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木下夕爾
きのしたゆうじ
詩人
広島県深安郡上岩成? 広島県御幸村? 生まれ
1914〜1965
本名 : 優二
■ 発行された書籍 分かる範囲だけリスト (本人及び関連書籍の一部だけ)
『田園の食卓』 詩集 詩文研究会 昭和14年(1939年)
『生まれた家』 詩集 詩文研究会 昭和15年(1940年)
『昔の歌』 詩集 ちまた書房 新選詩人叢書 昭和21年(1946年)
『晩夏』 詩集 浮城書房 昭和24年?(1949年)?
『児童詩集』 詩集 木靴発行所 昭和30年(1955年)
『南風妙』 句集 昭和31年(1956年)
『笛を吹くひと』 詩集 的場書房 昭和33年1月5日発行(1958年) 定価250円
『遠雷』 詩集 春灯叢書7 春灯社 昭和34年 (1959年)
『定本 木下夕爾句集』 牧羊社 昭和41年(1966年)
『定本 木下夕爾詩集』 牧羊社 昭和41年(1966年)
『定本 木下夕爾全集』 牧羊社 昭和47年(1972年)
『小倉朗/歌曲集 声楽ライブラリー』
作詞者/木下夕爾 全音楽譜出版社 1973年4月25日
『含羞の詩人 木下夕爾』 福山文化連盟 1975年
『菜の花いろの風景 木下夕爾の詩と俳句』
朔多恭/著 牧羊社 1981年12月
『Treelike. The Poetry of Kinoshita Yuji 英訳&日本語』
英訳/ロバート・エップ Robert Epp 序文/大岡信 Katydid Books 1982年
『your selection Kinoshita Yuji 』 Twayne's World Authors Series
Twayne Publishers 1982年
『田舎の食卓 木下夕爾詩集』 葦陽文化研究会 1983年2月
『Treelike: The Poetry of Kinoshita Yuji Asian Poetry in Translation. Japan #4』
Katydid Books 1990年2月 英訳ペーパーバッグ版
『木下夕爾の俳句』 朔多恭/著 牧羊社 1991年5月
『木下夕爾』 朔多恭/著 蝸牛社 蝸牛俳句文庫 1993年
『Twisted Memories: Collected Poetry of Kinoshita Yuji 英訳版』
英訳/ロバート・エップ Robert Epp 序文/大岡信 1993年11月 ハードカバー
『菜の花集 木下夕爾句集』 成瀬桜桃子/著 ふらんす堂 ふらんす堂文庫 1994年
『木下夕爾』 花神社 花神コレクション 1995年10月
『ひばりのす 木下夕爾児童詩集』 光書房 1998年6月
『木下夕爾ノ−ト 望都と優情』 市川速男/著 講談社出版サ−ビスセンタ− 1998年10月
『露けき夕顔の花詩と俳句 木下夕爾の生涯』 栗谷川虹/著 みさご発行所 2000年6月
『木下夕爾の俳句』 新版 朔多恭/著 北溟社 2001年
『新版 児童詩集』 福山文学館所蔵シリーズ 2002年発行
『詩集 青くさをしく』 福山文学館所蔵シリーズ 2007年発行
僕は樹木のように
木下夕爾
僕は樹木のように自然で安定した傾斜をもつ
僕は自分を踏みしめそして縛りつけるためのふかい根をもつ
僕は熱くも冷たくもならないためのかたい樹皮をもつ
僕は仲間と触れ合うための枝と
笑い揺らぐためのみどりの葉をもつ
僕は午後の恋人たちにやわらかな影のマットをつくり
夕方それをしまいこむための太い幹と
彼らが僕から遠のいていくのを見送るための不変の高さをもつ
朝方駆け込んでくる若い駿馬のような風を馴らすための
かぐわしい空気と草花と光る湖水とをもつ
僕は夢見るための青空と
考えるための夜の星と
内部だけで抱くための年輪をもつ
僕は何ものももたないためにすべてをもつ
僕は孤りであるために全体をもつ
内部
木下夕爾
その窓は閉ざされたままだった
中には誰もいなかった
机の上はきちんと片付いていた
読みさしの本が置いてあり
インクの壺はからからに乾いていた
これから何かがはじまるようにみえた
もう終わったあとかもしれなかった
とにかくひっそりかんとしていた
壁には古びた人物像の
眼だけが大きくかがやいていた
それに追い立てられるように
窓枠のすきまから覗いていたてんとう虫は
向きをかえ背中を二つに割って
燃える光の中へ飛び去った
帰来
木下夕爾
僕はいる さまざまの場所に
昔のままのやさしい手に
責められたり 抱かれたりしながら
僕はそこにもいる
酸っぱいスカンポの茎のなかに
それを折るときのうつろな音のなかに
僕はそこにもいる
柿若葉の下かげに
陽のあたる石の上に
トカゲみたいに臆病そうに
僕はそこにもいる
ながれのほとりの草の上に
とらえそこねた幸福のように
魚の光る水の中に
僕はそこにもいる
土蔵のかげ 桑の葉かげに
アイヌ人みたいに
口のほとりに桑の実の汁の刺青をして
僕はそこにもいる
小鳥が巣を編む樹の梢に
屋根の上に
謀略の眼を光らせて
僕はそこにもいる
しその葉のいろのたそがれのなかに
遠くから草笛の聞こえる道ばたに
人なつかしくネルの着物きて
ああ僕はそこにもいる
井戸ばたのほのぐらいユスラウメの木の下に
人を憎んで
ナイフなんかを研ぎながら
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2000年8月20日ページ作成