言葉なんていらない


その手は乱暴なようでとても優しく、肌の上を動いていく。
落ちる口付けは朱色の跡を残しながら、弓親の白い肌へと幾つもの足跡を残していき、 その都度弓親の口から歓喜の吐息が漏れていった。
(何年ぶりだろうか。この肌に触れるのは)
(どれほど待ちわびだだろうか。この温もりを感じることを)
弓親も一角も頭の隅でそんなことを思いながら、本能のまま相手を互いの熱で侵蝕してゆく。
大きく開かれた弓親の足の間に身体を滑り込ませ、勃ち上がりかけた弓親のそれを指先で弄びながら、 一角は弓親の白い肌に噛み付くようにして跡を残した。
その動きに身体をしならせたことを感じると、荒い息を吐きながら、我に返ったようにして一角が喘ぐ弓親の唇を塞ぐ。
漏れる息すら逃すまいと、貪るようにして弓親に覆い被さる一角に、苦しげな顔で喉を逸らせて弓親が相手を押し留めた。
「待っ・・・・・・て、一角。苦しいよ・・・・・」
「あ、悪い。つい、な」
やっと気づいた一角が、身体を離して困った顔をする。
それを見た弓親が、くすり、と小さく笑うと「ごめん、違うんだ」と言って彼の首に腕を絡めた。
「久しぶりすぎて、戸惑っているだけ。本当は、もう死ぬほど嬉しい」
「知ってるっつうの。だってほらよ」
そう言って、一角は濡れている弓親自身を指先で抜くと、ぴちゃ、と卑猥な音を立てる。
「あっ」
「大したこともしてねえのに、こんなにしちまっているお前を見りゃ、分かるっての」
「っ・・・・・」
恥かしいのか、悔しいのか、弓親が黙ったまま腕で顔を隠して逸らせると、一角はにやり、と笑ってその腕を解かせた。
「ばーか、俺も同じだっての。ほら」
そう言って、弓親の腕を一角自身へと持っていかせる。そうして、いきり立った自身を握らせた。
「熱い・・・・・ね」
「だろ?俺だってな、どれだけこの時を待っていたか」
「一角」
「ん?」
弓親が泣きそうな顔で、小さく微笑んだ。
「僕、もう今死にそうに幸せだよ」
「・・・・・馬鹿野郎。こんなことで死んでたまるか」
一角は噛み付くように弓親の首へと跡を残す。その感触に弓親が眉間に皺を寄せ、肩を震わせた。
「てめえと俺の死に場所は、戦いの中だけだ。そして、それは」
「あ!・・・・・やっ!」
くい、と一角が弓親の奥へと指を差し入れる。硬い入り口は、1本の指がようやく通る程度しか開かない。
それを感じた一角は、自分に抱かれなくなって以来、誰とも身体を重ねていなかったことを知り、 弓親に対してどうしようもないくらいの愛しさが募った。
(ああ、俺はこいつを、もう手放すなんてできねえ)
「・・・・・・・・俺とお前は同じ場所でいるときに死ぬんだ。二人が離れた場所で死ぬなんてこと、絶対させねえ」
「一角・・・・・・!」
愛撫に過敏に応え背を仰け反らせる弓親に気をよくした一角は、奥の蕾へ入れた指を解すようにして掻き回す。
次第に粘りのある音を出し始めたそこは、一角の指を数本受け入れるまでに至っていた。
「・・・・・なあ、弓親」
「な、に・・・・・?」
荒い息のまま、一角を見上げた弓親の顎を、そっと片方の指先で掬い取ると、彼にしては珍しく苦しげな表情で言った。
「俺ァ気が狂いそうなくらい、お前を抱きたかった。ずっと、ずっとだ」
「!!」
はっ、と弓親の瞳が見開かれる。だがすぐにその後、猛った一角自身が奥へとあてがわれ、促すような口付けを迫られた弓親は、 返事をする代わりに腕を伸ばして一角を抱きしめた。
「欲しい・・・・・・一角。早く僕を・・・・・」
「ああ、分かってる」
くちゅ、と音がした後、圧迫されるような熱い芯が弓親の中を満たしていく。
それは、ずっと弓親が望んでいた、そしてずっと前から知っている感覚だった。
「ああ・・・!」
仰け反り尖った胸先へ、一角が唇を落とす。噛み付くような感触と、下腹部に打ち付けられる熱さに弓親は我を忘れて声を上げ、 手を空へと向けた。
「や、あっ・・・・・い、一角ッ!」
「弓親ッ」
伸ばした腕先は、一角が捉え自分の首へと絡めさせる。抱きしめた体は吸い付くようにして互いにぴったりと嵌った。
(欲していた。ずっと、君を)
密着した熱、押し込まれる塊、溢れる汗と唾液、そして、ようやく重なった心。
「一角」
意味もなく呼ぶ声に、一角も当然のように応える。
「弓親、好きだぜ」
「あ・・・・・僕だって、君をっ・・・・!ああっ!」
突き上げられる振動に、黒髪が揺れ、声が掠れて出なくなる。
(ああ、こんなにも君を好きなのに)
「一角・・・・・!」
(君の名しか、呼べない)
そしてそれが、なんて幸せなことなのだろうと、弓親は心から感じる。
(本当に幸せなときって、言葉なんていらないんだ)

呼ばなくても、君も僕も同じ思いだということが、充分肌から伝わってくる。

熱い芯が弓親を貫き、濡れた音が室内に響き渡る。
角度を変えて突かれるたびに、弓親の身体がしなり、その隙を一角の唇が襲い掛かる。
ああ、この熱と質感を。
君の吐息と声を。
全身が貪るようにして欲しているのが分かる。
弓親は激しく奥を突かれながら、一角にしがみ付くと思わず目尻から一筋の涙を流した。
激しい動きが弓親を揺らし、一角の挿入が深くなったとき、互いに絶頂が訪れる。
そしてその瞬間、弓親が掠れた声でうわ言のようにそれを発した。
「僕も、好き・・・・・だよ」
熱い芯が己を貫き、中心から蜜が溢れるのを感じながら、弓親がうわ言のように続ける。
「君が、誰よりも、好きだ」
「弓親・・・!」
「ん・・・・・はあっ!!」
「くうっ!」
突き上げられた奥に激しい迸りが叩きつけられ、弓親自身からも勢いよく飛沫が飛び散っていく。
しばらく二人は荒い息が整うまで身体を重ね合わせて黙っていたが、やがて一角がそっと弓親の乱れた髪を指先で梳いてやると、 彼は満ちたりた表情で瞳を閉じた。
「・・・・遠くて、一瞬だったな」
「?何がだ?」
「今までのことさ。君が近くにいるのに、触れられない日々が永遠に続くのかと絶望していた。だけど、今日君に触れられただけで」
弓親は腕を伸ばすと、一角の首に絡みつき身体を密着させた。
「そんな日々、もうすっかり昔話に感じるよ」
「お前は現金なヤツだな」
クッ、と笑いながら一角が弓親と同じように相手の身体へと腕を伸ばす。そして艶やかな髪を撫でながら、 確かめるように彼の体を片手で抱きしめた。
「これからは、ずっと一緒だ」
「・・・・・うん」
一角がふいに弓親の額へと口付けを落とすが、照れたのかすぐに顔を背けて「んじゃ、何か飯もらってくるぜ」と言って立ち上がった。
「え?いいよ、君が持ってきてくれたおにぎりがあるし・・・・」
「駄目だ。明日から隊に戻るつもりなんだろ?だったら、毒で体力も消耗しているし、そんなんじゃ腹ごしらえでなんてできねえ。 俺が食堂からいくつか飯をもらってきてやる」
そう言って隊服を着始めた一角に、弓親は小さく笑うと、付け加えるようにして言った。
「まあ、体力消耗は毒だけに限ったことじゃないけどね」
「!・・・・う、うるせえ!これはお前も同意の上だろうが!」
かあ、と顔を紅くした一角は、慌てて着衣を整えると部屋を後にしようとする。
だがその振り向き様、にやり、と口端に笑みを浮かべると「腹一杯になったら、もう一戦だからな」と言って部屋を出ていった。
「・・・・一角ったら」
一瞬ぽかん、とした弓親だったが、言葉の意味が分かると可笑しそうに笑いつつ、乱れた布団へと身体をもぐりこませる。
触れられなかった数々の日々。逆に過去の触れられた日々を思い、嘆くだけだった日々。
それらが、今日終わったのだ。
「一角・・・・・・もう僕は、二度と離れないよ」
弓親はまだ一角の香りが残る敷布へと顔を埋めると、穏やかな笑みを浮かべて呟いた。



「恋次!これお前んとこの隊長に渡してくれってよ。更木隊長からの伝言だ」
「了解ッス。渡すだけでいいんですね?」
「そうだよ」
聞かれた一角の変わりに、にっこりと答えた弓親は、傍にいる一角に寄り添うようにして笑っている。
その寄り添い方があまりにもオープンすぎて、恋次は呆れたように二人を見比べながら言った。
「えーと、以前に比べて随分とイチャイチャ度がアップしているような気がするんスが?」
「おお。弓親に変なちょっかいが出ねえように、はっきりと示してやろうと思ってな」
「一角ったら、僕のことが心配なんだって!ほんと、美しさって罪だよねえ」
「美しいとは、この綾瀬川のことか?」
たまたま恋次の傍にいたルキアが、驚いたような顔をして突っ込みを入れる。
それを「おお。当たり前じゃねえか」と素で答えている一角の背後で、弓親が急に真面目な顔をして恋次へと向き直った。
「ありがとね、恋次」
「え?」
「君のおかげで、僕はとても救われた。本当に、ありがとう」
先ほどのようなふざけた感じではなく、きちんとした声で弓親から礼を言われた恋次は、照れたように頭を掻いた。
「いえ・・・・・自分も申し訳ないことをしましたし。でも、弓親さんとああいう風になりたいと思ったことも、 一角さんと弓親さんを大事に思う気持ちも、どちらも本当だったんです」
「うん・・・・・・分かってる」
そう言って、にっこり笑った弓親が、綺麗な仕草で大きく頭を下げた。
「君には感謝をしているよ。これからもよろしく」
「あ!恋次お前、弓親に何を謝らせているんだよ?!」
「む!お前、何だか様子が変だぞ?」
「ち、違うって!つかルキア、早いところ休憩行こうぜ?昼休み終わっちまうだろ?」
一角とルキアに突っ込まれ、慌てて恋次がそれを否定する。
「そうか、それもそうだな」
「じゃ、俺たちも行くわ。恋次、また飲みに行こうな」
「じゃあね、恋次、朽木さん」
「ええ、また」
互いに昼休みだったためか、そのまま二組は別々の道へと歩いていく。その時ふと、恋次が立ち止まって後ろを振り返った。
そこには、以前と変わらず一角の背中を護るようにして歩く弓親の姿があった。
(ああ、やっぱり、弓親さんは隣に並んでない。背を預けているんだ、一角さん)
その時、はっと、振り返ったその空があまりにも青くて、一瞬恋次はその色に囚われる。
だが、すぐに我に返ると再び二人の背中を見つめて思った。
「・・・・・もう分かっているんだろうな、きっと。あの二人」
「?どうした、恋次?早くしないと焼肉定食が売り切れるぞ?」
「おお、今行く!」
ルキアの声に慌てて振り返った恋次は、少し先にいた彼女の元へと走っていった。

隣に並ぶことはいつだって、すぐに出来るから。

自分を信頼している一角の背を、護れるのは自分だけだと知った。だから。

もう、隣は歩かない。
君が、僕を信頼している限り。

「弓親」
「なんだい?」
「・・・・・北東の方角に虚の匂いがするぜ」
「!・・・・・そうだね、了解」
その言葉と同時に二人が、たん、と軽やかな音を立てて屋根上へと飛び上がると、そのまま走り始める。
そんななか戦いの匂いを察知した一角の楽しげな顔を横目で見ながら、弓親が小さく微笑む。

(狂っているね)

君がいるだけで、戦場すら幸せな居場所になるなんて。

弓親は走りながら、大きく息を吸って、今ここに二人が存在をする事実に感謝した。
「行こう、一角」
「おう」
先に大きく屋根を飛び越えた一角の背を見ながら、弓親は満ちたりた気持ちでその後を追った。