「おい、弓親!」
みず穂たちと別れて尸魂界へと戻る途中、先を飛ぶように走る弓親の背に向かって一角が先ほどから彼の名を呼び続けている。
珍しく一角より先に走る弓親の背は、無言でその掛け声を拒否しているのが一角にも分かっていた。
だが、その理由が全く分からない。さっきまでは普通だったのに、二人になった途端に弓親は自分に背を向けると一言も話さずに
先を走り始めたのだ。
「おい、いい加減にこっち向け!聞こえてんだろっ」
大きく一歩踏み込んだ一角が、弓親の片腕をぐい、と引っ張る。がくん、と弓親の身体が揺れ、二人がぶつかるようにして止まった。
「一体何なんだよ、お前」
「…言わなくちゃ、分からない?」
「あん?」
俯いた弓親の顔を半ば睨むようにして覗き込んだ一角は、逆にきつく睨み返されたことに驚いて息を呑む。
「何を…怒ってんだよ?」
「気分」
「は?」
「気分悪いって言ってんのっ!!」
ぱんっ、と掴まれた腕を払った弓親が、腕を組んでそっぽを向く。まるで言っている意味が分からないという顔をして、
一角がもう一度弓親の腕を掴んだ。
「何でお前が怒るんだよ?つか、逆だろ?散々お前に遊ばれた俺の方が、普通怒る立場だろうがっ」
「遊ばれて当然だろっ!僕だって随分我慢してたんだ!」
「は?」
もう一度訳が分からないという顔をした一角に、今度は弓親がずい、と顔を近づけ彼にしては酷く凶悪な顔をして続ける。
「僕はね、あの姉弟は嫌いじゃないよ。それに恋する女の子の気持ちだって君よりはずっと分かるしね。
まあ、一角は彼女を酷く疎んじていたし、別に気にすることはないと思って、寛大な気持ちで付き合っていたんだ。だけどさ」
すう、と息を吸うと、溜め込んでいた気持ちを開放するかのように、弓親が大声で叫んだ。
「君が最後に別れ際で彼女にあんな笑みを見せるなんて、一体どういうことだよっ!!」
「…おい、弓親。お前その割には最後大笑いしていたじゃねえか」
「あそこで毛が1本残っていたから笑えたけど、そうじゃなく君がカッコつけて終わっていただけだったら、
僕はあの場でどうしていたか分からないよ!」
後になればなるほど、みず穂に笑いかけたことが気に食わないと感じた弓親は、帰り道に口を利きたくなくなったらしい。
(それで怒っていたって訳かよ)
全く、今更そんなことで苛つくような仲でもねえだろうが。
一角はそう内心呟くと、「おい」と言って掴んでいた腕を引き寄せた。
「なんだよっ」と言って暴れる弓親を思い切り抱きしめると、一角は
「そんなに不安なら、俺がお前だけっていうことを戻ってから証明してやるよ」と言って、ぐ、と弓親の尻に指を食い込ませる。
「ちょ…一角ッ」
「改めて身体に覚えさせねえとなあ、俺がどれだけお前しか必要としてねえってことをよ」
「っ…」
その言葉の意味を想像したのか、かあ、と弓親の頬が赤くなるが、まだ怒りは収まっていないらしい。
見上げるように睨んだその目つきに怒りが灯っていることを見た一角が、宥めるように言った。
「俺もお前と同じで、あの姉弟は嫌いじゃねえ。なんだかんだで世話になったしな。その礼のつもりで、笑ってやっただけだ」
「…ほんとに?」
「たりめーだ。お前も考えすぎるのはよくねえ癖だぜ?」
耳元で一角はそう囁きながら、掴んだ尻を撫で回すように手を這わす。
それに反応した弓親が、もじもじと身体を捩じらせながら一角にしがみついた。
「や…ここじゃ、誰かに見られるってば」
「てめえが煽ったんだろうが」
「煽ってなんかないよ。もう、さっきの会話で一体どうなったら煽るってことに繋がるんだい?」
呆れた顔で弓親が一角を見上げながら、ようやく小さな笑みを浮かべてちゅ、と一角の頬にキスをした。
「じゃ、早く帰ろう。このままじゃ我慢できなくなっちゃう」
「おう、戻ったらすぐだ。風呂なんか入らせねえからな。覚悟しろよ」
クスクスと笑いながら「わかったよ」と弓親が笑うと、飛ぶようにして先を走り始める。
あれくらいのことでヤキモチを焼く弓親が可愛くて仕方がない。
(っとに、お前が心配することなんて何もねえっつうの)
さて、戻ってからどうやって抱いてやろうかと熱くなった下半身を感じながら、
一角は先を急ぐ弓親へと遅れをとらないよう、走る速度を速めていったのだった。