Part 3


   


   2.訪問者

 ――最初の一週間は、嵐のように過ぎ去った。

 国連本部の会議場に集まった各国の代表者は、正面の大型パネルに映し出される映像を、息をつめて見守っていた。

 それは、二日前、通信衛星を利用して世界中のテレビに流れた映像を録画したものだった。

 銀河連合常任議長国国王と名のる、その異星からの訪問者は、ハリウッドの映画スターのような銀髪の二枚目で、見事なキングスイングリッシュを話した。

 穏やかな口調で、淡々と語られる衝撃的な内容の放送が終了し、映像が途切れても、誰もこれが現実に起こったこととは信じられないようすで、中には、大がかりな映画の宣伝ではないかと真面目に言いだす者もいた。

 だが、月軌道上に、地球のどの国にも属さない十二隻の宇宙船団が静止しているのは、動かしようのない事実で、この映像が、映画の宣伝でも世界規模の悪ふざけでもないことは、議場の誰もが否応(いやおう)なしに認めざるを得なかった。

 では、はるか彼方の宇宙からやってきたという、この来訪者をどうあつかうべきか――という段になると、俄然(がぜん)会議は紛糾(ふんきゅう)した。

 各国を代表する要人といえども、史上空前のこの事態を想定し、真面目に対策を検討していた者などいるはずもなく、広大な宇宙空間さえも自在に航行できる圧倒的な科学力の差を見せつけられて、恐怖にすくんだ彼らの脳裏に、映画や小説に登場する狡猾(こうかつ)で残忍な異星人の姿が浮かんだとしても無理はなかった。

 銀河連合常任議長国国王という端正な仮面の下に、異星人のどのような本性が隠されているかも知れないと思うと、友好的な関係を築きたいという言葉を鵜呑(うの)みにはできないとする者が大半を占める一方で、一部の軍事関係者は、その考え方を否定した。

 もし彼らが侵略を目的とするならば、我々に対応策を講(こう)じる間を与えず、可及的(かきゅうてき)速やかに世界中の主要都市を襲撃しただろう。相手の惑星(ほし)に時間を与えることは、それだけ彼らの危険性を増すことに他ならず、戦略上あり得ないことだ――というのが、彼らの見方だった。

 国連宇宙管理局(UNSA)局長シド=オーエンはその意見に賛意を表し、逆に、これは我々に冷静な判断を下す時間を与えたと受けとるべきだと、列席者の根拠のない不信をいさめた。

 国内経済が破綻(はたん)し、回復の見込みが立たずにいる南アメリカ同盟代表は、もし銀河連合なるものが実在し、その常任議長であるという映像の人物の言を真実とするならば、我々の前には、無限の新天地に進出する扉が開かれたことになる――という点を力説した。

 地球よりもはるかに進んだ彼らの科学力や技術力の導入は、疲弊(ひへい)しきった地球の経済に大いなる活力を与えるものだとする、いささか希望的観測を込めた彼の主張は、しかし、たちどころに欧州国家連邦代表に一笑されてしまった。

 そうして信用しきったところを一気に殲滅(せんめつ)されたら、南アメリカ同盟代表はその責任をどう取るつもりかと詰め寄る場面があるなど、意見は百出(ひゃくしゅつ)し、とどまるところを知らなかった。

 三日三晩に亘(わた)った議論も徒労(とろう)に終わり、会議はついに暗礁(あんしょう)に乗り上げた。

 ここに至って、時の事務総長オーサ=グヌンムルは決断するしかなかった。

 すなわち、自国テライラにおいて、双方の代表者同士の会談を開くことを提議(ていぎ)した。

 この提議には、みな一様(いちよう)に口を重くして、これといった異存(いぞん)を差しはさむ者はなかった。

 会談を開くことは訪問者の要請(ようせい)であり、それが断りきれないものである以上、テライラは最適の場所だった。

 なぜなら、テライラは小国で、他のどの大陸からも離れた、太平洋に浮かぶ孤島だったからだ。


   


 ――次の一ヶ月は、驚異の連続に目を見張る間に飛び去った。

 北アメリカ連合の代表的な新聞『デイリー』紙は、歴史的瞬間を迎えたその日のもようを、興奮したようすで次のように伝えた。


 『その日、我々はテライラの南東部に位置する、陽光輝く大広場で、異星からの客人を待った。

やがて、エジプトの大ピラミッドを細長くしたような、長径20キロはあろうかと思われる一隻の母船がテライラの上空にさしかかり、空の半分をうめつくすと、取材を許可されて集まっていた百名ほどの報道陣の間から、嘆声(たんせい)がもれた。

 母船は、およそ五千フィートの高度をたもって停止し、地上に向かってポッド(細長い容器)を射出した。

 ポッドは、直径約十メートルの光の管につるされて、巨大なエレベーターのように、我々が待ちかまえる大広場にすべり降りてきた。

 一陣(いちじん)の砂ぼこりが舞い上がり、それがおさまると、ポッドの開口部に輝線(きせん)が走りタラップが降りた。

 そして、我々はついに、この目で異星人を見た!!

 いや。こう述べたのでは、遠方からの客人に対して、あまりに礼を失しているというべきだろう。

 彼らから見れば、我々もまた、辺境(へんきょう)の異星人に違いないのだから。

 今や知らぬ者とてない、かの銀河連合議長は、友好の懸(か)け橋に小さな天使をしたがえて、大広場に降り立った。

 その瞬間にわき起こった興奮は、筆舌(ひつぜつ)には尽(つ)くしがたい。

 人類はついに、長年にわたって追い求めてきた謎に対する答えを得たのだ。

 ――読者諸君、我々は孤独(ひとり)ではなかった!

 我々はとうとう、宇宙の《隣人》を得たのだ!!



 最初に歩を運んだのは、ロシュフォール王だった。

 続いてレギオンがタラップを降りると、ポッドは自動的に上昇を始め、瞬(またた)く間に船内に収納(しゅうのう)された。

 カメラが一斉(いっせい)にシャッターを切る音が響きわたり、フラッシュがネオンライトのように明滅する。

 ロシュフォール王は、上下ひとつながりの白っぽい着衣の上に、光のかげんで微妙に色の変化する肩衣(かたぎぬ)をはおり、ベルトでとめていた。

 レギオンは、ベルトのかわりに瀟洒(しょうしゃ)な濃青のかざり帯(おび)をしめて、結び目の先を垂(た)らしている。

 緊張のためか、少し頬をこわばらせているレギオンの前を、ロシュフォール王は神々の王ゼウスさながらに、威風あたりを払って、出迎えた国連関係者の一団に近づいていった。

 先頭に立っている、痩身(そうしん)で黒い肌をした五十歳くらいの男の側まで来ると、

「衛星放送で返答いただいた、国連事務総長殿ですね。お会いできて光栄です。私は銀河連合常任議長国グリュプス国王クロノ・シン=リージェ・ロシュフォールです。会談の申し入れを快(こころよ)く受けてくださったあなたの勇気と英断に、感謝いたします」

 そう言って差し出した手を、オーサ=グヌンムルの骨張った手が力強く握りしめた。

「ようこそテライラへ。オーサ=グヌンムルです。ご覧のとおりここは小さな島国ですが、あなた方の来訪を心より歓迎いたしますぞ。この地球(ほし)の重力と空気の味はいかがです。お気に召していただけましたかな?」

 ロシュフォール王は、南国の花々と椰子(やし)の木に囲まれた大広場を見渡して、深々と息を吸い込んだ。

「ここの空気はすばらしい。潮風に花の香りが入り混じって、私のいる王都ヴァルサングの海沿いを思わせます。体は少し重くなった気がしますが、心の方は、お互いの努力で少しでも軽くしたいものです」

 この短い会話は、マスコミや新聞の見出しに大きく取り上げられ、後世に伝えられることになるのだが、この場面には続きがあった。

「これは可愛らしい使節ですな!」

 グヌンムルは、次にレギオンに目を向けると、差し出された小さな手を、両手で覆(おお)うように握りしめた。

「グリュプス国皇太子、レギオン=ロシュフォールです。地球の方々と親睦(しんぼく)を深めることができればと、国王陛下に随行してまいりました」

 グヌンムルは、目に賞賛の色を浮かべてうなずきながら、

「地球に降り立った感想は、いかがですかな?皇太子」

「この地球(ほし)は、私にとってあこがれの地でした」

 はにかんだような透明な笑顔に、グヌンムルは一瞬ドキリとした。

「ほう、それはまた……」

 なぜ――?と聞こうとした時、突然レギオンの顔に緊張が走った。

 なごやかな表情が一変して、振り向きざま、後方に腕を伸ばして手のひらを立てる。

 その直後――

 グヌンムルは、信じられない光景を見た!

 空中を猛スピードで飛んできた小さな物体が、レギオンの三メートルほど手前で、いきなり見えない壁にでもぶつかったように跳ね返り、ぼとりと地上に落下した。

「これは、一体……」

 グヌンムルが茫然(ぼうぜん)とする間に、いち早く行動を起こしたのは、周(まわ)りを固めていた保安要員だった。

 物音を聞きつけて、二人の保安要員がレギオンの前方に駆け出し、転がっている旧式の銃弾を見つけると、彼らは顔を見合わせた。

 銃弾は、一発で人間を粉々に吹き飛ばす威力を持つSMT弾だった。

 それが不発のまま、なぜこんなところに転がっているのか――考えるよりも先に、二人はレーザーガンを抜いて身がまえた。

「みなさん、その場に伏せてください!早く――!」

 時を移さず叫んで、大広場の柵(さく)越しに群がる報道陣に鋭い目を向ける。

 困惑したのは国連関係者だった。

 保安要員の指示は明らかに、狙撃(そげき)される危険性があることを告げていた。

 だが、そんなことがありうるだろうか。

 史上空前の会談をひかえて、二人の賓客(ひんきゃく)にもしなにかあれば、上空に待機している母船は容赦なく攻撃を加えてくるだろう。

 そうなってしまえば、テライラばかりか、地球人に未来はないというのに。

 指示に従うどころか、会談に水を差すような行動をとった保安要員に、一斉(いっせい)に非難の目が向けられたその時――

 シュ――ッ!と空気を切り裂く音を立てて襲ってきた二発目の銃弾が、保安要員の目の前で再び跳ね返った。

 なにもないはずの空間で、またしても進路をふさがれた銃弾は、むなしく重力の餌食(えじき)となって転がった。

 今度こそ、自分たちの知らないところでなにが起きていたかを、その場にいた全員が理解した。

 狙撃されたという事実と、凶弾(きょうだん)を防いだ未知の力にあぜんとして、誰もが声もなく立ちつくした。
                        
 ――その一瞬の間隙(かんげき)を、は見逃さなかった。

 地上に転がっていた二発の銃弾が、シュルシュルと不気味な回転を始めたと思うと、たった今発射されたばかりの勢いで、防御壁(プロテクト)を解(と)いたレギオンに、猟犬のように襲いかかった!

 とっさに、レギオンは後ろにいたグヌンムルを抱(かか)え込むようにして倒れた。

 銃弾は、からくもレギオンの頭上と頬をかすめて飛び去った。

 その直後、上空で、立て続けに二つの爆発が起こった。

 すべては、ほんの一瞬の間の出来事だった。

 降り注ぐ銃弾の破片を払って、身を起こしたレギオンの頬には、ひとすじの鮮血がにじんでいた。

「失礼いたしました、事務総長殿。どこにもおけがはありませんでしたか?」

 レギオンは、にこやかにそう尋ねた。


   


 翌日――

 世界中の新聞に、ロシュフォール王とグヌンムルが固い握手をかわしている写真が掲載(けいさい)され、大々的に報じられた。

 それと同じくらい報道陣の注目を集めたのは、不可思議な狙撃(そげき)事件とレギオン=ロシュフォールの存在だった。

『異星の皇子 国連事務総長を救う!!!』

『狙撃されたのはレギオン皇子か!?グヌンムル事務総長か!?』

『銃弾は 時限爆弾だった!?』

『狙撃犯 逃走中に不慮(ふりょ)の死!!』

『異星人の血は 緑ではなかった!!』

『ハリウッド レギオン皇子の映画化獲得(かくとく)に乗り出す!?』


 新聞や雑誌には、連日のようにセンセーショナルな見出しが飛びかったが、国連広報部からの正式な発表はなく、事件の真相はついに明らかにされることはなかった。

 だが、この狙撃事件は、異星からの訪問者にとって思わぬ追い風となった。

 レギオンが身を呈(てい)してグヌンムルをかばったことで、異星人に対する誤った恐怖は取り払われ、かわりに小さな少年のとった果敢(かかん)な行動に、世界中から称賛の目が向けられた。

 頬の傷跡も生々しく、はにかんだ笑みを浮かべているレギオンを表紙に載せたある雑誌などは、発売したその日のうちに完売してしまったという。

 星の世界からやってきた、ビー玉のような紫の瞳(め)をした少年は、一夜にしてヒーローに祭り上げられたのだった。

 このことは、テライラで開催されている会談にも影響を及ぼし、当初ロシュフォール王が考えていたよりも、会談は順調な滑り出しを見せていた。

 席上、冒頭(ぼうとう)でロシュフォール王は、地球を侵略しにきたのではないことを改めて強調した。

 そして、銀河連合に加盟するためには、本来、太陽系の制宙権を確保できるまでに文明が進化していることが必要条件だと語った。

 地球文明がそこまでおよんでいないにもかかわらず、多少混乱を招くようなやり方で訪れたのは、こちら側の事情によるもので、その事情とはおもに、この太陽系近辺での亜空間通信の中継地の増設と、航行燃料補給地の確保に迫られたためであると説明した。

「私はこれを機会に、地球の方々にも、大銀河の発展を担(にな)う銀河連合の一員に加わることをお勧(すす)めしたい。連合理事国の艦船を同道してきたのも、決して示威的(しいてき)なものではなく、あなた方地球人に紹介しておきたいという考えからです。もちろん、あなた方が十分な衆議(しゅうぎ)をつくすまで、我々は待つことを厭(いと)いません。その上で、銀河連合に加盟するのはいまだ時期尚早(じきしょうそう)という結論に達したとするならば、我々としては、それ以上地球にとどまるつもりはありません」

 これは暗に、今回の申し出を断れば、あと数百年は銀河連合に加盟する資格を待たなくてはならない、と言っているようなものだった。

「その…お話しにあったような施設は、太陽系のどの辺(あた)りを候補に考えておられるのですかな?」

 グヌンムルの質問に、ロシュフォール王は軽くうなずいて、

「航行燃料の補給地には、将来性を考えると、地球よりも火星につくる方がよいでしょう。亜空間通信の中継地の増設については、ここから十光年ほど離れた宙域(ちゅういき)を考えています」

「十光年――!!」

 それを聞いた、国連宇宙管理局(UNSA)局長シド=オーエンは目の色を変えた。

 その十光年先に人類がたどりつくまで、あとどれほどの年月を費(ついや)やさなくてはならないだろう。

 銀河連合に加盟するだけで、それらの科学技術や情報が労せずに手に入るとしたら、地球にとって、これは望外(ぼうがい)の幸運ともいえる申し出に違いなかった。

 となりにいた宇宙管理局火星開発委員会のレイ=シーカーは、こっそりとオーエンに耳打ちした。

「これって本当ですかね、局長。どうも話がうますぎませんか?」

 彼は、呼び出しを受けて火星から戻る途中、月軌道上に居並ぶ十二隻の宇宙船団を目撃していた。

「あれほどの高度な科学技術を持つ連中が、なぜこの太陽系にこだわる必要があるんです?」

 第一回目の会談を終えて、グヌンムルをはじめとする多くの国連関係者が抱いた感想は、レイ=シーカーが感じたことと大きな違いはなかった。

 ――なぜ、ロシュフォール王はこの地球にこだわるのか?

 その疑問に対するひとつの答えは、意外なところからもたらされた。

 世界的な世論の高まりを、いち早く感じ取った北アメリカ連合の元首ジョン・F=ザナドゥから招待を受けたレギオンは、デトロイトで行われる大リーグの野球観戦に招かれた。

 レギオンはその始球式に登場すると、あどけない笑顔を大観衆にふりまいた後、誰も想像しなかった豪速球を投げ込んで、ミットごとキャッチャーを吹き飛ばしてしまった。

 後ろにいた審判が、運よくキャッチャーを受け止めていなければ、その試合のスターティングメンバーは、確実にひとり入れ替わっていただろう。

 試合後、インタビュー室には山のような記者が殺到(さっとう)した。

「まずは、地球へようこそレギオン皇子。我々は、あなた方の来訪を心より歓迎いたします」

 鳴りやまぬ拍手を、最前列の記者が制して、

「始球式では、文字通り目の覚めるような豪速球を見せていただきましたが、あの後、キャッチャーのルイス選手がマウンドにいきましたね。なにを話したんですか?」

「はい。ぼうず案外いい球ほうるな、タイガースに入らないか――って言われました。その後で、ユニフォームまでいただいたんですが……」

 だぶだぶのタイガースのユニフォームを着こんだレギオンに、記者の間から失笑と苦笑がこぼれた。

「私はそれよりも、彼の体の方が心配だったので……力の加減がわからなくて、けがをさせてしまうところでしたってお詫(わ)びしたんです。そしたら彼は、なんの問題もないって言ってくれて……」
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「ああ。それで彼は、張り切って今日二本ホームランを打ったんですね」

 記者の意味ありげな発音に、またしても笑いが起こる。

「今、力の加減がわからなくて――と言いましたが、地球では、大人でもあんな速い球を投げれる選手はいませんよ。皇子は筋力強化のための特別な訓練でも受けているんですか?」

「いいえ、そんなことはありません。ただ、王家の人間は、その……ちょっと、変わっているんです……」

 言いにくそうに口ごもるレギオンに、ひとりのスポーツ記者が率直な疑問をぶつけてきた。

「変わっているというのは、超能力のことでは……?例の狙撃事件で、弾が空中で跳ね返ったという噂があるんですが、それは事実ですか?」

「はい、あの時弾を跳ね返したのは私です。でも始球式でそんな力を使う必要はないし、超能力自体、宇宙ではそれほど珍しいものではありません」

「珍しいものじゃない……?」

「はい。超能力者の数は…レベルにもよりますが、グリュプス全体で十万人ほどはいるでしょう。ほかの星系にも、多くの超能力者がいます。王都ヴァルサングには、そのための養成学校まであるくらいです」

「ヒュー!宇宙には超能力者がいっぱい、か。まるでSFだな」

 今度は、誰も笑わなかった。

 レギオンの知っている宇宙と、自分たちの知っている宇宙がどれだけかけ離れたものか、思い知らされたのだった。

「超能力ではないとすると――」

 気を取り直して、再び質問しようとした記者の横合いから、明らかに毛色の違う、政治部の記者と思われる男が割り込んできた。

「その狙撃事件について、もうひとつお聞きします。逃走中、エアカーごと崖から転落して死亡した犯人はブリテン出身の暗殺者で、異星人に懐疑的な欧州国家連邦との関わりが指摘されていますが、それについてはどう考えますか?」

「……欧州国家連邦は、関係ないと思います」

「どうして、そう言えるんです?」

「あれは、超能力者が犯人の意識を乗っ取って、引き起こした事件だからです」

 アッという声にならない驚きが、インタビュー室をつつんだ。

 今まで誰が、その可能性について考えてみただろう。

 だが、超能力という荒唐無稽(こうとうむけい)に聞こえる力も、レギオンの口から発せられると、にわかに現実味を帯(お)びてくるのだった。

「では皇子は、真犯人は超能力者だと……?」

「はい。そのブリテン出身の犯人を利用することで、欧州国家連邦に濡れ衣(ぬれぎぬ)を着せようとしたんだと思います」

 記者たちは言葉もなく、お互いの顔を見やった。

 この皇子さまは、自分の言っていることの意味がわかっているんだろうか?それが単なる憶測(おくそく)ではないとすると――

 もちろん、地球人の中に、他人の意識をあやつれるほどの超能力者はいないと断言することはできない。

 が、先ほど誰かが叫んだように『宇宙には超能力者がいっぱい――』なのだとしたら、銀河連合理事国の中に(もしくはグリュプスの母船に)、地球の加盟を妨害しようとしている者がいることになる。

 さもなければ、議長国である王家を狙った銀河連合の内紛(ないふん)か……。

 いずれにしたとしても、理事国の宇宙船は、いまだ月軌道上に待機(たいき)したままだというのに――!

 政治部の記者は、それを聞くとにっと笑って、腕輪型携帯通信機(通称ブレスレット)の送信ボタンを押した。

「参考になるご意見を、ありがとうございました」


  次回へ続く・・・・・・  topへ