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絵物語を求めて6 タンタンシリーズ2

「タンタンの冒険 その夢と現実」マイケル・ファー著 小野耕世訳(サンライズ ライセンシング  カンパニー)は一種のマンガ評論です。

「タンタンの冒険シリーズ」の魅力的なクルマや船や飛行機や異国の風景は作者のエルジェが綿密な資料に基づいて 描いたものであることが、ここに紹介されています。道理でそれらは魅力的なはずです。タンタンシリーズのファン でもあるマイケル・ファーは、エルジェの資料の閲覧をゆるされ、マンガのコマとそのもとになった写真とを対比させ ながら創作の秘密をさぐっていきます。

この本の中で3つのことが、私の注意を引きました。ひとつはマンガの助手のことで、ひとつは資料としてのナショナル ・ジオグラフィック・マガジンのこと、あとひとつは鉛筆による下書きのことです。

マイケル・ファーはエルジェの最初のアシスタントがマンガの人物のモデルとして作品の中に書かれていることを紹介 しています。かれは自分もマンガの連載を書きはじめ、「タンタン」を共同作品にしょうと申し出て、エルジェにこと わられます。エルジェはそのような野心をもたない2番目のアシスタントを得て、その後の作品を発表してゆくのです。 タンタンシリーズは別にアシスタントなしでもかけそうに思いますが、実際はものすごい精力を消耗する仕事で、助手 なしでは書けなかったのでしょう。

阿部和助が独立したのち、山川惣治の絵には書き込みが足りなくなったような気がします。作品の十分の一でも手伝っ てくれるアシスタントがいれば、作者は随分らくでしょう。(手塚治虫には、福本一義というアシスタントがついて、 最後まで作品製作を補佐しました。)

エルジェはナショナル・ジオグラフィック・マガジンを資料にしたコマを沢山かいています。奥本大三郎氏は、ナシ ョナル・ジオグラフィック・マガジンの中に山川惣治が資料にした写真を随分見つけたとかいています。小松崎茂も 同誌を資料にしていたと自ら述べています。日本でもフランスでも、挿し絵画家が参考にする資料として、ポピュラ ーな雑誌だったのでしょう。

エルジェの鉛筆の下書きがのっています。随分推敲を重ねた線のあとが見えます。手塚治虫の原稿に似ています。 私は山川惣治の鉛筆による下書きはみましたが、小松崎茂のものは見ていません。小松崎茂もきっと鉛筆の下書き をしたと思います。が、ダンディーなかれは、下書きを残すようなことはしていないかもしれません。

この本からはエルジェのひととなりはあまり伝わってきません。もっと彼の言動がかかれていると、面白いのですが。 「小松崎茂絵物語グラフィフィ」には一緒に空飛ぶ円盤をみることを雑誌編集者に強要し、見えたと言わないと叱責 する、絵物語時代末期の山川惣治の怪言動が記録されており、雑誌記者たちから見た真実がかいま見えて面白いので す。

また、エルジェのマンガの下絵となった写真が多数披露されていますが、下絵の発見の喜びはあまり伝わってこない ように思います。遺族の承諾のもとに、資料を閲覧することができた著者の喜びをストレートに書けば、もっと 親しみやすい本になったのではと思います。


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