4 大きな勘違い
「あ」
遊びにきた熱斗が帰った後、炎山は桃色の封筒を見つけた。
ちょうど熱斗がいた位置にあったので彼の忘れ物だろう。
「…気付いて取りに来るだろ」
それとも連絡した方がいいのだろうか。
そのままにするのも悪いので取りあえず拾いあげる。
ふと、裏を見ると差出人の名前がない。
「…?」
表にはちゃんと《光熱斗様》と明記されているのに。
不思議に思いながらも頭に浮かんだのは…ラブレターという単語。
差出人のない桃色の可愛らしい封筒、これを受け取ったのは間違いなく熱斗である事は表の名前で証明されている。
じわりと滲む汗は微かだが炎山の動揺を物語っていた。
中身を見て…一瞬だけ考えてしまった頭を大きく振り、そんな卑怯な真似を思考から消す。
だが焦りや不安がより一層増したのは事実なわけで。
見つけるんじゃなかった。
せめて熱斗が取りに来るまで気付くんじゃなかった。
ひたすらそんな事を考えていると、控え目なノックの音が響く。
「炎山…?」
ビクリ、と肩が震えた。
別にやましい事をしている訳ではないのに…考えはしたが。
「ね…熱斗…」
少しだけ鼓動が速くなる。
落ち着けと頭の中で何度も繰り返し、平静を装いつつ熱斗へ体を向けた。
「あのさー俺、忘れ物して…あ!それ!!」
熱斗が指さしたのは紛れもない桃色の封筒。
「途中で気付いて良かったー」
カラカラと笑いながら近付く熱斗に対して、炎山は思わず後退りをしてしまう。
「炎山?」
「あ…いや…」
この手紙はなんだ?これだけの言葉が出てこない。
『本当に熱斗くんは忘れっぽいんだから〜』
PETの中で相棒が呆れたように笑っている。
「仕方ないだろー忘れるものは忘れるんだからさ〜なぁ炎山?」
突然、話をふられ思わず出た声は裏返っていた。
ここまで動揺しているのか…自分自身に苦笑しながらも炎山はついに腹を括った。
「ほら、忘れ物」
普段なら嫌味の一つ二つは出てくるものの、今回ばかりは無理のようだ。
「サンキュ」
封筒を受け取った熱斗は何故か炎山の顔を見た、それもじっくり。
それから首を捻り、まるで苦手科目の問題が解けず苦戦しているような表情をするのだ。
「…何だ?」
「んー…こっちの事、じゃまたな!」
踵を返し、手を軽く降って帰る熱斗を見送った炎山はどっと押し寄せて来た疲労に盛大な溜め息を吐いた。
残ったのは大きな勘違いと、あの桃色の封筒が何だったのかだけ。
ちなみにその真相は…
「やっぱり、やいとちゃんの言った意味は分かんないなー」
封筒をヒラヒラさせながら熱斗は呟く。
《この封筒をわざと忘れて、取りに戻ってみなさい?絶対に面白いものが見れるから!》
『…確かにあれは見物だったよ』
小さく漏らしたロックマンの言葉は誰も知らない。
やいとちゃんの罠に引っ掛かった炎山様。