ベィビ・ベィビ・ベィビイ






 教壇に立った『先生』は、若い女のひとだった。
『はじめまして皆さん。仲良くしてくださいね』

 天然染めのコットンシャツに、足元に刺繍をあしらった細身のジーンズ。飾り気のない姿なのに、その人の周りだけ空気の色さえ違うよう。
 珍しいゴールドアイに合わせたような金髪は、耳の辺りで揃えたマッシュショートで。化粧はしてないが、そんなもの必要ないぐらいに肌は滑らかで白く。舞台女優のようにピンと伸びた姿勢が、只者ではなく洗練されている。
 常に他人の批評をしたがる生意気でお喋りなクラスメイトの女たちさえ、呆気に取られたよう口を開けた。

『新入り』に対する『お約束』。
 先生はドアの間に仕掛けられた黒板消しを、右手に持ち小首を傾げる。
『早速プレゼントありがとう。…コレをくれたのは誰かな?』
 悪戯を仕掛けたヤツが手を挙げた。
 どうして名乗りを上げたのか、同じ男としてその気持ちはよくわかる。もし自分の仕業なら、ふらふらと手を挙げてしまっただろう。
 口喧しい母や姉と同じ女だとは信じられない。先生は守ってあげたくなるような、飛び切りチャーミングなひとだった。嘘をつくなんてとんでもない。
『そう』
 そこで先生は花が零れるよう微笑んだ。その直後。
 スパン!と小気味良い音を立てて、そいつの頭にチョークの粉をたっぷり吸った黒板消しが落とされる。
 上がるのは、もうもうと立つ煙。
『これでおあいこってことで恨みっこなしねv』
 いやそれは違うだろう。
 その場にいた誰もが思った。
 先生は落ちてくる黒板消しを軽く受け取り、指先が少し汚れただけでなんら被害はないのに対し、友人は今日は絶対頭を洗わないと悲惨なことになるという低落振り。
 気の弱い学級担任など、今にも引き付を起こして卒倒しそうだ。
 友よ。若い女だとの前情報に舐めていた痛いしっぺ返しだ、諦めろ。…悪戯して仕返しされたなんて、恥ずかしくて親に言いつけることも出来はしない。
『ボクも君たちの年頃は散々悪さをしたものなので、挑戦は喜んで受けて立ちます。でも基本は倍返しなので、その辺は覚悟するように』
(……うわあ)
 胸をすく爽快感。しっかり釘を刺されたのに、気まずさなんて全くない。
(格好いい!)
 なんて鮮やかなんだろう。その瞬間、クラスのほぼ全員が先生に恋をした。



 バシン!
 投げつけられ、咄嗟に受け取ったのは白手袋。
 思わぬ代物にエドはまじまじと観察した。
 ……まあ。ワークショップで10枚入り1束298センズの園芸用軍手だが、白い手袋には違いない。
「彼女をかけて勝負しろ!」
 決闘の申し込みとはまた古風だ。だがその相手がいただけない。
 口をへの字に曲げた子供は、エドを指差しのたもうた。
 時は昼間、場所は中央司令部前。

(厄日だ)
 エドはポーカーフェイスの下で天を仰いだ。しかしのんびり嘆いている暇はなかった。
「…無礼なっ!」
 非礼を咎めようと動こうとしていた門兵たちを、エドは手の動きで押し止める。
「やめろ。子供だ」
 しかしエドを待ち伏せしていたのが身なりのいい10歳ほどの少年で、投げつけられたものが手袋でなければ、エドが制しても子供は警棒で取り押さえられただろう。その点だけは幸運だった。
 医者や弁護士と同じく、基本的に錬金術師は大抵どこに行っても尊敬を受ける。まして軍属ともなれば、最低でも少佐待遇。憲兵にしては雲上人だ。いくらがんせない子供でも目の前で侮辱されて動かなければ、軍人失格の烙印を押されかねない。よって、憲兵たちの行動には咎はなかった。
 …そりゃあ融通が利かないなあと正直、思うが、仕事を共にするなら真面目すぎるほうが頼りになる。
 嫌な話、子供を使ったテロがないわけではないのだ。

 でもこの場合は関係ないだろう。エドは努めて飄々とした態度を取り繕った。
「穏やかじゃないな、坊主」
 散々やらかした過去のやんちゃのせいで、鋼の錬金術師は悪名高い。
 相手は小さな子供だ。こちらを不安そうに見ていた兵士たちの何人かは、エドが怒っていないのに露骨にほっとした様子を見せる。
「それに彼女って誰だ。心当たりねえぞ?」
 少年はエドひとりに喧嘩売ったつもりが問題が大きくなって、驚いたのだろう。
 背後の軍人たちの反応に引きつっていた顔には、おびえを悟られたと知った羞恥の色が浮かぶ。
(おー。プライド高いなー。初々しいねえ)
 噴き出したくなったが、それは可哀想だと我慢した。
 少年は悔しそうに俯く。
「……だってアルが、『ボクは好きな人がいるからお付き合いできません』ってあんたの名前を出したから」
 こんな時代もあったなあと、微笑ましくなりかけていたエドは顔を引きつらせた。

(アールーフォーンス!)
 エドは心の中で絶叫した。

 こんなガキにナニを吹き込んでいやがる!
 最近の妹の冗談は心臓に悪い。
 アルは基本的に人好きのする穏やかな性質だが、さらりとこなすブラックジョークは時に笑えないほど痛烈だ。
「あのなぁ坊主」
 ふにゃり。顔を歪めた少年は、涙をこらえてエドの言葉を遮った。
「初恋だったのに、…あんなに可愛くて格好いいのに!…間男がいるなんてあんまりだ!」

 しん…とした、一瞬の静寂。
「誰が間男かーっ!」
 今度こそ怒髪天を付く罵声が中央司令部門前に響き渡った。


 最終学歴は村の小学校(しかも中退)のエドとは違い、堅実派のアルは大学に通っている。
『大学を出た後はボクが兄さんを養ってあげるからねーv』
 そう入学式の日に飛ばした冗談が信憑性を帯びるほど、妹は幅広く資格習得及び習い事に意欲を燃やしていた。
 エドがざっと思いつくだけでも芳香療養師・調理栄養士・危険物取り扱い免許・小型船舶操縦士資格・建築士・彫金・行政書士。
 一体何になりたいんだお前と思わなくもないが、その中には教員の免許もあった筈だ。
(そういや、教育実習に行くとか言ってたか)
 少年はその時アルが受け持った生徒だそうだ。
 やさしくて綺麗なアルフォンス先生に一目ぼれした少年は、毎日アタックを繰り返したというから立派なもの。
 妹はそれでなくても生き物には愛想を垂れ流しするタイプだが、犬猫だけじゃなくとうとう人をたらすようになったかと思うと感慨深い。
 彼氏にするにはちと歳が離れているが、女性のほうが平均寿命は長いので、悪いチョイスではないと思う。

 ただしひとを『間男』呼ばわりしなければだが。

 旅をしていたときは兎も角。現在は隠してもいないのに男と間違えられ続けるエドにしても、衝撃的な一言だ。
 後ろを付いてくる少年は、『アルはオレの妹だ!』と怒鳴…いや、説明したのにまだ疑いの眼差しでエドを見ている。
「どう考えても相応しくない…」
 思わず漏れたといったような。意図的ではない呟きが、胸にグサリと突き刺さる。
 アルはエドの妹だ。しかし紆余を経て育まれたその想いは、肉親の情を少しばかり逸脱している自覚がある。自分が『似つかわしくない』と諦め思うならまだしも、他人に相応しくないと断言されれば流石に傷つく。
 半ば無視を決め込んでいたエドは、振り向いて仁王立ちした。
「お前、オレに喧嘩を売りたいのか?」
 弱いもの苛めは好きではないが、この際、ポリシーを曲げてもいい。エドは一瞬不穏なことを考える。
 本来は快活であるだろう少年は、陰鬱にエドを睨み付けた。そして呟く。

「…3日の夕方は赤毛のショートと図書館裏庭でキス」
 ぼそ、ぼそぼそっと吐き出される内容に、エドは心当たりがあった。

 あれは先々週だったか。
『あなたがずっと好きでした。…私、お嫁に行くんです。思い出にキスしてください』
 エドよりずっと年上だけど小柄で可愛らしい女性に、いかにも勇気を振り絞りましたといった態で呼び出され。
 目にいっぱい涙を溜めてお願いされたら、そうするしかないと思う。
 男だったら丁重にお断りしたかもしれないが、エドは男に口説かれたことなどないから想像外だ。(精々がウィンリイの修行先の店長さんに、褒められたことがあったぐらいか)
 少年はメモも見ずにぽつぽつ続ける。
「9日は黒縁眼鏡と昼食。14日は金髪ストレートと犬を連れて公園を散歩。そして16日はセントラルホテルでロングドレス巻き毛と会談」
 良く調べたものだと感心した。
 エドが本当に男なら確かにろくでもない人間に見えるかと気が抜ける。アルを心配したとのこととして、先ほどの暴言も許せた。……しかしそこまで調べたのなら、エドがアルの『姉』だということぐらい知っていて欲しい。エドだって同性の友人がいないわけではない。

 言い募る間に怒りが湧き上がってきたのか少年ぐっと唇を噛んでいる。
「そ、そんな浮気性の男なんかにっ!」
 さあ、困った。エドはどう説明しようか首を捻る。
 こう興奮してはエドが女だと物証なくして信じがたいだろう。まさか見知らぬ少年を捕まえて、胸を触らせるわけにもいくまい。……こんな時、身分証代わりの銀時計に性別の記載がないのが辛い。

 エドが唇に手を当て考えている間に、少年はじっと青年を見た。
 無駄のない身体に長い脚。高い位置でタイを絞めた、上等のスーツが良く似合う。
 女と見紛う細っこい優男だが、それに反するような一種独特の眼差しは猛禽めいて鋭く強く。……男ならかくありたい美丈夫だ。
『先生の彼氏』を調べたきたクラスの女どもが騒ぐことといったらなかった。
 12歳にして国家資格を取った天才錬金術師。自分だって一度ならず彼の冒険譚を聞き胸躍らせたものだ。
 ……こんなのに、勝てっこない。
 先生と並んだらどれほど人目を奪うだろうか。容易にそれが想像できた。
 じわりと眼窩に涙が滲む。

「あのな、坊…」
「畜生っ!…先生を不幸にしたら許さないからな!」
 うわああん!
 ひとりで自己完結して泣きながら遠ざかっていく子供の背中を、エドは呆然と見送った。


 そういうことがあったので。
 まだ陽が高いというのにエドは少し疲れていた。
 茶でも飲みながらアルに愚痴でも零してさっさと忘れてしまおうと思っていたが。
「ただいま」
「…おかえりなさい」
 ソファーに座って妹は、ぐったりと前のテーブルに突っ伏していた。

 居間には来客があったとおぼしき形跡(5脚のカップ)が残されている。こちらは集団で襲撃されたらしい。
「あー…お前のところにもやっぱり来たのか。都会のガキってませてるのな」
 エドはややげんなりした。自分があの頃の年頃は、それこそ色恋なんて意識したことなかった。姉妹は錬金術にのめりこんでいたが、ウィンリイは機械鎧に夢中(今もだ)だったし、村の友達も似たものだ。
「うん、おませさんだよね。興信所顔負けの細密さでここ2・3週間の兄さんの行動を教えてくれたよ? 悪戯の挑戦は受けると宣言したけど、仕返しのしようもない弱点を突いてくるとはやってくれるよね…フフ。ボクもまだ甘いな」
(……こいつ小学校でなにやってきたんだ?)
 そんなに小学生の行動ってデンジャーだったか…ふと自らの記憶を手繰り起こして、やっぱりやめた。人のことを言える立派な過去の持ち合わせはない。……というか、嫌な汗をかいてきた。
 エドは気まずさを誤魔化すために話題を変える。
「そういや虫除けにオレの名前出すのはやめろよ。おかげで小学生に間男呼ばわり……」
「ああ、兄さん」
 ガバッと起き上がったアルはエドに向き直り微笑んだ。目が笑っていないのですごく不穏だ。
「それよりもね? ボク、ちょおっと聞きたいんだけどさぁ? どうして兄さんは『一生の思い出にします』ってお願いされたぐらいで、キスするわけ? その人とお付き合いしていたとかじゃないよねえ?」
「……駄目だったか?」
 別に減るものではなし。精々がホッペにチューどまりだ。それぐらいならいいかと思ったのだが、いけなかったのだろうか。
 問いかけるとアルは暗い顔で長い溜め息を付く。
「兄さんさあ、好意には弱いよね。キスぐらいならまだしも…女の子に付き合ってって言われたらどうするの?」
 詰られて、エドはちょっと考えた。
「…いや、付き合ってもいいけど」
「はあ!?」
「好きな相手が駄目なら、好きだといってくれる人と付き合うのも悪くないかなと」
 エドは好きな人がいるとはアルに告げたことがある。
 ただ、相手が誰とは妹は問い詰めなかったし、エドも教える気もなかった。
「ちょ、ちょっと兄さんじゃあ、誰かと付き合ってるのーっ!」
「まさか!」
 エドは噴き出した。
「もてないし、オレ」
「……」
 疑いの眼差しを受けてエドはひらひら手を振った。
「イヤ、本当。付き合ってとか言われたこと一度もないぜ? そりゃあオレが男だったらワリと高収入でお買い得物件じゃないかと思うけど、実際は女だし。例え好きだといってくれても本当に恋人にするには、やっぱり困るんじゃないか?」
「…へー…」
「それに男は。うん、オレみたいな女はあんまり好ましいタイプじゃないと思うしなあ」
 エドは小さく笑う。
 いい加減、強制的にでも妹離れをしなくてはと思う。早く何とかしないと手遅れになりそうで怖い。
 前向きな対策として、誰かとお付き合いをしてもいいだろう。
 しかし国家錬金術師で、性格に難ありの女となれば、どんな慈善精神の発達した紳士でもまず引くだろうし。まして大きく傷の走ったこの身体では、そういう対象になるのは難しいのではないかと思う。
 アルが彼氏を連れてくる未来のほうが遥かに早くありえそうだ。

 アル面白くなさそうに顔を歪めた。
「じゃあ…兄さんはお付き合いしてくださいって誰かに言われたら、その人のものになっちゃうの?」
 卑下を口にするのはあまり褒められたことではない。聞かされたほうは嫌な気分になるだろうとエドはほんのり後悔する。
 妹に心配をかけるのは不本意だ。
「相手が本気ならな。いくらオレでも不幸になる気はないし」
 言い訳のように早口で告げ、上着を脱いだ。そしてハンガーに掛けに行こうとして、手首を捕まれた。

 ジャケットが床に落ちる。

「好きです。付き合ってください」
 突然のその囁きは耳から入って心臓を射抜いた。
(…冗談)
 ああ、冗談だ。そんなことあるはずない。
(お前その冗談はたちが悪い)
 そう笑っていなさなければいけないのに、言葉が喉の奥で詰まる。アルの顔が見れない。

 冗談だ。それでなければ幸せな夢だ。朝起きたら少し切なくなる類の。

「愛している。……兄さん」
 口付けは右の掌に落とされる。手の中から振動が伝った。電流が走るような刺激に目が合った。
「兄さんが誰でもいいなら、ボクに頂戴。ボクのものになって」
 陽炎に揺らめくような怒りを含んだ瞳がエドを捉える。
 とても綺麗だ。
「…うん」
 つい頷いてしまってエドは口を押さえた。
 今、自分はなんて言った?
 ちょっと待て!
「…いや、違っ!いいいい今の」
「無しとか言わないよね? 言ったら泣くよ?」
「泣くって…お前!」

 エドの顔は火を吹くよう真っ赤だ。
「うっわー。本当に兄さん慣れてないんだ…」
 遠回しな駆け引きなんて、通用しないと思っていたが。思わぬ返事にアルも驚いた。
 なんなんだ、この素直な反応は。
 興味のある分野しか視野が行かない学者馬鹿だとは理解していたけど。兄を好きな人なんて掃いて捨てるほどいるのに、気付かないなんて本当に馬鹿だ。
 鈍いにも程がある。
 そのうちの誰かが、エドに『好き』と告白しようなら、その人のものになっていたかと想像すると眩暈がした。
 この調子では、その予想は確実だ。
(…納得いかない!)
 それなら強引にでもアルが貰う。

 ややあってエドは口元を手で覆った。
「…やめてくれよ。兄ちゃんそんな冗談慣れていない…」
 冗談。
 アルの額に青筋が浮かぶ。
 へえー…。…一世一代の告白を冗談といいましたか、この兄は。

「…兄さん。しばらくお休みに入るって言ってたよねえ?」
「ん、ああ。今日出し行った書類で最後。次の叩き台を提出するのは半月後だから、暇っちゃ暇だな」
「わかった。ちょっと待ってて」
 アルはおもむろに電話に手を伸ばした。番号も見ずにダイヤルを回していく。

「こんにちは、教授。アルフォンスです。今週の講義ですが、出席できなくなりましたので連絡を。……はい。よろしくお願いします」

「やあ、メアリ。ボクだけど。この前の約束キャンセルさせてもらってもいいかな? うん、トーマスやリィにもごめんっていっておいて」

「…おはよう。今起きたの? ……あの論文が。間に合ってよかったね。ところで、例の会合だけどボク欠席するから。……あはは。絶対、嫌。じゃあね」

 ジーコロロ・チンを繰り返し、次々予定をキャンセルしていく妹の姿は鬼気迫るものがある。

「アルフォンスです。先日はお世話になりまして。いいえ、子供、好きですから。ああ、でもあの子たちに最後の最後でやられてしまいまして。うっかり冗談を言ったボクがいけないんですが、今クラスで噂になっているエドワード。……ええ、そうですエドワード・エルリックはボクの実の姉なので。…はい、錬金術師の。ええ女性です。よく驚かれます。お気遣い無く。これ以上騒ぎが大きくなるのでしたらあの子たちにそのことをこっそり教えてやって下さい。それで下火になると思います。…………そうですか、そういって頂けると嬉しいです。ええ、こちらもこれから家族会議なので。それでは」

「お待たせ、兄さん。さあ、行こうか」
 受話器を置くや否や。がっしり腕を捕まれたエドはアルの自室に連れ込まれる。
「おま、いったい…それに家族会議って!」
 強制的にベッドに座らされたかと思うと(そこまではいいが)服を剥ぎ取りかけられて悲鳴を上げた。腕を交差させて、待ったを掛ける。
「いや、言葉で言っても冗談扱いされるなら、わかりやすい方法でコミニュケーションをとろうかなあと」
「え?」
 しばらくその意味を考え込んでいたエドだが、脱ぎかけのシャツで手を縛られるに至って慌てた。
「待て!今、考えてるからもうちょっと待っ……」

 もの凄く大事なことのような気がするので!

「うんうん、ちゃんと考えてねー。でも待たないから、されながら考えてよ。なにしろ時間はたっぷり作ったから、そのうちわかるんじゃないかと思うよ」
 触られた場所にぞわりと鳥肌が立つ。無論それは嫌悪感からではなく。
「うわ!アルフォンス!ロープ!ロープ!」
 降参の合図に床(ベッドの上)を2回叩くが、アルは知らん振りをする。
「その提案は却下。ロープはなしの方向で。んもう、暴れないでよ。なんなら足も縛っちゃうよ?」
「…へんたい?」
 その憎まれ口の代価は大きかった。兄に弱い妹は、それでもしっかり怒っていたので。
「うんわかった。じゃあ縛ろう」

「……ごめんなさい!オレが悪かったです。許してください!」


 賢明なる読み手の皆さまは、この後2人がどうなったかなど火を見るより明らかであらせられるでしょう。
 風変わりのうえ空回りしがちな2人ですが、春は誰にでもやってくるものでして。
 蛇足として付け加えるなら。
 某小学生たちの初恋ははかなく散ったとだけ、お伝えしておきましょう。




2004,11,26
 恋姫の那智さまへ捧ぐ11111打御礼品。
 リクは桃色に置いてある『温泉』その後の姉妹でアル×エド。