■カルシファーのひとりごと



「カルシファー、僕は以前、あの娘に逢った気がするんだ。
なんでだろう、あの娘が気になってしょうがないんだ。
今までに逢った、どの娘とも違う気持ちなんだよ・・・」


昨夜みんなが寝静まった後、ハウルはポツリとおいらに言った。
おいらはだまって聞いてやった。
ただ聞いて欲しいんだろうと思ったから。





おいらはカルシファー。
ハウルの城に住みついている、火の悪魔さ。
本当は流れ星だったんだけど、ハウルと契約して火の悪魔になった。
この大きな城を動かしているのは、おいらなんだぜ。
どうだい、すごいだろう。


本当はそのせいでちっともここから動けないし、何にも見に行けないけれど、
ハウルが、まぁいい奴だから満足している。
だけどさぁ、ハウルは人使いが荒いんだ。だからいつもおいらはクタクタさ!
それが難点といえば難点かなぁ。


この間からこの城に、ソフィーってシワくちゃの婆さんが住み着いたんだ。
だけどおいらはひと目で見破ったね。こいつは、婆さんだけど婆さんじゃないって。
二重の呪いがかかってる。本当は、たぶん、かわいい女の子だ。
モノに命を吹き込むことだって出来るし、
この娘はきっと、おいらとハウルを助けることが出来るって。
だから契約を持ち掛けた。
おいらだってここ(暖炉)にしばられるのは、もううんざりなんだ!


ソフィーは最初に思ったよりも、ずうずうしくて好奇心がいっぱいだった。
婆さんになっちゃって心細くて不安そうに見えたけど、婆さんの姿を楽しんでもいるみたいだ。
ハウルもソフィーの呪いにはじきに気づいて、こっそり解いてやっていた。
もちろん、おいらは契約したのでソフィーの呪いについてはしゃべらない。
おいらだって助かりたいからね。
だから、ハウルが先に呪いを解いちゃったらどうしようかとハラハラしたけど、
ソフィーはなかなか元の姿にもどらなかった。
きっと、前の自分より今の自分が好きなんだ。おいらは、言わないけどそう思った。


元に戻るには、本当の自分を好きにならなくちゃ。
それには、誰かがあの娘のことを認めてあげなきゃね。
あの娘は自信がなさすぎなんだよ。


おいらはソフィーの持ってる力を知ってる。ソフィーの良いところもさ。
おせっかいだけど、人が好いとこあるし、
なんたって、おいらの話し相手になってくれるしね。
いつだって呪いを解いてあげられるさ。
ソフィーさえ、その気になってくれればね。


だけど、昨夜、ハウルが言っていたのを聞いて思ったんだ。
ああ、きっとソフィーの呪いを解くのは、ハウルがいいかもってね。
おいらよりも、ハウルのほうがソフィーの力を出してあげられる。
そしたら、おいらだってきっと助けてもらえるさ。
なによりハウルがあんなに真剣だったのは、おいらとの契約の時以来はじめてのことだったから。


おいらだって火の悪魔だけれど、心もあるし、良心だってある。
ハウルはどうしようもない奴だけれど、いい奴だ。
ソフィーだってそうさ。
本当のことを言えば、マイケルだっておいらは結構好きなのさ。
みんな、おいらの大事な家族。
おいらが自由になれたら、もっと楽しく暮らせるさ。
・・・なんでって?
おいら、これでも結構気を使ってるんだぜ!





たった今、ソフィーはおいらとハウルの呪いを解いてくれた。

ひやっほー!おいらはもう、自由だ!

久しぶりの空の青、見渡す限りの広い景色。おいらが昔、星だった頃に見ていたもの。

今のおいらは自由!空中を飛び回ることも出来る。




おいらは思う存分、気がすむまであたりを飛び回った。




どんどん、どんどん、おいらは空を昇っていった。
城はどんどん小さくなって、もうすぐおいらがいた場所まで届きそうだった。

でもふと、気づいた。おいらはもう、星じゃなかったんだ。

今のおいらは火の悪魔。ハウルの城を動かしてる。
あったかい食べ物だって、あったかいお風呂だって、おいらがいなけりゃ困るだろう。
それになにより・・・暖炉にしばりつけられ嫌な思いもしたけど、


おいらは、あそこが結構好きなんだ。


気がつけば、おいらは城に向かって飛んでいた。


どんどん、どんどん、急降下。
途中で雨が降ってきた。やばいぞ、本気であの城に帰らなくっちゃ。
雨を避けて、一目散に煙突から飛び込んだ。

暖炉に戻ると、マイケルがびっくりして声を張り上げた。
「戻らなくてもよかったんだよ」ハウルはそう言ってくれたけど、


「おいら、戻りたかったんだ。今じゃ自由に行ったり来たりできるんだから」

・・・つい、本音が出てしまった。

ちょっとおいらの手の内を出しすぎたかなぁ。
何か理由をつけた方がいいかもな。


・・・そうそう、雨だよ雨。この雨がおいらを帰らせたんだ!


だから、みんなにもそう言ってやった。
だれも信じちゃいなかったけどね。


おいらとハウルの契約が解けると、ソフィーの姿も元に戻った。
おかしいなぁ、おいらなんにもしなかったんだぜ。
ソフィーが自分で呪いを解いたんじゃないのかなぁ。




あれからおいらは遊びに出かけられるようになった。
たまには、他の暖炉にも。
だって、いい娘がいるかもしれないだろう?
おいらだって、かわいい彼女が欲しいときもあるのさ!






























おわり


カルシファーに彼女を作ってやりたくて、書きだしたんですが。
なかなかたどりつけなくって・・・じぶんのヘタさ加減に泣きました。

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