第四十九話
少年はまぶしそうにセイラを見上げて、極上(ごくじょう)の返事をした。
「はい!」
防護膜(ぼうごまく)に乗りこんだ四人は、川の流れに沿(そ)って堰堤(えんてい)の跡地(あとち)を目指(めざ)した。
セイラは防護膜を抜け出て、氷の壁(かべ)で仕切(しき)られた川に満々と湛(たた)えられている水を上空に巻き上げた。
巻き上げられた水は、まるで意思(いし)を持っているかのように放物線を描(えが)いて川上へ還(かえ)っていった。
「すっ、すごい!」
「でもきれい……虹がかかってるわ!」
眼下(がんか)の光景に目を奪(うば)われている篁(たかむら)と綺羅(きら)姫の横で、ナギの表情は硬(かた)かった。
「この大水が邑(むら)を襲(おそ)っていたら、じいさまたちは今ごろ……セイラさまが救ってくれたのか……」
「どうしたナギ、暗い顔して……空を飛ぶのははじめてだろう。怖かったら、ぼくにしがみついててもいいんだぞ」
「子ども扱(あつか)いするな!あっ、セイラさまが先に行ってしまう。これ、もっと早く飛べないのか!」
「そんなの、あたしたちには無理よ。それよりも、このあたりに黒角(くろつの)がいるはずなんだけど……」
すべての水を貯水池(ちょすいち)に戻したセイラは、先行(せんこう)して、これ以上堤防(ていぼう)が崩(くず)れないよう修復(しゅうふく)を施(ほどこ)していた。
そこへ、三人を乗せた球形の防護膜が降りてくる。
中でなにかを叫んでいるようすに、セイラの表情が翳(かげ)った。
「黒角が、いない……?」
「そうなの!黒角が乗っている防護膜が、どこを捜(さが)しても見当たらないのよ!」
真っ先に駆(か)け寄ってきた綺羅姫の不安を、セイラは笑い飛ばした。
「はっ!まさか……」
だが人為(じんい)的な仕業(しわざ)ではなくとも、風で遠くへ運ばれた可能性はある――
そう思ったセイラは、その場から一瞬にして上空へ翔(か)け上(のぼ)った。
「すごいな、セイラは……」
後からきた篁の声に、綺羅姫が振り返った。
「ええ。そうね……でもあたし、なんだか怖いの」
「怖い?セイラが……?綺羅さんがそんなこと言うなんて――」
「違う、そうじゃないの!ただ……セイラが、どんどんあたしたちの手の届(とど)かないところへ行ってしまいそうで……」
「綺羅さん――」
「やだ!あたしったら、なに言ってるのかしら。セイラは黒角を捜(さが)しに行っただけなのに……」
綺羅姫は両手を振って、慌(あわ)てて打ち消そうとした。
篁は吐息(といき)をついて、
「セイラが神さまの生まれ変わりだってこと、気にしてるの?」
うつむいて黙(だま)りこむ綺羅姫に、篁はあたたかい眼差(まなざ)しを注(そそ)いだ。
「……でも、好きなんだろ?」
「篁、あたしバカだよね……」
顔を上げた綺羅姫は、笑っていた。
その笑顔が壊(こわ)れそうになると、両手でパッと顔をおおった。
「ほんと、バカ……好きになったって、どうしようもないって、わかってるのに……」
震(ふる)える肩を抱きしめたくなる衝動(しょうどう)をおさえて、篁は無理やり笑みを浮かべた。
「そんなことないよ。セイラは、誰よりも綺羅さんを想(おも)ってる」
「えっ……」
「ほんとだよ、ぼくにはわかるんだ」
――三人で、一緒に旅をしてきてたから……。
そう言おうとした時、シューッと空気を切り裂(さ)く音がして、セイラが地上に戻ってきた。
「綺羅姫の言うとおりだった。黒角がどこにもいない!」
一瞬にして青ざめる二人に、セイラがなにかを言う間もなく、森の方で声がした。
「セイラさま――!こっちへ来てください、早く――!」
呼ばれて三人が駆(か)けつけた森の中で、ナギは両手のひらの上になにかをのせていた。
一見なにもないように見えるが、見る角度によっては淡く光って見えたりもする。
「ナギ、その手のひらの上になにかあるの?」
「セイラさまなら、わかりますよね」
ナギは綺羅姫には目もくれず、セイラに両手を差し出した。
「これは……黒角の、霊気(れいき)のかけら……」
「はい。夕べセイラさまたちと一緒だった精霊のことは、オレも覚(おぼ)えています。間違いありません。これはあの精霊のものです」
黒角になにがあったかは、そのかけらを見れば明らかだった。
防護膜の中で回復を待っていた黒角は、なに者かに殺されたのだ――!
「くっ……!」
セイラは唇(くちびる)をかみしめ、わきあがってくる怒りを懸命(けんめい)にこらえた。
まだ、生き返らせる手はある――!
もし、十分なかけらを集められたら……。
「他には……?かけらはもっとないのか、ナギ?」
「オレが探し出せたのは、これで全部です」
「これだけ……」
あらがいようのない絶望感が押し寄せてきて、セイラはぎゅっと目をつぶった。
「そこにあるだけじゃ、黒角を元に戻すことはできないの?」
セイラは首を振って、暗澹(あんたん)とした目を綺羅姫に向けた。
「精霊の核(かく)をつくるには、大量の霊気が必要だ。これだけでは、どうにもならない……」
「一体、どこの誰がこんなことを――!」
握(にぎ)りしめたこぶしで、篁は木の幹(みき)に怒りをぶつけた。
驚いた小鳥が、あわただしい羽音を立てて空へ舞い上がる。
「防護膜を破って精霊を殺すなんて、並の人間にできることじゃない」
「まさか、あの男が――!?」
篁の疑いは当然のように嵯峨宮(さがのみや)に向けられたが、セイラはそれを否定した。
「嵯峨宮は負傷(ふしょう)していたし……なにより、黒角を殺す理由がない」
「だったら誰がっ……!」
「……いずれわかるさ」
緋色(ひいろ)に染(そ)まっていくセイラの目を見て、篁は慄然(りつぜん)とした。
そこに不動明王が現出(げんしゅつ)したような、圧倒的な怒りの波動(はどう)がセイラを取り巻いていた。
「誰であろうと、私が必ずつきとめてみせる!」
「あっ、かけらが――!」
ナギの手の上で、かけらが徐々に細かく砕(くだ)けていった。
それはやがて砂粒(すなつぶ)よりも細かい粒子となって、吸い込まれるように蒼天(そうてん)に昇(のぼ)っていった。
11.海賊討伐っ!?
都に戻ったセイラは数日後、陰陽寮(おんみょうりょう=陰陽道をつかさどる役所)に足を運んだ。
安倍晴明(あべのせいめい)に会うためだった。
「セイラさまを見た時の、保憲(やすのり=賀茂保憲 晴明の師 陰陽寮長官)殿の顔をご覧になりましたか?心なしか頬(ほほ)を赤らめていたような……クックック。わざわざお越(こ)しいただかなくても、ご用があれば私の方からまいりましたのに……」
近くの竹林をそぞろ歩きながら、安倍晴明は楽しそうな笑い声を立てた。
「それで、いかがでしたか?神奈備(かむなび)は……神剣は手に入りましたか?」
並んで歩いていたセイラは足を止めて、クスクスと笑い出した。
「あなたも人が悪い。神剣がすりかえられていたことは、知っていたのでしょう?」
「おや、お気づきでしたか?」
「やはり……」
セイラはつぶやいて、ため息をついた。
「それがわかっていながら、なぜ私に神奈備行きを勧(すす)めたのです?」
「なぜ?あっはは……セイラさまらしくもない愚問(ぐもん)ですね。神はいつの世にか再び邑に戻ってくる、そう約束された――母からの聞きかじりですが、口伝(くでん)はそう伝えていたのではありませんか?」
陰陽師(おんみょうじ)はからかうような眼差(まなざ)しで、セイラの目を覗(のぞ)いた。
「約束は果たされなければなりません。結界(けっかい)を解(と)くためにも……そう思ったまでのこと」
「あっ……」
セイラは、自分が担(にな)っていた役目に気づいて苦笑した。
「確かに、その通りですね……私は少しあなたを誤解していたようです」
「それはよかった。今度は脅(おど)されずにすみそうですね」
陰陽師の辛口(からくち)の冗談を、セイラは気にするようすもなく受け流した。
「あの時は、あなたがどういう人かわからなかったので、念のため釘(くぎ)を刺(さ)しておこうと思ったのです」
「お気になさらず……戯言(ざれごと)はさておき、憂慮(ゆうりょ)すべきは神剣の行方(ゆくえ)ですが……誰が持ち去ったか、邑(むら)でなにか手がかりはありましたか?」
「……神剣を持ち去ったのは、尹(いん)の宮でした」
「尹の宮殿?先日、火事で焼死(しょうし)した……?あの方がどうして……」
「尹の宮は、口伝(くでん)の覚書(おぼえがき)を持っていました。祖母は邑の語り部だったらしいのです。それがある日、突然姿を消した。あなたの母上と同じように……」
「母は生前、地面にあいた亀裂(きれつ)に足を取られて、あの洞穴(どうけつ)まで滑(すべ)り落ちたと言っていました。切り立った崖(がけ)を登るのは、女の力では無理だったのでしょう。やむなく、里に下りるしかなかったそうです。そうでしたか、尹の宮殿の御祖母も……」
安倍晴明は感慨(かんがい)にふけった後、ふと立ち止まって顔を上げた。
「では尹の宮殿亡き今、神剣がどうなったかは誰にもわからない――ということですか」
「ええ……」
セイラも足を止めて空を仰(あお)いだ。
尹の宮が生きていることは、言う必要のないことだった。
軽々しく口外(こうがい)できることでもない。
神剣は今でも、尹の宮の手にある。
だがわからないのは、神剣を持ち出してなにをするつもりだったのか――ということだ。
復讐(ふくしゅう)のための道具として使うつもりだったはずはない。
懐(ふところ)に忍(しの)ばせていても、尹の宮は決してそれを使おうとはしなかった……。
「それで?セイラさまが、わざわざ陰陽寮(おんみょうりょう)にまいられたわけとは……?」
「ああ、そうでしたね」
セイラは、陰陽師に向きなおって目を合わせた。
「実は、あなたに謝(あやま)らなければならないことがあります」
「はて、セイラさまが私に――?」
「ええ。お借りした式神(しきがみ)のことですが……」
セイラは、式札(しきふだ)を切られて精霊の姿に戻った黒角に、神奈備(かむなび)まで案内してもらったことを話した。
「邑(むら)に着いた後、黒角は山に帰してやりました。ですから、お借りした式神をお返しすることはできなくなりました」
一拍(いっぱく)の間があった。
それから陰陽師は大笑した。
「なにかと思えばそんなことですか。かまいませんよ、黒角にとってもその方がいいでしょう」
「そう言ってもらえれば幸いです。黒角も式神から解放されて喜んでいるでしょう」
セイラもにっこりとほほ笑んだ。
帝が用意してくれた邸の改築(かいちく)がすんで、セイラは右大臣邸のある左京(さきょう)一条から右京(うきょう)三条へ住まいを移した。
目や髪の色のことで、まわりから好奇(こうき)の目を向けられるナギにとっては、その方がよかったかもしれない。
「オレ、人が嫌いだ!」
都に戻った日の夜、セイラの部屋にやってきたナギは、そう思いをぶちまけた。
「邑(むら)のやつらは、オレのことを気味悪がって近づこうとしなかったし、ここのやつらはやつらで、オレの顔をジロジロ見る。珍しい猪(しし)かなにかみたいに……」
そう言うナギはこざっぱりした浅葱(あさぎ)色の水干(すいかん)を着せられて、湯浴(ゆあ)みした赤茶色の髪を後ろで束(たば)ね、山にいた時とは別人のようなきれいな少年になっていた。
「珍しい猪、ね……」
セイラは顔をほころばせて、
「私も、おまえの変わりようには驚いてるよ」
「こっ、これは……篁(たかむら)さまが勝手に――!」
「篁も嫌い?」
「……わかりません。オレが信じられるのは、セイラさまだけです」
「私だって人間だよ」
「セイラさまは違います!神さまだから……」
「神さま、か……」
セイラは読んでいた巻き物を片づけて、ナギに向きなおった。
「おまえの目や髪の色がみんなと違うのは、その神さまのせいなんだよ」
「――嘘だ!」
「嘘じゃない。おまえたちは、結界(けっかい)という狭(せま)い領域(りょういき)の中で何千年も生きてきた。当然、血縁の近い者同士の婚姻(こんいん)も増えていく。たとえ髪や目の色がおまえのように薄くなくても、その遺伝子を持った者同士が婚姻を重ねていけばおまえのような子どもが生まれる。鋭敏な感覚や精霊を見極(みきわ)める能力もそうだ。もしかしたら、遠い昔神に力を与えられた者がいたのかもしれない。それは不安定な力で、時に子孫に現れたり現れなかったりする……みんな神があの邑を捨て置いた結果だ」
あんぐりと口を開けたまま言葉もないナギに、セイラは愁(うれ)いを帯(お)びた目を向けた。
「私にもいくらかの責任があるのだとしたら、私はおまえにどうやって償(つぐな)えばいい?」
「オレ……もっともっと強くなりたい!それからセイラさまの手伝いがしたい!それで、邑のやつらを見返してやるんだ!」
「わかった」
セイラは満面の笑みで答えた。
新しい邸には、祝いの品が次々と運び込まれた。
「おーいセイラ!この二階棚(にかいだな)どこへ置けばいい?」
「お待ちください、真尋(まひろ)さま!そういうことは私どもにおまかせを……」
「いいよ!ぼくが運ぶって言ってるんだから邪魔するなよ。あれっ、なんか取れた……」
「真尋!忙しいんだから、これ以上楷(かい)の仕事を増やさないでくれ!」
「なんだ、篁(たかむら)も来てたのか!父上の使いで祝いの品物を届けにきたんだけどさ、セイラはどこ?」
「セイラなら、ナギと一緒に前庭にいるよ」
邸内は、贈り物を届けに来た使者やら、右大臣家から遣(つか)わされた荷運びの雑色(ぞうしき)やらでごった返している。
正面の階(きざはし)を下りてきた真尋は、二階棚を取り上げられてふくれっ面(つら)をしながら、篁と並んで歩きだした。
「あいつ楷(かい)って言うのか。なんかせわしないやつだな。篁、知ってるの?」
「楷は、安積(あさか)と同い年だよ。仕事ぶりは几帳面(きちょうめん)で、今までは荘園(しょうえん)の管理の方をまかされてたんだけど、セイラが新しい邸に移ることになって、母上が家令(かれい)として呼び寄せたんだ。真面目すぎるとこはあるけど、信用できるやつだよ」
「セイラもついに邸(やしき)を持つのかあ。そう言えば姉さんから聞いたけど、さっき言ってたナギって、セイラが山から連れてきたって言う……?」
「うん。ナギはなんて言うか、ちょっと変わったやつでさ……まっ、会ってみればわかるよ」
その時――
「危ない!真尋、そこをどけっ!」
「セイラ?なっ、なに……?」
突然の声に逃げる間もなく、目の前に吹き荒れるつむじ風に巻き上げられた真尋は、篁の目の高さまで浮いたかと思うと、蟇蛙(ひきがえる)のような恰好(かっこう)でドサッと地面に落ちた。
「ったたた……なにするんだよ、セイラ!」
「ごめんごめん。けがはなかったかい?でも私じゃないよ」
駆け寄って助け起こそうとするセイラを、真尋は睨(にら)みつけた。
「なに言ってんのさ、セイラじゃなかったら、誰がこんなこと……」
「風を呼んだのは、オレです」
柳の木の陰から現れた少年を見て、真尋は目をぱちくりさせた。
「なんだ?あいつの目……あれでちゃんと見えてるのか?」
それを聞いたナギは、つかつかと真尋の側(そば)までやってきて、
「あんたが見えないものまで、よーく見えてるよ!今寝ころがっていたその土の上には、さっきまで黒い煙(けむり)みたいなやつがウヨウヨしていたんだ。セイラさまが近づいたから逃げていったけど……そんなのも見えないなんて、黒い目は不便(ふべん)なもんだな!」
「なっ、なんだとぉー!」
「ナギ!真尋は私の友だちだ。仲良くできないなら邑に帰ってもらう」
セイラに叱(しか)られてカーッと顔を赤らめたナギを見て、真尋はふふんと鼻を鳴らした。
「もとはと言えばおまえが悪いんだぞ、真尋。ナギの気を悪くするようなことを言うからだ!」
「篁は見慣れてるからそう言うけど、あの目を見たら誰だってびっくりするさ!ほんとはびっくりしてるのにそうじゃない振りをするなんて、ぼくにはできないね!」
それが、政(まつりごと)の世界で生きていく貴族の子息が言うことか?――と思うと、篁はつくづくとため息がこぼれた。
「だったら、これからちょくちょく遊びにくればいいじゃないか、真尋。その方がナギも喜ぶよ」
「そりゃあ、セイラがそう言うんだったら……」
フンとそっぽを向いたナギに、真尋はなにを思ったか二、三歩歩み寄った。
「あのさ、さっきのやつもう一回できるか?」
「……できる」
「じゃあ、やって見せてくれよ!」
真尋にせがまれると、ナギは胸の前で両手を合わせた。
精神を集中させはじめたナギのまわりに気が集まり、光の繭(まゆ)を形作っていく。
「風よ…風の精霊よ!わが求めに応じてその力を示せ――!」
一陣(いちじん)の風が、光の繭を包(つつ)むように螺旋(らせん)を描いて吹き下ろしてくる。
その旋風(かぜ)は生き物のように蛇行(だこう)し渦(うず)を巻いて、篁と真尋の身体を高々と宙に巻き上げた。
ドスンと尻もちをついた真尋は、痛みも感じていない顔で立ち上がり、
「すごいよ、ナギ!こんなことできるやつ、陰陽寮にだっていないよ!」
興奮して目を輝かせた。
だが篁は、手放しではしゃぐ気にはなれなかった。
「セイラ、ナギは……嵯峨宮(さがのみや)のような能力者なのか?」
「そうじゃないよ。ナギは言ってみれば、綺羅姫が言っていた巫女(みこ)のようなものだ」
「巫女……?」
「ああ、覡(かんなぎ=男の巫女)って言うんだっけ……ナギには、人や自然界の気の流れが見えている。澱(よど)んだり流動している気が……だから、それを自分という器(うつわ)に呼び込んで、力として使えるようにしたんだ。もちろん、べた凪(なぎ=風がそよとも吹かない)の時は風を呼べないし、水がないところで水の力は呼べない。嵯峨宮のように、力を自在(じざい)にあつかえるわけじゃない」
セイラはそう言って、うれしそうに目を細めた。
「それでも、ナギの上達ぶりには目を見張るものがあるよ。この調子なら、邑になにかあった時もみんなを守っていけるだろう」
「ナギが、うらやましいよ……」
「篁……?」
「いや、なんでもない」
セイラの命を救ってくれた黒角(くろつの)は、もういない。
この先再び嵯峨宮が襲(おそ)ってきた時、自分はセイラの力になれるのか……。
そう思うと、篁はなにもできずにいる自分が情けなかった。
「それより、高倉の出身地は安芸(あき=広島県)の因島(いんのしま)だったよ」
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