オーケー、状況を把握しろ。クールだ、クールになれ前原圭一。偉い人も言ってるだろ、君にしか立ち向かえない、と。そうだ、落ち着け前原圭一。
 魅音が何故俺の布団にいて、あまつさえ顔まで数センチなんて、まんがでお決まりの展開が何故起こったか、クールに思い返せ。
 そう、確か昨日は……――。



 あと1センチ



 この村に越してきてから大体二週間ほどたって、久しぶりに親父の仕事が一段落ついた。だからと言うかなんと言うか、親父が宴会だーっなんて騒いでお袋もそれに便乗して。久しぶりに家族三人での夕食になった。
 当然のことだけど親父は酒をかっくらい、お袋もなんだかんだ言って飲んでいたから素面だったのは俺だけだ。……とまぁ、親父がそんな事を許すわけも無く、学校のみんなのことを話してた俺に酒をいきなり飲ませたんだ。
 普通親が子供に酒を飲ますのはいけないことだ、なんて主張したら、

「そうか、圭一は普通がいいのか。画家なんて普通の仕事じゃないもんなぁ。昔お前が画家になりたいだなんて言ってくれたから頑張ってたんだけど、やっぱり圭一も普通がいいのかぁ」

 なんて言うもんだから、流石に心配になって「親父?」なんて声をかけちゃったんだ。そしたら表情が一転して、

「普通の親父じゃないから、息子に飲ませてもなんの罪にはならーんっ」

 とか言って、俺の首根っこ捕まえて飲まされたんだった。…一升瓶からそのまま。
 それからと言うもの、何故かお袋の愚痴をこぼされてた記憶がある。


 ――……そんな感じ、ってこの状況に何もリンクしないじゃん!?
 目を閉じ、昨日のそれからを思い出そうとしても二日酔いの頭痛もあってか全く思い出せない。魅音がここにいるってことは遊びにでも来たのか? ……ウチに? あんな時間に?
 いや、それはありえないだろう。あのメンバーの代表みたいな魅音だって常識はあるし、いくら男友達みたいなノリだからって、その、胸だって、大きい、女の、子なんだからっ、俺の布団にもぐりこむなんてしないはずだ。
 な、ならなんでっ?
 そんな驚きに、ただ自分が幻でも見たのではないか、なんていう期待をもってそっと目を開けてみた――――、ら。

「……圭ちゃん?」
 魅音の瞳が明いていましたぁ!?
「や、その。ちがっ、えっと、み、みお――っ?」

 布団がもぞもぞと動いたと思ったら、魅音の細い指が俺の顔に固定されてる。
 もう、完全ショート寸前です、俺。

「…圭ちゃんだー。……んー」

 顔に指、というか手を首にまわしてからだんだんと背中辺りまで伸ばしてきた。その、もうほとんど腕が頬にあたって二の腕の柔らかい感触が俺の顔全体に伝わってくる。少しヒヤっとしたのは、多分俺の顔が真っ赤で熱をもってるからだろう。
 ――――っ。
 冷静に解説してる場合じゃないっ、魅音の顔は俺の胸元辺りまでやってきて、完全に抱きつかれるような形になってる。つまり、その、胸も当たってきてて。
 健全な青少年としては耐えられる出来事じゃなくってですねっ。
 っていうか、何故に敬語だ俺。

「み、魅音? お、おきろよー」

 なんて小声で起こそうとしてみるも、魅音からは正しいテンポでの寝息が聞こえるだけ。なんとか脱出を試みるも、既にしっかりと抱きつかれてるから僅かに体をずらすだけしか出来ない。
 むしろそのせいで魅音との接点が擦れるというか、む、胸の感触が……。

「も、もう気にしてられるかっ。お、起きろ魅音!」

 肘から下だけ動かして魅音の腰の辺りをゆする。これ以上布団の中にいられちゃ、理性って言うか、その――――朝の生理現象が。

「ん、んー。……けい、ちゃん?」
「お、起きたかっ。か、勘違いするなよ、俺は何もしてないからなっ。いや、それもどうかと思うけど、全く持って何もしてないぞ!?」
「……圭ちゃん、言い訳は男らしくないよ。おじさん、勘違いしたくなるじゃないか」
「なっ、ちょ、え!?」

 そう言って魅音は抱きしめていた手を離し、最初の体勢――魅音指が俺の顔を固定した。

「み、魅音?」
「……いやって言っても無駄だからね。これは罰ゲームなんだから」
「罰ゲームって、別になにも――っ」
「おじさんと一緒の布団で寝てた」
「こ、これは俺もなにがなんだか。っ」

 魅音の顔が胸元からどんどん迫ってくる。それこそあと少し動けばもうあたる。その上目遣いになって迫られていると、身を任せてしまっていいような気に――――、

「けいいちー、起きてるのー?」

 ――――お袋の声に、バッと魅音が布団から離れた。
 俺の布団の横で正座してる。まさに神業とも言えるような速さで魅音は体勢を整えた。
 緩い襖の開く音がしてお袋が顔を出す。

「なんだ、起きてるなら返事くらいしなさい。朝ごはんできてるわよ。魅音ちゃんも食べていくんでしょう?」

 その言葉になんだか計画めいた感じがある。っていうか、お袋は魅音がいることを知ってるのかよ。しかもニヤニヤしてるし、なんだか嫌な予感がー。

「早く起きてきなさいよ。ご飯冷めちゃうから」
「あ、あぁ」

 そういって襖を閉めたお袋から目を離して、ふぅ、と一つ息を吐く。チラっと横をみると、顔を真っ赤に染めた魅音。

「お、おはよう魅音」
「お、おお、おはよう圭ちゃんっ。おじさん、さ、先に下にいってるからねっ」
「み、魅音?」
「な、何かな?」
「その、今のは……」
「い、今のは別に昨日圭ちゃんにレナと一緒に届け物に来たらおばさんにお酒を飲まされて、圭一の部屋で一緒に寝なさいとか言われて連れて行かれて、さっきのは寝ぼけてたのと本心がごにょごにょって、何言ってるか私は!?」

 墓穴掘った……なんて小声で呟いて立ち上がる魅音に負けず劣らず、また俺の顔が熱くなってるのがわかった。だって、今のって、その。

「け、圭ちゃんっ。か、勘違いしちゃだめだからね? い、今のはそのっ、何でもないんだからねっ?」
「あ、あぁ」

 そんな事を言って部屋を慌ただしく出てく魅音の後姿。なんだかその姿を見てるだけでますます頬が赤くなってくのがわかる。

「ばか、勘違いしたくなっちゃうじゃないか」

 なんて呟いて、ますます顔が熱くなるのを感じた。





























 圭一が出て行った部屋には、

「レナちゃん、しっかりビデオとれた?」
「は、はぅ〜、み、みみ魅ぃちゃんかぁいぃよぉ」
「……成功みたいね」

 かぁいいモードのレナとニヤニヤした圭一の母親がいたとか。

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