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日本社会党の新宣言   愛と知と力による創造         後半・新宣言に関する決議  
 
附:新宣言に関する決議    
 
*1986年から1995年までの日本社会党の綱領的文書。日本社会党第五十回大会(続会、1986年1月22日)で決定。同時に、「新宣言に関する決議」も議決された。出典は、新宣言、決議とも『月刊社会党』No361・第五十回定期全国大会決定集(臨時増刊、1986年3月)。
はじめに
    ―社会党の四十年と新宣言   
 
 いま世界と日本は、二十一世紀にむけて大きな転換の時代を迎えている。新宣言は、この転換の時代に日本社会党が新生し、国民とともにさらに前進する決意と方向を明らかにする。
 日本社会党は一九四五年に結成された。以後四十年、日本社会党は世界の平和と友好の発展に貢献し、国政では民主主義と国民生活向上のとりでとなってきた。この足跡は党と党員の限りない誇りである。また地域では、多くの自治体で革新首長を実現させるなど、自治と福祉の前進に大きな役割を果たしてきた。

 だが、その一方、この四十年間、日本社会党は、短期の片山内閣をのぞいては、政権を担当することができなかった。このために、国民の期待に十分には応えきれなかった。いま、日本社会党はなにより、国民とともに政権を担う党に発展する決意である。
 日本社会党のめざす目標とそれを実現する道すじは、そのときどきに決定された結党綱領、統一綱領、社会主義への道、によって国民のまえに明らかにしてきた。しかし、これらの文書は、時代の変化と党自体の前進のなかで歴史的文書となった。いま日本社会党は、これらの文書にかわって新宣言をうちたて、今日と明日への目標と路線、そして、自民党にとってかわり政権を担当する党としての能力と決意を国民のまえに明らかにする。
 
     めざす 人間解放のために
       ―社会主義の理念と基本政策
 
 すべての人間は、人間らしい暮らしを営む権利をもっている。

 この権利を全面的に実現することが人間解放である。そのためには、搾取、差別、疎外、環境破壊抑圧、侵略、戦争など一切の非人間的なあり方を、人間社会から除去しなければならない。この人間解放をめざして一歩一歩改革を進め、社会の質的変革を実現していくことが社会主義である。社会主義への道は、現実から出発するたえざる発展、たえざる社会改革の進展である。

 人間解放を目的とする社会主義は、人類普遍の原理である。同時にそれは、それぞれの国民的特質をもった運動と内容をつうじて達成されていく。人間解放を目標とする社会主義の不変の根本理念は人間尊重である。日本社会党は、内外の社会主義運動の先輩たちが残した歴史的遺産を正しく受けつぎ、あふれるばかりの人間尊重・ヒューマニズムの理念を高くかかげて進む。

 人間尊重という基本理念は、歴史の発展のなかで具体化され、豊富化される。日本社会党の理念はつぎのように集約される。

  反戦・平和と共存
  人権と博愛
  個性と連帯に裏づけられた自由
  民主と自治
  公平と平等
  人間的な労働
  豊かで質の高い生活
  自然と人間の共生

 日本国憲法は、まさにこの理念を具現化したものであり、そのすぐれた理念は世界に展開されるべきものである。

 日本社会党の理念にもとづく新しい社会の目標は、あらゆる非人間的状態から人間を解放し、自由と平等、個性と連帯の社会のなかで、質・量ともに豊かな人間生活を実現し、軍備なき世界をつくりあげることである。この理念と目標は、現実を出発点とする改革のプログラムとして具体化しなければならない。それは、社会主義の基本政策であり、その着実な実現が社会主義の前進となる。

 日本社会党の基本政策目標は、つぎの四点に集約される。

1 平和、協調をもとにした国際体制と非同盟・中立・非武装の実現。この目標をめざし、反核・軍縮を推進し、政治的にも、経済的にも、文化的にも東西間と南北間のかけ橋となり、第三世界諸国の貧困の解決と新しい国際経済秩序の形成に貢献する日本をつくる。

2 分権・参加・自治の保障によるあらゆる分野での民主主義の画期的な拡充。この目標をめざし、政治面では国会と自治体の活性化をはかり、また金権の打破と情報の全面公開をつうじて、政治への国民の直接的参加をはかる。経済的には、中央・自治体の政策形成と民間部門・政府部門の企業活動に当事者である労働者と消費者および住民の参加を保障する。地域では、教育・医療・交通など社会経済活動に参加と自治の制度を導入し、暮らしやすいふるさとをつくる。官僚制を打破し、国民にとって公正かつ効率的な行政を実現するため、政界・財界・官界の癒着を断ち切り、国民のための行政改革を推進する。

3 社会と生活の質を重視し、世界に貢献する社会的成長の実現。この目標をめざし、市場の有効性を生かしつつ、同時に、その弊害を除去するために民主的な経済計画にもとづき社会的な規制と誘導をおこない、量と質、効率と公正を達成する。内需による成長を重視し、公正な国際競争条件の確保とあいまって、国際経済摩擦の解消につとめる。福祉と社会の平等および二十一世紀にむけての社会資本の整備のため、国民の負担の公正化・適切化をはかる。人間の幸福に役立つよう監視と制御をおこないつつ、科学技術の発展につとめる。

4 市民の暮らしに密着した福祉・環境・文化・教育・医療・スポーツの自主的な発展。この目標をめざし、人権を維持する福祉ミニマムを確立するとともに、人びとがそのニーズに応じた福祉を、日頃暮らしている社会のなかで確保しうるような多様な制度を発展させる。非人間的な管理社会から脱却できるようにするため、文化・教育などにおける人びとの自治的な活動を保障する。

 また次の時代を切りひらく力をもつ、生き生きとした創造力のある子どもたちを育てるため、豊かな教育環境を全社会的にととのえる。

 日本社会党は、このような現代日本の社会主義の課題を、日常の運動と日本社会党の政権によって実現し、かおり高い文化立国をめざす。
  
     みつめる 今日の社会
        −現代日本の社会主義の課題
 
 日本社会党が改革の対象とするのは、一般の国民が日常の暮らしをしている現代の日本と世界である。
 日本もその一翼を占める現代の世界は、産業革命と市民革命によって開かれた近代社会の展開のなかにある。

 産業革命以後、資本主義は商品経済、市場経済にもとづく産業社会をきずきあげ、先進工業国では生産力を急速に発展させた。しかし、その半面、資本家による労働者の搾取、貧富の差、強者による弱者への抑圧、各種の非人開化が進展し、先進国による他の民族への侵略がおこなわれた。

 社会主義運動は、貧困を根絶し、社会の平等を高めることをめざして資本主義の害悪に対抗するものとして展開した。

 資本主義とともに発展した市民社会は「自由・平等・博愛」をスローガンとした市民革命を展開した。それは市民としての自由と基本的人権、議会制民主主義を発展させた。しかし、市民革命が約束したすべての人びとの政治への権利を普通選挙権として実現するなど、民主主義に実体を与える活動をしてきたのは社会主義者たちの運動であった。

 社会主義者たちの懸命の努力にもかかわらず、二十世紀の前半の世界では資本主義の害悪が頂点に達した。

 先進資本主義国による植民地侵略は地球全体をおおい、そのうえに植民地争奪をめぐる世界大戦がおきた。一九三〇年代には大恐慌と大量失業が人びとの生活を破壊した。日本を含む多くの国ぐにで暴虐なファシズムがあれくるい、民主主義は破壊された。人びとは戦争と強制労働にかりだされた。

 二度目の世界大戦がおこり、数千万の人びとが命をおとした。第二次世界大戦の末期には、広島・長崎の悲劇をもたらした核兵器が登場し、その後の人類の危機をふかめた。

 どの国においても、貧困と失業をなくすたたかい、侵略に反対し、平和を実現するたたかい、政治的抑圧を取り除き、民主主義を擁護・発展させるたたかい、暴力があれくるう世界にあって、こうした分野でのたたかいの中心は、社会主義者であった。

 いま人類が暮らしている二十世紀後半の地球には、歴史の前進と危機の深化が交錯している。
「世要戦争の悲劇をくりかえすな」。これが世界の人びとの共通のスローガンとなり、飢餓、失業、恐怖、抑圧からの解放が第二次大戦後の世界の目標となった。かつての植民地の民族は、つぎつぎと独立を達成した。

 先進工業国では、完全雇用と人間としての生活の、すくなくともミニマムを保障することを国家の義務とした福祉国家が形成され、発展した。それには、さまざまな苦難がともなったが、各国で社会主義政党が政権を握ったときは、このような歴史の進展を加速させた。

 一方、人類の危機もふかまった。第二次大戦後にはじまった米ソの冷戦は、緊張緩和への努力にもかかわらず、いぜんとして地球をおおっている。武力で国際間題を解決しようとする傾向は今日もなお続いている。終末戦争につながる第三次世界大戦は絶対に起こしてはならない。とめどのない核軍拡競争は、一触即発の危機をつくりだしているだけでなく、飢えと貧困に苦しむ多くの人びとの自助の努力を妨げている。

 二十世紀の後半には先進工業国では「豊かな社会」が出現し、福祉国家のなかで平等化も進んだが、経済上の諸問題が全面的に解決されたわけではなかった。先進国にしばしば激しいインフレーションが襲い、また、大量失業が人びとの暮らしと社会を脅かしている。第三世界の国ぐにの多くは貧困におおわれ、軍事紛争が頻発し、なかには飢餓にひんしている地域もある。
 二十世紀の最後の四分の一の時期に、アメリカ、西ヨーロッパの国ぐにのなかでは、新保守主義の潮流が強まっている。新保守主義は、経済上の諸問題を福祉の切り捨てと戦争の危機をあおり、労働組合や市民の運動を抑圧することによって解決しようとする。それは二十世紀の前進面を否定しようとするものである。社会主義者は新保守主義の動向とだんことして対決し、現代の問題を前向きに解決するなかで克服していく。

 一方、いわゆる「東」の諸国も多くの問題をかかえている。ロシア革命は、資本主義の害悪に対抗する体制として世界に大きな衝撃を与えた。

 これら諸国の展開のなかでは、中央集権計画経済、党と国家の一体化のなかで、経済的には成長の鈍化をまねき、政治的・社会的には、民主主義の発展が抑圧されるなど、幾多の問題を生みだしている。これらの、いわゆる既存の社会主義の体質は、日本社会党のめざす社会主義とは異質で、その方向はとらない。

 二〇世紀は明と暗が交錯する時代であった。物質的豊かさ、人権の拡大、民主主義の前進はその明るい面であった。しかし、人類絶滅の危機、いぜんとしてつづく経済上の諸問題、そして、むしろ激化する社会病理現象などはその暗い面である。

 そしていま、きわめて現代的課題として宇宙船・地球号の運命が問われていることを日本社会党は重視する。核による人類絶滅の危機とならんで、産業社会の発展そのものがもたらした人類の危機があらわれている。資源の乱用による生態系の破壊がそれである。その象徴は南の国々の飢餓である。

 人類はこれらの危機を克服し、二十世紀がきりひらいた新しい可能性を大きく前進させ、明るい二十一世紀をめざさなければならない。世界と日本の社会主義者は、そのためにこそ献身する。

 明治維新以後、日本の戦前は富国強兵のなかで、抑圧と強度の搾取と戦争に終始してきた。その苦難のなかでわが国の社会主義運動は誕生し、発展した。

 戦後、戦争への反省と国民のたちあがりのなかで、新しい憲法が制定され、日本は本格的な近代市民社会の仲間にはいった。経済的には高度成長を経過して経済大国となった。「豊かな社会」の土台がきずかれた。
 そのなかで国民の生活と福祉も前進した。その多くは日本社会党や労働組合の努力の結果であった。

 その裏側では、管理社会化と人びとの「会社人間」化の傾向も強まり、自由で個性的な活動が抑圧されるようになった。国際的には経済摩擦の主役となった。そして経済的にだけでなく、軍事的にも大国化への道を歩む危険な動向が強められている。

 また二十一世紀への転換期におけるいま、新しい社会問題が発生し展開している。「成熟社会」への展開にともなう光と影がそれである。社会の高齢化の展開、先端技術と情報化社会、産業構造の変化と階層変動と価値観の多様化による社会の多元化、女性の社会的進出の増大、生活や福祉の質など新たな課題は多い。

 しかも、転換期の社会問題を解決するための経済環境は、成長の鈍化と財政の危機に示されるように、適切な経済政策を必要とする時代にはいっている。

 これまでの日本の発展の根拠の一つには、日本と日本国民としての特質があった。国民としての均質性、勤勉と教育にもとづく良質な労働力、新しい環境や条件に適応する能力などがそれである。

 このような能力の多くは、これまで企業の利潤の増大のために利用されてきたため、かえって国際摩擦や国内の社会問題の原因となってきた。しかし、日本国民の高い能力は、それがつくりあげてきた高度な生産力とともに、日本においてすばらしい社会主義を発展させる根拠となる。

 また、日本国民は、アジア大陸より最初の文明の洗礼をうけたときから、欧米の産業技術と民主主義の原理をひきついだ現代にいたるまで、その成果を活用し発展させてきた。日本の発展は、民族の能力の結果であると同時に大きく世界の人びとのおかげをこうむってきた。

 このようにして日本国民は世界に誇るべき経済力と、そして、政治と社会の理念の根本をなす日本国憲法をもつにいたった。日本と日本国民の特質は、いま日本が世界のなかで、憲法の示す理念に立ち、また達成された経済力を支えとして、平和の面でも、経済の面でも東西、南北、北北のかけ橋となるべき任務を担うにいたっている。

 それをじっさいに可能とするのは、人間尊重の立場に立つ日本社会党である。