■合縁奇縁(あいえんきえん)





◆AM6:45 / 瑞稀



うーん、あった・・かい・・・。

ベットの中で目が覚めてきたあたしはまどろみながら、
目を開けるまで、心地よい布団のあたたかさに身をまかせていた。
布団の中にちょうどよくつかまれるものがあったので、思わず身を寄せてみる。
人肌のような温度が心地いい・・・。

小さいころよくリビングで寝てしまって、父さんに部屋までおぶっていってもらった。そんな感じ。
ちょうどいい温度で、ほんと人肌みたーい。
気持ちいいなぁ。すりすりしてみる。

あれ、でも、なんか布団にしちゃちょっと硬い・・・ような気も?
この感触、枕でもないよね。
だんだん意識がはっきりしてきたあたしは、不思議に思って目を開けてみる。

・・・うわっ!

目の前15cmのところに、同室の佐野の寝顔があった。

な、な、ななななな・・・・・・!?

あまりのことに気が動転する。いや、混乱する?日本語はやっぱり難しい。
いや、でも、そんなことは今どうでもよくて。
あ、あたしったら、またやってしまったぁ――――!!
心の中で思いっきり絶叫する。

どどどどど、どうしよう!?
頭の中が真っ白になった。

え、えーと、えーと・・・とりあえず夕べの事を思い出してみる。
昨日は中津たちがきて、この部屋で一緒に飲んでいて・・・
あ、そうそう、みんなが出来上がってきたころ、佐野が間違ってコップ酒を飲み干しちゃったんだっけ。
それを見たみんなは、(過去のキス事件の再来かと)びっくりしてそそくさと帰っちゃって・・・。
あたしはといえば、つぶれた佐野をなんとかベットにひっぱりあげて寝かすと、
何事もないうちにと、そのまま上に上がって寝ちゃったような。

あの時、あたしは確かに二段ベットの上に上がったはず・・・だよね。
なのに今、あたしがここにいるということは。

うーん。考えたくないけど、あたしがまた寝ぼけてここに入ってきちゃったんだろうなぁ。
たぶん、そう。前にもやっちゃったんだから、きっと間違いない。
断言できるところが、悲しいなぁ。

あーあ。まーたやっちゃったよ、ホームスティ・・・。
このまま消えて、無くなってしまいたいような気分になった。

とりあえず、この状況をなんとかしなければ。
あたしは佐野が目覚める前にここを退散することにした。
おそるおそる視線を上げて、佐野が起きていないかどうかを確認する。
佐野は眠そうに寝返りを打って、あたしに背中を向けてしまった。
うーん、微妙だけど、たぶんまだ起きていない・・・よね?
迷った挙句、選べるような状況でもないので、そう決定する。
あたしは出来るだけそぉっと、細心の注意を払いつつ佐野のベットをぬけだした。


息を詰め、気配を隠して、そろそろとバスルームに向かっていく。
いや別に、もういいんだけどね。佐野が起きても。でもなんとなく気分は忍び足。
バスルームに入ると、どっと力が抜けて、思わずその場にへたり込んでしまった。

びびびび、びっくりしたよぅ〜・・・。

鏡を見なくても、顔が火照って真っ赤になっているのがわかる。
あたしったら、あたしったら、またやってしまった。

心から自己嫌悪しているのに、頭の中はさっき間近で見た佐野の寝顔でいっぱいになる。
佐野・・・キレイな寝顔だったなぁ。長いまつげで、鼻筋が通ってて、きりっとした眉が素敵で。
軽い妄想に浸ってしまったあたしを、現実はすぐに引き戻した。
ち、違う、違う!あたしったら一体、こんなときに何考えてんの。
穴があったら入りたくなった。

・・・こんなに佐野を意識しちゃったりして、本当に大丈夫なのかなぁ。
はるばる米国から一大決心をして乗り込んできたはずの気持ちがぐらついてしまう。
あの頃は、こんなに佐野が気になって心が乱されるなんて思ってもみなかった。
ただ近くで佐野が見れればそれでいい。そう思っていただけなのに・・・。


先の見えない漠然とした不安は、あたしをすっぽりと包み込んでしまっていた。





◆AM6:50 / 佐野



明け方、誰かがしがみついて来たような気がして目が覚めた。
薄目を開けてみると、やっぱり芦屋が寝ぼけて俺にしがみついている。
俺はというと、夕べ誤って酒を飲んでしまったせいか体がだるい。
だからってわけじゃないけど、まぁいいやと思って、そのまましがみつかせておいた。
悪い気がするものでもないし。そのうちに芦屋も目が覚めるだろう。

ほら、そうこうしているうちに芦屋がなんだか固まった。きっと自分のしていることに気がついたんだろう。
なにやら赤くなったり青くなったりして考え込んでいる。混乱してるな。
昨晩俺がなった状態に、今、目の前で芦屋がなっているかと思うと本当は可笑しくてたまらなかったが・・・、
とりあえずは芦屋のためにそのままの姿で寝た振りをしておく。
ほんっと、俺ってマメだよな―――。

しみじみ自分に感心していると、芦屋はそろそろと俺のベットを出て行った。
・・・淋しいような物足らないような。軽くため息をついてみる。
こんなことを考えること自体がもうヤバいんだけどな。

まずいな。いつか歯止めが利かなくなるような時がくる気がする。
それでも、あいつを手放すなんてとても考えられない・・・今の俺には。

こんなこと、あいつはこれっぽっちも気がついてはいないんだろう。
わざわざ俺のためにここまでくるぐらいだから、俺に好意を抱いているんだろうとは思うけど、
それでもまだ、拒まれたらどうしようかという不安が俺の中には積み重なっている。
そしてそのまま、あいつが去っていってしまったらどうしようかという不安――――。
ここで俺はいつでも堂々巡りする。
そして、結局はこのままでいようという結論に落ち着いてしまうのだ。
今はきっと、それが一番いいはず。

俺は朝の身支度に取り掛かることにした。

「おはよう、佐野。バスルーム空いてるよ」
ベットのカーテンを開けると、芦屋は普段どおりに歯ブラシをくわえてバスルームから出てきていた。
あんなことがあってもいつもと変わらない、朝。
変わってほしいのか、ほしくないのか。俺は一体どうしたいんだろう。

とりあえずは、お前の横にいるのはいつも俺でありたいということ。
―――とりあえずはそれでいい。


鏡の中をのぞきこみつつ、心の中でつぶやいた。





◆AM10:15 瑞稀



授業中の先生の声が、なんだか遠く聞こえる。

まだ、胸がどきどきしている。
変じゃないかな。佐野に、気づかれないかな・・・。
一生懸命、自分を落ち着かせて普段どおりに振舞ってみる。

佐野と友達になりたい。佐野と一緒にいたい。
あたしはそれだけのためにここまで来たんだもの。そのためにここにいるんだもの。
だから今は、この関係を大切にしたい。

考えてみれば変な関係、だよね。
・・・あたしは本当は女で、佐野と友達になりたかっただけで。
それなのに勢いで米国から日本まで来て、あまつさえ男子校に転校して来てしまうなんて。
あの頃は、単にあこがれだけで突っ走っていた。

だけど同室になって、佐野と一緒にたくさんの時間を共有していくうちに、
佐野にも悩みがあって、いろんな考えがあって、
強かったり、弱かったり、年相応に素直じゃないところもあるってわかってきた。
みんなが思っている佐野。あたしだけしか知らない佐野。誰にも見ることは出来ない佐野。
そんな佐野をたくさん見ていくうちに、あたしはだんだんあこがれだけじゃない、等身大の佐野が好きになっていて。

あたしがそう思っているように、佐野もあたしの事が好きだといいな。
あ、でも、今のあたしは男の子なんだから、それだとちょっと困るのかな・・・。
―――とにかく、好きだといい。だんだん、そんな気持ちが強くなってきて。

それ以上を望むのは欲張りだよね。
そう思いつつ、つい小さなことに一喜一憂してしまうあたし。
うわ、なんか今あたし、ちょっと女の子してるかも?


あーあ。なんだか伊緒さんに会いたくなっちゃったな。最近、理緒ちゃんにも会ってないし。
久しぶりに梅田センセのところにいってみようかな。
そしてまた、美味しいコーヒーと元気をもらってこよう。

こういう関係になってしまったんだもの。もう、なるようにしかならない、と思う。
先のことを考えると、不安にならないと言ったら嘘になる。
でも、だからこそ、今この一瞬を大切にしてみよう。



あたしは佐野もそうだけど
桜咲が、第二寮が、・・・ここのみんなが好きだから。


















酔眼朦朧の続きです。佐野視点とは反対に、瑞稀視点も書きたくなったので。
佐野がちょっと保守的で古臭い感じに仕上がっているかもしれません。もっと違うこと考えているような気もしています。
瑞稀はどうなんだろう。猪突猛進で、とんでもない状況下にいて、それでも手を貸したくなるような女の子。
なかなか難しいなぁ。

合縁奇縁(あいえんきえん)とは、「人と人との縁というものは不思議なものだ」ということです。
 瑞稀が勇気を出さなかったら、二人は日本とアメリカできっと会うことも無かったですよね。
 それが一緒な学校で、一緒に行動して、しかもお互いに好意を持って。・・・不思議を通り越して、うらやましいです。(あれ?)

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