ある雨の日の放課後
あたしは下駄箱の影からこっそり正面玄関を覗き見て、最高に迷っていた。
昨日は常識を疑いたくなる晴天だったというのに、今日はどしゃ降りの雨。見るも無残な泥沼と成り果てた校庭が下校する生徒達の行く手を阻む。こんなときだけ天気予報は大当たりだ。
玄関などで足止めをくらってるのはほんの数人。それに、もし自分が傘を持ってなくても友達の誰か一人くらい絶対持ってるはずだ。相合傘をさせて貰えば良いだろう。現に、立ち止まってた数人は友達を捕まえて一緒に帰っていった。
私の視線の先。そこにはそれすらも出来ない憐れな男が呆然と佇んでいた。
「うむむ、雨が降るなんて聞いてないぞ……」
どこの天気予報でも言ってたよ。あたしはズーミンとめざましくんで確認したよ。
こっそり無知をさらす彼は、私も所属する生徒会の会長さま。学年は二つ上の三年生。奇人変人で有名な会長さまは天気予報すら見ないらしい。
あたしはそんな背中を見て、自問自答する。
会長に相合傘を申し出てあげるか、否か。正直あたしまで会長の同類と思われたくはない。あたしは寂しい背中を見つめてひたすら悶々とする。
あたしが持ってるのは、適当にカバンに放り込んである折り畳み傘だ。二人で入ろうものなら、ぎゅうぎゅうになるのは必至。
あたしの迷いを知ってか知らずか、会長はじっと灰色の空を見つめている。しかしやがて意を決したかのようにカバンで頭をガードしたので、あたしは思わず呼び止めた。
「会長、待ってください!」
いくらお馬鹿な会長でもこんな雨に打たれたんじゃ風邪引いちゃうって!
「ん? おお、梨乃くんじゃないか! 丁度良いところに来てくれた」
会長は嬉しそうに目を細め、笑った。
この妙に芝居がかった口調さえ止めてくれれば、かっこいい先輩と知り合いだって自慢できるのに。ばれないように溜息をついて、会長の隣まで歩み寄る。
「傘持ってますよ。……入れてあげても良いですけど?」
「本当か!」
「タダじゃダメですよ。今度、駅前のケーキ屋さんのシュークリーム奢って下さいね」
あたしは大名も裸足で逃げ出す高圧っぷりを発揮して、人差し指を先輩の鼻面に突きつけた。
「うむ、その条件で手を打とう。何分わたしは友人が少なくてね、全員帰ってしまった後だったんでどうしようかと思っていたんだよ」
うわ、切ない……。まあ、あたしも残って生徒会の仕事やってたから友達は全員先に帰っちゃったけどさ。多分会長の少ないは私の比じゃないんだろうな。
「そこまで言うんじゃ、仕方ないですね――あれ?」
あたしはカバンを探って沈黙する。……ああ、昨日は荷物が多かったんだ。
カバン、パンクしそうだったのよね。傘、邪魔だったのよね。
「カバンに入れ忘れちゃった……」
雨は非情にも、降り続ける。
当分、止む気配はなかった……。