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総評組織綱領草案
*総評内組織綱領委員会が二年かけてまとめ、1958年総評十回大会に提出した文書。大衆討議に付されたが、三池闘争敗北後の情勢変化で、採択されなかった。出典は大木五郎編著『階級的労働運動の構築 第一集 総評組織綱領草案の研究』(全電通反合理化研究会 1976)収録のもの。大木五郎氏は綱領草案起草当時綱領担当常任幹事で、同書はしがきには、収録にあたって当時の大木正吾総評事務局長の同意を得たとある。大木氏によれば、主な執筆者は清水慎三。  全文(zip)
 
総評組織綱領草案目次
前文(本ページ)
一 職場闘争と職場組織
 1運動史的考察
 2職場活動、職場要求、職場闘争
 3職場組織と職場活動家
 4職場闘争と職制
 5職場闘争と組合本部の機能
 6職場闘争の性格
 7職場闘争の統一闘争
二 産業別組織と企業別組織
 1戦後の組合再建と企業別労働組合
 2企業別単位組織の問題点
 3産業別組織
  4産業別組織の単一化と企業連合
 5産業別整理区分について
 6産業別整理区分について
 7官公労と産業別組織概念
 8中小企業労働組合と産業別整理
三 総評、府県総評.地区労
 1総評本部の任務と性格
 2府県総評(地評)の性格と機能
 3地区労組織の役割
四 未組織労働者の組織化
 1構造的理解の必要性
 2最近の経過とその教訓
 3組織化の基調
五 居住地組織と家族組織
 1居住地組織
 2家族組織
六 組合運営
 1組合役員について
 2組合書記の性格と進路
 3組織活動と組合財政
七 青年部と婦人部
 1青年労働者の課題と青年部の任務
 2婦人部の課題と前進方向
八 戦線統一
 1企業内部の団結と第二組合問題
 2総評独自の組織拡大の意義
 3上部組織間の統一行動と組織合同
九 国民的結合のための諸問題
 1労農提携
 2労商提携
 3平和運動と各種カンパニア
一○ 労働組合、政党
 1組合と政党の関係についての一般的基準
 2組合内部における党員活動の在り方
 3組合活動の政治的発展
あとがき
 
前文
 
 日本労働組合総評議会は、いま日本の全労働者大衆の指導的組織拠点として、その行手を照らし現実のたたかいに指針と展望をあたえるべき地位に立っている。この全労働者的視野に立つ任務は、総評の他の任務、即ち加盟単産共闘の組織者たるべき任務、加盟単産や地方総評の要請にこたえて現実的に協力する任務等と共に、否、歴史的にはそれ以上の意義をもつものとして、わが総評に課せられた崇高な階級的使命である。それはわが国最大の全国的労働組合組織としてさけることのできない使命であり、かつまた、わが国のあらゆる分野の労働者、即ち、官公庁、官公企業、民間大企業に働らく労働者、臨時労働者、さらに社外工、自由労働者までを、あるいは加盟組織に、あるいは直接影響下にもつわが総評のみが誇りをもって担当することができる偉大な階級的使命である。
 日本の労働運動は戦後の大衆的なそして企業別的な新発足から数えて既に十有余年を経過した。民主的労働組合の総結集体としてわが総評がたん生してからでも既に十年近い年月が流れた。その間、われわれは労働運動とはいえないような甘い労使関係の経験もしてきたが、逆に発達した資本主義の労使関係とは到底いい難いような資本家階級の非民主的な労務管理の矢面に立たされてきびしい試れんも重ねた。産業別統一闘争のたび毎にといってよいほど企業別組合の弱さやもろさを味わったが、反面、いくつかの先進的な組合では世界の労働運動史に類を見ないような職場闘争のすばらしい発展を誇ることができるようになった。家族ぐるみの強じんな抵抗がいかに組合を強固な団結に導くかということについても数多く学びとることができた。中小企業に働く労働者の大半や臨時工、臨時職員、社外工、失業者を長期にわたって未組織状態に放置するような愚かな失敗もしてきたが、その克服への努力がはじまると共に、全国各地に配置された総評地評のオルグたちの苦闘の中から成果と欠かんをつづる貴重な教訓を数多く積重ねることができた。さらに労農労商提携にもっともよく代表される国民的結合という必要にして困難な課題と取組んでは、初歩的ではあるにしても創意性と自発性に富んだ若干のこころみを実行してきた。こうした過程をとおして居住地組織に幅広い任務があることも体得することができた。
 
 かくして、われわれは僅か十年余という短い歴史の中にもあげて数えきれないほど貴重な部分的成果を蓄積するに至った。にもかかわらず、われわれの組織綱領委員会がその第一回会合を「いま会社なり当局が本気で組合ブッツブシにかかってきたとしたら、それにたえきって生残りうる組合がいくつあるか?」という言葉ではじめなければならなかったほど、われわれの組織内部には大きな欠かんががん強に巣くっている。いまプラス勘定とマイナス勘定を対照してみるとき、何よりも先ず気がつくことは、先進的な組合の活動家と大衆が築きあげた部分的成果が、運動全体の資産として必ずしも効果的に吸収されていないことである。もちろん一つ一つのたたかいには個別性特殊性がつきまとう。一般的教訓をその中から引き出すには幾多の困難があることはいうまでもない。だが、個別性特殊性の中から一般性普遍性を抽出し、「到達闘争」の糧に備える努力は、この段階においてきわめて必要な仕事となってきた。数百万大衆が参加する労働運動の戦列に、いわゆるアンバランス、不均等発展はさけ難いにしても、多くの組合が「会社や当局が本気で組合をブッつぶそうとかかってもつぶれない」組合になるために、はたまた「先進的な組合を長期にわたって敵の攻撃の矢面にさらさない」ためにも、すでに蓄積された部分的成果を全組合のものにする作業は必要である。わけても、内外独占資本とその政府がわれわれに対する一切の甘さをなげすてていどみかかってきた現在、この仕事は緊急を要する時期にきたと見るべきだろう。それゆえ、この段階でもたれた組織綱領委員会の第一の任務は、これまでの先進的な諸経験、とりわけ「大衆闘争化」がさけばれ実行に移されたここ数年の創意にみちた諸成果を組織論的に位置づけ、それぞれに連関を明らかにし、今日到達し得たわれわれの運動態勢の構造をみんなで理解し合い、各組合の自発的な組織強化に役立つ一般的ないしずえを全労働者的な視野とスケールですえ固めることに外ならない。部分的とはいえ、今日これだけの経験的成果をもつ以上「組織綱領」の名の下に「上からの思想の押しつけ」や「形式的な組織図式」や「自発性をおしつぶす権威主義」の作文や青写真は決して創作すべきでないことはここであえてことわるまでもない。
 
 それならば、われわれはこれまでの諸経験からの帰納だけで、組織綱領と名付けうるだけの「組織づくりの思想的基礎」と「組織活動の行動基準」に到達しうるであろうか?もちろん、それだけでは不十分である。われわれは今日支配階級の組合破壊、組合骨抜きのあの手この手をハネ返し、今日のたたかいに勝って部分的成果を積み上げ、今日のたたかいを分析して明日への発展の芽を見出し、階級解放に至る長期の道に通ずる「労働組合としての大衆路線」を開拓しなければならない。それには少なくとも今日のたたかいにしっかりと足をつけ、その中から明日を展望しうる要素は適確にこれを把握して位置づけをしておかなければならない。階級解放への主体的な下部構造は、労働組合の今日のたたかい、明日のたたかいの中につちかわれる大衆と活動家の経験と自覚と組織態勢を抜きにして形成されえないし、またこうした展望をもつことなくして、われわれは今日の困難な闘いをたたかいとおし、組織を破壊の手から守り、運動の質的な発展をになうだけの大量の組合活動家をそだてることは著しく困難であろう。
 明日への展望にさしかかるとき、われわれは二つの基本的な問題に遭遇する。その第一は現在のわれわれの運動態勢と日本資本主義の搾取構造はどこでカミ合い、どこでズレているかを知ることである。戦略点を正しくとらえることなくして偉大なる未来への展望を現実的に導き出すことは不可能だからである。その第二は、階級政党の任務と交錯する問題である。階級的前進への展望をきりひらくことは、たとえ組合活動からの大衆的経験に立脚するにせよ、それは階級政党ほんらいの担当分野ではないかという議論は必ず出てくるに違いないからである。
 
 われわれはこの二つの問題に対して、──他の問題についてもそうであるが──今日までの大衆的経験の中から答える道を選びたい。
 例えば第一の問題について──。われわれは上から作られた企業別労働組合の弱さもろさをしみじみ体験する中から「幹部闘争から大衆闘争」への道を開拓し、職場を基礎とする統一行動の強化と、職場要求を掲げた職場闘争の展開を学びとった。われわれ企業別労働組合というワクが日本資本主義の構造、わけてもその労働市場の性格と深い関連があるという学問的な問題提起を受けていたが、大衆と大衆の中の活動家はその厚い壁に萎縮してしまうことなく、又それを構造的宿命として救いをただ議会の手に委ねてしまおうともしなかった。そうではなく、下に厚みを加え、下から壁をやぶろうと創意性を発揮しはじめた。職場要求をほりおこして職場闘争を展開する中で、日本資本主義の構造に根をもつ職場の民主主義抑制と労務管理による職制の個人別労働者掌握という根幹をなす搾取形態と激突し、厚い壁をはじめて意識すると共に体当りの中から先進的な組合の手で幾多の部分的成果を蓄積するに至った。三池炭鉱労働組合はその成果を更に前進させて「職場の主人公」への道を探究しはじめてさえいる。もしその道が産業別組織の手で守られ全炭鉱労働者の到達闘争と相まって、炭鉱労働者が強い連帯の中で生産の実力的担当者の地位を既成事実として作り上げることができるならば、企業別労務管理、企業別格差支配という基本的な搾取構造もまさしく地の底からゆさぶられるに違いない。さらにまた、「抵抗から職場の主人公」へのたたかいの中で築きあげられるであろう職場組織と活動家集団と各級機関の運営は、階級解放を生産点で支える社会主義への下部構造の日本的原型に成長しうるであろうことも否定し難い。またこのようにしてゆけば、独占資本段階で組織される労働組合は職種、職能別横断連合とはなり難く企業の外から組織化される場合といえども単位を経営におくのがむしろ自然であるという今一つの理論的命題に対しても、これを企業別労働組合のワクの中で受けとめて運動を停滞させるのでなく、正しく前向きにとらえてゆくことになる筈である。
 同様に将来への展望は全国一律の最低賃金制のたたかいからもさらに大きいスケールで約束されるであろうし、産業別統一賃金闘争を、あたかも一見サイの河原の石積みの如く繰返す経験の中からも抽出することができるであろう。
 
 だが、われわれは今日までの大衆的前進の成果に基礎をおくにせよ、正しく的を射、明日への展望を引出しうる場面に尚いっそうの力を集中するためには理論の助けを大いにかりなければならない。階級政党からは闘いの場面からの内面的な発展方向と明日への展望を教えて貰わなければならないし、けん虚にこれを聞かなければならない。ただ幾百万大衆の経験的成長、内部矛盾の克服と発展方向の開拓については、常に労働組合はその中核的存在であり続けなければならない。上から観念的に階級政党との間に一線をかくしたり、担当分野のひとりぎめをする必要はない。
 以上、われわれは総評を統一舞台とする日本の労働運動が、今日幾多の輝かしい部分的成果を既にもっていることと、それを整理し位置づけを行なって全体の運動の資産とすべき段階にあること、さらに今日と近い将来の時点に立ちつつできるだけ長期の展望の中でこれをとらえ評価すべきであることをのべてきた。以下成果を順を追うて検討し点検を加えて行くこととしたい。
 
 だが、本論に入るに先だってあえてつけ加えておかなければならない問題がある。それは本綱領が現在の闘争力強化にとどまらず、経験的事実から未来の展望への足掛りを見出そうとこころみているため、現在の闘争力強化の線にそう諸目標の中からとくに将来性の豊かな要素を抽出して強調している点に関してである。この観点から本綱領では全体を一貫して次の四点に特別の重要性が加味されていることをあらかじめ断っておきたい。
 その第一は、総評の全運動態勢の中で日本の全労働者大衆を構造的に代表しつつ統一行動を発展させる方向をとくに強調している点である。そうであってこそ、資本の支配構造と味方の戦線の間にズレを引起すことなく、階級対階級の全戦線にわたって対決できるからである。
 
 その第二は、われわれの運動がよって立つ民主的態勢を定期的な選挙に基礎をおくブルジョア民主主義形態のワクにとどめるのではなく、これを継承し拡充して今後創造的に労働者階級の民主的形態を発展させ、これを「抵抗から未来の勝利者へ」の全過程を通じてわれわれの組織的な武器にしてゆく意図である。そのためにはとりあえず、(1)上部組織の運営に対する下部組織の常時参加と下部組織の常時責任分担の態勢を確立すること、(2)下部における「運動機能」を上部組織の運営機構に反映させる措置をとること、の二点を取り上げ、われわれの運動の中に構成的にも機能的にも下から積み上げられた行動体系をもつ民主的態勢を実現してゆくことである。資本の階級支配は選挙による民主的態勢を形式的に一応認めつつも非民主的手段と制度を併用して支配力を強めるが、われわれは選挙による民主主義をさらに質的に発展させる中で力量を養い蓄積することが正しい行き方であり、未来を開拓する政治的組織的原理に到達できる道と考えるからである。
 
 第三に、職場と居住地の活動を通じて、日本資本主義の生産構造と社会構造を下部からつきくずし、末端に新らしい秩序とモラルを打ちたてる仕事を重視する点である。そこでは当然全体の支配構造からくる厚い壁がある。だが、それに対して幾度びか失敗を重ねるにせよ部分的にくずし統一的にひろげる活動を積み重ねることによって、上部における政策変更と構造的変革の要求に下からの支えをつくることができるのであって、階級解放への下部構造はかくしてのみつくられるからである。
 
 第四に、現在われわれがもっている企業をこえた組織拠点──それが産業別であれ地域的であれ──の役割を長期的にとらえ重視することである。当面のたたかいの戦術指導部ないしは戦術拠点としての面だけでみるのではなく、当面のたたかいの中できたえながら、長期的な任務に堪える組織として育て上げ、労働者階級の前進に欠くことのできない組織拠点に高めてゆかなければならないからである。
 われわれは勝利の未来像を美しく胸にえがいて遠い将来の夢とし、逆に現実をその日暮らしに片付けるくせがある。だが、未来は現実の闘いを通じてのみ、そして闘いの中でいま作りあげている人と組織を土台としてのみ創造できることを知らなければならない。汗と油の中でつちかわれたものから未来への力と素材を引出してこそ勝利への道も創造的にきりひらかれてゆくであろう。
 
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