『これ、弓親さんの心ですよ』
そう言って、とん、と恋次から胸元を叩かれたとき、一角は一瞬不思議な感覚を体内に感じた。
(なんだ、今の?・・・・・)
風が吹き抜けるこの丘の上で、先ほどから恋次と二人胡座をかいて座り込んでいる。
今自分の目の前で懸命に経緯を話す相手の話しに耳を傾けながらも、一角はその胸の中に落とされた感覚にずっと囚われていた。
「・・・・だから、俺が全部悪いんです。弓親さんの具合が悪く無抵抗だったことにつけこんで・・・・」
「ふん、まあそんなこったろうとは思っていたけどな」
「すんませ・・・っうわっ?!」
一角は、いきなり恋次の胸倉を掴み自分へと思い切り引き寄せる。そうして目尻に朱の入った鋭い瞳で恋次を睨むように覗き込んだ。
「もしお前が弓親と最後までしていたら、まず間違いなく俺はこの場でお前を叩き斬ってたぜ」
「っ・・・・・・・」
その気迫に思わず恋次が息を呑むが、彼はそのまま一角の視線から逃れようとはせず、落ち着いた声で言った。
「だったら、なんで本心を言ってあげないんすか?」
「なんだと?」
恋次の問いに、思わず一角の声色が変わる。だが、その少し怒りを含んだ声にも恋次は怯まなかった。
「そこまで大事に思っているのなら、なぜ弓親さんに言ってあげないんです?」
「そ、それはてめえには関係ねえだろっ!」
苛ついたように掴んでいた恋次の胸倉を手放すと、一角は恋次を、どん、と突き飛ばした。
「お前には知らない過去が、俺達の間にはあるんだよ!」
「その過去に甘えているのは、一角さんなんじゃないですか!」
「っ!!テメエ、何も知らねえくせにいっぱしの口聞いてんじゃねえよっ!」
かあっと顔を赤らめて怒りを露わにした一角が、恋次の目の前へ仁王立ちになる。まるで、今にも斬魄刀を引き抜きそうな勢いだ。
だが、恋次も後には引けない。弓親と約束したことを、今しか実行できるチャンスはないと思ったからだ。
(今を逃したら、また元の木阿弥だ)
恋次は座ったまま、鬼神のような一角を見据える。斬魄刀を持たない丸腰の自分の状況を考えると心底怖かったが、
彼はそれを表情に出すことはしなかった。
「何も知らないからこそ、感じて言えることだってあるんですよ・・・・あんたがそうやっていつまでも弓親さんに甘えているから、
弓親さんが前に進めないんだ」
「て・・・・・めえ・・・・・っ」
ぎり、と一角が歯を食いしばる。こんな生意気なことを言う後輩など、一発喝を入れてやればいいと思う反面、
なぜか一角はその場から動けずにいた。
「何も言わなくても傍にいるのが当たり前と思っている相手に、自分の存在意義など聞けますか?
それを聞くことで全てが壊れてしまうのではないかと怯えているから、
本当のことを聞けずに弓親さんはこの距離を崩さないんじゃないですか?」
「っ!」
ひゅっ、と一角が息を呑んで恋次を凝視する。その表情をみて、恋次は攻撃の手を緩めず突き進むことを決めた。
「あんたはそれを無意識でも利用しているんだ。関係を問いただすことを相手にさせないで、それでも傍にいさせるということを。
俺は確かに二人の過去は知りません。だけど、弓親さんを繋ぎとめているのがそんなにも危うい感情なら、
例えば俺がそれを叩き切って弓親さんを自分に引き寄せてたとしても」
恋次はゆっくり立つと、一角の前へと立ちはだかる。そうして、一角の目を逸らさずはっきりと言った。
「一角さんに文句を言う権利はない」
「!」
しん、と二人の間に沈黙が訪れる。
ざあ、と風が草むらを揺るがす音だけが響き、あとは灰色の空がそこにあるだけの、静かな沈黙だった。
(頼む、一角さん。気づいてやってくれよ)
一角の心が欲しいと言ったときの弓親の表情は、恋次は今まで見たことがなかったものだった。
この人がこんなにも無防備で怯えた顔をするのか、と心底驚いた。
(いつも自信に溢れていて気の強い発言が多いけど、その裏にはあんな怯えた想いが潜んでいたんだ)
あの震えながら自分を掴んでいた手は、一角を求めている。それに間違いはない。そしてこの人も。
恋次は勇気を振り絞ると、黙りこくっている一角に向かって言った。
「・・・・本当に欲しいものがなんなのか、弓親さんも一角さんも分かっているんでしょう?だったら、なんで言ってやらないんですか」
すう、と恋次は息を吸うと、丁寧にその言葉を繋ぐ。
「・・・・・『あんたが、好きだ』って」
「・・・・・言える訳がねえ」
「なぜ?」
「お前の言う通り、俺にはそんな権利、ねえんだ」
いつの間にか視線を外して俯いている一角が、ぽつり、と呟くようにして話し始める。
「昔、俺は酷くあいつを傷つけてしまった。だから俺はあいつに触れることも繋ぎ止めることもできねえ。
あいつが他の男を選ぶのなら、それも仕方がない・・・・」
その、はっきりしない物言いに今度は恋次が苛立ち、声を荒げた。
「だったら!何で俺が弓親さんに触れただけで、斬魄刀を始解しそうなくらいに怒っているんですか!」
「仕方ねえだろ!今日は、心の準備ができてなかったんだよ!」
しかも相手がお前なんて、とぶつぶつ言っている一角に、恋次が噛み付きそうな勢いで叫んだ。
「準備なんていつだってしてなかったんでしょう?もっともらしい言い訳すんなよ!
あんた、本当は弓親さんがどこにも行かないという自信があったんだ。
だけど、その思いが裏切られて初めて相手の存在の重さに気づいて焦ったんだよ!」
「っ・・・てめえ、黙って言わせておけば!」
「弓親さんに選ばせているようで、そうじゃねえ。あんたは無意識のうちに弓親さんを縛っているんだ。
相手がその過去のせいで踏み込んで来れないことをいいことにな!」
「!!」
再び、しんとした沈黙が訪れる。だがそれは一角ががくり、と膝を折りしゃがみ込んだことで破られた。
「どうしろってんだ・・・・・俺は、あいつに傍にいて欲しい。だがそれを言うことなんてできねえ・・・」
「どうしてそう思うんです?」
「昔、俺のせいで・・・・・ひでえことを、しちまったんだ。そんな俺がなんで言える?」
一角はそう言って頭をがりがり掻くと、救いを求めるような目で恋次を見上げた。
「あいつが、好きだって。傍にいて欲しいなんて」
(ようやく、言いやがった。この人)
「・・・・・・・・いいんじゃないっすか、それで」
「?!」
恋次がほっとしたようにそう言うと、一角が驚いたように瞳を丸くした。
「それが、何よりも一番弓親さんの欲しい言葉だってことですよ」
恋次が視線を一角から尸魂界の街並みへと移す。丘の上から見る街並みは、色の無い無機質感がより際立って少し寂しい気分にさせた。
「重い過去があるから、大事なことが見えなくて言えなかった。だけど、本当は二人とも同じ気持ちだったんじゃないっすかね。
ま、俺はずっと、二人を見てそうだと思ってましたけど」
「・・・・・そうって、何がだ?」
丸くした目のまま一角が恋次を見上げて問う。恋次はその声に振り向くと、にかっと笑って言った。
「相思相愛だってことですよ」
「!!・・・・・・・ケッ、こっ恥かしいこと口にしやがる」
一角は照れたようにして頬を掻くと、立ち上がって先ほど恋次が見つめていた街並みを見下ろした。
びゅう、と風が下から吹き上げてくる。それらが一角や恋次の着物をはためかせ、舞い上がるようにして草むらを駆け抜けていった。
「本当に、あいつも、同じ思いなのか?」
「・・・・・・・それはあんたが、確かめるべきことですよ。一角さん」
恋次のその言葉に、一角が「そうだな」と言って何か重いものを吐き出すかのように、長い溜め息をつく。そうしてぽつりと呟いた。
「・・・・・・お前の言う通りだよ。俺はずっと、分かっていながら逃げていたんだ。あいつに甘えて、あいつを好きすぎて」
「一角さん・・・・・」
「ありがとな、恋次。ようやく俺は、過去と向かい合うことが出来る」
そう言って、一角は振り返ると恋次を見てにやり、と笑う。そして、とん、と自分の胸を軽く叩いた。
「?」
「確かに、もらったぜ。弓親の想いをな」
「あっ!」
その言葉にぱあっと表情を輝かせた恋次を横目で見ると、「じゃあな」と呟いて一角は尸魂界へと姿を消した。
「・・・・・・・・・はあっ、お、終わった・・・・・・」
瞬歩で移動する一角の背が見えなくなるのを確認すると、恋次は腰が抜けたようにして草むらへとしゃがみ込んだ。
(いや、あの気迫に素で対峙するのは、マジで怖かったぜ・・・・・)
自分が無事でいることにもう一度安堵の溜め息を漏らすと、恋次は灰色の空を見上げた。
「解きましたよ、弓親さん。あとどう結ぶかは」
二人次第ですよね、と心の中で呟く。そして、恋次はそのままごろん、と草むらに横たわると、無意識にそっと笑みを浮かべた。
いつから相手をまっすぐ見なくなったのだろう。
隣に並んで歩いていたお前が、僅か後ろへ移動して歩くその距離を寂しいと思っていたはずなのに、それを引き戻そうとはしなかった。
たぶん、その手に触れて力任せに引き寄せてしまえば、お前は困ったように微笑んでそれを受け止めるだろう。
だがそれは、本当に俺に対する愛情なのだろうか?
それともそれは愛などではなく、足手まといになったという意識がさせる、罪の意識なんじゃないか?
(ああ、そうだ。俺は、それを確かめるのが怖かった。そして、同時にお前がその罪の意識から解放され、
いつか俺から離れるのではないかという危機感がその距離をそのままにさせた)
この距離が、お前と俺を繋いでいてくれる。それら全ては、たった一つの想いから生まれたものだったのに、気づかないふりをしていた。
一角は屋根の上を今自分が出せる限りの速さで駆け抜けながら、そんなことを考える。
もうすぐ十一番隊の隊舎が見えてくる。
あの隊舎の一番奥、今では目を瞑ってでも辿り着けそうなほど共に時間を過ごした自分達の部屋がある場所。
そこにあいつがいる。
ふと、恋次に叩かれた胸が熱くなる。
(これは、お前の想いか・・・・・・・・・弓親)
まずは、部屋に入ってから何を言おう。たぶん薬が効いて眠っているはずだから、看病をして・・・それから。
――――――――――――それから?
(ああちくしょう!考えるのは性分じゃねえのに!)
一角は頭をぶんぶんと左右に振りながら、両腕を思いっきり振ってスピードを上げる。
そうして彼が十一番隊の屋根上に着いたとき、偶然ながら弓親も床の中で、ふと目を覚ました。
「ん・・・・・・・」
弓親が喉の渇きを覚えて、軽く両目を擦りながら身体を起こすと、枕元に投げられたままの自分の褌と薬の空袋、
そして入り口に置かれている握り飯が視界に入ってきた。
(・・・・・・ああ、そうだった)
全てが繋がって、数刻前の出来事が脳裏を過ぎる。
弓親はぼんやりとした表情のまま水差しに手を伸ばして、グラスに注ぎ一気に飲み干した。
はあ、と一息つくと、弓親は恋次との会話を思い出す。もう一度それを確かめるように自分の胸に拳をとん、と付けたその時だった。
「え?――――――――――」
「あ・・・・・・・」
急に現れた霊圧と障子が開いたのは同時だった。驚いた弓親が手にしていた空のグラスを落とし、
それがころころと畳を転がっていく。だが二人共そんなことに気づかないように、身動きせず互いを見つめあった。
「お、おう。起きていたのか」
「・・・・・・・うん、ついさっきね」
「そ、そっか」
上ずった声で一角が障子を後手に閉める。弓親は一角から視線外すと、自分の手元を見つめて黙り込んでしまった。
「具合はどうだ?」
「だいぶいいよ。熱も下がったし」
「そうか」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
居たたまれない沈黙が二人に舞い降りる。そう言えば、昔二人が喧嘩をしてこんな雰囲気になったときは、
いつも最後には弓親が折れてくれて、仲を戻したことを思い出す。
(本当に、俺はいつも、こいつには甘えてばかりで)
一角が黙ったまま弓親の傍へと歩み寄り、どかり、と腰を降ろす。それは、布団を通じて相手の重みを感じるほど近い距離だった。
弓親は、尸魂界に来て以来なかったその距離に、はっと息を呑んで身体を強張らせた。
(どうしよう、こんなに近くに一角を感じるなんて、久しぶりなのに)
嬉しいはずの距離が、今の弓親には気分を重くさせる。
きっとこれは、恋次とのあの状況を見た一角が、自分を罵るか呆れ果てて何かを告げようとして近づいているのだと思った。
(『何か』?そんなの、決まっているじゃないか。それはずっと僕が恐れていたことだ)
沈黙が余計に弓親の予想を悪い方向へと導いていく。あまりにも怖くて、弓親は顔を上げることができなかった。
(やっぱり男娼上がりは変わらねえんだな、とか、男を忘れられない身体なんだな、とか・・・・・・そして、一角はきっと僕を捨てる。
汚いものを見るような瞳で、一角は僕を突き放すんだ)
男達に寄ってたかって犯されそうになった自分を、一角は救い出した後は自分に触れてはこなかった。
それは僕を思いやってじゃなく、本当は『触れたくなかったから』だったら?
怖くて想像することすら嫌悪していたそんな考えが脳裏を過ぎり、弓親は知らず青ざめた。
(ああっ!嫌だ)
一角に嫌われるのなら、死んだほうがマシだ。どうせ嫌われるのなら、あの過去など剥き出しにしてこの感情を一角にぶつけてしまいたい。
(嫌だ嫌だ嫌だ。僕は、君と離れたくない)
同じように、一角も黙ったままこの部屋に入ってから瞳を合わせてくれない相手の指先を見ながら、悶々と考え事をしていた。
(もし、もしもだ。こいつが既に恋次を選んでいたら。俺はどうすればいい?)
俯いて黙り込む弓親との距離はこんなにも近いのに、心が見えなくて絶望するほど遠く感じる。
(なんで何も言ってくれねえんだ・・・・・・・もう、駄目なのか・・・俺達、もう戻れないのか?)
ぶる、と一角の体が震えた。瞬間、彼は腹の底から突き上げるような感情が沸き上がるのを感じる。
(冗談じゃねえ、そんなこと認める訳にいかねえ!頼む、まだ間に合ってくれ。弓親に俺のこの言葉が届いてくれ!)
直後、がたん、という音と同時に、二人の声がまるで計算されたかの如くかっちりと重なった。
「僕はまだ君が好きなんだ!!」
「俺はまだお前が好きなんだ!!」
「・・・・・・・・え?」
「・・・・・・・・あ?」
弓親が身を乗り出したために、転がった水差しから零れた水が畳みに吸い込まれていく。
だがそんなことに気づいている者は、この部屋には誰もいない。
ただ二人、ぽかんと口を開けて、呆然と互いの顔を見つめている。
「今、なんつった?」
「君こそ、なんて言ったの?」
「お、お前が先に言えよ」
「嫌だよ、君から言ってよ」
「だ、だいたいお前の方が先に声を出してたぞ」
「そんなことない、ほぼ同時だった」
「・・・・・・・・っ」
躊躇うように顔を背けた一角を見ながら、弓親は重なって聞き辛かった先ほどの相手の言葉を、もう一度反芻する。
そうして、それらの言葉を理解して全身に染み渡らせたとき、弓親の体は小刻みな震えに襲われた。
(ああ、嘘だろ)
急に震え始めた手をどうすればいいか分からず、とりあえず自分の胸元をくしゃり、と握り締める。
頬はだんだん紅潮してきて、喉が再びからからに渇いてきた。
(初めて、言ってくれた・・・・・夢みたいだ。いや、夢じゃないことを確かめたい)
「・・・・・・ねえ、お願いだよ」
弓親が頬を染めたまま、勢いよく布団を跳ね除ける。そして震える手を伸ばし、一角の手を握った。
「僕、初めて聞いたんだ。ずっと欲しかった言葉を。だから、お願い・・・・・」
ぎゅ、と弓親の手に力が入る。
まるで走ったあとのように息を上がらせて、震える両手で一角の手を強く掴む弓親の瞳は今にも零れそうなくらいに潤んでいた。
「お願い・・・・・・あと一度で、いいから」
「弓親・・・・・・・」
その肩の震えに、一角は自分が相手に強いた長い月日を感じて、胸が痛む。
「すまねえ、弓親。俺は、本当に最低だ」
「一角」
握られた手を更に強く握り返す。一角はそのまま弓親の身体を引き寄せると、本当に久しぶりにその身体を腕の中に収めた。
「お前が、好きだ。ずっと、ずっと昔からだ」
「!・・・・・・・・ああ、一角。僕はもう・・・・・・」
はあ、と熱い吐息を漏らして、弓親が一角の胸へと顔を埋める。
「さっきまで世界の終わりにいた気分だったのに、君の一言で全てが・・・・・・」
弓親は掴んでいた一角の手を離すと、両腕を伸ばして一角の身体を抱いた。
「世界が、変わったよ。なんて・・・・なんて素敵な瞬間なんだ!」
「っ!お前、大げさだっての」
顔を耳まで真っ赤にした一角が、わざとぶっきらぼうに答える。だが自分にしがみつくようにしている弓親を見つめる眼差しは、酷く優しい。
「待たせたな、弓親。きちんと言わなければと思いながら、ずっと先延ばしにしていた。本当に、すまなかった」
「一角・・・・・僕も、そうだった。いつか、君にちゃんと言わなくちゃと思っていたのに。
いつの間にか、もう僕達はこんなところまで来てしまっていたね」
見上げる弓親の頬にそっと手を這わす。それを気持ち良さそうに受け止めて瞳を閉じた弓親の耳元へ、一角が静かに囁く。
「あの晩、お前を守れなくて、すまなかった」
「・・・・・僕も、あの頃は君を傷つけてしまうほど弱くて、ごめんね」
くす、と弓親が小さく笑ったのをきっかけに、一角もくっ、と笑い始め、いつしか二人は抱き合いながら、
ごろごろと布団の上を転がり笑いつつ抱きあった。
「ふふ、久しぶりだよ、一角の匂い」
「俺も、久しぶりすぎて興奮しちまった。ほら」
「っ!」
そう言って一角は自分の下半身をぐい、と弓親に押し付ける。その固い感触に、弓親の頬にさっと朱が帯びた。
「一角、ちょっと待って・・・・・」
「待てねえよ。何十年お預けくらったと思ってんだ?それに」
「?」
弓親が不思議そうに言葉の続きを待つ。その、少し小首を傾げた顔が妙に可愛いと思いながら、一角はにやりと笑った。
「お前の気持ちも、さっきちゃんと確認したしな」
「!」
『僕はまだ君が好きなんだ!!』
かあ、と顔を真っ赤にした弓親が、何かを言いた気にわなわなと口を震わせたが、
一角がとん、と相手の胸元へ拳をぶつける仕草をしてみせたことで、弓親の表情が変わった。
「恋次からもらったぜ、お前の気持ち。だから俺の心も、お前にくれてやる。ちゃんとしまっておけよ」
「!!いっか・・・・くっ!?」
ぐい、と弓親の両肩を押さえ込むと、一角がそこに馬乗りになる。
そして、着ていた隊服を無造作に脱ぎ捨てると、既に荒くなった息のまま顔を近づけて弓親の耳を舐めた。
「あっ!」
「悪い、久々すぎて加減できそうにねえ。覚悟しろよ、弓親」
「・・・・・わかった。好きにしていいよ、一角。僕もそれを望んでる」
そう言って弓親は一角へと長い腕を伸ばす。それに導かれるようにして、一角は久しぶりに味わう弓親の舌を求めて深く口付けた。