■ある朝の出来事



気持ちのいい朝でした。
いつものようにソフィーは朝日が差す前に外へ出て、お店で売るための花々を摘むと
みんなの朝食の準備のために、暖炉の前に立って支度をしていました。


突然、二階のハウルの部屋のドアが激しく開かれる音がしました。
「ソフィー!!」
ハウルがものすごい勢いで階段を駆け下りてきます。
「どうして、そうなるんだい!君は!?」
肩を怒らせて手を腰にあてたハウルは、ソフィーを指差してつっかかりました。


「え・・・?」
いきなり怒鳴られてびっくりしたソフィーは、木しゃもじを持ったままハウルの方を向きました。
「お、おはよう、ハウル。 どうしてって、一体、どうしたの・・・?」
あっけにとられているソフィーに、ハウルはイライラしながらいいました。
「ああ、もう!これだから、ソフィーは!!」
ハウルはきびすを返し、あまりのイライラに頭を抱えたり首を振ったりしています。
「あれだよ、あれ!」
「あれって?」ソフィーはまだ気づいていないようです。
「昨日、あれを一緒に取りにいくって約束しただろ?」


「・・・・・・あ!!」
ソフィーはやっと思い出したようです。
そういえば昨日の食事のときにハウルが、珍しい花が咲くところがあるから
明日は一緒に行ってみようと話題を振っていたのを思い出しました。


「あれって、今朝のことだったの・・・?」
「ああ・・・これだ!僕が君のために何をしようとしたって、これなんだもんなぁ!
まったく、頭が下がるよ、君には!」
さすがにソフィーも、これにはちょっとカチンときました。


「なに言ってんのよハウル!朝一番なら、朝一番って、はっきり言えばいいじゃない!
今朝だって花を摘みに行っていたんだから、一緒に行けばよかったんでしょ!」ソフィーも負けじと言い返しました。
「ああ、そうだよ!その朝の花摘みに、僕も一緒に行けばよかったのさ!
僕が悪かったんだよ。君がてっきり呼びにきてくれるもんだと思って、今か今かと待っていたんだから。
いいかげん早くいかなきゃ、時間切れだと思って廊下に出たら、君はのんびり朝食の支度しているんだもんなぁ。
僕の言ったことなんか、すっかり忘れている感じでね!」


ハウルは思いっきり手を広げて大声でまくし立てると、くるりと後ろを向いてしまいました。
なるほど、ハウルはソフィーに呼びにきてほしかったようです。
ハウルはテーブルの椅子に乱暴に座ると、頬づえをついてそっぽを向いてしまいました。


ちょうどそこに、お店に花を並べ終えたマイケルが入ってきました。
マイケルはハウルの様子に気がつくと、ただ事ではないと察してテーブルを離れ、
二人のやりとりを可笑しそうにながめていたカルシファーに事の次第を聞いているようです。
そんな二人に気づいたハウルは、不機嫌そうに暖炉の方をひとにらみしました。


ソフィーはため息ひとつついて言いました。
「・・・ハウル、ごめんなさいね。そんなつもりは無かったのよ。」できるだけやさしく言ってやります。
「いままで待っていてくれたのなら・・・そうね、この時間からじゃもう間に合わないのかしら?」
ハウルの様子を伺いつつ、ソフィーが言ったその時、
ハウルはいきなり椅子から立ち上がりました。


「ああ、そうだ!そうだよ、ソフィー。早く行かなくっちゃ!!」またもや大声でまくしたてます。
「こうしちゃいられないんだ!」そういうと、ハウルはいきなりソフィーの手をつかんで引っ張りました。
「え?あの、ハウル。ちょっと待って・・・!!」突然の事にソフィーはあらがう暇もなく、
ハウルに手を引っ張られるまま、扉の向こうに連れていかれてしまいました。





あわただしく二人が出て行くと、居間にはしばらく靜寂がながれました。
「・・・行っちゃったよ、カルシファー。」その場に取り残されたマイケルは、半ばあきれたように言いました。
「ああ、まったく・・・しょうがない二人だよな!」可笑しくてたまらなさそうにカルシファーも言います。


ハウルがソフィーと見に行った花の事は二人とも気づいていました。
今日はインガリーに、一年に一度だけ特別な花が咲く日なのです。





ハウルはソフィーを連れて、広い一面の花畑を走っていました。
二人の足は、もう地面にはついていません。二人の身体は空中を飛んでいました。


しばらく宙を舞った二人は、朝日の差し込む谷間をぬけて
その奥の岩場のところに咲いた不思議な暖かい色にかがやく白い花のところに着地をします。


「・・・この花はね、明けの明星っていうんだ。夜の忘れ物なんだよ。
金星のことで、愛の女神の花なんだ。」その花を指差しながらハウルは言いました。
「きれい・・・!」暖かな光につつまれたその白い清楚な花を見て、ソフィーは思わず声をもらします。


「この花は一年に一度、この日だけ咲いて、日が昇ってしまうともう閉じてしまうんだ。
この花を、愛するひとと一緒に摘めば、ずっと一緒にいられるっていういわれがあるんだよ」
ソフィーは、子供のように嬉しそうに語るハウルを見つめました。なんだか幸せな気持ちで胸がいっぱいです。


「ハウルったら・・・、私にこの花を見せたかったのね?」ソフィーは振り返り、ハウルの腕に触れました。
「こんなことしなくても、私はずっとあなたと一緒にいるつもりでいるのに・・・」
ハウルはそっとソフィーの腰に手を回し、やわらかくソフィーを抱きしめました。


「だって、僕は、いつもいつもソフィーをひとりじめしたい気持ちでいっぱいなんだ・・・!
君が、いつか僕から離れていくんじゃないかと思って・・・いつも不安でいっぱいなんだよ」
「ハウルったら・・・」


いつも自分の事を正直に話さないハウルですが、今は正直に、本当の気持ちを語っているんだということを
ソフィーは素直に感じることが出来ました。
いつもこうだったらいいのに・・・ソフィーは微笑みながらハウルの頬に触れ、口づけをしました。





動く城の居間では、残された二人が暖炉に座り込んでいました。
「カルシファー、僕、もうそろそろお店を開けに行って来るよ」
蜂蜜を塗ったパンをカルシファーと一緒にかじりながら、マイケルは言いました。
あの二人は、このまま午前中いっぱいは帰ってこないに決まっています。


「えーっ、マイケルぅ!今日ぐらい話し相手になってくれたっていいんじゃないのか?」
カルシファーは不満げに訴えました。
「駄目だよ。僕だって、将来マーサと一緒になるためにお金をためなきゃいけないんだ。
カルシファーだって、今よりもっといい薪が食べたいだろ?だったら、頑張って働かなくっちゃ!」
そう、マイケルが言うと、
「そりゃあ、そうだけどさぁ・・・」カルシファーはしぶしぶと納得しました。


マイケルがさっさとお店を開けに行ってしまうと、
「ちぇっ、ちぇ!おいらのことなんかみんな忘れてしまってるんだ!」
カルシファーはつまらなそうにつぶやいて、煙突を抜けてどこかに遊びに行ってしまいました。
行き先は多分、キングズベリーのサリマンのところです。
サリマンのところの暖炉には、最近、女の子の火の悪魔が住みついたって聞きましたから。






























おわり


お約束のようなハウソフィーを書いてみたくて、頑張ってみました。
できればもう少し短いやつを・・・と思ったのですが、やっぱりなかなか短くまとまりませんでした。
この二人だったらもっと甘々でもいいぐらいかも?でも、大人っぽいのも書いてみたいな。
この次はもっと頑張ってみたいと思います(笑)

しかし、うちのマイケルはあの二人に当てられたせいか
しっかりしすぎて、だんだん現実主義者になっていくよーな・・・。
困ったものですね。

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