あかいはな
黄色は禁色。
それは皇族にしか、着ることを許されない色だ。
シンの国には、海とも見間違える大河がある。
生命を育み物資を運ぶその河は、上流の沃土を含んで黄味がかった土の色をしている。古来より人は、この大河を竜に見立てた。
そは雷を呼び、地を砕き。
総ての源である水を司る霊獣。力強きもの、その名は竜。
西方でのドラゴンこそ悪魔の化身とされているが、東方での竜は神の位にある。五本爪の竜こそ皇帝の化身だ。
そして黄色は豊穣を約束する大地の色であり、とうとうたらりと流れゆく河の色ときては。
(あー。ここでも、また混じってるよ)
自然の猛威に敬意を表し、黄色を流転する五行の中心と定めたのは至って素朴な感性だったが。
エドワードはガリガリと頭を掻く。
クソ難解な練丹術書(主に語彙とシンへの知識のなさが問題だ)の息抜きに、分野違いの建築学の書簡を読み解いていたら、そこで出てくる風水学に引っ掛かった。
調べなおしているうちに、結局は息抜き前に突付いていた五行に戻ってしまった。
曰く、東方は木気。青にして春を司る。
風水学と同じく、五行の思想は現代練丹術にも深く浸透していた。
両者を切り離してそれだけ調べるのは不可能だ。練丹術も人の成す技だからして、他にも横道からシン特有の文化が絡んでくる。
練丹術を学ぼうとするなら、一通りシンを識らなくてはいけない。エドワードは改めてそれを突きつけられる。
まったく、調べるほどに興味は尽きない。
錬金術師であるエドワードにとって、練丹術はエキセントリックな香辛料と同じく刺激的な魅力に富んでいた。
エドワードが国交回復のテストケースに選出されたのを契機に、使節団と共にシンに渡ったのはまだ肌寒い春先だった。今は冬。
2ヶ月の短期留学を延ばし延ばし、もう半年も経ってしまった。
なにしろシンはリンやランファンやメイみたいな連中をドンブリに纏めて産み出して来た国だ。
やはり国土が広くて人口が多い国は、一味違う。その灰汁の強さ、懐の深さは押してしかるべし。
人間って凄い。柄でもなく、そう唸りたくなる毎日だ。
…ああ、そういや。
昆虫を食わされた時もカルチャーショックを受けたっけ。
集中力が切れたので、小腹が空いた。
エドワードはそれで連想してしまう。
犬やタコといった…故郷では食材にならないような生き物がナチュラルに食卓に出てきたときには、文化の違いというものを肌で感じた(なにせ受け止めたのは胃袋という粘膜だ。生々しい)。
タコは悪魔の生き物だし、犬は愛犬家・嫌犬家どちらにも厳しそうだ。
どちらも食ったし旨かったが、誰もがエドワードのように割り切れる人間じゃないだろう。それに例に挙げた食材はほんの一部で、なかにはエドワードすら2度と食べたくないものも存在した。
味には問題ないのだ。ただ食材のチョイスが、育ってきた文化的に相容れないだけで。
……シンとお付き合いするのに異存はない。でも神経細いヤツがこっちに来たら、食生活は大変じゃないか?
(次の派遣者の推薦。どうしよっかなー)
後任は出来るだけ真面目で、コツコツやるタイプが好ましい。でもそういうやつはノイローゼになりそうだ。
そう頭を悩ませていたら、それはお偉いさんのエドワードイジメで、基本的に異国人には出さないメニューだとランファンに指摘された。
んなこと言われても機微の分からない異国で初日からそれを振舞われれば、そんなものだと思うだろう。
しかしまあ。流石は音に聞こえし、食道楽の国シン。
材料にさえ拘らなければ、料理はどれも絶品だった。
チャレンジ精神の強いアルフォンス相手なら、薦めてみるのもいいかもしれない。きっと一緒に楽しんでくれる。
エドワードは膝に竹巻を広げた格好のまま、ふと、思う。
(アル。今頃なにをしてるだろ)
この秋までは大学の研究室の予定がぎっしり詰まっていると聞いてたから、忙しくしているだろうけど。
ちゃんとメシは食ってるのかな。
あいつも目先に夢中になると、寝食忘れるタイプだから。…少しばかり心配だ。
カンガンガン!
戸板の叩かれる音に、エドワードの取り留めのない物思いは泡と消えた。
「寒くなったネ、そろそろ初雪が降るヨ」
夜の闇に紛れ。
黒髪糸目の皇子さまが、陰謀と策謀渦巻く宮殿からこっそり避難してきた。
吐く息が白い。
宮中での着飾った装束ではなく、すっきり簡素なお忍び姿だ。
「いれテー」
この手の招かれざる客を防ぐため、エドワードの室房の窓は錬金術で塞がれている。
「五月蝿い帰れ」
硝子窓から覗いた見慣れた顔に、エドワードはシッシと手を振った。
リンが来ると、時々お供に暗殺者も付いてくる。平和な学術生活者には邪魔でしかない。
いやエドワードはいいのだが大学寮の管理人の頭がまた薄くなるかと思うと不憫だったし、それに今夜は読み止しの竹巻を解読するというお楽しみが待っていた。
露骨に邪魔者扱いされたリンだったが、友人のそっけの無さには慣れている。
「エー」
懐から取り出したのは、温石代わりに抱いていた甘栗の袋と一通の封書。リンは早々と最終兵器を持ち出した。
「アルからお手紙が来たノ、いち早く届けてあげにきたのニ?」
パン。
一閃の光のもと、窓の溶接が変形し、戸が外に開かれる。
「ありがとう、ヤオ。手数だったな。茶の一杯でも飲んでいくか?」
唇に浮かぶは歓迎の笑み。
邪険な舌の根の乾かないうちの、この変わり身の早さときては。
……。
ああ、まったくエドワードらしい。
(…コレに和むようになったら、人としておしまいのような気もするが)
ついうっかり荒んだ心を癒されそうになったリンは、自分の殺伐とした環境の改善を誓う。
「現金なんだから、もウ。飲むけどサ」
この歩く不遜・エドワード・エルリックに手ずから労ってもらう機会なんて、そりゃあ貴重だ。
するりと窓のさんを跨いだリンは、実用一点張りの椅子に腰を落とす。
アルコールランプで湯を沸かしている間、エドワードは家族からの手紙を広げる。
金の瞳が、炎を受けて溶けるようだ。その眼差しの柔らかいことといったらない。
異国渡りの珍客は、敵も多いが支持者も多い。宮中の雀たちに見せてやったらどれだけ騒がしいことか。
下弦の月を背景にした、その姿は絵画の一葉。
鮮やかな金の髪に、深紅の長服。それは毒々しくも華やかで、宮城の闇によく映える。
(きっと知らないで着てるんだろうが)
リンは込み上げてくる笑いを噛み殺す。
この国では、赤と金は花嫁の色だ。
リンの客人であるエドワードに、何某から悪意を持って贈られた赤い服。それはエドワードの金髪と引っ掛けて『お嬢さんはお家にお帰り』その意味だ。
しかし無知というのはある意味強い。
最低限ギリギリの衣服しか持ち込まなかった不精者は、その服を気構えなしに愛用している。
それがまた、文句なしに似合うのだ。
元々エドワードは、自分は何者かを証明する制服のように赤を着ていた。
いまいち悪趣味な友人だったが、服を着こなすセンスだけは、中々どうして秀逸だと思う。
「ねェ。アルはランファンの調子、なんて言ってル?」
砂漠ルートの駱駝便も、そろそろ定着しようという昨今だ。
つい先日、機械鎧の整備兼・技師の留学育成に、ランファン一行を送り出した。
彼女からも報告は届いているが、弱音は吐かぬあれのこと。
他者からの情報も、仕入れておきたいのが人情だ。
アルフォンスはその点、気配りが利く。
「幻視痛。…っと、切断してない筈の手足が痛むっていうケースのことをそう呼ぶんだけど、それが随分酷いようだ」
リンの希望的観測は正解だった。エドワードは手紙を読みながらつるりと応える。
「それは断端神経腫とは違うもノ?」
以前に診せた医師はそれだと判じた。
「その両者は、本人や医者にもどっちか区別できない場合が多い。だからまったく違うとも言い切れない。ただ、幻視痛なら薬は効かない場合が多いし、下肢より上肢のほうが痛みを感じた。あと幻視痛に限っては、高揚して気が張っているときには出にくい…かな? オレの経験だけだが、参考までに」
淡々としたエドワードの言葉は誠実だった。
アルフォンスに尋ねられたら、誤魔化していただろう情報を与えられる。それが素直にありがたい。
「…そうカ」
リンは湯気で温まった室内に、喉もとの衣服を緩めて息を付く。
けして誰にも言わないが。
ランファンの鋼の義肢を見るたびに、胸のうちを騒がせるものがある。
それは恋でもなく愛でもない。
雷撃のように、志に打たれた。
そこには男も女もない。走ったのは電流の痺れ。
(あなたは私たちの希望なのだ)
ただ。このひたむきな眼差しを煩わしくなった時、ヤオ族のリンは死ぬのだと思った。麗しくも生臭いこの欲望の都に飲み込まれて。
ヤオ族の総領の嫡子であり、皇帝が一子。
リンは多くのものを持つように産まれ、そのように育てられた。
覚悟を決めていなかったはずはない。
しかし、一族の贄に差し出されたあの右手はリンの横っ面を、確かに張り倒したのだ。
そのことを、ランファンは知らない。
「痛みの緩和に効果のある心理療法なら、やっぱりこっちの方が進んでるぜ。チームを作る気があるんだったら向こうの技師の連中も巻き込んでやると喜ばれるんじゃねえの」
「…ふー…ン。そうだねエ」
友の言葉に、リンの中の生き物がゆるやかな鼓動を刻む。
(俺の中には、竜が居る)
帝位をもぎ取るのは、手段であって目的ではない。
どこにこの国を導くのかと、半目を開いた『竜』に問われる。
その巨大さに、戸惑い慄くには、どうも最近やることが多い。
思い悩む暇などないのは結構なことだ。
万難を排し、いつかリンはこの身の内に棲む竜を従え、禁色を纏う。
だからこそリンの胸に指標を刻んだ少女に、赤い服を贈ることなど許されない。
そのような失望など、させない。
真の王者などこの世には居ないと言い放った男が居た。それはこのリンを識らなかったからだと、お前に思わせてやろう。それが…お前が腕を、一族の贄に捧げた見物料だ。
一番近くで見せてやろう。このリン・ヤオが築く国を。
リンはいつものように、へらりとした笑みを浮かべた。
「いいネ。考えておくヨ」
リンの『考えておく』は行動するの決定事項だ。
エドワードはしっかり自分を売り込んでおく。
「医科の教授陣を招聘するときは、紹介よろしく」
シンで最高基準の医学者は、世界でも屈指のトップレベルだ。お近づきの暁は、是非とも書斎を覗きたい。
リンは持ち込みの甘栗の皮を剥いては口の中に放り込む。
「エドってホント書痴だよネ」
「書痴?」
おや、知らない単語だったかと西国風に言い直す。
「アー…っとビブリオマニアの意味」
アルフォンスからの長い手紙を読み進めながら、エドワードは頷いた。
「何でも記録に残したがるこの国の人間に言われるのは、錬金術師として最っ高の褒め言葉だな」
「エ…褒めてないヨー」
取り合えずツッコミを入れたが、エドワードがそう褒めたくもなる猛毒体質というのは立派な事実だ。
強い毒は薄めれば薬。まして頭脳ゲームを至上とする識者たちには、甘い蜜。
天然トラブルクリエイターの面目躍如は国を超えても健在で、そのうちいくつかの事件ではストッパー役の(時には油を注いでいたが)アルフォンスの存在をリンに恋しく思わせた……が、その騒ぎの方々で異様に目立つエドワードは、西方の国を豊かなイメージとして多くのものに憧憬を喚起させるという福音をもたらした。
おかげさまで今現在、西方にパイプを持つリンの立場は悪くはない。
危険なのはエドワードだ。
(そろそろ国に帰すべきか)
リンは遊行の際に、買い食いの楽しさに目覚めた。
もぎゅもぎゅと栗の甘さを噛み締め、思案を固める。
なにしろハードな経験をこなしている割に根が善良な友人は、実際に身に降りかかるまで、周囲のきな臭さに気付けないところがあった。
トモダチは利用してもいいポリシーだが、命に関わる権力争いにまで巻き込むほどはそうではない。
エドワードはランファンとは違うのだ。
(まあ、楽しかったな)
敵と味方。異国に旅立つ前はリンの周りには2種類の人間しかいなかった。
『いいじゃんかよーッ!!友達だろーッ!!?』
使うのが初めての言葉は、それなりに緊張したものだ。その後『誰が友達か!』と、剣突を喰らってしまったが。
(下心は山盛りだったから仕方ないか)
不老不死の法のかわりに、得がたいものを手に入れた。
実際の生活はそう変わりばえするものではない。しかしある種の実感を得られない人間にはならなくてすんだ。
自分みたいな育ちからすれば、その幸運に預かれたものは少ないだろう。それだけで由とする。
「ねー。エドー」
「……帰らなくっちゃ」
一瞬、思考を口に出していたかと胸を押さえたが、それも違うようだ。手紙を握り締めたエドワードの顔は、ざあっと血の気が失せている。
リンは細い目を見開いた。
「アルに何かあったのカ!?」
アルフォンスはリンにとっても親しい友だ。問題が起これば穏やかじゃない。
「あいつ、結婚するから、とっとと帰って来いって…」
「おお!目出度イ!」
リンはパシンと膝を打つ。
べったり仲良し兄妹が、半年離れた甲斐があったというもの。
かの少女にも新しい出会いがあったか、もとよりの情が深まったか。
いずれにせよ、それは祝着。
「どうしよ…リン。オレ…相手の男、見た瞬間殺っちゃうかも…」
アー…。
(このシスコン兄ちゃんは)
妹大事の兄のこと。彼女が悲しむようなことは、絶っ対、出来ないクセして何を言う。
そうと決まればボンヤリしている暇はない。
リンは颯爽と窓に足を掛けかけて、ふと思いつき振り返った。
「一寸荷物纏めるから、今から出るのは止めてヨ!」
「お、おう。…っていうか、ガキじゃあるまいし引継ぎや、挨拶回りしてから帰るけど。えっと、目一杯に支度を急いで4日はかかるか。あー…お前も来るのか?」
「行けたらいいねエ。でも今は行けなイ。残念だけどネ」
リンはウキウキと指折り数える。
花嫁を飾るのは、絹の靴に花簪。
歩揺の音も涼やかに、光るは胸元の首飾り。
アルフォンスは贔屓目なしに美人だから、それらがとても似合うだろう。
「だから餞に服ぐらい贈らせテ。そっちのも着るだろうけど、お色直しにでも使ってヨ」
それで写真を送ってクダサイ。
無心をすると、兄は長椅子に身を伏せた。
衝撃を隠す余裕もないらしい。額に手を当て懊悩している。
「…んなこと言って……お前、サイズ分かるのかよ?」
(ヤダなあ)
今から憔悴しちゃって。
その正直さが少しばかりは羨ましい。
「錬金術師って便利だよネ。ウチの母上は大柄な人だったから、マア適当に寸法あわせてヨ」
「ちょっと待て!そんな大事なもの貰えやしねえって!」
(あ、復活した)
「貰ってヨ。どうせ俺はそれを好い人に贈ることはないんだから。それならアルに着て欲しイ」
おっとしまった。失言だ。
「……リン?」
「だって、皇后の着る物をお古ってわけにもイカンでショ。国の威信がかかるしねエ」
ここで可愛らしくウィンクしてみる。
敏いアルフォンスが相手なら誤魔化すのも面倒臭いが、鈍いエドワードなら簡単だ。
「あーそうか!お前はそういうやつだよなっ!」
……。
それとも男の情けで気付かぬ振りをしてくれているのか。さあ、どちらだ。
「なんならエドが着ちゃってもいいヨー。それで『アル!お前はオレを捨てるのか!』って結婚式に殴りこみを掛ければ先ず一発で破談になるヨ?」
「…………んなことしたらアルに滅法怒られるじゃねえか!」
開いた間は、頭の中でシュミレーションをした時間と見た。
エドワードの脳内でどこまで話が進んだのか、関心がある。
そうしてエドワード・エルリックはひとしきりシンを騒がせて、西の国へ帰っていった。
「……あるいは、と思っていたがな」
やはり妹の結婚は、命を狙われ始めた兄を帰国させるための方言だったらしい。
細かいところまでよく働いてくれたランファンが帰国し、リンは数枚の写真を受けとった。
その内容に愉快な気分になる。
写真には母の婚礼衣装をうるわしくも身に纏い、嫣然と微笑む妹。……と、そのおまけに白いドレスを着せられて、胡坐をかいて不貞腐れる兄の姿。
花嫁衣裳を押し付けたのは、エドワードを混乱させる駄目押しだったが……ちゃんと使ってくれてなによりだ。
妹は特に問題なく、艶やかかつ可愛らしい。それはいい。しかし、兄のドレス姿は罰ゲームだ。瀟洒なドレスは、しっかり鍛えた男特有の筋肉のスジを隠せない。
……マネキンがエドワードなので…妙に似合っているというか、気持ち悪さがないあたりが随分と笑え……いやいや、物悲しい気分になったが。
しかし記念に写真を送ってくれるにしても。
「なんで花嫁が2人なんだ?」
普通はアルをピンでだろう。
リンは顎をなでさする。
「数年間は恥ずかしくてこちらに顔を出せなくする為の保険だそうです」
そう報告した者の、面越しの表情は見えずとも楽しげだ。
確かに現在のシンはお家騒動の真っ只中で、先年の隣国に負けずにきな臭い。アルフォンスの心配りは、当たっている。……兄に置いてけぼりを半年食らって、妹が拗ねてただけかもしれないが。
「よし、数年後は2人一緒に来てもらおう。…大掃除になるな」
「はい」
国賓を害そうとするなど我が国の恥、どころか外交問題だ。だから根回ししておいて、正面から招待したというのに……世の中には計算できない馬鹿もいる。
可愛らしい嫌がらせをするくらいなら、見逃してやったものを。
「ある程度の埃じゃ人間は死なないが、客人を迎えるには恥ずかしいからな」
「はい」
娘は生真面目に返事を返す。この堅苦しさは、何年付き合っても代わり映えしない。
「それで褒章の先渡しだ」
取り出したのは一本の銀簪。気付いてそれだけは引き抜いておいた。
「母の花嫁衣裳の簪だ。これは一族の男が女の戦場に打って出る母に贈ってくれたもの。戦う場所は違えど、お前に相応しいと思う」
飾りは紅珊瑚で細工された小花のみ。皇帝の子を生んだ後宮の女の持ち物としては地味なものだ。
「……ありがとう、御座います」
手ずから髪に挿してやる。
返り血の色を目立たせぬ黒衣の装束と、顔を隠す面。
それらを身にまとう以上、少女には可憐な小花は似合わない。
しかしリンは満足だ。
「先達の想いに負けぬよう励みます」
強い光を瞳に抱く、娘の態度は謹厳そのもの。
「ああ、頼む」
(ただ、受け取ってもらえて嬉しいと)
枯れぬ花を一輪。
この後ランファンが誰と結婚しても、最初に赤を贈ったのは自分だ。
そんな青臭さい感傷を心の奥で笑い飛ばし。
少しは勘違いしてくれてもいいものを…と、胸で弾けた想いを、リンは忘れることにした。
2005,11,7
リンとランファンは色恋ではなく、厳密な主従関係を希望。
流行のメイドさんとかは私的に萌えーではあっても、一筆ナニかでっちあげるほどは燃えはしません。
禁欲的であるからこそ色っぽさが際立つ関係はあると思います。…でもちょっぴりはロマンスっぽいよーな匂いがあってもトキメキます。でもそこに、花実はないの、あるのはそこはかとない香りだけ。
あ、ちなみにエドワードさんとアルフォンスさんはがっつり花も実もある状態でお願いします。だけど色っぽさはあんまりなくて外野視線は『あいつら本当に仲いいよなあ』ぐらい。
むしろエドワードさんは、焔さんやら皇子さまやらといった火種の無いところに噂が立つと楽しいですね!
主にアルフォンスさんの反応とかが。
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