■憂える銀の竜



ここはライトルーアの国、花の都ギルディリエック。
異世界から来た王子妃、リゾレット・ギディングスのいる国でもある。
彼女には少し自覚が足らないところがある。だけどそれは彼女の欠点でもあり、また魅力でもあるのだ。

その日の早朝、ばたばたと城の廊下を駆けてくる侍女頭の足音がした。
激しい音とともに広間の扉が開いて、息も絶え絶えにいつもの悲鳴のような声が上がる。
「王子様!またリゾレット様がいらっしゃいません!」

・・・やはり、そうなってしまったか。
顎に手を当て、少し考え込むように侍女頭の話を最後まで聞いてやると、
これ以上騒ぎを大きくしないためにもと努めて落着いた声で分かったと言い、
後は皆待機するようにと侍女頭を下がらせた。
昨夜からのリズの言動にはそれを予感させるものがあった。
今度の君は一体何を気にしているのか・・・。

いつものように癇癪を起こしてくれれば、それがまた可愛くて良かったりもするのだが、
珍しく黙って耐えているところが、なにやら嫌な予感がする。
全く、彼女の箱は開けてみるまで何が出てくるのか予測もつかないときがある。
それは良い方向に転がるときもあるし、そうでない結果を生むときもある。
だけどそんな彼女無しには生きていけそうにもないところが、我ながら不思議なのだが。

素直に率直にいつも自分の感情をぶつけてくるリズ。
そしてそれはいつも鮮明に、僕の中にもこういった感情が存在したのだということを思い知らせてくれる。
僕に守るべきものがあるとしたら、それは間違いなく君だろう。
君は僕にとって、本当に何ものにも変えがたい存在なのだ。

竜舎の番には、シェルの所にリズが来た時にはマスターに報告するようにと言っておいた。
それに今朝はまだ、城外の無事を確認するノアルの定時報告が僕の元には届いていない。
きっと彼は今頃マスターとリズを追っているはずだ。そのうち彼からは竜便が届くだろう。

しばらくすると、思ったとおりノアルの竜便がやってきた。
リズとマスターは地図を見ながらなにやら楽しそうにハイキングの真似事をしているらしい。
・・・まぁ、マスターなら上手く彼女の気持ちを治めてくれるだろう。
そのうち彼女の中で消化していける問題であればいいのだが。

この分ならとりあえずは石の都に調査に行っても大丈夫か・・・。

叔父上の残した仕事のうち、最近どうも気がかりなことが一つある。
恐らく、あの森の都のアヴィヴァン王子が関係している事柄だから、
どうしてもこれだけは面倒になる前に押さえておきたい。

ノアルへの返事にはそのままそっと二人を見守るようにと記しておいた。
この件が終われば、少しは休みも取れるだろう。
それから二人でゆっくり話し合いながら解決するのも悪くはない。

「城を発つ用意をしろ。これから急ぎ石の都へと向かう!」
僕は共の者に、そう言って短く指示をした。































おわり


あんまり前のが寒かったので改訂版です(^^;)
なんと、半分以上削ってしまいました。すでにもう別の作品?(笑)
銀の竜を題材にするとはおこがましいと自覚した作品です。


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