index     2017年9月30日更新 

木下夕爾

きのしたゆうじ

詩人

広島県深安郡上岩成? 広島県御幸村? 生まれ

1914〜1965

本名 : 優二

■ 発行された書籍 分かる範囲だけリスト (本人及び関連書籍の一部だけ)


『田園の食卓』 詩集   詩文研究会  昭和14年(1939年)

『生まれた家』 詩集   詩文研究会  昭和15年(1940年)

『昔の歌』 詩集  ちまた書房  新選詩人叢書  昭和21年(1946年)

『晩夏』 詩集   浮城書房  昭和24年?(1949年)?

『児童詩集』 詩集   木靴発行所  昭和30年(1955年)

『南風妙』 句集   昭和31年(1956年)

『笛を吹くひと』 詩集   的場書房  昭和33年1月5日発行(1958年) 定価250円

『遠雷』 詩集  春灯叢書7  春灯社  昭和34年 (1959年)

『定本 木下夕爾句集』   牧羊社  昭和41年(1966年)

『定本 木下夕爾詩集』   牧羊社  昭和41年(1966年)

『定本 木下夕爾全集』   牧羊社  昭和47年(1972年)

『小倉朗/歌曲集 声楽ライブラリー』
   作詞者/木下夕爾  全音楽譜出版社  1973年4月25日

『含羞の詩人 木下夕爾』  福山文化連盟  1975年

『菜の花いろの風景 木下夕爾の詩と俳句』
   朔多恭/著 牧羊社 1981年12月

『Treelike. The Poetry of Kinoshita Yuji 英訳&日本語』
   英訳/ロバート・エップ Robert Epp 序文/大岡信 Katydid Books  1982年

『your selection Kinoshita Yuji 』 Twayne's World Authors Series
   Twayne Publishers  1982年

『田舎の食卓 木下夕爾詩集』  葦陽文化研究会 1983年2月

『Treelike: The Poetry of Kinoshita Yuji Asian Poetry in Translation. Japan #4』
   Katydid Books  1990年2月 英訳ペーパーバッグ版

『木下夕爾の俳句』   朔多恭/著  牧羊社   1991年5月

『木下夕爾』   朔多恭/著  蝸牛社 蝸牛俳句文庫 1993年 

『Twisted Memories: Collected Poetry of Kinoshita Yuji 英訳版』
   英訳/ロバート・エップ Robert Epp 序文/大岡信 1993年11月 ハードカバー

『菜の花集 木下夕爾句集』 成瀬桜桃子/著 ふらんす堂 ふらんす堂文庫 1994年

『木下夕爾』   花神社 花神コレクション  1995年10月 

『ひばりのす 木下夕爾児童詩集』   光書房  1998年6月

『木下夕爾ノ−ト 望都と優情』 市川速男/著 講談社出版サ−ビスセンタ− 1998年10月

『露けき夕顔の花詩と俳句 木下夕爾の生涯』 栗谷川虹/著 みさご発行所 2000年6月

『木下夕爾の俳句』 新版   朔多恭/著 北溟社   2001年

『新版 児童詩集』 福山文学館所蔵シリーズ 2002年発行

『詩集 青くさをしく』 福山文学館所蔵シリーズ 2007年発行


僕は樹木のように

木下夕爾


僕は樹木のように自然で安定した傾斜をもつ

僕は自分を踏みしめそして縛りつけるためのふかい根をもつ

僕は熱くも冷たくもならないためのかたい樹皮をもつ


僕は仲間と触れ合うための枝と

笑い揺らぐためのみどりの葉をもつ


僕は午後の恋人たちにやわらかな影のマットをつくり

夕方それをしまいこむための太い幹と

彼らが僕から遠のいていくのを見送るための不変の高さをもつ


朝方駆け込んでくる若い駿馬のような風を馴らすための

かぐわしい空気と草花と光る湖水とをもつ


僕は夢見るための青空と

考えるための夜の星と

内部だけで抱くための年輪をもつ


僕は何ものももたないためにすべてをもつ


僕は孤りであるために全体をもつ




内部

木下夕爾


その窓は閉ざされたままだった

中には誰もいなかった


机の上はきちんと片付いていた


読みさしの本が置いてあり

インクの壺はからからに乾いていた


これから何かがはじまるようにみえた

もう終わったあとかもしれなかった


とにかくひっそりかんとしていた


壁には古びた人物像の

眼だけが大きくかがやいていた


それに追い立てられるように

窓枠のすきまから覗いていたてんとう虫は

向きをかえ背中を二つに割って

燃える光の中へ飛び去った




帰来

木下夕爾


僕はいる さまざまの場所に

昔のままのやさしい手に

責められたり 抱かれたりしながら


僕はそこにもいる

酸っぱいスカンポの茎のなかに

それを折るときのうつろな音のなかに


僕はそこにもいる

柿若葉の下かげに

陽のあたる石の上に

トカゲみたいに臆病そうに


僕はそこにもいる

ながれのほとりの草の上に

とらえそこねた幸福のように

魚の光る水の中に


僕はそこにもいる  

土蔵のかげ 桑の葉かげに

アイヌ人みたいに

口のほとりに桑の実の汁の刺青をして


僕はそこにもいる

小鳥が巣を編む樹の梢に

屋根の上に

謀略の眼を光らせて


僕はそこにもいる

しその葉のいろのたそがれのなかに

遠くから草笛の聞こえる道ばたに

人なつかしくネルの着物きて


ああ僕はそこにもいる

井戸ばたのほのぐらいユスラウメの木の下に

人を憎んで

ナイフなんかを研ぎながら


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2000年8月20日ページ作成