● 第7回 ●
 
●お題目:
何故、半熟卵は生卵より消化が良いの?(「アビジン」と「ビオチン」について)
 
●お話し:
以下の太字で強調してある内容は、当サイト「掲示板」にあったご質問に対する、私のお返事の内容になります(一部修正してあります)。
不完全な内容ではありますが、主要原因には違いありませんので、ご参考までにお読み下さい。
 
 
 
まず、「半熟卵」と「生卵」の違いは「加熱の有無」しかありません。つまり、この点が消化の良し悪しの起因になっている事は疑いようが無いと思います。
たったこれだけの違いにより、半熟卵と生卵には、本当に「消化に対し差が発生するのか」、「発生するとしたら何故か」というのは、当然の疑問ではあります。
 
ところで、一言で「消化が良い・悪い」と言っても、その意味は色々あり、例えば「吸収率」「胃内滞在時間」「消化時間」等が主なものになります。
「消化が〜」というと、本当に「消化」のみの事だと一般的には捉えられがちなので、もし他者にご説明するような場合があれば、一言この事を補足して頂くと、より理解も増すのではと思います。
 
 
では、本題に入りましょう。
さてさて、卵黄に含まれる物質の中に「ビオチン」という、別名「ビタミンB7」とも言われる物があるのですが、実はこの物質、食品中では主に蛋白質と結合した状態で存在しており、そのままでは腸から吸収されません
 
そこで「ビオチニダーゼという膵液にある酵素によって、その結合が切り離され、「遊離型のビオチン」になる事で、ようやく腸(主に空腸)で能動輸送により吸収されるようになります。
なお、「ビオチン」は熱、酸性、アルカリ性に対し、比較的安定を保ちます
 
しかしながら生卵を食べた場合、卵白に含まれているアビジン」という糖蛋白質と、この「ビオチン」というビタミンが極めて高い親和性を持っている為、腸管内等で容易に結合してしまいます。
しかもこの結合、「通常の抗原抗体反応の100万倍以上という非常に強力なものである為、殆ど不可逆性の結合になってしまう上、アビジン1分子当たり4分子のビオチンと結合してしまうのです。
 
「アビジン」単体では熱や酸性下に対し安定を保つ事はできませんが、この結合が強力、且つ安定している事が重要で、これにより通常の消化・吸収の過程では殆ど分解不可能な物質ができてしまうのです。
 
つまり、ビオチニダーゼや胃酸等で結合を切ろうとしても(消化)、「アビジン」と「ビオチン」の結合型(これを「アビジン-ビオチン複合体」と言います)が胃等で形成されてしまいますと、不可逆性とまで言われる程強力な結合の為、膵液のビオチニダーゼ等ではこの結合を切る事ができず、結果としてそのまま空腸に行ってしまい、腸での吸収が阻害されてしまう事になります。なお、その吸収効率は約60%程度になり、残りの約40%は吸収されずに排泄されるとの事です。
また、消化が殆どできないような物質である為、胃内滞在時間は必然的に長くなってしまいます。
 
ただ、生卵を食べたからと言って、「ビオチン」等の栄養素が欠乏するという事は、普通に食事をしている限り考えられませんので、ご安心下さい。
 
 
・・・という事で、上記内容から「生卵の消化・吸収が思ったより良くない」という事の理由はお分かり頂けたかと思います。
 
 
では、ここで「加熱」を行う事がどのように関わってくるのかと言いますと、今までの内容から既にお分かりかもしれませんが、「アビジン」が「熱に弱く」、「ビオチン」が「熱に耐性がある」という性質に関係があり、この「半熟卵状態にする加熱というのが、ちょうどアビジンを失活させる意味を持っているのです。
 
卵内の「アビジン」と「ビオチン」が結合する為には、「卵黄の膜が破れ、卵白と接触する」必要があります。
ところが、これを「半熟卵」にする(つまり「卵黄」の中身と「卵白」が接触する前に、適度な加熱処理をする)という事は、「接触する前の段階でアビジンだけを不活性化させる」事ができる、という調理法を行う事になるのです。
 
これにより吸収阻害は発生せず、スムーズに消化・吸収が行われる(吸収効率は96%程度に上昇する)事で、お題目のように「半熟卵が生卵より消化が良い」という、一見不思議な現象が起こるという訳ですね。
 
 
なお、完全に余談ですが、固ゆで卵の場合は蛋白質が完全に熱変性により凝固してしまう為、消化しにくくなりますし、魚卵の場合は卵膜のケラチン質により消化に難があります。また、玉子焼きや目玉焼き等の「油」を使うものは、さらに難があります。
 
 
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