流魂街の中でもかなり治安の悪い地区に、男娼を売り買いする場所がいくつか存在する。
きちんと店を構えているところや、道端で男を誘う者がいたりなど商売方法は様々だが、
夜ともなれば薄暗い明かりが幾つか灯されることが合図となり、どこからとも無く男達がその場所へ集まってきた。
そんなある日、店先に座っている男娼達を冷やかしながら歩いていた男が、ふと街外れの木に凭れかかっている者がいることに気づく。
薄暗くてよく見えないが、女物の少しは上等な着物を纏った細身の外見であることは分かった。長い髪で顔はよく見えないが、
こんなところに立っているのなら男に買われるのを待っている男娼の一人だろうと男は目星をつける。
(とりあえず顔でも見てから決めるか)
男はまっすぐにその者に向かって近づくと、「おい、あんた」と一声かける。
「ここに立っているってことは、客を探しているってことか?・・・・!!」
その声に振り向いた顔を見て、一瞬男は息を呑んで立ち止まった。
長い睫に縁取られた大きな瞳に白い肌、赤く染まった唇は一見女性に見える。本当に男だろうかと相手の胸元を見ると、
確かにそこは綺麗なほど平らな線を描いている。
「へえ、上等なタマじゃねえか?おい、お前幾らだったら買えるんだ?」
「そうだね・・・・・・僕は安くはないよ。逆に幾らなら出せる?」
声は男にしては案外高めだ。だがよく見ると喉仏がしっかりしている。それを見てようやく男ははっきりと相手が男だと確信した。
「そうだな、俺は今日結構いい金額を持っているんだ。最低でもここら辺りの店で出す金額程度は出せるぜ?
だが、お前の奉仕次第だけどな・・・・・・どうだ?」
上から下までその美しい男を舐めるように見ていた男が、金の入っている懐あたりをぽんぽん、と叩く。
それを見た青年は、くすり、と微笑むと鈴が鳴るような声で「いいよ」と答え、相手の腕に絡み付いてきた。
「今日は楽しい夢を見させてあげるよ」
「そりゃ楽しみだ。こんな綺麗な男に会えるなんて、俺はツイてるぜ・・・・・ぐあっ!?」
嬉々として歩みを進めようとした男の後頭部に、急に鈍い音が響いたかと思うと一瞬にして目の前が暗くなる。
「な、何を・・・・」
「お休み、いい夢を」
そうして、意識を失って道路に転がった男の懐へ綺麗な顔をした青年がそっと手を忍ばせる。
「・・・・なあんだ、期待しちゃったけど大して入ってないじゃん」
薄汚い袋を開けて中身を確かめた青年は、不満そうな表情で背後を振り向く。
そうして、いつの間にか寄り添うように立つボロボロの日本刀を持った男へ、持っている金の全てを見せた。
「どうする、一角?これくらいなら、半分もらっていってもいいかなあ?」
「そうだな、まあ半分残しておきゃコイツもさほど困らねえだろ。ちゃんと懐に戻しておけよ、弓親」
「うん、分かってる」
弓親は頷くと、袋に半分金を戻して倒れている男の懐奥へそれを入れる。
そうして二人は男を道の端に移動させると飛ぶようにしてその場から走り去っていった。
「ねえ、今日も成功したね。何食べようか?これなら数日は困らないよ」
「おう、じゃあたまには肉でも食いてえなあ。猪1頭買って、残りは毛皮と干し物にするか?」
「ええー?猪の肉臭いんだもん。僕兎がいいな」
「お前、兎の毛皮が欲しいだけだろが」
「ふふ、分かった?」
弓親はそう言うと、隣を走る一角から伸ばされた腕を飛びつくようにして取り、指先を絡める。
一角はその様子をちら、と横目で見ると照れくさそうにしてまた前を向きなおした。
こうやって自分の隣で走るたびに流れていく黒髪を見ることが、一角は密かに気に入っている。
「・・・・・やっぱ猪にしろ」
「なんでさ?」
「あの男がお前を舐めるようにして見ていたから、むかっ腹が立って仕方なかったぜ。今すぐしたくて仕方ねえくらいだ。
だから精力つけるためにも、猪を食う」
その言葉にくす、と弓親は笑うと「わかったよ」と言って絡む指先に力を込める。
「食欲と性欲は近いものだからね。僕だって、今すぐ君が欲しいくらいだからさ・・・・それなら、猪が妥当かな」
一角はそれを聞いて、口端をにやりと引き上げる。
「家に戻ったら、覚悟しておけよ。飯食ったら待ったなしだからな」
薄汚い簡易的な小屋の中に、蠢く二つの影がある。
ぼんやりとした月明かりだけが室内を照らし出し、ほの暗い中で湿度を含んだ音が響き渡っていた。
闇に浮かぶ白い肌に、体躯のいい男が被さるようにして吸い付いてる。腕は床に寝転ぶ弓親の両足を広げさせており、
片手をその中心へと忍ばせていた。
「あ・・・・・・一角・・・・・っ」
「弓親」
「ん・・・・ふう・・・・」
弓親の胸元へ舌を這わせていた一角が、身体を起こして彼の唇へと覆い被さる。溢れるような唾液を互いに音を立てて吸い込み、
舌を絡ませては何度も何度も貪った。
弓親は一角の首に両腕を絡ませ、夢中で一角の唇へ舌を出し入れする。一角の指が苦しげに反り返った中心から離れ、
弓親の奥へとあてがわれると、口端から熱い溜め息が漏れた。
「お前の先走りで指がぐちょぐちょだぜ。これならすんなり入るかもな」
「や・・・・・だ、そんなこと言わないでよ・・・・あっ!」
いやいやと首を左右に振るが、つぷりと差し込まれた指先を感じて弓親の背が仰け反る。それを捕えるようにして一角が彼の耳元で囁いた。
「お前、俺に指を入れられるの、好きだよな・・・・・なあ、どうなんだよ」
律動するように指を抜き差しされて、弓親の息がより荒くなる。途切れ途切れの声で弓親はようやく
「嫌・・・・言えないよ・・・・・そん・・・・なの・・・」とだけ呟くが、一角はそれを許さない。
「言わなきゃ抜くぜ?指先でここ擦られるの、好きじゃねえか?ん?それとも言わねえってことは、止めてほしいのか?」
前立腺の辺りを擦っていた指先が、ふいに出ようと後退する。それに気づいた弓親が、慌てて一角の体にしがみ付いた。
「嫌!抜かないで・・・・・」
「だったら言えよ」
「ん・・・・・す、・・・・き」
「もっとはっきり」
いよいよ指が抜かれるその寸前、弓親がねだるようにして腰を動かして叫んだ。
「好きだよ!・・・・・君の指も・・・・・」
「指も?」
はあはあ、と息を弾ませて、涙で潤んだ瞳を一角に向けた弓親は、見せ付けるようにして紅い舌で唇を舐めると一角を引き寄せた。
「ああ、そうさ。君の指も、君のペニスも、君の声も、君の汗も、君の血も、全てが・・・・好きなんだ。だから・・・・・もっと、してよ」
それを聞いた一角は、にやりと笑うと「よくできたな、弓親」と耳元で呟き、耳たぶを甘く噛みながら指を奥深くに入れ込んだ。
「ああっ!!」
「もう1本指入れるぜ・・・・・よく味わえよ」
そう言って一角が指を増やして抜き差しを激しくする。青い月明かりが弓親の身体を余計に白く浮き上がらせ、
その中心で苦しそうに張り詰めている弓親自身が律動に合わせて揺れている。
それを口で加えると、一角は舌先で窪みの部分をなぞるようにして攻め立てた。
「あああっ!・・・・い、一角・・・・もう・・・・欲しいよ」
弓親は身体を起き上がらせると自分を加え込んでいる一角の頭へ手を伸ばし、動きを制するようにして頬に触れる。
それを上目遣いに見ると、一角は口と指を同時に引き抜き、起き上がった弓親の前に反り勃った自分自身を突き出す。
そうして、弓親の顎を引き寄せ口元へそれをあてがった。
「じゃあ、よく濡らせよ。お前の身体を傷つけないようにするためにもな」
「うん」
弓親は目の前に突き出された一角自身をうっとりと眺めながら、紅い舌を伸ばしてそれを絡めとり、口に含む。
むっとした雄の匂いが鼻につくが、それすらも一角の匂いであるなら弓親にとっては媚薬になる。
じん、と弓親の奥が痺れるような感覚に陥りながら、口内で硬くなっているそれに吸い付くようにして口を窄めた。
「うっ・・・・ああ・・・・・」
弓親は一角自身を咥えながら、気持ち良さそうに瞳を閉じる一角の表情を見て満足気に微笑むと、
一度口からそれを抜いて今度は全体を舌でなぞるように這わす。
唇と舌で嘗め回すと、一角のそれが重みを増して余計に天へと向かって勢いよく跳ね上がる。
その弾みで弓親の鼻先に一角のものが当たったが、弓親は構うことなく再びそれを咥えて、尚且つ片手では睾丸を優しく揉み解した。
「やべえ・・・・・これ以上されたら出ちまう。弓親、そろそろ入れていいか?」
ちゅっ、と音を立てて一角自身を口から離すと、頬を紅潮させた弓親がにっこりと微笑んで頷いた。
「うん、もう僕も我慢できない。早くきて」
「よし、じゃあいくぜ」
再び床に寝転んだ弓親の体に覆い被さるようにして、一角が自身を弓親の奥へとあてがう。
そうして、ほんの少しそこへ力を入れると、まるで吸い込まれるようにして一角の先端が飲み込まれた。
「ああっ!」
「くっ・・・・もう少し我慢しろ、弓親」
そのままゆっくりと一角が自身を埋め込む。ようやく全てが入ると、一角は大きく息をついた弓親の頭をそっと掌で撫でた。
「大丈夫か?」
「うん平気・・・・・一角、もう動いていいよ」
「おう」
その言葉に頷くと、一角は弓親の太腿を持ち上げて思い切り腰を打ちつける。
その激しい動きに、弓親の黒髪が大きく乱れ床一面に広がっていく。
くちゃくちゃと粘膜が擦れるような音と、皮膚がぶつかる音が響き、一角の肌から汗が零れ落ちる。
自分の真上で夢中に腰を振る男を見て、弓親は心から一角を愛しいと感じた。
(君が好き・・・・・僕を欲して、僕の全てを侵食する君が、心から好きなんだ)
「あっ、ああっ」
「くう・・・・すげえ締まるな、弓親・・・・・もう少し力抜け・・・・」
「だ、だって・・・・・・ああ、すごく・・・・い、いいんだもの・・・・や、あ、あ、あっ!」
弓親が一角の背に手を伸ばし、自分へと引き寄せる。二人共夢中になって互いの唇を貪りあう。
やがて、一角がたまらないようにして唇を離すと、「やべえ、もうイクぜ」と言って挿入を深くする。
太く熱い楔が激しく出し入れされ、弓親自身ももうぱんぱんに反り立っている。
髪を振り乱し、まるでうわ言のようにして弓親は「もう駄目・・・・・いっちゃうっ!ああっ!」と叫ぶと
全身を痙攣させて自分の腹に激しく白濁を解放した。
「っ!弓親キツ・・・・うっ!」
その瞬間、奥が思い切り締め付けられ、それに一角も耐え切れず小さく呻くと弓親の中へ熱く滾る白濁を放出した。
大きく互いに息をつきながら、一角は弓親に倒れこむようにして圧し掛かる。弓親は彼の体についた綺麗な筋肉をなぞりつつ、
荒い息のまま「僕の出したやつが、腹に残っていたのに。倒れこんでくるから、君が汚れちゃったじゃないか」と言って一角の頬にキスをする。
一角はようやく息を整えると両腕で弓親を抱きしめる。
「お前のなら、汚くなんてねえよ」
「ふふ、ありがとう。ああ・・・・・一角もすごく出したね・・・・・・」
弓親はまるで確かめるようにして瞳を閉じると、奥の蕾をきゅ、と引き締める。
その中にまだ挿入していた一角は「おいこら」と朱色に縁取られた目尻を上げながら、弓親を睨んだ。
「俺のブツがまだ入っているってのに、千切る気か?」
「あはは、ごめんごめん。つい嬉しくってさ」
そう言って、ちゅ、と弓親は一角の頬にもう一度キスをする。そして「お風呂一緒に入ろうよ、どうせまだやり足りないんでしょ?」と微笑んだ。
「おいおい、俺だけが足りないみたいに言いやがって。お前もだろ?」
「あれ、ばれたかい?」
「しょうがねえな、ちょっと待ってろ。風呂沸かしてくっから」
一角はそう言うと、そっと自身を弓親から引き抜き、そのまま風呂場へと歩いていく。
弓親はその鍛えられた背中を見つめながら、小さく微笑む。
(ずっと、こんな日が続けばいいのに)
薪に火をくべる音を聞きながら、弓親は乱れた格好を直すことなく月明かりに全てをさらけ出している。
たくさんの精液にまみれた自分を、弓親は不快には感じない。むしろ、酷く幸せだった。
(君の精液も、汗も、唾液も、何もかもが愛しい)
一角と共に、男娼目当てに来る男を襲うようになって数年が過ぎた。それが手ごわい相手であれば、
一角の戦闘相手となり生きるか死ぬかの話になるのだが、今のところ一角を唸らせるほどの剣客には当たっていない。
稀に戦闘になり殺すこともあったが、当面の生活に間に合うだけの金だけを頂戴して、命は助けてあげているのがほとんどだった。
(永遠なんてあるわけがないことも、充分に分かっている。だからこそ、余計に願うんだ)
君と出会って、僕は生きる道標を得た。一角と出逢う前の、生きることを放棄していた僕はもう、いない。
「・・・・・・・僕は」
例えどんな形であれ、君の傍にいて、君が歩む生き様を最期まで見届けたい。
(それが君に願う、たったひとつのことなんだ。他は、何もいらない)
格子窓から僅かに見える月を、弓親は黙ったまま睨むようにして見つめている。
やがて、風呂場から「おーい、風呂沸いたぞ!」と元気な声が響いてきて、軽く身体を流したらしい一角が姿を現した。
「ありがとう。お湯は温めにしてくれた?」
「何言ってんだ、熱くなけりゃ風呂じゃねえだろ?」
「ちょっと!一角どうせお風呂でも僕の身体に触れてくるでしょ?!それだと、あまり熱いとのぼせるじゃないか!」
ぎゃんぎゃん怒る弓親に、一角がうんざりした表情で「はいはい、分かったよ」と言ってひょい、と弓親を抱き上げる。
「わっ!?」
「全く、我儘なお姫様だぜ。風呂に入ったら、その口、すぐに黙らせてやるからな」
そういって笑う一角に、弓親が嬉しそうに微笑み返す。そしてそっと小さな声で呟いた。
「好きだよ」
「ん?何か言ったか?」
歩きながら首を傾げた一角に、弓親が大きく首を左右に振ると一角の首へと腕を巻きつける。
「ううん、なんでもない!」
「ぐえっ!?ちょっと、苦しいだろうが!締めすぎだっての」
「あはは、ごめんごめん」
笑いながら風呂場へ向かう二人がいなくなると、先ほどまで濃厚な空気を漂わせていた室内がしん、と静まり返る。
弓親が横になっていた床にひっそりと注ぎ込まれていた月明かりが、やがてか細くなり消えていく。
そして、室内はいつしか闇が全てを覆い尽くしていった。