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  りすこが残したこと

 りすこと出会ったのは、1992年の5月。その日から始まった彼女との暮らしは、1998年6月2日に影が差しはじめ、同年9月13日に終焉を迎えました。3ヶ月半。

 6年半というのは飼育下のシマリスとしては短くもないけれど決して長いとはいえない年月です。しかし彼女はなんと大きなものを私の中に残していったのか。
 ここでは、この3ヶ月半のこと、そしてりすこが残してくれたことを書いていきます。

 闘病中の動物とともに戦っている飼い主さん、たくさんいらっしゃいます。これはりすこがとてもがんばった記録です。まったくあなたの参考にはならないかもしれないけど、もしかしたらほんのちょっぴりでも「ふーん」って思ってもらえるかもしれない。なにかしら、参考になることが書いてあるといいのですが。

 りすこが私に遺していった(と私が信じている)ことを、読んでくださると嬉しいです。

 なおこれは、当時の飼育日記をもとにしています。飼育日記はつけようね!
 ちなみにここに書いてるもの以外にもエサはあげてます。念のため。


飼育日記より

6月2日
 体重が108gと減っている。フンはふつうだし食欲あり。なんだか口をもごもごさせているのが関係あるのか…? 旬の味とうもろこしをあげる。

6月4日
 体重119g、戻った(^^) でも、ヒマワリの種をあげてもうまく割れない。最近あげてなかったから割り方忘れた? 永遠の噛みリスが、なんかおとなしくなった。

6月30日
 右の頬が腫れている? 下の歯、伸びすぎかなあ? とにかく、ここ1週間くらい、頬袋を使わない。

7月4日
 病院へ。下顎の切歯をカット。臼歯の部分の歯茎から出血あり。歯茎が炎症を起こして頬の腫れに繋がっているのかその逆か? 体重118g(以下g表示は体重)。

7月5日
 投薬開始。ほっぺは前日より腫れている。115g。

7月6日
 113g。腫れひかず。

7月7日

 113g。腫れひかず。とうもろこし、ナッツ食べる。久々に頬袋を使う、でも左側。口をくちゃくちゃさせている。バナナあげる。

7月8日
 114g。大きな口をあけてあくびをした。久々に見た気がする。パンを食べた。文鳥フードに久々に口をつけた。患部を触ると硬いかんじ。バナナあげる。

7月9日
 118g。食欲が出てきたかんじあり。バナナ、サクランボあげる。切歯の長さが不揃い。上下ともは右が短く左が長い。折れたのか?

7月10日
 117g。殻付きアーモンドかじる。

7月11日
 115g。

7月12日
 118g。

7月13日
 115g。

7月14日
 114g。麻の実を右の頬袋に入れた。でもまた腫れてきたかも。切歯はいびつ。上の右長く左短く、下の右短く左長い。

7月15日
 114g

7月16日
 117g。ナッツ好む。腫れてる。

7月17日
 117g。腫れの状態変わらず。

7月18日
 118g。腫れ少しおさまったかな?

7月19日
 117g。腫れ少しおさまったかな?

7月20日
 117g。

7月21日
 118g。

7月22日
 121g。

7月23日
 121g。

7月24日
 119g。

7月25日
 病院へ。腫瘍の疑いがあるとのこと。

7月26日
 115g。

7月27日
 115g。

7月28日
 114g。

7月29日
 113g。腫れちょっとひどくなっている。食欲なし。ブルーベリーを食べてくれる。

7月30日
 112g。視力が落ちているのか? エサを目の前に差し出しても、まず手を伸ばしてくる。

8月1日
 ナシを食べてくれた。

8月2日
 109g。

8月3日
 111g。

8月4日
 108g。ナシ、ヨーグルトにまんまを混ぜたやつ、ふかしたサツマイモをつぶしてペットミルクを加えてペースト状にしたのをあげる。

8月5日
 108g。ナシをジュースにしてみたけど飲んでくれない。ヨーグルト、さつまいもをつぶしたもの。歯が伸びてきているのでカット。

8月6日
 107g。歯を切ったせいかあまり食べない。上顎と下顎がずれている?

8月7日
 107g。

8月8日
 107g。ますます腫瘍の疑い濃くなる。右下の臼歯が抜けた。

8月9日
 108g。

8月10日
 105g。食欲がない。

8月11日
 103g。

8月12日
 106g。さつまいもふかしてつぶしたの、カッテージチーズ食べる。

8月13日
 105g。バナナつぶしたの、カッテージチーズ食べる。

8月14日
 103g。

8月15日
 102g。豆腐を食べる。目が涙目になっている。下の切歯をカットする。

8月16日
 101g。

8月17日
 102g。すりつぶしたピーナッツと豆腐をまぜたピーナッツ豆腐をあげる。

8月18日
 100g。切歯をカット。ピーナッツを食べた! くるみ豆腐を作ってあげる。

8月19日
 98g。100gを切る。さつまいも豆腐をつくってみるが不評。腫れがひどくなった。

8月20日
 98g。ピーナッツ豆腐、今日は不評。オートミール食べた。

8月21日
 96g。ふかしさつまいも食べた。ピーナッツ豆腐は今日も不評。レーズン、ヒマワリの種食べた。

8月22日
 96g。ナッツを食べている。巣箱にしまってたのを出してきたみたい。

8月23日
 94g。豆腐ちょっと食べる。ペットミルク舐める。ナッツ食べる。ペットミルクにオートミールをまぜたのをあげる。ミルクには、ブドウ糖とエビオスを混ぜる。上の切歯をカット。内側に巻いて伸びてしまうかんじで、舌に歯の跡がつくくらい。

8月24日
 100g! ミルク+オートミールあげる。

8月25日
 98g。

8月26日
 99g。下の歯カット。ちょっと血がでた…

8月27日
 96g。上の歯もう伸びてきた、カット。クリをむいてあげるが生のままだと食べづらそう。

8月28日
 98g。ゆでグリちょっと食べる。飲水量が多い。

8月29日
 98g。右目、目やにが出ている。

8月30日
 95g。また減ってしまった。ふかしたさつまいもはがんばって食べている。

8月31日
 92g。左目の下がいつも濡れている。ここのところよだれが多い。足のももの内側、腕の内側がびがび、気にして舐めすぎ? 上の歯カット。ヨーグルト、カッテージチーズ食べる。

9月1日
 91g。松の実あげたけどあんましお気に召さない。クルミはちまちま食べている。下の歯そろえる。

9月2日
 88g。よだれ多し。飲水量多し。マカデミアナッツ食べる[←マカデミアナッツチョコの外側はわたしが食べて中のナッツだけりすこちゃんに。ちなみにナッツ類は、お菓子用(もちろん味ついてない)も便利だった、アーモンドやクルミ]

9月3日
 89g。腫れひどくなった。マカデミアナッツとクルミはお気に入り、サツマイモも。ミルクは好まない。飲み水にブドウ糖とポポンS添加。

9月4日
 82g…ホントに? ほっぺは目のすぐ下まで腫れている。クルミはよく食べる。右目がよく見えていないのか、スプーンから薬を飲むとき口の回りを汚す(距離感がない?)。下の歯そろえる。

9月5日
 82g。ほとんど右目が開かないくらい腫れているけど、クルミはがんばって食べられる。薬を全部飲みきってくれない。飲み水にはブドウ糖+エビオス+ポポンS。

9月6日
 76g。食べ物のにおいを嗅ぐとき、鼻を押しつける。嗅覚もだめか。右目濁っている。エサ入れから止まり木まで飛び移れない(距離30センチくらい)。ミルク0.3mlくらい飲んだ。

9月7日
 74g。薬とミルクはシリンジで飲ませる。少しづつだがミルク飲む。マカデミアナッツ、桃食べる。水は、がぶがぶ飲んだあとだーだー出る、うまく飲み込めないか。上の歯ちょっと伸びているのが気になるが、口元を少し押さえたら唇からちょっと血が出た。

9月8日
 69g。クルミ、マカデミアナッツがんばって食べる。といってもかじっているのが多くてきちんと飲み込めているのかどうか。薬シリンジで飲まずスタミノンに混ぜてあげる。右目少し開いてきたか。腫れひいてるのか?でも白濁したまま。鼻のあたりがカサブタっぽくかさついている。毛並みぼさぼさだ。薬は、アイス(ちょびっと)に混ぜてあげていたのだが、飲まなかったのは100円アイスだったからか。そのあとハーゲンダッツに戻したら飲んだ。なんてやつ。

9月9日
 66g。薄いペットミルクを給水ボトルに入れて飲ます。昼間外出していて夕方帰ってきたら、サツマイモ、バナナ、ナッツをばくばく食べている! 右目はだいぶ開いてきて光が戻った気がする。でも目の下は濡れていて少し脱毛。夕方には給水ボトルのミルクなくなっていたので水(ポポンS入り)にする。体温低いか?

9月10日
 63g。ボトルにペットミルク入れると、濃度によるのか角度によるのか、だーだーこぼれるので、うまい角度にするのがむずかしい。クルミかじっていた。バナナ、サツマイモ今日は食べてくれないか。エサ入れに登れないことあり(高さ20センチくらいのところ)。

9月11日
 60g。給水ボトルの位置低くする。キウイ食べた。顎の下カサブタみたいになっている。右目やっぱり白濁。

9月12日
 59g。後ろ足を引きずるようになった。ケージの隅で、敷いてある新聞紙めくってなにをしているのかと思えば、エサをかくしていた

9月13日
 55g。お昼くらいに巣箱から出てきても昏睡状態というかんじ。触ると体温が低いようなので、巣箱にペットボトル湯たんぽを入れる。しかしまたそのうち巣箱から出てくる。もうだめかと覚悟。ケージから出し、昼12時過ぎから、膝の上にペットボトル置いてしばらく暖める。手の上に乗せてなで続ける。時々、はっと起きるがまたすぐ昏睡。14:55頃から開口呼吸始める。15:20、大きく息をしたあと、呼吸停止。


さよならのとき

 りすこは私の手の上で息を引き取りました。はあはあと荒い呼吸をするりすこに、もっとがんばって生きて、なんてとうてい言えなかった、もういいんだよ、楽になっていいんだよと、そう声をかけるしかなかった。
 だけど最後まで、生きようとしていたのだと思います。

 だってもう、骨と皮だけで、目はほとんど見えてない、鼻は利かない、まともに歩くこともできなくなっているのに、いつ死んでもおかしくないような状態なのに(実際次の日に死んだのですが)、エサを隠したんだよ。いつ食べるつもりだったっていうんだよ、りすこ。ちなみにこのとき隠したエサ(ベビーフードのボーロだったんだけど)はまだ持ってたりする。

 動物たちは、生きることを途中でやめたりしない、最後の瞬間まで、生きたいと思ってる。これは、りすこが私に残してくれた、最も大きくて重いお土産です。飼い主は、それを邪魔しちゃいけないのだと、そういうことです。

 動物が(人間も含めて)、目の前で死ぬというときに生まれてはじめて遭遇しました。人と動物を比べちゃいけないかもしれないけれど、ずいぶんといろんなことを考えてしまいました。私、幸福にもまだ両親とも健在です。それでもいつか死ぬときが来るということを考えたりもするわけです。そんなとき、「親の死に目になんて絶対に会いたくない」ってずっと思ってたの。でも、そうじゃないんだ、って思った。最後のお別れができるなんて幸せなのだと。りすこを看取れたこと、本当によかったと思います。運がよかった。


病理解剖

 りすこが亡くなったら病理解剖をお願いしよう、とは決めていました。息を引き取ってほんの少しあと、先生に電話をし、解剖のお願いをしました。
 さんざん苦しんで息を引き取った大切な子に対し、これ以上辛い目に遭わせるなんて、とか、解剖をお願いできるなんて残酷、冷たい、とか、ましてや解剖に立ち会うなんて信じられない、そこまでやる必要があるのか、とそんなふうに思う方はきっと多いでしょう。というかほとんどの飼い主さんはそうなのかもしれません。でも私は病理解剖をお願いしました。

 だってくやしいじゃないですか。いったい何が私の大切なりすこの命を奪ったのか。死因を究明することで、私はりすこの仇をうちたい。わからないままでは悔しすぎます。
 ましてや飼い方に原因があって死んだのだとしたら、何が間違っていたのか、どうしたらよかったのか、同じミスを繰り返さないためにはどうしたらいいのか、それに目をつぶっていたら死んだ動物に対して申し訳ない。
 それに、エキゾチックペットといわれる動物たちの医療が向上していくには、亡くなった子たちの病理解剖を積み重ねていくことが必要だと思う。りすこは癌でした。シマリスと腫瘍ってあまり縁がないように思えていたけど、腫瘍の例が多いことがわかれば、ある程度高齢のリスを飼っているときには腫瘍の可能性を頭に置いておけ、部位によっては早期発見で切除し、もっと長生きできるかもしれない。
 監察医を主人公にしたフジテレビのドラマにこんなセリフがありました。正確じゃありませんが…生き返らないからこそ解剖するのだ。言いたかったこと、言い残したことを聞いてあげるために調べるのだ…。
 やる、やらないは押しつけることはできないし押しつける気もないけれど、病理解剖は、かわいそうでも残酷でもないのです。どうかそれは理解してほしい。


ペットロス

 …と、りすこが息を引き取ってあまり時間がたたないうちに先生に連絡をしたというきわめて冷静な判断(とても暑い日だった)をした私もいれば、いまだ(これ書いてるの死後7カ月以上たってます)ずるずる引きずっている私もいます。
 ケージの扉を閉め切ることができません。
 毎日エサをお供えしています。
 花を絶やしたことがありません。
 いくらだって泣けます。涙が出てしまいます。
 かなり長い間、ケージの掃除すらできませんでした。まあこれは、お骨がまだ帰ってきていなかった、ということもあったんだけど、お骨が帰ってきた今でも、ケージの扉を完全に閉めてしまったらりすこがケージに戻れなくなる、と、どうも心のどこかで本気で思っているような。

 後悔はしていないんです。どうにもならない病気であったし、私にできる限りのことはした、看取ることもできた。理想的な別れといってもいいでしょう。だけど、りすこと一緒にいた日々を思えばとめどなく涙が出てきます。どうしていなくなっちゃったんだろう?
 いったいいつまで、毎日ほかの動物たちのエサを用意するのと一緒にりすこにエサを供え、花を供え続けているんだろう。お骨が帰ってきたことが転換期になるかなと思ったんだけど、なにも変わりやしない。

 だけど、無理に忘れようとしたり、無理に習慣をやめたり、そんなことをするつもりはない。そんなことをする必要もないのだと思う。

 心の中には、「現実」っていう場所と「思い出」っていう場所があって、今はまだりすこのことは「現実」という場所にいるのでしょう。きっといつか自然に「思い出」に移っていくんだろうな、と思ってる。りすこを想って涙するのが自然なうちは、いくらだって泣いていよう、と思っています。


特別なりす

 りすこと出会ったのは偶然。私は別にリスにとりたてて興味なかったし(そりゃ見ればかわいいとは思ったけど)、動物は死ぬから(死んだら悲しいから)イヤダと思っていたのですが、当時のダンナがペットショップ(というよりペット屋という雰囲気)で見たシマリスにころりと参ってしまい「飼いたい!」と言い出したのは92年の春でした。
 リスなんてどうやって飼うんだよ〜と、毎日会社の帰りやおつかいの途中、本屋さん(忘れもしない市ヶ谷の山脇ブックガーデン)で「動物飼育の事典」のリスのところを立ち読みし、一応飼い方の勉強をしたものです。

 そして5月24日だったかな、銀座松坂屋屋上のペットショップで、ガラスケースの中(だったと思う)にわらわらといた子リスたちの中から、元ダンナが目があったからコイツ、と決めたリス、それがりすこでした。私にとっては偶然の出会いでしかありません。

 りすこの話がしたくて入ったニフティのペットフォーラムではたくさんのリス友だちができ、日本初の(だろうなあ)オンラインシマリス飼育書「リス研」をみんなで作り、『アニファ』ではリス飼育ページを担当させていただき、そして『リスクラブ』というシマリスの飼育書を書かせてもらうことができた、全部りすこが連れてきてくれたことです。
 この飼育書の話が来たのは、くしくもりすこの具合がおかしくなってきた頃、そして、最後に入稿すべき原稿をまとめていたとき、りすこが旅立ちました。これは単なる偶然のなせるわざでしかありません。でも、ちょっと酔いしれちゃうのを許してもらえれば、こんなふうに思ってしまったりするのです。りすこは、リスのちゃんとした飼い方を広めるために私のところにやってきたんじゃないか。飼育書が出来上がりつつあるのを見届けたから、どこかに帰っていったんじゃないか。…そんなわけないんですけどね。

 りすこの他にも何匹も動物を飼っています。亡くした子たちだっておおぜいいます。彼らの死のほとんどに対して、私は後悔をしています。なんで気が付かなかった、なんであの時点で病院に行かなかった…。痩せてしまって亡くなった子の、まるまるとしていた頃の姿を思い浮かべては、ごめんねと涙が出てきます。
 でもどうしてなんだろう、りすこに対しては後悔の念を持っていないにも関わらず、やっぱりりすこは私にとって特別なりすなのです。こんなにたくさんのことを教えてくれた、こんなに愛情をそそげた、忘れちゃいけない、こんなに噛まれた(^^;) 

 私が動物に関わる仕事をしているうちは、いつもそばにいてくれればいいなあ、そして、何が大切なのかを教えてほしい。
 たかがあんなちっぽけな動物に、こんなに振り回され(りすこ飼ってなきゃ離婚してないかもしれない(^^;)、こんなに泣きこんなに豊かな想いをしているってどういうことなんだろうかとふと思ったりするけれど、会えてよかったと、心から思っています。

 あなたが、あなたの特別なりすと、いい時間を過ごせますように。

background by Mariのいろえんぴつ


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