雑文のお時間/モスと白バイ [index] [どうぶつ部屋] [わたし部屋] [企画モノ部屋] [掲示板(animal)| 掲示板(etc…)] [営業案内] [サイトマップ] [mail to]


モスと白バイ

 大きな交差点を見下ろせるモスバーガーで昼食を食べた。
 モスバーガーはおいしいけれど、待たされる。2階に上がり、ぼうっと下を
見ると、交差点の向こう側には白バイが4台、ワゴンが1台。かわいそうにす
でに1台のバイクがお説教を受けているようだ。

 来た来たモスチーズバーガーとポテトとコーヒー。私はいつも必ずポテトを
一緒に注文する。紙の底に残ったソースを付けて食べるのだ。これがおいしい。
貧乏臭いという説もあるが、おいしければいいのである。

 コーヒーにミルクを入れながら、右折レーンの車の列を見下ろす。ついつい
バイクに目が行ってしまう。あ、スクーターのお兄ちゃん、その道を曲がると
そこには白バイがいるのに。気がつかないのかなあ、ヘルメットを首に掛けて
後ろにやったままだ。右折の信号が青になり、先頭の車が動き出す。あ、やっ
と気がついたお兄ちゃん、ヘルメットをかぶり直す。が、時既に遅し。待ちか
まえていた白バイのオヤジに、オイデオイデをされてしまった。御愁傷様。
 スクーターの後ろにいたオートバイも、餌食になった。でもなんで?普通に
していたように見えたけど。なんでもかんでも捕まえてるんだろうか。きっと
今日はバイク感謝デー(バイクのお陰で検挙率が上がることに感謝する日)な
のだ。ひどい話だ。
 でも口の回りを汚しながらハンバーガーを食べているうちに釈放された。ヘ
ルメットをかぶったままで警官の話を聞いていたし、なにごとか注意を受けた
だけみたい。

 もし私が今、あそこを走っていたらやっぱり止められるのだろうか。

 「はい、左寄って止まって」
 交差点のこちら側で信号待ちをしている時から、向こうにいる白バイと警官
の姿は見えていた。嫌な予感もしていた。
 停車してスタンドを出し、エンジンを切る。
 「免許証」
 シールドを上げて警官を見上げる。人相悪いオヤジだなあ。なんであんた人
と話するのにサングラスしたままなの?警官を見つめたまま、ポケットを探る。
 「私何かしましたか」
 「おっ、女性か」
 だから何だっていうんだ。警官の目がヘルメットから足元に流れた。嫌らし
い。ポケットに入れた手は免許証ケースに触れたが、そのまま。
 「免許証見せて」
 警官は手を出す。見せて下さいって言えないの?オジサン。むかついてきた。
 「どうしてですか」
 「確認だよ確認。見るだけだから早く出して」
 警官のサングラスを睨みつける。彼が何を考えているのかは、サングラスか
らは読み取れない。そこにはヘルメットをかぶった私しか映っていない。ゆっ
くりとポケットから手を出す。ケースから免許証を取り出し、渡す。好きなだ
け確認してよ、ちゃんと中免持ってるんだから。点数だって満点だ。バイクだ
って改造なんかしていない。
 「ふん。この辺に住んでいるんじゃないのか」
 ほっといてよ。住所変えてから書き換えに行ってないだけだよ。
 「で、どこ行くの」
 どこ行こうと勝手でしょ。
 「なんでですか」
 警官の口の端が歪んだ。早く免許証返してよ。
 「どこに行こうが関係ないでしょ」
 警官は私の免許証を振り回しながら言う。
 「素直じゃないねえ、女でしょあんた。嫌われるよ」
 ぶちっ。切れた。ヘルメットを脱ぐ。
 「私がどこに行くかがどういう関係があるのか聞いてるだけでしょ。答えて
よ」
 「何を言ってるんだかわかってるのか」
 警官の頬が少し引き攣った。やばい、と少しだけ心の底で思った、でももう
引けない。私も女だ。バイクを降りる。警官の正面に立つ。警官を見上げる。
大して背の高さは変わらない。オジサンよくこんな大きい白バイに乗れるね。
足付かないでしょ。むかついているのでひどい事を思う。
 「私は質問に答えて欲しいだけなんだけど」
 「答える必要はない」
 「そう、答えられないんでしょ。じゃあこの質問には答えられる?交差」
 痛い!腕を捻じ上げられた。負けるもんか。
 「交差点からこんなすぐの所に駐車なんてしていいと思ってるの?痛い!何
メートル以内に停めちゃいけないのか言ってみなよ」
 気が付くと他の警官たちも回りに立っている。殺気を感じる。
 「うわ、やめてやめてやめろやめろー。警官が暴」
 ぼこん。殴られた。女なのに殴られた。鼻血が出た。なんてことするんだ。
 「ううう訴えてやる訴え」
 どすん。お腹殴られた。ううう、どうしてこんな目にあうんだ。ああ目が霞
んできた。私は只モスバーガーにご飯を食べに行こうと思ってただけなのに。

 なんてことが起こる訳はないのである。
「はい左寄って止まって」
「はーい」
「免許証」
「はーい」
「お、女性か」
「えへへ、そーでえす」
「で、どこ行くの」
「食事でえす」
「はい気をつけてね」
「はーい、ご苦労さまでえす」
と、10行で終わってしまうのである。小心者なのだ。

 空想の世界を離れて現実に目を戻す。あのスクーターまだ捕まってる。こっ
てりみっちり絞られてるなあ。書類を書かされている。運の悪い人だ。
 ポテトの最後の1本を食べた時に、またスクーターが餌食になった。吉野屋
の前をスクーターを押して歩いていただけの高校生くらいの2人組。わざわざ
信号を越えて警官が迎えに行った。警官から見ると、その存在自体で青キップ
ものなんだろうなあ。そんな事で負けるなよ、人生長いんだぞ。

 コーヒーを飲み終わって店を出る。郵便局に行かなくてはいけないのだ。自
転車を押して横断歩道を渡る。ここにも白バイがいる。ちょっとオジサン横断
歩道の上にバイク止めてちゃ邪魔でしょうが。交差点から…

(おしまい)


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