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---実施例--- ヒートポンプとその応用

ケアハウス飛鳥苑 全電化システムの採用


■キーワード/福祉施設/熱回収/省エネルギー/氷蓄熱/潜熱蓄熱/ヒートポンプ

1、 はじめに

飛鳥苑
写真-1 建物外観
 飛鳥苑は、入居者のケアに配慮しながら自立した生活ができるように工夫された軽費老人ホームである。
単独設置型のケアハウス(50人定員)に、合築型でディサービスセンター(B・E型)・在宅介護支援センター・ヘルパーステーション・訪問介護ステーション・地域交流スペースの5施設を併設し、周辺地域に対する在宅支援の「中心的施設」として期待されている。
老人向け施設は市街化調整区域などに建設されるケースが多いが、当敷地も調整区域であるが、周辺は古くからの住宅地であり、田園が散在している。しかし福山市勢図から見れば、ほぼ中央に位置し、市街化区域に隣接している。すなわち、日常生活に欠かせない都市性と豊かな自然の融合した恵まれた環境である。
「いつまでもにこやかに暮らしてほしい」をコンセプトに、「あかるいイメージ」「地域の人たちが利用できる施設」を目指して計画した。
設備面では、豊かな自然に配慮し、「全電力システム」(熱源・電化厨房)「屋上緑化」を提案している。またランニングコストを考慮して、冷熱・温熱ともに「蓄熱システム」を採用した。

2、 建物概要

名  称 ケアハウス 飛鳥苑
所 在 地 福山市芦田町大字福田189番地1
敷地面積 5、344.89m2
延床面積 5、205.80m2
構  造 鉄筋コンクリート造/一部鉄骨造
階  数 地上7階
工  期 平成13年11月〜平成14年11月
施  主 社会福祉法人 飛鳥

3、 設備概要

空気熱源ヒートポンプブラインチラーユニット  冷水125kw 温水180kwx2基
氷蓄熱槽   蓄熱容量 1,266MJ (100USRT)x4基
潜熱蓄熱コイル  蓄熱容量 2,720MJ (650Mcal) x1基
空気熱源ヒートポンプ給湯チラーユニット 62kw x1基
貯湯槽              13.6m3x1基

4、 熱回収システム導入の経緯

 設備計画に当たり、施設の特徴と使用状況を推定して以下の3点を重点方策とした。
1)イージーオペレーション(使い勝手のよい施設)
2)ローランニングコスト(安い運転経費)
3)ハイクオリティ(高品質)

4-1 イージーオペレーション
施設運営に人件費は大きな割合を占める。また人件費は、年月を経過するほど高くなってくる傾向にある上、有能な人材を装置のオペレーションだけに当たらせるのは、社会的にも大きな損失と言える。
 特別な知識や専任者がいなくとも、システムの特徴を把握できれば“誰でも使う事ができる” 。そんなオペレーションを実現した。

4-2 ローランニングコスト
福祉施設における給湯設備は、言うまでもなく必須条件である。年間を通じて給湯の要求があり、年間のエネルギー消費量の3分の1(33%程度)は給湯負荷であると試算している。
ヒートポンプでは、冷熱を得ようとすれば温廃熱が発生し、温熱を得ようとすれば逆に廃熱が出ることは周知である。よって給湯を含め、冷熱・温熱のバランスを考慮して同時に冷温熱を取り出すことが出来れば、全体としては非常に効率の良い運転が可能である。
また、春先に突然現れる“夏のような気候”や、初秋でも日差しが直接入る部屋などに対しては冷房措置が必要となる。このような季節外の温冷熱への要求に応えることは、冷暖切り替え方式における困難な課題であった。今回のシステムでは、冷温水同時取り出し方式を採用し、かつ氷蓄熱槽・温熱蓄熱(潜熱)槽の装備によって“給湯廃熱利用の冷水供給”が簡単にできるシステムを実現した。
 すなわち給湯使用に伴う冷廃熱によって、ほぼ無料で冷熱を得ることができ、こまやかな快適空間の維持が可能になるのである。
 空調負荷の傾向は、図−1の冷熱設備負荷率からもわかるように、負荷率30%以下の部分負荷が年間熱需要の大半を占めている。*1
 今回の蓄熱システムの採用によって、熱源機器は最高効率点での運転が可能であり、ローランニングコストに貢献できると期待している。

4-3 ハイクオリティ
 老人施設特有の臭気対策として、24時間換気システムを採用している。また、前出の冷廃熱を南面や西面の日射対策として利用するなど、高度な環境維持が可能なシステムとした。
 ただし、操作性を重視して操作パネルは使い勝手のよいものを設置し、専門家でなくとも管理が可能なシステムとした。
図-1 部分負荷運転時間
図-1 部分負荷運転時間

5、 空調・給湯システム

 今回は冷・温の蓄熱システムを採用することから、その蓄熱容量の選定を以下のように計画した。

5-1 氷蓄熱槽
 夏期の電力ピーク時にピークカットが可能であること。中間期の出現度数がもっとも高い“外気条件”に対し、冷房能力が対応できること。(図−2)
 蓄熱槽は建築構造的な負担を軽減し、保守性の良い1階に設置した。熱源機械室の上部は車寄せとして2階正面入り口に接続され、建物全体と違和感の無いように構成されている。(写真−1)
 氷蓄熱槽は構造上2室に分割されているが、熱源水としては集合されており、負荷の多少によって蓄熱容量の増減が可能なシステムとなっている。
夏期、ピーク負荷での予想負荷パターンと運転パターンは図−4の通りである。
 
5-2 温熱蓄熱槽(潜熱蓄熱材)
 冬期の立ち上がり負荷は、氷蓄熱を採用していることから、計算上熱源電力の最大消費量となり、デマンド契約上、不利な条件となる。(ガラス負荷と外気負荷が大きい。)
 これには、立ち上がり時間の前倒し等の対処法が考えられるが、“夜間電力の割引”を活用した安価な電力の利用と、比較的温暖な22:00頃からの蓄熱運転により、朝のデマンドを押さえ、トータルでランニングコストの削減を図っている。また、幸運にも設置場所が確保できたことも温熱蓄熱の設置に貢献している。
 ヒートポンプによる温熱製造のエネルギーコストと他の加熱源の比較を表-1に示す。外気温度によって性能は左右されるが、深夜電力による加熱はランニングコスト低減に大きく貢献する。温熱槽の設置により暖房ランニングコストの50%以上が削減できると予想している。
図-2 外気出現度数
単位発熱量
機器効率
平均単価
給湯エネルギー
(100MJあたり)
灯油
43.5MJ/kg
0.80
43円/kg
124円
LPGガス
49.1MJ/kg
0.85
105円/kg
252円
業蓄電力
(本システム)
3.6MJ/kWh
2.50
6.07円/kW
67円
図-2 外気出現度数
表-1 エネルギーコスト比較

図-3 熱源フロー図
図-3 熱源フロー図

図-4 蓄熱・放熱予想パターン 図-4 蓄熱・放熱予想パターン
図-4 蓄熱・放熱予想パターン

6,給湯温度

 給湯設備は福祉施設にとって欠かせない設備であり、厨房とともに年間を通じて使用される重要な設備である。
 深夜電力による蓄熱で充分な給湯使用量を確保しているが、昼間の追い炊きも可能なシステムとしている。
欧米各国で省エネのために給湯温度を50℃以下としたことにより、給湯設備に起因すると見られるレジオネラ症が多発したことはよく知られている。レジオネラ属菌は土壌や水分の有るところであればどこにでも住んでおり、機器・配管内面の生物膜・水槽内の藻などに多く生息している。
レジオネラ属菌は体温に近い36℃前後で最もよく繁殖し、20℃以下または45〜50℃以上では繁殖しないか死滅する。塩素には弱いが、残留塩素が消滅する“停滞した水中”で繁殖する菌であるといわれる。レジオネラ症は、レジオネラ属菌を含むエアロゾルを吸い込むことによって発症する。レジオネラ症の発症予防には、給水では水温を20℃以下に保ち、給湯では水栓から常に50℃以上の湯が得られるように維持管理することが必要であるとされる。*2
レジオネラ症対策として、給湯チラーは65℃の加熱を可能とし、貯湯槽は60℃貯湯と、専用の追い炊きヒートポンプチラーを設置している。(図−6参照)*3
浴室循環ろ過系に「電気分解による電解水処理システム」を導入している。電解次亜塩素酸は、従来から使用されている次亜塩素酸ソーダに比べ、1/10以下の有効塩素濃度で幅広い殺菌力を示し、かつ即効性がある。しかも有害物質であるトリハロメタンの生成がはるかに少ないという特徴を持つ。
安全かつ「塩素薬剤による刺激臭」の無い快適な浴室をめざし、お年寄りにお風呂の楽しみを味わっていただけるようにと、屋上庭園を配するなど景観にも考慮した。

図-5 温熱蓄熱システム
図-6 給湯温度によるレジオネラ属菌の検出状況
図-7 氷蓄熱槽防水仕様
図-5 温熱蓄熱システム
図-6 給湯温度によるレジオネラ属菌の検出状況
図-7 氷蓄熱槽防水仕様

写真-2 熱源機械室
写真-3 氷蓄熱コイル
写真-4 屋外ユニット
写真-2 熱源機械室
写真-3 氷蓄熱コイル
写真-4 屋外ユニット

7、24時間換気システム

図-8 24時間換気フロー図
老人施設に特有な“臭い”対策として、24時間換気システムを採用した。(図−8)
居室・便所などの発生源の近くから“常時少量”の排気を取り、共用廊下・共用スペースなどに“空調された”新鮮な外気を積極的に導入し、建物内での気流制御・エアーバランスに注意して、建物全体の換気システムを構成している。
 これは建築内装材・家具等から発生する揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)・ホルムアルデヒド(HCHO)対策としても有効な手段であり、ケアハウスでの“未入居”対策や“長期留守”対策としても期待できる。
 平成14年7月の建築基準法改正でも「居室を有する建築物は、その居室内において化学物質の発散による衛生上の支障がないよう、建築材料及び換気設備について技術上の基準に適合するものとしなければならない」と明言されており、健康な室内空気環境を実現させるためには有効な換気設備が必要であるとされている。

8、 電化厨房

 作業環境の快適さ・保守管理の容易さなどから、電化厨房とした。
100食/日の調理を効率良くこなすために、オールマイティ調理器といわれる10段スチームコンベクションをベースとした、コンパクトな配置とした。
厨房機器並びに床構造を側溝の無いドライキッチンシステムとし、グリストラップを屋外に設置するなど、衛生面に配慮している。加えて、電化厨房システムと空調・換気による快適な作業環境から衛生的で良質な給食が提供されるものと期待している。
厨房従事者にとって、快適な作業環境は必要条件であり、短時間に作業が集中する「激務」に対する当然の要求でもある。高温・高湿度の劣悪な環境を少しでも改善し、調理に専念できる作業環境を整えることは設備技術者の使命でもあると考える。

9、 その他

9-1)屋上緑化
 空調負荷の軽減と景観的な配慮から、2階屋上に95m2の屋上植栽を設置した。種類はほとんど手間の要らない“易保守性”から、ベンケイソウ科セダム属のメキシコマンネン草を選定した。(写真−5)
 メキシコマンネン草のような多肉植物は、雨季には体内に水を蓄えて生育し、乾季は休眠して耐えるという性質を持っている。日本では、主に春から秋に生育し、真夏と冬は休眠する。こうした植物に、一年中十分な水と肥料を与えればどんどん成長するが、人間で言えば糖尿病のような状態となり腐ってしまう。
 多肉植物は、水はけの良い肥料が多すぎない基盤を使用して、農場である程度まで成長させたものを持ち込むことが必要である。また、日本の気候に合った種類を選定し、温室での促成栽培は採用しないのが賢明である。
 断熱効果の試験結果を図−10に示す。乾燥状態でも表面温度差で13〜15℃の断熱効果が観測されている。*4

9-2)LONWORKS機器
 熱源機器・搬送機器・制御機器など環境制御に関する多種メーカー間の通信プロトコルを統一させるため、LONWORKS機器を採用した。LONWORKSネットワークは、柔軟なネットワークを構築できることから、フィールド機器間だけでなく、照明やデータ収集・セキュリティなどをインターネット経由で監視・管理するなど、将来的・発展的な業務にも有効であり、データコミショニング活動への活用を期待している。

9-3)蓄圧式スプリンクラー設備
 消防設備として、スプリンクラー設備を設置しているが加圧送水システムに窒素加圧方式を採用している。(写真−6)
 これに伴って、発電機設備が不要となり、保守を容易なものとしている。
写真-5 屋上緑化
写真-6 蓄圧式スプリンクラーシステム
写真-5 屋上緑化
写真-6 蓄圧式スプリンクラーシステム

10、 おわりに

 外観のデザインは従前の養老院のイメージを払拭することを心掛けた。老人施設として、バリアフリーは当然の条件ではあるが、市内ではじめてのハートビル認定施設と認められた。
“高齢者が「気を若く持つ」ことのできる施設を”という施主の意向を具体化するべく、ハード面に加えてソフト面でも種々の提案をしてきたが、今後とも継続して施設の成長を陰ながら応援していく所存である。
最後に、計画から完成に至るまで多大のご理解とご協力を頂いた社会福祉法人 飛鳥の関係者をはじめ、工事関係各位に、感謝の意を表します。

*1 建築設備士、Vol30、No3、14ページ 
*2 財団法人建築技術普及センター発行、平成14年度建築設備士更新講習テキスト、92ページ
*3 同上 360ページ、図−22
*4 大日化成株式会社技術資料より


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