● 用語解説 ●
●用語名:
ノロウイルス(Norovirus)
●関連用語:
SRSV
小型球形ウイルス
●説 明:
1.ノロウイルスとは?
サポウイルス(Sapovirus:旧名称は“札幌様ウイルス(SLV:Sapporo‐like viruses)”)と同じ“カリシウイルス科(Caliciviridae)”に属するとされる腸内ウイルスのうち、ノロウイルス(Norovirus)はヒトに感染して下痢や嘔吐を引き起こす主な病原体で、以前は“小型球形ウイルス(SRSV:small round structured viruses)”と呼ばれていました。
カリシウイルスの語源は、長径が35〜40nmの正20面体粒子で、ウイルス粒子を電子顕微鏡で見た時、その表面のカプシドの形がカップ状(ラテン語で“calix”:“コップ”とか“盃”という意味です)である事から名付けられました。
従来のウイルス検査では、患者の便の電子顕微鏡による形態観察に頼っていた為、形態学的には球形で長径27〜35nm前後の表面構造を有する物をまとめて“小型球形ウイルス(SRSV)”と呼んでいましたが、近年のRTーPCR法(reverse-transcriptase polymerase chain reaction assay)等、SRSV遺伝子解析技術や検査方法の進歩(
厚生労働省「ノロウイルス検出法」PDF:112.4K)により、SRSVとまとめられていた物のうち、非細菌性急性胃腸炎を起こすものには2種類あり、その殆どが“ノロウイルス(国際ウイルス学会:2002年8月命名)”である事が分かると同時に、もう一方のウイルスを“サポウイルス”と呼ぶ事にしたのです。
ノロウイルスはヒトの小腸粘膜で増殖するウイルスで、感染性胃腸炎や食中毒は冬場に多く発生する傾向があります。特に、保育園、学校、福祉施設等で発生した場合は、その伝播力(感染する力)が極めて強い為、施設内での集団発生の事例が多く報告されています。
ノロウイルスは、60℃、30分程度の加熱では病原性を失わず、塩素系漂白剤や消毒用アルコールに対しても抵抗性があります(“抵抗性がある”というのは“効果がない”という意味ではなく、“抵抗力がある”、つまり“効果はあるが効き難くなる”という事です)。低温にも強く、ノロウイルスに汚染された水や氷が感染源になる事もあります。尚、消毒用アルコールは、塩素系漂白剤より効果が小さくなります。
また、ここでの“塩素系漂白剤”とは“家庭用漂白剤で次亜塩素酸ナトリウムが4〜6%含まれている物”、“消毒用アルコール”とは“70〜80%のもの”を指しています。
2.ノロウイルスの感染経路は?
@経口感染
経口感染とは、ノロウイルスに汚染された飲料水や食物を飲食する事によって感染(食中毒)する場合を言います。特に生カキを食した後に発症する事が良く知られています。また、良く火の通っていないカキや、他の貝類が原因となる事もあります。
最近では、ノロウイルスに感染している調理従事者や配膳者が良く手を洗わずに汚染された手指で食材を触る事によって、まったく別の食材に汚染が拡大し、感染する事例も報告されています。
A接触感染
接触感染とは、ノロウイルスで汚染された手指、衣服、物品等を触る(接触する)事によって感染する場合をいいます。この場合も、最終的には接触後汚染された手指や物品を口に入れる(舐める等)事により、ノロウイルスが口の中に入り、感染します。ノロウイルスの感染力は非常に強く、わずかなウイルスが口の中に入るだけで感染します。
B飛沫感染
飛沫感染とは、ノロウイルス感染症を発症している患者の吐物や下痢便が床等に飛び散り、その飛沫(ノロウイルスを含んだ、ごく小さな水滴が1〜2m程度飛び散り、ウイルスが乾燥して空気中に舞い上がった状態)を吸い込む事によって感染する場合をいいます。嘔吐物や下痢便の処理が適切ではなく、それが原因で乳幼児施設や小学校、高齢者施設等で集団感染として拡がった事例が報告されています。
最初は経口感染で発病者が出ても、その後は接触感染や飛沫感染でヒトからヒトに感染が拡がって行く場合が、ノロウイルスでは非常に多いと考えられています。
3.主な原因食品は?
ノロウイルスに汚染された飲料水や食品、特にカキを含む貝類が多く報告されています(生カキを食べて発症した患者の約70%からノロウイルスが検出されているそうです)。ノロウイルスは貝の体内では増殖出来ませんが、貝類の生息域がノロウイルスに汚染された場合、ノロウイルスを体内に蓄積してしまうと考えられています。
また、感染者の便や嘔吐物等に触れたり、飛散した物に接触する事で二次感染を起こす事もあります。学校や保育園等の集団給食施設での発生も見られますが、その際、原因食品が特定出来ない場合があります。
4.ノロウイルスによる食中毒の特徴は?
ウイルスが体内に取り込まれてから、24〜48時間で発症し、急性胃腸炎症状をひきおこします。また、症状が無い場合でも、便の中からウイルスが検出される事があります。
主な症状は、下痢、吐き気、おう吐、腹痛、発熱(38℃以下)等、風邪に似た症状で、通常3日以内で回復します。
血便は通常ありません。また、子供では嘔吐が多く、成人では下痢が多い事も特徴の1つです。
腹痛、頭痛、発熱、悪寒、筋痛、咽頭痛等を伴う事もありますが、一般的に症状は軽症で、くしゃみ・咳等の上気道炎症状が主な症状となる事や、症状がない(ただしウイルス排出し、その人が感染源となる事はあります)不顕性感染で終わる場合も多く、この場合、治療を必要とせずに軽快します。しかし、抵抗力が落ちている方や乳幼児等では、数百個程度のウイルスを摂取するだけで発症してしまう場合があり、死亡例の報告もあります。
5.発生時期は?
秋から冬にかけて、生カキを主な原因食品とするノロウイルスの食中毒が集中的に発生しますが、基本的に1年を通して発生します。
6.一次感染・二次感染の予防方法は?
@手洗い
最も重要で、有効な予防方法は手洗いです。トイレの後、食事の前、調理の前、おむつ交換の後、嘔吐物や下痢便の処理の後等では、流水・石鹸による厳重な手洗いやうがいが有効です。また、嘔吐・下痢症状のある方とのタオルの共用は避けて下さい。感染しても症状のない大人から子供が感染し、さらに子どもが通っている施設内への感染につながる事がありますので、特に小さな子供がいるご家庭では、普段から排便後や食事前の手洗いを厳重に行って下さい。
A嘔吐物・下痢便の処理
ノロウイルス感染症の場合、その嘔吐物や下痢便には、ノロウイルスが大量に含まれています。ノロウイルスは、僅かな量が体内に入っただけで容易に感染しますので、その処理については十分注意が必要です。
ア)発見
ノロウイルスの流行期に吐物や下痢便を発見した場合は、出来る限り子供や高齢者の方を遠ざけて下さい。その場所がトイレであれば処理が終わるまでは使用しないようにして下さい。処理の際にウイルスを含んだ飛沫が舞い上がりますので、処理をする人以外は少なくとも3mは離れた方が良いでしょう。
イ)処理
吐物及び下痢便の処理は、ノロウイルスにある程度抵抗力のある大人の方が行うようにし、お子様や高齢者の方は出来るだけ処理をしないようにして下さい。また、拭き取りの際にも飛沫が発生しますので、無防備な方は絶対に近づけないで下さい。但し、放置しておけば感染が拡がる為、速やかに処理する必要はあります。
処理をされる方は、ご自分の防御の為、マスク・手袋(この場合の手袋は“清潔”である必要はなく、“丈夫”である事が重要です)をしっかりと着用し、雑巾・タオル(ペーパータオル)等で吐物・下痢便等が飛び散らないよう、静かにしっかりと拭き取って下さい。オムツ等は、出来る限り揺らさないように取り扱って下さい。
拭き取った雑巾・タオルはビニール袋に入れて密封し、破棄して下さい(破棄しない場合は、水洗い後しっかりと消毒して下さい)。その後、薄めた次亜塩素酸ナトリウム(塩素濃度1000ppm:家庭用塩素系漂白剤では50倍程度に薄めたもので、原液が5%の場合、2Lのペットボトルにペットボトルのキャップ8杯分を入れて水を2Lまで入れるとできます)等で吐物や下痢便のあった箇所を中心に広めに消毒を行って下さい。塩素系漂白剤を含ませた布(塩素濃度1000ppm)で被い、しばらくそのまま放置して消毒する方法もあります。
嘔吐物、下痢便の付着した衣類等は、他の衣類等とは分けて水洗いした後、塩素系漂白剤等で“つけ置き消毒(塩素濃度1000ppmに5〜10分程度)”して下さい。もちろん衣類を水洗いした場所も消毒が必要です。また、嘔吐物や下痢便が付着した衣類やタオル等を複数の人が使用する水道で洗浄する事は控えて下さい。もし水道で洗浄した場合は、その洗浄場所を必ず塩素系消毒剤で消毒しましょう。
※ ペットボトルのキャップ1杯=5ml
B調理について
ノロウイルスは、主に貝類の内臓、特に“中腸腺”と呼ばれている黒褐色をした部分に存在していますので、表面を洗っただけでは除去出来ません。ですから、貝類は十分に加熱してから食べるようにし、湯通し程度の加熱で食べないようにして下さい。“加熱加工用”等と書かれているカキ等は、生食する事を想定した処理をしていませんので、例え新鮮な物であっても絶対に生食しないで下さい。
貝類を調理する際に使用した包丁やまな板は、極力他の食材の調理等には使用しないようにし、もし他の食材の調理等に使用する場合や使用した後は、熱湯やアルコールで消毒して下さい。生鮮食品(野菜、果物等)は、十分に洗浄してから使用し、加熱出来る食材なら、85℃、1分以上で加熱調理をして下さい(この85℃、1分以上の加熱とは、カキの中腸腺が凝固する温度と時間を基準にしています)。また、盛り付けや配膳等の作業時には、手袋を着用するようにし、もし無ければ十分に手洗いや消毒を行って下さい。ノロウイルスの失活化には、エタノールや逆性石鹸ではあまり効果がありません。失活化する為には、次亜塩素酸ナトリウムや加熱が有効です。調理器具等の洗浄方法は、十分に洗浄した後、次亜塩素酸ナトリウム(塩素濃度200ppm:家庭用塩素系漂白剤では250倍程度に薄めたもので、原液が5%の場合、2Lのペットボトルにペットボトルのキャップ1杯半、面倒であれば2杯分を入れて水を2Lまで入れるとできます)に浸け置き、または浸すように拭くか、85℃以上の熱湯で1分以上の加熱が有効です。
調理従事者は常に爪を短く切る、指輪等を外す等の基本事項を守り、石鹸やブラシ等を使用して、手指洗浄を十分に行って下さい。石鹸自体にはノロウイルスの失活化する効果はありませんが、手の脂肪等の汚れを落とす事で、ウイルスを手指から剥がれやすくする効果があります。
もし、調理従事者の中で、下痢、吐き気、嘔吐、腹痛、発熱等、風邪に似た症状が見られた時は、調理や盛り付け等には従事せず、直ぐに医療機関を受診し、医師に相談をして下さい。
C症状が治まった後
症状が治まった後でも、数日間ウイルスは便等から排出されますので、暫くは注意が必要です。
※症状がある場合は、早めに医師の診察を受けて下さい。
症状持続期間は比較的短期間ですが、最も重要な事は水分補給により、脱水症を防ぐ事です。特に小さなお子様や高齢者にとって脱水症は危険ですので、水分補給は極めて重要です。
また、ノロウイルスに対する“抗ウイルス剤”はありませんので、治療としては、通常脱水症状が酷い場合等に輸液を行う等という対症療法がとられています。