夢
(1990・日)
<CAST>
寺尾聡  倍賞美津子  いかりや長介

監督:黒沢明

<STORY>
「こんな夢を見た」という書き出しで始まる、
8つの幻想的な夢のオムニバス。
製作にはスティーブン・スピルバーグとジョージ・ルーカスが協力、
また第5話にはゴッホ役でマーティン・スコセッシも出演している。
<Sue's Eye>
この映画を初めて観たのは確か小学6年生位の時だ。
たまたま家にこのビデオがあって、タイトルが気になったので再生してみたの。

そしてそれから2時間、画面に釘付けだった。

邦画というものをそれまであまり観たことがなかったというのもあるけれど、
それ以上に、今まで味わった事のない感覚に襲われたから。

そもそもこういった風土色の強い、
民俗学的な味付けをされた映画が「映画」として成り立つという事にまず驚いた。
派手なアクションシーンも笑わせるシーンもない。
でも印象的。
まるでモネの絵画の様に。
人物にも必要以上に近づかない。その距離感が時に怖いし、時に美しい。
日本独自の土地感、今は滅びつつある雅さと荘厳さ、
そういったものを肌で直に感じ取れる。

日本が本来持つ存在感というのはこういった感覚なのではないかと思う。
甘口ながらも鋭さと神秘性を秘めた極上の日本酒、
一言で表すならそんなところだろう。

ちなみに上の大きな写真は、
狐の嫁入りを見てしまった男の子(この嫁入り行列のシーンがまた綺麗なくせに怖いんだ)が、
母親に
「お前は見てはならぬものを見た。狐が怒っているよ。
狐の住処へ出向いていって、謝ってきなさい。許してもらえない時は腹を切れ」
と怒られて家を追い出され、その住処へ向かって歩いていく所だ。

この映画は、ある意味とてもファンタスティックなのに、優しさだけじゃ終わらない。
「本当は怖いグリム童話」じゃないけれど、
本来幻想的で夢幻のモノとは、
甘さと恐怖の瀬戸際で紡がれるからこそ美しく魅惑的であり続けられるのだと思う。