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『魔女達ノ狂宴』見本「魔女達の会話」
 ぺらり…ぺらり…
 静謐な空間に紙を捲る乾いた音が微かに響く。
 そこにある大きな机には所狭しと何冊もの本が積まれ、その前に座った者達が思い思いに読書に耽っていた。皆読書に集中しているのか、頁を捲る以外の物音は一切響かない。本は各々の左右に高く積まれ、片側が読み終えた本だとすれば結構な時間が経過していようか。
 その時、一人がふと顔を上げると合い向かいに話しかけた。
「ねえ、パチュリー。自立型人形の人格形成に参考となる本が読みたいのだけど、どんな本があるかしら。自分で幾つか見繕ってみたけど、思う様な本が見つからなくて」
 そこには他より一際高く積み上げられた本の山があったが、声が掛けられた次の瞬間その山が動いたように見えた。実際には本に埋まる様に座っていたパチュリー・ノーレッジが顔を上げただけなのだが、それはまるで本と同化しているかの様であり、それがあまりに自然であった為の錯覚であった。
 そして、本の山から眠たげな半開きの眼が覗かれ問い返してきた。
「人形の人格ね…それは一から作り上げるの? それとも何かしらの精神体を寄生させるの?」
「視野を広げるのが目的だから、手法に拘りは無いわね」
 それを聞くと目を伏せて暫し思案した後、再び視線を向けて話し始めた。その瞳は先程に比べて心なしか輝きが増している。
「ならそうね、アストラル体に関する記述のある『魂の射出』や、死者の霊魂について書かれた古代エジプトの『死者の書』、これは幾つかある中から私が編纂した物になるわ。この辺りのはどうかしら。ああ、でも貴女の位階なら今更な内容ね」
 質問してきたのは人形遣いとして幻想郷に並ぶ者は居ないアリス・マーガトロイドであった。魔法使いとしての実力もパチュリーに引けを取らない彼女の眼鏡に適う本となると、そうざらにはないだろう。
「貴女が編纂したというのには興味があるけど『死者の書』は既読ね。それはともかく『魂の射出』って確かトラップ魔道書じゃない」
 苦笑混じりの返事。しかし、パチュリーに悪びれた風は無い。
「魔道書の解読には大なり小なり危険が伴うわ。解っているならむしろ他より安全よ。それに『魂の射出』は中に書かれている儀式を行わなければ害はないわ」
「それはそうだけど、あまり参考になるとも思えないわね。他にはないの?」
「人形作成の範疇を超えてしまうかもしれないけど、「探求者」と呼ばれる自立型人形の様なものを使役する「アドゥムブラリ」についての記述がある『イステの歌』、解読にやや難があるけど興味深い記述のある『精神寄生体』、写本になるけど黄金の蜂蜜酒の製法等が記された『セラエノ断章』、精神生命体「イスの偉大なる種族」に関する記述のある『ナコト写本』あたりが有用かしら。あとは視点を変えて、八雲紫みたいに式を使ってみるのはどうかしら。陰陽道に関する本となると…あ、それなら『数秘術』を併読してみるのも面白いかもしれないわね。洋の東西を問わなければ他には…」
「ストップ、ストップ! そう矢継ぎ早に言われたらついていけないわよ」
 パチュリーの口から延々とリストアップされていく書籍の数々。そのあまりの勢いに面食らったアリスが慌てて話を手で遮り押し止めた。
 パチュリーがそれを見てはっとしたかの様な表情を浮かべる。
「あら、ごめんなさい。ついいつもの癖が出て。よくそれでレミィに怒られるから気をつけてはいるのだけど」
 そんなパチュリーの反応に、誤解させてしまったと気付いたアリスが訂正を入れる。
「あ、違うの、別に怒ってはいないわ。今まで口数が少なかったのが、本のことになったら急に多弁になったからびっくりしただけよ。それにしても噂に違わぬ博識ぶりね。さすがはこれだけの図書館の館長を務めるだけのことはあるわ」
 アリスの賞賛にそれはそれで気恥ずかしいのか、ほのかに頬を赤く染めるパチュリー。しかし、その表情は心なしか先より柔らかさを感じさせていた。
「でも、さっきの話には随分と稀覯書が含まれていたけど、読ませてもらえるの?」
「ここは然るべき者が然るべき本を読む場所よ。稀覯書は貸し出し禁止なのは勿論のこと、内容が内容だけに閲覧も制限しているけど、貴女なら心配は無用でしょうから。小悪魔?」
 パチュリーの呼びかけに応じて、これまで一切の気配を感じさせずに背後に控えていた彼女の遣い魔が闇から滲み出るかの様に現れた。
「はい、パチュリー様」
 パチュリーは手元にあった適当な紙にペンで走り書きをすると、それを小悪魔に差し出して言い付けた。
「書架と稀覯書書庫からこのメモの本を持ってきて頂戴。はいこれ、稀覯書書庫の鍵。書庫では本の扱いに気をつけなさい。取り込まれでもしたら厄介だから」
「かしこまりました」
 そうして小悪魔は再び気配諸共その姿を消した。