ジオンの残業
〜ニュータイプに関する考察〜




『逆襲のシャア』までの宇宙世紀作品で、重要なキーワードである『ニュータイプ』
ですが、作品によって、人によって、扱いがコロコロ変わる言葉でもあります。


これは、作品の外(製作者側の考え)が、時期によって、人によって変化していったことの現れでもあります。
そういう「作品の外の事情」は横においておいて、劇中描写などから、『ニュータイプとは何か?』に迫ります。







1:『ニュータイプ』という言葉


宇宙世紀において、『ニュータイプ』という言葉は、多種多様な意味で使われます。
ですが、大きく分けると、2種類の意味を内包しています。

・NT能力を持つ人間
・スペースノイドの中に生まれた、宇宙に適応進化した新人類


前者は、基本的に特定の個人を指すので、定義のぶれようがありません。
問題は後者の意味で『ニュータイプ』と言う言葉が使われる場合です。


正直、「作品ごとの差」というよりも個人によって概念が違うと言ってもいいレベルです。
(ジオンダイクンとギレンとララァとアムロとレビル将軍とクワトロ大尉の言ってることを比べてみてください。)

その差は、時代を追うごとに大きくなっていく傾向があり『逆襲のシャア』では、もはや神学論争のレベルでした。
どうして、同じ言葉でここまでブレがでてくるのでしょうか?




それは、『ニュータイプ』という言葉が、
そもそも、政治スローガンとして始まったからです!



『ニュータイプ』という言葉を提唱したのは、ジオン・ズム・ダイクンです。

彼の演説は
「スペースノイドからこそ新人類『ニュータイプ』が生れる」
「だから、地球連邦はコロニーに干渉するのをやめて自治権を与えよ」
というものでした。





そもそも、『ニュータイプ』とは、地球連邦に対して政治的要求をする『方便』として、提唱された言葉なんです!
その後、ダイクンが死亡して、ザビ家がサイド3を牛耳るようになると『ニュータイプ』という言葉は独り歩きを始めます。


1人のカリスマが、新しい考えを元に組織を作りました。
そして、そのカリスマが死んだ時、その考えは『後継者』を名乗るものによって受け継がれます。
『後継者』は、カリスマの言葉に『自分の考え』を追加して人々に広める。


現実世界の『○○主義』なんかがいい例です。
(その辺の流れは、宗教組織などの歴史を追っても面白いでしょう。)


ガンダムで言えば、
「カリスマ」が  、ジオン・ズム・ダイクン
「新しい考え」が、ニュータイプ
「後継者」が  、ザビ家
「自分の考え」が、ジオニズム


ギレンによって更に『優性人類生存説』に歪められた『ニュータイプ』は、
「ザビ家に同調しない人間は下等種だからいくら殺しても良い」とまでいき、史上最大の大虐殺を引き起こしました。

それを批判するシャアやブレックスにしても言っていることは五十歩百歩です。

結局、これは『ニュータイプ』という言葉が「宇宙世紀の正義として独り歩きしたことに起因します。
各個人が、自分なりの『正義』を加味して『ニュータイプ』という言葉に付け加えていく。
提唱した本人は他界しているから、それを、完全に否定する事もできない。
そして、『オールドタイプ』(排除される側)とされた人たちは、生き残りを賭けて、勝手な考えを広める連中と対峙する。
現実の利権を狙う連中たちも、この時代のうねりに群がる。



宇宙世紀の70年代から91年まで、虐殺と粛清の嵐が吹き荒れた20年間、
その渦中の中心にいた『ニュータイプ』という理想。


その理想は、提唱者であるジオン・ズム・ダイクンの想定したものとは違うものになっていきました。
そう、違うものになり続けていたからこそ『スペースノイドの理想』としてあり続けたのでしょう。
それが、幸運だったのか、不幸だったのかはわかりませんが……





2:『ニュータイプ』という人間


『ニュータイプ』という言葉が、単なる政治スローガンと一線を画する理由として
「NT能力を持った人間は実在する」ことが挙げられます。


実際に劇中に10人以上は登場しますし、「強化人間」という形で、後からNT能力を追加する事もできました。
じゃあ、「NT能力を持った人間=人類の革新≒真の理想のスペースノイド」なのか?


流石に単純に等号では結べません!
3つ目(理想のスペースノイド)自体が、上で述べたとおり、単なる政治スローガンです。
本人がどう思っているかはともかくとして、宇宙世紀の社会全体では3つ目は認められていません。
(アクシズを落とすような過激派が言ってる『妄言』と取られているでしょう)



では、2つ目(宇宙に適応して革新した人類)はどうでしょうか?

これは、「そもそもNT能力とは何か?」という疑問から始まります。
これに関しては、「機動戦士ガンダム」の放映当時から、様々な説が唱えられてきました。
いくつかの作品を経て、現在ではだいたい以下のようにまとめられています。


『ニュータイプ(NT能力を持つ人間)』は、脳波(NT感応波)をサイコウェーブとしてミノフスキー粒子を通じて伝播する。
それによって、自らの意志を遠くにいる人に直接伝えたり、端末を操作する(サイコミュ)を使用することができる。

並外れた空間認識能力や直観力を持つのも特徴である。

バイオセンサーの補助によって、周囲のミノフスキー粒子を変化させてバリアを張ったり、サイコフレームの共鳴で人々の意思を繋ぎアクシズを押し返したりした。



現在では、『NT能力』は、基本的にミノフスキー粒子と絡めて説明されています。
・ミノフスキー粒子を使ってNT感応波を飛ばし、端末を操るファンネル。
・ミノフスキー粒子の動きを感知して「ピキーン!」と電波が走る直感能力
・周囲のミノフスキー粒子を変化させてIフィールドバリアを展開するバイオセンサー



……ならば、
「NT能力を持った人間」が出てきたのは、
実は『宇宙に適応した』のではなく
『ミノフスキー粒子が実用化されたから』なんじゃないでしょうか!!




ミノフスキー粒子は、そもそもU.C.0065にミノフスキー博士が「核融合炉の中で何らかの粒子が発生しているらしい」と仮説を立ててU.C.0069に実証されました。
核融合炉自体は宇宙世紀初期からあったわけで、微量なミノフスキー粒子というのは、以前から核融合炉経由で発生していたでしょう。

それによって、常人では考えにくい感覚(NT能力)を感じる人がスペースノイドの中から出てきた。
(閉鎖型コロニーや宇宙船は核融合炉搭載です。)
ジオン・ダイクンの頃は、それが「ミノフスキー粒子の影響」だとわからなかった。

だから、ジオン・ダイクンは地球連邦に
「最近、こういう(NT)能力を持った人間が出てきてるんだよ!
 これは新時代の始まりだ」
(だから自治権ちょうだい)と演説した。



その演説が、ジオン・ダイクンの知らないところで(彼の死後)ザビ家に利用され、
根本原因であるミノフスキー粒子も、彼の知らないところで、実用化されて、ザビ家の躍進を助けた。
そして、それから、何十年もの間地球圏に争いを引き起こす根本原因になってしまった。





「お互いに判りあい、理解しあい、戦争や争いから開放される新しい人類の姿」として演説したはずの、ジオン・ダイクン
その息子も、NT能力を持ったはいいが、結局ニュータイプ同士でも分かり合えることはなく、
地球にアクシズを落とす、大虐殺を企てて、彼が認めた一番のニュータイプと共にこの世から消えた。

なんともはや…、皮肉で恐ろしい結果ではありませんか……





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