第二話 再会





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このお話は、ジャージレッドさん作『妖精的日常生活』の設定を基に使用しております。

しかし、一部で作者独自の設定があり本編とは離れております。その所をご了承下さい


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前回までのあらすじ


ある日、突然病気で倒れ、余命いくばくも無いと知った朋夜君。
突然、夢の中で妖精に告白……ゲフン、ゲフン。もとい、召喚された。
病気の原因が魔力の暴走と告げられた朋夜君は妖精になることを決意。
目覚めた目に映ったのは………しばらく(どこまで?)シリアスな第二話




「なんだぁ!これぇぇ!?」

ボクの体にはない筈の……ない筈の二つの小さなふくらみがあった。

ってもしかしてもしかしなくても?おんなのこぉぉぉぉぉぉ!?

確かに妖精になるって言ったよ?でも女の子になるなんて………………ん?なんか引っかかる…………

(アクエス『本当はひとめぼれだったんですよ?』)

……………ボクってバカァ!?って言い方で気付くじゃん!っていうか気付けボク!

等と頭の中で突っ込みながらも本日二度目の現実逃避をおこなった。







柔らかな日差しが頬をなでて行く。

日の当たる草原で寝転んで、精一杯息を吸い込み大の字になっている。
まるで今までのことが夢だったかのように……そんな心地よいまどろみの中

……………朋夜…………きなさい。

突然、暗闇が襲ってくる。この心地よさに浸っていたくて、この暖かさを手放すのがいやで、

(誰?まだ、ここにいたいの。そっちへは行きたくないの!)

………朋夜君………起きなさい。

でも暗闇は容赦なくせまってくる。光の中にいたボクは地面が崩れるのをかんじて目を開けた。
最初に飛び込んできた映像はいつもの見慣れた病室ではなく新鮮な木の香りがする部屋だった。
横を見ると窓の外には今まで病室のあった病院が見えた。で………やっぱり言わなきゃダメ?(誰にいってるの?)




「………知らない天井だ」


「? それはどういう意味かね?」



そんな僕の言葉に反応するように視界の隅から大きな顔が現れた!
わ、ちょっとびっくり。朋夜は戸惑っている!なんちって

「お約束です。先生」

頭の上に『?』マークが乗っかっているようにも見えたが無視。無視。
今は自分の事がだいじだもんねぇ♪

「ははは、そんな怖がらなくてもいいんだよ。別にとって食べようなどとは思ってないから。ところで君は誰だい? 私の記憶が確かならば妖精に知り合いはいないんだが」

無視していたことが怖がっていると思ったみたいだね。ラッキ♪でも先生、さっきの声は先生の声だったじゃない。
本人の口から言わないと納得できないのかな。だったら………

「ここは病室?でも周りの風景が違うし…………先生の顔は大きく見えるし……でも、ボクは死んで……(ニヤ)」
「ふむ。君が朋夜君だと言うのは明らかだが、最後の"ニヤ"は可愛いとは言えないなぁ」

……………えっと、顔に出てた(汗)?

「ふむ、さっきから見ていると感情が表に出やすいみたいだね」

なんか先生の目の奥が光ってるんですけど………あ、あう。怖いです。逝っちゃってますぅ。

「せ、先生、人を観察するのはいかがなもんかと。見た人がいたら危ない人です(汗)」
「あ、い、や、すまん。妖精を身近に見るのは、その、初めてなもんでね。まぁ、話を元に戻すが、君は妖精になっている。
しかも女の子だ。オメデトウ♪」

……………夢じゃなかったのね(泣)

「まぁまぁ、そんなに泣かないで鏡を見てみなさい。可愛い顔が台無しだよ」

……………先生仕事離れてるでしょ。
む〜、でも見ないわけにもいかないよね。ボクは差し出された立て鏡の前に恐る恐る立ってみた。そこにはやっぱりボクの姿はなく、不思議な雰囲気をまとった少女がいた。 髪は黒髪みたいだけど色素がうすいのか銀色に見える。そしてまんまるに見開かれた目はくりくりとしている。顔立ちも丸いのでそれが 少女に可愛らしさを前面に押し出している。目を線にしたら猫みたいにふにゃ〜としてしまいそうだ。


(はじめまして、アクエス……………そして、ありがとう)


鏡の中の女の子はボクの心の中の言葉に答え微笑んだ気がした。
暫らくそうしていたがふとある事に気づいた。 目の色が違う………左目が濃紫色、そして右目が青。そうか、感じた不思議の原因はこの目だったんだ。
ボクはそのことについても先生に聞いてみた。

「先生。この目は?」
「うん?どれどれ。ああ、これは『オッドアイ』っていうんだ。色素の異常で起こるんだ。人間にもまれにいるが、普通、猫なんかに多いんだけど。 で、ついでに言うと人間では聴覚障害100%だ」
(*オッドアイ…遺伝子の異常により目の色素に異常が出るもの。大抵、動物に多い。これがあると片方の耳が聞こえないなどの障害が出やすい)

え。聴覚障害?

「…なんだけど、妖精にはあてはまらないみたいだね。朋夜君は普通に話しをしているからね」

びっくりさせないでよ〜。プンプン
安心したと同時にまた疑問。でも聞くの恥ずかしいし…………

「ん?何だね?」

うわ、視線に気付かれた?

「えっと…」

(さっきは裸だったはずなのにいつの間にか服を着ているんだけど、着替えさせたのはもしかして…………」

「おいおい、いくらなんだって私が着替えさせるはず無いじゃないか。看護婦に決まっているだろう?私が女の子を着替えさせたら犯罪だよ」

って、何で判るの?もしかしてエスパー?
先生は呆れたようにこっちを見ながら

「口に出てるよ。しっかりとね♪」

マジです?

「本気と書いてマジと読む」

はうぅ

「それはともかく置いといてくれないかな?私一個人としてはだ、どうして死に掛けた君が」

死に掛けた死に掛けたって言わないでくれるかな。ボクだって、死ぬ思いをしたのに。ん?よく考えたら同じこといってるよね。

「妖精に召喚されたのかが気になって仕方が無いんだ…よ…」

ん?

「どうしたんです?先生?」
「どうしたのって、気付いてないのかい?君は?…」
「はい?だから何がです?」
「そんな小さな格好で泣かれると困るんだがねぇ。まるで僕が泣かせたみたいで後味が悪いんだが……」

ゑ?じゃなくって、え?泣いてる?ボクが?

頬に手を翳すとそこには確かに涙の後があってああ、前に泣いたのはいつだっけ神様有難うボクでも泣けるんだ泣いてもいいんだってちがーう!
うーむ、ボクってこんなに涙もろかったっけ?とにかく深呼吸。吸って〜。吐いて〜。吸って〜。吸って〜。ゲホッ、は〜、落ち着いた

「変な落ち着き方をするね。はぁ、だね、普通、これまでの召喚のパターンだと呼ばれるのは健康な人間ばかりだ。
話に聞いている侵略者と戦うには当然、自由に動き回れる体で無いとダメなはず。それなのになぜ君が呼ばれたかの経緯が知りたい」

やっぱり、誰でも疑問に思うよね。そう思いつつもボクはいかにも思い出してる振りをしながら答えた。




○自分の世界に絶望した死にたがりの妖精が接触して来た事。
○その妖精曰く自分の健康な体と交換して欲しいと頼まれた事。
○女の子だったとは思わなかったがボクも死ぬ事は嫌だったので話に乗った事。


最初の『自分の世界……』と話していた時にふと気がついた。 アクエスはある程度下調べが出来ていたのではと。ボクだけしか知らないことも言っていた。 だけど、『死の間際』で召喚を行なうと言う事はそのことを知らないボクにとってもかなり危険だと判る。 下手をすれば逆に二人とも命を落としてしまうことだって可能性はあったから。

………胸が痛い。切ない。アクエスの笑顔が見たい。ごめん。必ず、あって謝るから。

「ふむ、その自殺願望が強い妖精は興味の対象だがあって話も出来ないしなぁ。記録にでもとどめておくか。  質問はこれにて終わりだ。後のことはご家族の間でゆっくり決めてくれ」

「はい」

ボクが先生に返事をすると看護婦をつれて病室から出て行った。
時が背伸びをした様に病室内に静けさが戻る。結構、緑があるので小鳥のさえずりなんかが妙に心地いい。 だけど、人間ってのは沈黙に耐えられない種族だ。妖精もどうやら黙ってられないらしい。
今、病室には父 大樹(だいき)、母 瑞枝(みずえ)、妹、有貴(ゆき)……そして少し離れた所に香奈が立っていた。


「何でみんなして黙ってるの?」


問いかけにも皆して黙ってばかり。永遠にこのままなわけにも行かないと思ったのだろう。 父が恐る恐る聞いてきた。


「本当に朋夜なのか?」


うー。なんか面白くない。姿形は違うから一目見て朋夜なんて判りはしないと思う。ボクだって知り合いが変わったらそう思うかもしれない。だけど………
家族だよ!!長年一緒だったんだよ!!ボクはそんだけの存在?

だったら!確かめる


「違います。私の名前はアクエスと申します。先程、先生と呼ばれる方と話した事は朋夜様と決めた事」


アクエスを騙って話し出したボクの言葉に家族の顔色が変わる。でも、有貴だけが真剣な顔をしてこっちを向いている。
しかし何て言うか、話しやすい。普段から使っている言葉のようにスラスラと出てくる。もしかしてそこそこお嬢様?


「アナタ方はいったい朋夜様の何を見ていらしたのですか?仮にもご家族なんでしょう!?
姿、形が異なっただけで見分けられない。そんな薄氷にも似た絆だったんですか!」


まるで、ボクが話しているんではなく、アクエスが話しているみたいだ。そんな、ボク(?)の言葉に沈黙が部屋を支配する。
しかし、それを破ったのが父でも母でもなく、妹の有貴だった。


「………もう、いいでしょう?お兄ちゃん、それぐらいで許してあげたら?」

気付いてた?有貴、もしかして」

「最初から気付いていたわよ」

だからさ、心を読むのをやめてくれない?」

「………口に出してるわよ。『気付いてた?』から」



あうあう。この体の癖?何とかしてほしいよ


「だったらどうして最初から言わなかったの?」

はあ〜ってそのため息何?

「鈍いんだか、鋭いんだか。お兄ちゃんの言葉は当たらずも遠からずってとこね。ま、その理由は、お兄ちゃん……今はお姉ちゃんって言った方が
いいのかな?にも原因があるんだけどね。お姉ちゃんは何となくだけど人を避けてる節があったでしょ?そのせいよ」


あ、そうだった。使えなくはなってしまったけど、ボク自身が持っている不思議な力のせいで家族でさえも距離を置いていたんだった。
この事を知っているのはボクと香奈だけだった。なんてことはない。家族を信用してなかったのはボク。


「…………………ははっ、これは人の事いえないねぇ」

「そんなことはないわ朋夜。謝るのは私のほうよ。いつも冷静なあなたを見ているとどうも壁があるような感じでなかなか踏み込めなかった。
でも、そうするには何か原因があったのにそれにも気付かなかった…………家族失格よね」

お母さんにの顔には涙が流れていた。

「ううん、ボクこそ御免なさい。お父さん、お母さんにそんな思いをさせてたなんて知らなかったよ。
ただ、今はまだ言えないけど、ボクには秘密がある。これはボクに決心が付くまで話せないけど良いかな?」

その言葉にお父さんやお母さんは首をふった。

「いいんだ。形はどうあれ、朋夜は生きている。時間さえあればどんな事も解決すると信じている」

「朋夜が言うまでまってるわ」

ありがとう。そっとボクは心の中で呟いた。

「それはそれとして」


有貴?その笑みは怖いからやめない?
さっきのシリアスはどうしたのさ?

「本日のメーンいべんとぅ!」

とか何とかいいながら横にそれた妹の傍には今まで距離を置いていた香奈がいた。自然と顔が綻んでいくのがわかる。
形はどうであれ、生きて会えた。それだけでボクにとってはダイヤよりも金よりも欲しいものだった。

「香奈ちゃん、また会えたね。ただいま………」
「…………」
「香奈ちゃん?」

 ? 戸惑っている?顔を赤く染めながらもなかなか言葉を発しようとしない。そんな様子の香奈ちゃんに問いかけようとした。

「あのね、怒らずに聞いて欲しいの。朋夜ちゃんだって事はちょっとした癖で判るの。でも、でもね、外見でどうしても見てしまうの。 妖精に召喚されるというのはそういうもの。話では聞いてた……………けど、御免なさい!!少し時間が欲しいの!!」

えっ、えっと、香奈ちゃんが飛び出していったんだよね。病室から。香奈ちゃんボクのことが嫌いになったの?
そんなのヤダ!追いかけなくちゃ!せっかく、せっかく……………。ああっ、ベットの上って走りづらいよっ!もう!
すでに香奈ちゃんの姿は病室から消えている。焦ったボクの体は宙にあった。


――――――墜ちる――――――


ゾクッとする。生理的嫌悪の感覚の中で体をまるめて来たるべき痛みに備える。床、痛いだろうなぁ。
ん?えっと床が見える。近づいてこないぞ?何か変だ。目の端に何か青い物がある。首を無理に回して視界に入れると背中からは真っ青な羽が…………
暇なときに目にした鳥の図鑑に載っていたオオルリと呼ばれる夏鳥の羽に似ている。
(オオルリ………スズメ目ヒタキ科の夏鳥。オスは瑠璃色で美しく美声でさえずる。メスは多くが淡い褐色)

はぁ、妖精って本当に飛べるんだ」

「お馬鹿なこと言ってないで、香奈さん追いかけたら?もういないけど」

有貴の呆れた声にふと我に返る。そこには砂煙が舞っていて、香奈の姿はなかった。って砂煙?目の錯覚だったらしい。
でも香奈はいなくなっていた。

「は、ははっ、ねぇ、見てよ、香奈ちゃん、いなくなっちゃったよ?あははは、おかしいよね?ボク、こんなに悲しいのに笑ってるんだよ」
「お姉ちゃん……」
「あははっ、あはっ、あ、う、う…うぐっ……うわーん!」


暖かい。いつの間にか有貴の胸の中に包まれた、その感覚に思いっきり泣き出していた。優しい声で有貴が慰めてくれる。


「お姉ちゃん、大丈夫。大丈夫よ。そんなに泣かなくても。香奈さんが良く行きそうな場所を探しましょ。私も一緒にいくから…………
お母さん、あとお願いね。二人で探してくるから」

「任せなさい。退院手続きなどはしっかりしておくから。それから私達は先に家に戻ってるから、香奈ちゃん見つけたら帰ってらっしゃい」


こうしてボクと有貴は病院を出ることとなった


「でもさっきのお姉ちゃん」


ん?


「可愛かったよ」


うー。恥ずかしいから忘れて。


ボクの住んでいる所は、都心から外れている。
一時間半ぐらいかけて通勤する、そんな片隅にある町。小高い丘があり、それなりに緑が多くぱっと見た人は口々に『ここが都心から本当に一時間半?』なんて言葉が聞かれるぐらい。 それなのに、見かける町並みは整っていて何処かに人の手が加えられている

そんな中病院から出てきた時、有貴が問いかけてきた。
「さてと。お姉ちゃん?香奈さんの行きそうなところは知ってる?」


それはいいんだけど、お姉ちゃんは止めてくれないかなぁ」

「だーめ。大体そんな姿で『お兄ちゃん』の方がおかしいわよ」

うー。ん?今、ボク喋ってないよね?

「また、口に出てたわよ。どうしたの?考えてる事口に出しちゃうなんて」

「わからない。どうやらこの体の癖らしいんだけど、プライバシーの侵害だよ」

「ま、それはひとまず、おいといてね。お姉ちゃん」

「はーい。でも香奈ちゃんの行きそうな所……とりあえず、順番に回っていくしかないよ」
今のボクの状態はと言うと自転車に乗っている有貴の肩に乗って髪を掴んでいる(親亀の上に〜状態)。有貴の髪はあまり長くないので掴みやすいのだ。時々振り落とされそうにならなければ居心地がいいんだよね。
だけど、ねぇ…………


「ねぇねえ。あれって妖精じゃない?」

「かっわいい〜。髪が銀色だし」

「妖精さんだ〜。私も欲しい」


いくら妖精が珍しいからってあからさま過ぎるよ〜。そりゃ、この国全体から行ったら少ないけどさ。珍獣でも見るような目はヤダよ。 うううぅー。周りの視線が気になるよ〜。

「あら、今のお姉ちゃんは超絶美少女妖精ですもの。髪は銀色に光って見えるし、可愛いし、ぷにぷにしてるし……………少しぐらい我慢しなくちゃ」


ぷ、ぷにぷに?はぁ、さいですか(泣)

周りの好奇な目線にさらされながらいろいろと香奈ちゃんが行きそうな所を回った。大変だったけどね…………… 甘味処では、女子学生の集団に取り囲まれるし。雑貨屋では、掴まれて『これ幾らですか』って聞かれるし。ボクは売り物っていうか、モノじゃないよ!アクセサリーのお店も似た様なもんだったし。 はぁ、疲れた」
「今度ばかりは同感よ」

だから心の文に突っ込まないでってば、有貴。

「本当にプライバシーなんてないわね」
はぁ、またですか
とにもかくにもそんな訳で順番に回っていったがどこにも香奈ちゃんの姿は見当たらず。 残るは、町を一望することの出来る小高い丘にある公園のみとなった。ここを後回しにしたのには理由がある。
まず第一に一番遠い事。(と言っても15分ぐらいで着くのだけど)自転車でだよ?自転車!
で、これがとっても大事な理由………ボクと香奈が、二人が始めてあった思い出深い場所。


〜回想〜


ぼくがこの町へやってきたのは7歳のある春の日だった。
新しい町への引越しは、不安だけが付きまとっていた。
依然居た町ではもっていた不思議な力のためにいじめを受けた。
香奈ちゃんとあってから後にはなぜか使えなくなっていた――――――僕にとっては忌み嫌う力

『水を操る力』……………自分の意思(イメージ)どうりに水を使う。水鉄砲みたいに勢いをつけて飛ばしたり、水の珠を空中に浮かし、 日光に当てたりして不思議な空間を作り出す。最初は誰もが持っている力だと思っていた。

だがそれを見たとたんみんなは僕を避けるようになった。子供はある意味残虐だ。 『化け物』『あいつにかまうと殺される』などといわれ続けた。
それを見て、ただのいじめと思っていた両親はその為引越しをする事を決めた。 それを聞いたときは嬉しかった。逃げだって言われるかもしれない。だけど誰も僕の力を知らない。これからは普通の子供と同じようにはしゃぎ、話したり、ケンカをする。そんな当たり前が出来る。 浮かれていた僕は両親の制止も聞かず家を飛び出していた。少し遠くに見えた丘……………あそこに行けば素敵な景色がきっと見えるだろうと 足は自然と丘に向かっていた。 小高い丘といっても頂上に行くまではちょっとした森になっている。その当時はまだ体力的にいっても子供だ。かなりきつかったけど、 丘の上から町の全景が見渡せたときには嬉しかった。


「わぁ!!」


思わず声が出る。そよそよと囁いてくる風に耳を傾けながら、町を見渡していた。丘の頂は公園になっていて遠くに向かって
ある程度区画整理された建物が並ぶ。中心部に向かっていくと低くなっていく様はまるで進んだ未来都市。
公園には何処から引いてきたのか、結構大きな池と水飲み場あり、ピクニックでも出来そうだ。
今度、家族でも誘ってこようかな?等と風に身を任せながら考えていたときだった。


「…………ック………やだ…………めて…………」

「…………嬢ちゃ………かわ……………」


誰かが泣いている。かなり気になった僕は声のする方、池のある方に歩いていった。そこには………
いたずらな事を小さな女の子にしている男の姿があった。怖くて動けないことをいい事にやりたい放題やっている。
僕は思わず目の前に飛び出して叫んでいた。

「何やっている!」

男は一瞬驚いた様子を見せた。が、僕が小さい子供だと判るととたんに態度を一変させた。

「んだぁ?ガキはひっこんでろ!」

声と同時に目の前の風景が変わり遅れて痛みがやってきた。どうやら殴られたらしい。頬に鋭い痛みが走る。

「来い!」

男の声とともに女の子が引きずられて行く。

「やだぁ!」

フラフラする体を無理やり起こしながら体当たりするがまるで効かない。

「このくそガキが大人しくしろ!」
パン!
「キャッ!」

派手な音に女の子は抵抗をやめる。その時頭の中にあったのは女の子を助ける事だけだった。
「やめろ………」
僕の出した声に何か感じたであろう男は振り向き、固まった。僕の周りにはイメージの通りにそばの池から無数の水の塊が浮いている。

「ひっ!?……………ば、化け…………」

ドゴッ!!

うめく男をよそに、浮いている水の塊を投げつける。もちろん手を使ってなどいない。幾つもの水の塊がぶつかってく様を見て
女の子は目の前で起きている出来事が信じられないらしく呆然としていた。

「ヒヒッ!?お……お助けぇ!」

無意識に手加減していたのかもしれない。命からがらといった男の逃げざまをみてこれ以上深追いすることもないと、
今だ水を幾つも浮かべながら慎重に近づいた。

「大丈夫?怪我はない?」

怖がらないように精一杯の笑顔で。でも距離を取りながら。今までの経験も手伝ってか、怖がる事を恐れて。
呆然としながらも、衣服に乱れはあるものの怪我はなさそうだ。僕はほっとした。

「えっと、助けてくれてありがとう。私、伊藤香奈って言うの。あなたは?」

人を怖がっていた僕は答えあぐねていると、伊藤香奈といった子が聞いてきた。

「ねえ?何をそんなに怖がっているの?何がそんなに悲しいの?」

あまりのショックに頭を殴られたみたいだった。この子になら……………

「ねぇ、僕のことが怖くないの?こんな力を持っている僕が……………」
だけどその子は笑いながら言った。
「だってアナタは私を助けてくれたよ?何で怖がる必要があるの?」

ここにはいた。僕を僕として見てくれる人が。

「僕は……………霧斗朋夜」
「朋夜ちゃんっ呼んでいい?」
「いいよ」

陽が沈む綺麗な夕焼けが訪れる丘の上でボクと香奈ちゃんはこうして知り合った。お隣さんだって知ったのは後から……………驚いたけどね。
だから、香奈ちゃんはきっと判ってくれる。そう信じて。

…………………………
…………………
……………
………

「お姉ちゃん?着いたわよ?」

ありゃ、いつの間に丘の上に?

「夕暮れも近づいているし、夜になるとこの辺りも物騒だから早く探すために二手に分かれましょ?」

有貴の言葉にボクは羽がある事を思い出し、

「じゃ、ボクは空から探すから有貴は展望台の方からお願い」

と羽を力一杯羽ばたかせると空へと飛び出した。有貴の言葉を背中にして。

「かわいいお姉ちゃんの為ならお安い御用よ」

て言うか有貴って可愛い物好き?
そんな疑問を残して。





――――――  ――――――  ――――――  ――――――  ――――――  ――――――  ――――――

〜♪〜♪♪〜〜♪〜



「そらって気持ち良いよね〜♪」

一人言葉(?)に出て来る程、いい気分♪人間がキカイも着けず空を飛ぶなんて初めてだよね〜。ん?今は妖精だっけ?
上から眺める町は所々に明かりが点き始めてなんだか、ワクワクする。見ている場所が違うとこんなにも変わるのはちょっと感動。
うーん。妖精になってから、心を出しやすくなったのかな?こんな事で感動するなんて♪さって、香奈ちゃんはどっこにいるのかなー♪
お日様がそろそろ地平線から『また、明日ね。』って手を振ってるし。さっきも有貴が言ってたけど、夜はこの辺に危ない人たちがたむろしているし……………。

「……………!」
「?……!」

香奈ちゃんの姿を探しながら丘の頂上の辺りまで来ると急に下が騒がしくなって来た。うーん、あっちの方角は池のだけど………行ってみよ♪
ぱたぱた。声のするほうへ体を向けてその場所までやって来ると、ガラの悪い男たちに取り囲まれる二人の姿があった。

「ッ!」

一瞬、昔のボクの記憶と重なる。

「やめろ!香奈ちゃんと有貴を離せ!」

「? なんだ?このちっこいのは」

「こいつ、妖精ですぜ!兄貴!」

チンピラA(仮)に答えたのは、チンピラB(仮)だった。どうやらAが兄貴らしい。
ボクの放った空中からのキックは全然役に立ってない。うー、体のことを忘れてたよ。なんだか効いてないし。

「お姉ちゃん!!こっち来ちゃ駄目!」
「朋夜ちゃん。逃げて!」

二人が叫んでいる。なに言ってんの!残してなんか行けるわけないじゃない!ボクが守るんだ。
二人に注意を向けられない様にわざと大声を出して

「二人に何してるんだ!!今すぐ離せ!さもないと……………」

自分で言っててなんだけど、ボクが行っても全然怖く聞こえないんだよね。でも、どうしよう。こっから……。わっ、痛い!体全体に、男の手のいやな感覚が張り付いてきた。

ペチョッて、イヤッ〜!気持ち悪いよう〜

「へへっ、捕まえたぜ。可愛い妖精さん。人形遊びしましょうねぇ」
ヤダヤダ!!ボクあんまり着て無いんだから!変態!」
男の顔つきがいやらしく変わる。え、もしかして…………こんな時に?(汗)

「やっぱり、人形は着せ替えできなきゃな〜」

男の手がボクの衣服を剥ごうと伸びてくる。

「朋夜ちゃん!きゃっ!?」


ビリッ!!


無理に近づこうとした香奈ちゃんを引っ張ったせいで香奈ちゃんの肌が外にさらされる。そして有貴は、

「お前はこっちだよ!」
「やだぁ!」

こんな……こんな!ボクに力があったら、そうだよ!あの力を出せれば!泣かせることなんか……………香奈ちゃんを泣かせることなんかないのに! 有貴を助けられるのに!誰でもいい!誰か、お願いだよぅ……………グスッ……………助けてよ、香奈ちゃんを、有貴を!


"力が欲しいですか?"


突然、僕の中に話しかけてくる人がいた。


"力が欲しいのですか?(いと)しい人達を守る力が……………"

(誰?)

"今はそんなことを言っている暇はない筈ですよ?今一度、聞きます。力が欲しいですか?"

(欲しい。有貴を…………香奈ちゃんを守る力が!誰かなんてどうでもいい!お願い!だから力を貸して!)

ボクの心の叫びに謎の声は呆れた様に答えた。

"私が悪い者だったらどうするつもりなんですか。それでなくても代償が必要なのに………"

(なら聞かないでよ。それで代償だったっけ?だよね?いいよ、二人が助かるのだったら悪魔とでも契約するよ)

すると、ボクの目の前に半透明の女性の姿が浮かんだ。長い髪は腰まで届き、穏やかな顔つきは欧米と日本の女性を足して、いい処だけを取ったような感じで、体は地球上に存在しているどの女性よりも素敵だった。その体を薄絹を一枚纏っているだけだった。

"悪魔は酷いですね。ま、代償の話は後で。今は貴方に力を貸しましょう。さぁ、呼びなさい。貴方の中に眠る自然の力を………。そして私の名を……………。さすれば、何者をも打ち倒す力となりましょう"

その女性の言葉と共に、今ボクが何をすべきかが自然と頭の中に浮かんでくる。



―――――自分の中にある力に干渉(かんしょう)して言葉を(つむ)ぎ出す―――――



「the actual aqua!(存在せしアクア!)その力ある名に於いて水の力を!仇なす者に見せつけよ!」

"はい!マスター!"

ボクの中から慣れ親しんだ力が溢れ出し、辺りを包み込む。池の水が生き物のように音を立て動き出す。

あまりの光景に男たちも、有貴と香奈も………そしてボクも口を開けて驚いた。あ、僕まで驚いたらだめじゃない。でも凄いんだ。9年前の力なんて目じゃない。池の水全部なんてとてもじゃないけど動かせなかったんだから。

気を取り直して一気に力を開放する。動いている水の固まりは一度、空中に停止している。

「水弾!」

水の珠の中から生まれるように幾つもの水の弾が男たちに襲い掛かる!

「ぎゃっ!!」 「ぐえっ!!」

男たちの悲鳴があちこちから上がる。
当然といえば当然だけど香奈ちゃんや有貴の処にも水の弾は向かうわけで……………いけない!

ぱしっ!バシャ!

何かのベールのような物が二人を覆っている様で一つも届いていない。

"まったく。肝心な処が抜けているのですから……………"
どうやらアクアが何かしらで防いでいるらしい。アリガト。
"いいえ。マスターには……………。何でもないです"
? 何だろ?

「ひええっ!化け物ぉ!」 「アニキィ!置いて行かないでくださいよぉ」

方々の体で逃げ出した男達を放って置いて二人に向き直る。
「大丈夫だった?二人とも?」
化け物という言葉を後ろに聞いたボクは

やっぱり嫌われたくなかった。だから微笑んだ。昔の様に……………

「お兄ちゃん……………その力って」

「これがボクがみんなに隠しておきたかった……………忌み嫌われて使えなくなった筈の力。有貴怖いでしょ?この力が?化け物なんだよ 昔からボクはみゅ!」

な、何(汗)って香奈ちゃん?

「朋夜ちゃ〜ん!」

すりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすり

「御免ね、疑って。やっぱり昔の朋夜ちゃんだったよぉ!あ、でも朋夜ちゃんの肌って気持ちいいよ〜」
香奈ちゃん……………
「昔のって……………香奈さん、お兄ちゃんって昔からこんな力持ってたの!?って二人で何してるのよ!」
すりすり。はぅ〜。香奈ちゃん判ってもらって嬉しいよ。はっ!?あんまりに嬉しくっていつの間にかボクからすりすりしてた?

「はう〜。香奈ちゃん〜。もういい加減に勘弁してよ〜。有貴が見てるよ」
「気持ちいいよ〜」
「香・奈・さ・ん!」
「ひゃう!?有貴ちゃん?あれれ?私?」
「ふう、この件はお姉ちゃんに聞くからいいわ。で、お姉ちゃん?姉妹で隠し事とはいい度胸してるじゃない?」

あはは、有貴、なんか怖いんですけど……………って今日はこればっかり。

「あとで、じっくり聞いてあげるから覚悟すること。でも、こんなしまらない終わり方でいいのかしら?」
「皆が嬉しければそれでいいと思うよ。私は……………もう悲しいのはイヤだもの」
「そうだね」
ボクは二人に今出せる最高の笑顔を見せた。

「はぅ、朋夜ちゃん……………それ反則だよ」
「お、お姉ちゃん……………き、効いたわ」
「二人とも? 何をブツブツ言ってるの?」

「「な、何でもないよ(わよ)」」「天然ね………」「朋夜ちゃんてば昔からそうなんですよ…………」

図らずとも8年前と同じ情景の中でボクは笑顔でいた。やっぱり、昔のように夕焼けは綺麗だった。







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