不思議の国のアルフォンス






   注:焔の錬金術師さんが愛ゆえに壊れています。
   焔さんが変態かつ破廉恥なのは嫌な方、ブラウザバックを大推奨。
   何もかも笑って許せるお姉さまのみ、どうぞ。





2 焔にまつわるエトセトラ。



 リビングが錬成陣に占拠されてしまったので朝食は外でということになった。
 なにしろ大事な物証だ。万が一にでも破損したらアルは『実家』に帰れなくなってしまう。
(でも……ちょっとくらい不自由でも家で作ったらよかった)
 お日様が降り注ぐオープンテラスは行きつけの店だったが、アルフォンスは後悔した。


 錬成陣を確かめると、アルフォンス(男)が組み立てたものとは微妙に違っていた。
 アル(男)が組み立てた構成はあくまでも『空間と空間』に道を作ることであり、それだけでは発動しない。
 アル(女)が組み立てた構成は『遠くからモノを引き寄せる』手法のプロトタイプで、これだけでは大して危険性のない代物。
 しかしこの2つが重なった事により『空間と空間』が繋がって『遠くからモノを引き寄せる』その際、等価交換の原則に従って『こっちとあっち』で同じ質量のもの(精神)が入れ替わりました。どうもそういうことらしい(暫定推測)。

「…男女の性別がある以上、肉体は同じ質量というわけにはいかない。だから魂のみが入れ替わったか」
 エドは考え事をしているときの癖で、顎と下唇に手を当てている。
 こういうところは凄く『兄さん』らしい。それなのに、とアルは溜め息を付く。
(……詐欺だ)
 難しい顔をして足を組むエドは一服の絵のようだ。傍に置かれたごく普通のデミカップさえ洒落た雰囲気を演出する小道具に見える。
 カフェや街を行く女の子たちの視線はそりゃあ痛いほど。これだけ注目を浴びて平然としている、このひとの心臓には毛が生えているに違いない。
(兄さんと外出しても、こんなにはならないのに)
 基本的にエド(男)と顔の造りは変わりはないのに、この差はいったいなんなのか。兄さん(男)に兄さん(女)の爪の垢を煎じて飲ませたい…どころかむしろ自分が飲みたいぐらいだ。
「(これで)兄さんが女の人なんて信じられない」
 アルは空を見上げる。…ああ太陽が眩しい。

「つーかオレは男のお前が想像できん」
 思索の森から帰ってきたエドはカップ片手にちらりとアルを見た。
 ジーンズとゆったりとしたトレーナー姿のアルはボーイッシュに纏めてあるが、いつも通りの姿だ。ああでもブラジャーの金具の位置がわからなくて、着替えに手間取るあたりは少し違う。
 普段きつく編み上げている髪を、ふんわりおろしている分、華やかな印象か。
 エドの内心を知らないアルはきょとんと首を傾げた。
「ボク? ボクは普通だよ。まあ鎧とかになってた時もあったけど。概ねそれ以外は」
 エドは図々しい物言いに肩を竦めた。
 妹に比べ随分おっとりとやさしい風情だが、これは確かに妹と同じものだ。『普通』の基準値ときたら並外れて幅広い。
「普通ねえ。普通の妹はいきなり弟になったりしないし、その逆もまた然りだと思うんだが?」
「あっ。それはホラ、兄さんの弟だからしょうがないなーって」

 おや、可愛らしい。
「やっぱりお前、オレの妹だわ」
 エドはにっこりホホエミ拳を握る。
「身内っつーことは、遠慮はいらないってことだよな? …やっぱり一発殴らせろ?」
 妹はやはり愛しているので、振りかざしたのは利き腕ではない左手だ。
「嫌だよ!左手でも兄さんのは痛いし!」
 風音を切る拳に敏捷に身を沈めて避けたアルだったが、ふと胸を押さえてテーブルの下に蹲った。
「どうした?」
 反撃を予想して身構えていたエドは、何かあったかとアルの顔を覗きこんでハッとした。
 妹は顔を歪めている。

「…激しく動くと胸が揺れる」

 ……あ、そう。
 心配の分、エドは迷わずアルの頭に拳を落とした。
「兄さん酷い!」
 本気で痛かったアルは頭を押さえて涙目になる。
「どうせオレには揺れる胸はないさ。喧嘩売っているのかなぁ、ああん?」
 アルはエドの後ろに劫火を纏った仁王の幻覚を見た。
 知らずに地雷を踏んだと気付いたアルは中腰になり、いつでも逃げられる体勢を取って言い訳する。
「いやボクは小さい胸も可愛いと思…ふぎゃ!」
 目の前のエドを警戒していたアルは、自分の背後に近づく影に気が付かなかった。
 いきなり後ろから羽交い絞めされた挙句、胸を揉まれて悲鳴を上げる。

「君が言うのは嫌味だろう。こんなに立派な身体をして」
 これで男だったら振り向きざまに血反吐を吐かせてもいいが、相手は妙齢の女性だった。
 首だけ仰向くと烏の濡れ尾羽のような黒髪の、目元の涼しげな美女だ。青い軍服にダークオレンジの口紅が映える。
「えっ。え?」
 アルは女の人が好きだ。特にキレイなお姉さんには弱い。しかしひとの胸を昼日中から堂々と揉むような破廉恥美人の知り合いなどいない。
「アル。抵抗しないと服、剥かれるぞ」
 混乱しているアルにエドは忠告する。
「いやだな、鋼の。君の妹君にそんなことするわけないだろう?」
 朗らかな笑顔は清々しい印象だが、それにしては耳の上でチッと聞こえた舌打ちはなんなのだろう。
「それにしても素晴らしい朝だね。私の薔薇。朝日を浴びる貴方はいっそうるわしい」
 左手にアルの腰を抱いたまま、その女性はエドの右手を優雅に取って口付ける。
 一見年下の美青年と美女の組み合わせで、知らない人がやっていたら映画のようだと感心して見てられたかも知れないが。アルは嫌な予感に胸がもわもわする。
「……少将さ。毎回思うけど、羞恥心はどこに捨ててきてるわけ?」
(うわあ!やっぱり!)
 エドを『鋼の』と呼ぶ少将などひとりしかいないし、先ほどから似てるなーとは思っていたが信じられない。むしろ信じたくない。
 兄を恥ずかしいセリフで口説く焔の錬金術師など、アルは一生お目にかかりたくなかった。
 同じことを兄(男)と少将(男)がもしコレをやっていたら…見ているほうもやるほうも、そりゃあ地獄の罰ゲームだ。
 しかし少将はけろりと涼しい顔をしている。
「羞恥心? そんな不粋なものは必要ないよ。それにね、私はうつくしいものを見て賛美できないような詰まらない人生は送りたくないな」
「あー。あんたのハーレム作りにかける情熱は分かっているけどオレの妹の胸は揉むな。腰に手を回すな、尻を撫でるな」
 厳しくチェックを入れられて少将はしぶしぶアルの腰から手を離した。
「…注文が多いな。君の身体だったらいいのか?」
「いいぜ? リザさんに怒られても平気なら、その勇気を買ってやる」
 どうぞと許可を与えられ少将は躊躇した。
 目の前にはご馳走があるが、副官の叱責は怖い。しかし餌は上手そうだと如実に語る沈黙だ。
 その隙にエドは少将にしっかり握られていた手を引き抜く。
「ハーレムって?」
 少将の魔手から逃れたアルは座っていた椅子ごとエドの後ろに避難した。
「ヒューズ准将に昔聞いたんだけど、少将の野望は大総統になって好みの美青年と美女を集めて侍らせ、ハーレムを作るとかなんとかかんとか」
 ……大人って不潔だ。
 アルはつい胡乱な目で少将を見てしまう。
「ふふふ、少し違うぞ鋼の。正確には美青年と美壮年と美老人と美少女と美女だ。…だが最近は男遊びは程々にしろと怒られるのでな、美女と美少女のみにターゲットを絞っている」
 訂正。大人が不潔なんじゃなくて少将が不潔だ。
「しかし姿を愛でるのなら兎も角、少女に手を出すのは美意識に反するからな。鋼のやアルフォンス君がうつくしく育ってくれて私は嬉しいよ」
 言葉どおり滅茶苦茶嬉しそうな顔をされてしまいましたが。
 うわあん。美人は美人でもヘンな人だ!なんか本気で怖いんですけど!
「どうした? 今日はいやに大人しいではないか私の女神。ああ、そろそろ私の愛を受け入れてくれる気になったのだろうか?」
 いつの間に回りこんだのか。くいと持ち上げられたアルの顎先と、少将の顔の間が近い。
 アルが近づいてくる口紅の色に目を奪われていると、白い何かが顔の間に割って入った。
 成人男性の大きな手のひらだ。
 すらりとした指には似つかわしくないタコが節々にあり、微かに硝煙の臭いがする。

「未成年への淫行は慎んでください少将」
 良く響く低い声音に視線を上げると、若い将校が立っていた。
 ピンと張られた弓のような。
 静謐を帯びた力強さに、隙のない身のこなし。
(この人、体術も相当できるな)
 同じ男として、将来はかくありたいと思わせる青年だ。初対面の人間に不思議なほど好感を覚えてアルは首を傾げる。
 確かにとてもハンサムだが、男の価値は顔ではない。
「しかも保護者の目の前で。訴えられたいのですか?」
 あ。
 声の性質は違うが、イントネーションに聞き覚えがある。
(この人。ひょっとして)
「鋼のが私にそんなことするわけないだろう?」
「事実と希望的観測は違います。……済まない、エドワード君。信号で止まったとたん車から抜け出されてしまって」
「リザさんは悪くないよ。でも、移動中は縄でぐるぐる巻きにしておくとか駄目?」
(やっぱり)
 アルの知っているリザさんよりも、ずっと背が高いし髪も短い(何せ性別が違う)から誰か分からなかった。
 こうなると知人全員性別逆転の可能性が出てくる。思い当たって、アルはげんなりした。
「ああ、それは」
「ホークアイ大尉が縛ってくれるなら、私はいいよ?」
 焔の少将は、さあカモン!と腕を広げた。青年は苦悩を眉間に刻み溜め息を付く。
「……こういう方なので…」
「ごめん。オレが不適切だった。……リザさん頑張ってね」
 同情を含んだ吐息に、大尉は目の印象を柔らかくした。
「有り難う、エドワード君。少将、ただいま車を回して参りますが、くれぐれも移動する事ないようお願いします」
「うつくしい花を目の前にして、場所を移すほど野暮ではないさ」
 大尉が雑踏に消えると、少将は泰然と細く長い脚を組み、姉妹のいるテーブルに座った。
 アルの世界の少将は無能のふりする能ある鷹で、なかなか喰えない御仁だが、それでも常識人だった。
 アルは男なので同じ能力なら美男子よりは美女のほうがポイント高い……普通なら。しかしこの性格ではお釣りが出そうだ。
 正直こちら側の少将には勝てる気がしない。
(なるべく近寄らないようにしておこう)
「兄さん、ボクちょっとトイレ行ってくる」
「おう」
 アルが席を立った後、背中を見送った少将は色っぽく首を傾げた。
「アルフォンス君はどうかしたのかね? 今日はずいぶんとたおやかじゃないか」
 体調でも悪いのかと、心配げに顔を曇らせる。
 アルフォンス・エルリック嬢は少しおてんばさんで、少将が胸を揉もうものなら、仕返しに腹と顎に一発ずつ肘と拳で仕返ししてくるような快活なレディだ。
 それなのに今日は腰に手を回して、尻を撫でたのに反撃はなく。しかも彼女の大切な姉の手にキスをしても無反応だった(ありえない)。
 いつものパターンならホークアイ大尉の仲裁が入るまで、黄金の足でゲシゲシ踏まれていたはずだ。
「あー…少将を殴っても喜ばせるだけだって、アルもようやく悟ったんじゃねえの?」
 エドはこれ以上ややこしくなってもごめんだと適当に応える。
「ああ…。私の素敵な女王さまが……。引退されてしまうなんて、なんていうこと」
 よろり。少将はテーブルに縋り付いて悶えた。
「無抵抗のアルフォンス嬢のチチとシリとフトモモの感触は……それは素晴らしいが。これから先、あの美脚にきつく折檻される喜びを味わえないかと思うと心が張り裂けそうだっ…!」
 ひとの妹をヘンな対象にしないで欲しい。しかも大声で叫ぶな。
「ハボック中尉とか、部下に頼めば?」
 エドは努めて淡々と受け答えをする。
 アルが鎧姿だった時は頼りになる保護者のスタイルを崩さなかった少将だが、アルが少女の姿を取り戻したとたん、態度を豹変させた。
 薄々悟っていたエドはともかくアルはショックが大きかったらしく、一度露骨にセクハラされて以来、容赦ない態度を崩さない。喜ばせるだけだと分かっていても、咄嗟に手が出てしまうと嘆いていた。
 妹はフェミニストの気があって、女性に暴力を振るうことを罪悪と捉えている節があるのに。
(いったい何をされたんだか)
 エドは少しばかり遠い目になる。
 この激しくインモラルな焔の錬金術師がかつては、誰よりも大人に見えた……ということはきっと墓の下まで持っていく秘密だ。この本性を悟った今では恥ずかしくて言えはしない。つくづく人を見る目、節穴だったと思う。
 殴っても無視しても甘えても、この女性は悦ぶのだ。かなりやりづらい。あんまり敵に(味方にも)回したくないタイプだ。
「中尉は私の子犬ちゃんだよ? 可愛がられるよりは、…むしろ可愛がりたいタイプだ」
 少将はなまめかしく上唇を舐めた。
(…中尉。気の毒に)
 蠱惑的な表情の影で彼女がナニを考えているか、エドは断固として知りたくない。
「少将。軍人で錬金術師じゃなかったら、伝説クラスの性犯罪者だよな…」
 これでいいのか軍部。そう思うのはまだ甘い。
 危険人物を野放しにしておくぐらいだったら、国家が首輪を握っていてくれるほうがナンボか安心だ。
 現に過去に焔の錬金術師を誘拐した馬鹿なテロリストグループがいたが、その組織は一夜にして壊滅した。
 何しろ誘拐した相手が悪い。歩くフェロモン・愛の狩人系天然生物兵器・マスタング中佐(当時)だ。
 少将の魔力に惑わされて忠実な下僕に成り下がった男たちから、今も刑務所内から熱烈なラブレターが送られてくるとは有名な話で。……これで力のある錬金術師なのだから始末に終えない。

「うふ。私に対する理解が深いね、鋼の」
「リザさんも大変だ」
 だが、弱点がないわけでもない。エドはパーソナルキーとなる人物の名を挙げた。
「……鋼の。いくら君でも大尉はあげないよ?」
 急に態度を改めた焔の錬金術師は、ある意味分かりやすい。エドは普段のアルを真似て、ことさら無邪気に小首を傾げてみる。
「憧れるよな、年上のカッコいい異性って。リザさんと結婚する人って幸せだよな。どんな人を選ぶのかな?」
「私の顔で良かったら、存分に見たまえ」
「やっぱりリザさんより2・3歳ぐらい年下でー。料理が上手でー。チェックのエプロンドレスとか似合っちゃう子だと、オレも応援するんだけどなー」
 年上で、家事が出来ず、あまつさえ可愛い服が似合わないマスタング少将は動揺した。強固に自分の美点をアピールする。
「私なんか金と権力を備えた才色兼備だぞ!」
「いや。だって、あんたどう見ても困った上司だし」
 ズバシャ!
 エドは言下に斬って捨てた。
 身体を取り戻して以来、少将を大人しくさせるのはアルの役目だが、いないのだから仕方ない。
「コーヒーのお代わりはいかがなさいましょう?」
 ショックを受けてテーブルに伏せてしまった少将を確認して、店のマネージャーが直々に食器を下げに来た。そのタイミングは完璧だ。
「いや、いいよ。有り難う」
『いつも済まない』と目で謝れば、『これも仕事ですので』と職業的笑顔が返される。そして素早くかつ滑らかに食器を左手に積むと退散する。所要時間およそ5秒。熟練のプロの技だ。素晴らしい。
「…鋼の」
「なに」
「2人っきりになったね」
 エドは激しくむせた。
 いつの間に立ち直ったんだか。台所に出る茶褐色の悪魔よりしぶとい。
「あんたは通行人の皆さまやカフェのお客さんが目に入らないのか」
「大丈夫。私は観客がいても燃える」
「わー。へんたい」
 黙っておこうと思ったのに、つい本音が漏れてしまう。案の定、少将は頬をばら色に染めた。
 宇宙のように深遠な瞳が濡れて光る。
「どうしよう。そんなことを言われるとときめいてしまう」
 そっと手を重ねられた。
「君の言葉の棘は、毒が塗ってあるのだね。…癖になってしかたないよ。お返しになにをしてあげようか…?」
(げ)
 頬が引きつる。
 走って逃げろと本能が囁いた、その時。
「兄さんに触るなっ!」
 パッカーン!
 飛来した銀のトレイが正確に、少将の襟首に突き刺さる。
 ぱったり。
 声もなく少将は昏倒し、音を立ててトレイが転がる。

「…うあー、助かった。サンキュ、アル」
 何度も言うようだが。場所は善良な市民が多く行きかう、大道に面したオープンカフェだ。
 知らない間に上着を一枚剥ぎ取られていたのに気が付いたエドはギョッとする。
 貞操の危機から脱して、改めて背に冷や汗を感じた。
「ねえ。や、やりすぎちゃった…?」
 アルがトイレで手間取り(理由は聞かないで欲しい)席に戻ろうとすると、エドの怯えた顔が目に入った。
 だからといって衝動的にウエイターから空の銀盆を奪い取り投げつけてしまうなんて。
「どうしよう兄さん。なんか…こう、無意識に身体が動いちゃって」
 アルは自分でやったことが信じられずに青ざめる。
「……そう、だな。首の後ろで、ステンレスの角だから。いくら少将でも…っ」
 病院に電話しようといいかけて、姉妹は固まった。
「あああっ。女王さまっもっと…v」
 ぴっとり。
「…っ。ぎゃー!」
 一瞬前まで倒れ伏していた少将に、左足に縋りつかれたアルはぞぞぞと全身に悪寒が走った。
 振り払おうとするが少将は蛇のように絡みついて離れない。さわさわとジーンズ越しに太腿あたりを撫でられる。
「なんて素敵な脚…。いつもみたいにミニスカじゃないのが惜しい」
「兄さん兄さん兄さんっ。…コレ取ってーっ!」
 アルはカエルを服の中に入れられた女の子の気分を初めて味わう。
 男の子は好きな女の子を苛めたがるが、やめといたほうがいい。コレは一生、根に持たれる。
「オレだって触るのヤダ!構わないから踏み潰しちゃえ。後で一緒に怒られてやるから!」
「だって女の人だよー!」

 踏んだら踏んだで、悦ばれそうな気がするし!


『そこまでです!…ロイ・マスタング少将!』
 拡声器からホークアイ大尉の声が響いた。凛として宣言する。
『軍紀第62条補足12号。現行犯により拘束します!』
 同時に消火用のポンプで完全武装した2個小隊が、焔の錬金術師に襲い掛かる。
「大尉!これはなんだね!」
 エルリック姉妹を実の妹のように可愛がっている大尉は冷静に怒っていた。
 上官は敬愛している。一生付いて行こうと思うが、それとこれは別問題だ。全てを許せるわけはない。
『防災訓練の一環です。言葉どおり』
 ずぶ濡れになった少将は慌てたが、大尉は『防災』に力を込めて発言した。
 何時何が起きてもいいように、書類上の手続きも完璧だ。ぬかりはない。
「1対20は卑怯…わぷ!」
 大尉の白手袋が水平に動かされると、人垣が動いた。抵抗する間もなく少将は人肉に押しつぶされる。
 その隙にレスキュー部隊に、エドとアルは毛布に包まれ救出された。
 気が付くと、いつの間にか民間人の避難も済んでいた。なんて素早い。軍の底力を見るようだ。
「よくがんばったな!」
「けだものは取り押さえから、もう大丈夫だ!」
 マスタング少将は軍部の女性に絶大な人気を誇ると聞く。しかし次々と掛けられる兵士達の声は、そう『訓練』にしては実感が篭もって温かかった。
 …少将は人望あるんだが、ないんだが。
 とりあえずこの『マスタング少将捕獲班』は彼女を寝取られた男連中で構成されているに一票。

 アルの視線の先で、びしょ濡れの少将の手が何かに縋るように天に伸ばされ、やがてパタリと力尽きた。





2004,11,10
 ユカイ・痛快・女焔さんはカワイこちゃん(リザさん)には弱いけど、他は最強かなあと。
 セクハラしなきゃエルリック姉妹、女焔さん大好きそうです。年上の頼れるお姉さま(美人)ですし。
 でもこの環境だとハボックさんとかすごい可哀想です。ジャイアニズムの上官に邪魔されて一生結婚できなそう。








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