッスンをして、最後にソルフェージュ、36番です。
本を開いて
わぁー、だいぶん進んだねー」と達也君。
「そうだねー」と私。あら、この会話ははさっきも・・・・思わず顔を見直してしまいました。達也君です。圭介君ではありません。
口調もそのまんま! 改めて、二人は双子君なんだと思った瞬間でした。

そして、冬のある日、達也君が真っ赤なほっぺをしてやってきました。圭介君はふつうの顔色です。
「あれ、きょうは達也君、走ってきたの」
「ううん、圭介といっしょに歩いてきたよ」
「そう、まるでりんごみたい、血色がいいね」
そして、それから2週間後、今度は圭介くんが真っ赤なほっぺでやってきました。
「あ、きょうは圭介くんがりんごみたい!」
2回のレッスンとも、普通に元気良く楽しく終わりました。
そして、その2週間後の朝、起きて鏡を見ると私の頬は真っ赤でした。
「え、なんでこんなに顔色がいいのか???」と思いながらも「ま、いいか」と過ごしていたら、午後から熱が出てきました。それで次の日、病院に行きました。すると―
「りんごほっぺ病ですね」
「は? あれは幼い子がなる病気ではなかったでしょうか」
だいたい小学生までの病気ですね。普通は大人はかからないんだけどな。子供と遊んだりした?」
私の仕事の話をすると、お医者様は感染については納得されました。 その時初めて、そういえば達也君と圭介君のほっぺが・・・と思い当たりました。 潜伏期間を置いて、次々にかかったというわけです。
健康な子供であれば、頬が赤くなるだけで他に症状はないそうで、私も熱は出ていたけれど、妙に元気でした。仕事もできる状態でした。しかし―
「仕事は休まないとダメだよ。子供さんと接する仕事なんだから、移るといけないからね」
赤みがひくまでの5日間、思ってもいない休日となりました。
なんとなく私も仲良しの双子君の仲間に入れてもらったような、そんな気分でした。

その後、残念ながら二人はお家の都合で遠くに引越してしまったので、会えなくなってしまいました。今ごろはもう大人になっていますね。きっと今もふたり、お互いを大切にしながら、助け合っていることでしょう。いつか会えるとうれしいのですが。

大リーグのニュースで野茂投手をみるたびに、またりんごの赤さをみるたびに圭介君、達也君のことをなつかしく思い出すのです。




 その3 【 ハから始まるのは? 】 


〔ドレミファソラシド〕というのはいつともなく耳にし、覚えているものです。小さな生徒さんも 抵抗なく上手に言えます。 五線の中の位置を捉えるのはなかなか難しいのですが、それぞれの生徒さんによって個人差はあっても 、成長と共に判別できるようになります。
〔ドレミ・・・〕は階名、それに慣れてくると今度は音名を勉強します。エレクトーンは、和音を コードネームでも覚えますので、英語の〔C・D・E・F・G・A・B〕を先に私はレッスンします。 〔ABC〕は、『キラキラ星』のメロディーで歌えるせいでしょうか、理解は早いように思います。
一方、日本語の音名〔ハ・ニ・ホ・ヘ・ト・イ・ロ〕は、今の子供たちには〔いろは〕になじみが ないので、ちょっと覚えにくいようです。

ある日のレッスンでのことです。
「よしこちゃん、〔ド〕は〔ハ〕だね、では〔ファ〕はなんでしょう」
よしこちゃんは、「ドレミファ」と4本、指を折って、次にもう一度4本、指を折って
「〔ファ〕は〔ヘ〕!」と元気良く答えてくれました。
「はーい、よくできました。じゃあ、〔ソ〕は?」
よしこちゃん、今度は5本、指を折って、もう一度5本、指を折って、
「〔ホ〕!」
「〔ホ〕?? えっ〔ホ〕?」
よしこちゃん、もう一度考えて、
「やっぱ、〔ホ〕」
「ウーン、じゃあ、声に出して言ってみよう」
「うん、『ドレミファソ』、『ハヒフヘホ』」
「よしこちゃん、『ハヒフヘホ』?」
「は?」
私は笑いをこらえて、
「ヒ短調とかフ長調とかないねー。『ハニホヘト』」
「ああ、なーんだそうか。じゃあ、〔ソ〕は〔ト〕だ!ハハハ」
「はーい、その通り!〔ミ〕の音が〔ホ〕だね」

本当は、数えるのではなくそのものの音を〔ハ〕とか〔イ〕で覚えた方がいいのだとは思います。でも、 聞いたことのない〔イロハ〕は呪文のようなものにしか感じられないようなので、〔ドレミ・・・〕と 〔ハニホ・・・〕を対で言えるようにしていたのです。たまたま、四番目が〔へ〕で一致していたので、 もう一問尋ねなければ、〔ハヒフヘホ〕は発覚しなかったと思うとなんともおかしかった出来事です。

人には、習って覚えるものもあれば、自然に身についていくものもあります。習ったこともいつか 知らず知らずのうちにあたりまえのように身にそなわっていけば一番かなと思います。上手に弾けるように ならなくても、理論は忘れてしまっても、音を楽しむことを覚えてくれればとてもうれしいことです。




 その2 【 まだ立てる! 】 


最近のお話をひとつ。

出張レッスンに行っているゆかちゃんのお家は、マンションの4階です。1階のインターフォンで ご挨拶して、オートロックを解除していただきエレベーターに乗ります。ここから、私のドキドキが 始まります。
きょうは、どう来るか???
ゆかちゃんは、エレベーターが上がってくるのを陰に隠れて待っていて、私が降りたとたん、
「ワァッ!」と驚かせるのです。 私も、最近は4階が近づくとエレベーターの中でしゃがんだり、フロアを表示する前に隠れたりと 負けじと策を講じています。
きょうも、身構えてそっとエレベーターから一歩を踏み出しました。が、声がない。なーんだ、きょうは 出てくるのが間に合わなかったんだとちょっと拍子抜けして、油断して二歩目を出したら
「ウワッ!!!」と来ました。
いつもは左から来るのに、きょうは右の玄関寄りに隠れていたのです。 私は思わず
「ワッ!びっくりした!」と言ってしまいました。
ゆかちゃん、大喜びで大笑い。私もつられて大笑いです。

さて、レッスンを始めてしばらくすると、
「なーんか、きついんよね」とゆかちゃん。
「明日は土曜日だから、ゆっくり休めば」と私。
「だって、宿題あるもん。おんどく、ふたつも」
「おんどくって、国語の本の音読のこと?」
「そっ、たんぽぽとふきのとう」
「えっ、なんか可愛い題名だねぇ」
「見せてあげるよ」とエレクトーンの椅子からすべりおりると、ランドセルから国語の本を取り出して 持ってきてくれました。
今の小学生の教科書には、名前がついているのです。ゆかちゃんの国語の本は《タンポポ》でした。 その表紙を開いた最初のページに「たんぽぽ」の詩があり、次の単元が「ふきのとう」でした。
「たんぽぽ」は詩なので短いのですが、「ふきのとう」は二年生のゆかちゃんが音読するには、長いかも しれません。でも、なんともかわいい心温まるお話でした。

   ――― 竹やぶの地面の下で、ふきのとうたちはじっと芽を出すのを待っています。
       まだ少し残っている雪が解けてくれないと出ることができません。春風が吹いて
       生い茂っている笹の葉を揺らして、春の暖かいお日様の光が差し込めば、雪は
       解け、芽吹くことができるのです。
       なぜ、春風は吹かないのか・・・それは居眠りをしていたからなのです。
       さぁ、春風さんもやっと目を覚まして竹やぶの笹を揺らします。すると葉の間
       からお日様のやわらかな光がさしこんで、ふきのとうたちの上の雪は解けて
       いきました。ふきのとうたちは、こうして地面から顔をのぞかせたのです。―――

「いいお話だね、それにさし絵がとってもきれいだね」
( 絵はなんと私が大好きな画家[黒井 健]でした。)
「うん、ゆかもこの絵は大好きだよ」
「大丈夫、きっと楽しく音読できるよ」と言いながら何気なく次のページを開くとそこには担任の先生の ごほうびの赤マルがいっぱいでした。
「うわっ、ゆかちゃんすごいね」そう言うとゆかちゃんは誇らしげに
「うん、かるた作ったんだよ」と言います。
見てみると、カッコに漢数字を入れて、それに短い言葉を加え、カルタを仕上げるようになっていました。

   にわとりが〔 二 〕わ――――ねむたそう (この挿絵のにわとりは目をつぶっていました)
   ヨットが〔 四 〕そう――――海の上  (なかなかきれい)
   なっとう〔 七 〕つぶ――――にがてだな (そう、ゆかちゃん、納豆がきらいなのです。
                            給食に納豆が出るのが悩みの種なのです)
   じゅうたん〔 十 〕まい―――どうしよう (曰く、おうちに十枚も絨毯の置き場所はない・・)
   〔 百 〕さいのおばあさん――まだ立てる (!!)
   おりづる〔 千 〕ば―――――作ってくたくた (!!!)

「ゆかちゃん、おもしろい!」キャハハと笑ってしまいました。
「うん、学校の先生もそう言ったよ」
それから「まだ立てる」「作ってくたくた」と言いながらふたりでまた笑いました。

なんとか元気を取り戻して、エレクトーン再開です。やっとマルをもらって(少しオマケでしたが) 音当てをしてレッスンは終わりました。
「さよなら」をする時もゆかちゃんは国語の本を抱えています。
「どうするの」と聞いたら
「『まだ立てる』お母さんにも見せるの」
「そうだねぇ、見てもらわなくっちゃね。じゃ、また来週ね」

さて、来週はエレベーターを降りる時、どうするか・・・・・お面でもかぶろうかなと 思いつつマンションを後にしたのでした。


               

 その1 【 お仕事 】 


以前、生徒さんそれぞれに渡していた小さな出席ノートには、自分の名前、学年、住所、 そして、親御さんの名前、職業を書く欄がありました。
親御さんが記入されることもありましたが、自分で記入する生徒さんもいました。 
「ここは、何を書くの?」と聞いてくる生徒さんにあれこれ説明すると、真剣な顔で一生懸命   書いて、「できた!」と見せてくれます。
どれどれと見てみると、職業の欄 (「ここはお仕事を書くところ」と説明しました )に
〈べんきょう〉と書いてあります。
「勉強がお仕事?」と聞くと、
「そうっ、おかあさんが『あんたの仕事は勉強よ!』っていっつも言うもん」
はぁー、なるほどね、そうきたか。 
そして、もうひとり、お父さんが養鶏業をなさっているみぃちゃんが、 「わたしもできたよ」と見せてくれます。
さて、職業欄は―――〈たまごひろい〉
「み、みぃちゃん、これは?」と聞くと
「うん、おとうさん、いつもやってるよ。わたしもおかあさんからたまごひろいしておいでって言われるよ」
そうだね―、「たまごひろいしたから練習できんかったんよ」ってよく言ってるもんね―
もう、おかしいやら、かわいいやら・・・・・

こうして、子供たちとのおしゃべりの楽しさにのめりこんでゆくのでありました。