Excerpt from : ASAHI WEEKLY , SUNDAY, MARCH 21, 2004

Sound Bites

I WAS BORN TO LOVE YOU ”    ☆Queen         筆者: 高山 宏之

 Queenが日本でたいへんなブームだ。 1月に発売された日本独自のベスト盤 Queen Jewels (東芝EMI2.548円)が2週間でオリコンのアルバム・チャートの1位になり、1ヵ月少々で百万枚を突破した。関連イベントが矢継ぎ早に催され、雑誌が特集号を出し、コピーバンドのQueen がクローズアップされ、果てはFreddie Mercury行き付けの骨董品店やゲイ・バーまでが話題になり・・・。
ことの起こりは、この曲が木村拓哉主演によるフジTVのドラマ『プライド』のテーマに使われたこと。 実は、これにあわせたアルバム発売だったらしいのだが、それは単なるきっかけでしかなく、このブームは once a Queen fan, always a Queen fan (一度なったら、一生というのがクイーン・ファン)といわれる通り、これまで30年間に生まれたファンが、以心伝心、総決起したのだと、わたしは思う。

 Queen は、The Beatles, The Rolling Stones に次ぐ、20世紀イギリスの国民的ロック・バンドだ。 原形は 1968年に結成された、Smile と称する3人組。 70年にボーカル兼ベース奏者の Tim Staffelg が退団し、代わりに入ったのが Freddie Mercury だった。 46年。インド洋上の島ザンジルで生まれ、大学では美術を学び、音楽と文才に恵まれていた彼は、バンド名を Queen と改めるよう進言した。 イギリスで
Queen を名乗るのは、日本で「天皇」を名乗るようなものであり、しかも、この語に「ゲイ」というもうひとつの意味もあるので、反対意見もあったようだが、結局、Freddie のアイデアが通る。 おもえば、Freddie の加入と、このネーミングが、彼らの栄光を予言するものだった。 翌71年、新ベーシストが参加、Freddie Mercury (リード・ボーカル)、Briann May (ギター)、John Deacon (ベース)、Roger Taylor (ドラム)というメンバーが揃い、one for all, all for one (メンバーはバンドのために在り、バンドはメンバーのために在る)をモッーにする彼らは、Freddie が91年11月、エイズによる合併症の肺炎で亡くなるまで、いや、それ以後も、メンバーーの交代を行っていない。

 73年、デビュー・アルバム Queen(戦慄の女王)を出す。 日本では、Freddie が当時人気の宝塚歌劇『ベルサイユのばら』のキャラクターに似ているとかで、若い女性のい間に人気の火がつき、75年春には初来日公演の成功もあってQueen を育てたのは日本のファンだという定説が生まれた。 しかし、彼らを真の意味でグローバルなスターにしたのは、同年後半に出された4枚目のアルバム A Naight atthe Opera (オペラ座の夜)、そこからのシングルでバラード、オペラ、ハード・ロックの三部から成る雄大なスケールの快作 “Bohemian Rhapsody” だった。 高貴で退廃、豪快で妖艶、歌唱力抜群の Freddie のボーカル、分厚いコーラス、華麗なメロディー、ハードでゴージャスでしなやかなサウンド、それらが一体となって、聴くもの、観る者を陶酔させ、精神を高揚させる、そういうクィーンの美学の、これは完成だった。

 近年は、“We Will Rock you” と “We Are the Champions” が、様々なスポーツの応援かとして人気を博し、またいろいろの曲が映画やTV,CMソングに使われ、今世紀に入ってからは、アメリカでロックの殿堂に入り、また Queen の曲を使ったミュージカル『ウィ・ウィル・ロック・ユー』がイギリスで大ヒットするなどなど、Queen は正に here to stay (不滅)だ。

 さて、“I Was Born to Love You” だが、これはもともとはFreddie のソロ・アルバム Mr.Bad Guy (85年)の一曲で、シングルとしてもリリースされたナンバー (英 11位 ; 米 76位)。そのアルバムには、他に “Living on My Own” (一人で生きる)、“My Love Is Dangerous” (わが危険な愛)、“Foolin' Around”(ご乱交)、“There Must Be More to Life than This”(これ以上の人生があるはずだ)、“Man made Paradise” (あの方が楽園を作られた)等、 自分の享楽的な人生と危険な愛を、誇りを持ってふりかえり、天国での再生を願っていることを暗示する内容の歌が収められている。 そのことを合わせ考えると、この歌の “you ” は、ある特定の人であるとともに、Freddie がQueen としてやって来た音楽を指していると解釈できる。とすると、これは覚悟を決めたFreddie の遺言歌だったのではないだろうか。

今回、アルバムの冒頭に収められているのは、Freddie の死後、残された3人が、ボーカルはそのままに、バックのサウンドを入れ替えたクイーン・バージョン。 Freddie は、語りかけるように、言い含めるように、しっとりと歌い出し、次に生と愛をおう歌するように、 激しさ、力強さを増す。 最後の長いフェイドアウトは、この世から去って行く悲しみと名残惜しさなのだろうかと思うと、聴いているわたしの胸も痛む。