それはもう本当に小さな自分のミスで。
まったく気にも留めていなかった自分の小さなミス。

本当に腹が立つ。

目前に迫っていた楽しみに浮かれすぎて他に考える余裕がなかったのは当然だが
何故自分はこんな当然の事を全く忘れていたのだろうか。
  
3.小さなミス

 

ようやく念願叶って大好きな幼馴染と同じ高校に入学が決まったと思えば、大好きな幼馴染にはすでに手篭めにされていた。
言い方が悪いので単語を変えれば ”彼氏” が出来ていた、相手も幼馴染も男だけど。
それを知った日のトォニィの荒れようは酷かった、全学年の給食の残りを全て奪いつくし、一人やけ食い状態だったのだ。
クラスメイトで一番仲のいいタキオンはトォニィの失恋を知って『これも食えよ』と自分のデザートを差し出し『これがほろ苦い青春だ』などと慰めてくる始末。
だから半ばヤケで言ってやったのだ、『ジョミーもその相手も男だ!』と。
その日、トォニィから衝撃発言を聞いたタキオンの表情は忘れられないだろう。
しかし、神はトォニィを見放しはしなかった。
トォニィの入学と同時にその男は卒業したのだ、自分は一年、ジョミーは2年。
自分は何て幸運なんだろうか、このチャンスを逃す手はない。
大好きな幼馴染、ジョミーは前任のソルジャー・ブルーという男から半ば無理やりソルジャーを任されたらしい。
ソルジャー、というのがこの学園では生徒会長という意味らしいが、何故なのかは知らないし興味は一切ない。
それに口に出すのも億劫だがこのブルーという男こそが、トォニィの憎き恋敵でありジョミーの彼氏であった。
どんな経緯でブルーがジョミーの彼氏という立場を得たのかは、トォニィ自身が聞く態勢をとらなければ一生分からないだろう。
分からなくていい、今のトォニィにとって一番重要なのはいかに自分に意識させるか、であった。
学園に入学して生徒会に入ってからの毎日は天国としか言いようがない日々だった。
放課後だけではあったが毎日ジョミーに会える。
基本的に生徒会は毎日あり、特にこれとする事がなくても顔合わせぐらいはする、が基本だった。
これはブルーが決めたこと、ただ単に自分がジョミーに会いたいから職権フル活用で定めた生徒会内の決め事。
別に今更、と現状維持をジョミーが言ったので生徒会内の決め事は特に変わってはいない。
唯一トォニィがブルーに感謝した事といえばこれぐらいのものだ、そして心の中では高らかに笑いながらこう叫ぶ。


あんたが決めたこれのおかげで僕は毎日ジョミーに会える!これだけは感謝してやるよ!!あっはっはっは!!!と。
 
 
帰りのホームルームが長引いてしまって、いつもより遅く教室を飛び出た。
普段の時間ならもうジョミーに会って、仕事を隣で手伝っているのに!
広すぎるシャングリラ学園内の全てを覚えているわけではないが生徒会室までの最短距離が頭に叩き込んだ。
ちなみに生徒会室も青の間、と名前が変わっている、これもソルジャーの由来動揺、トォニィには一切興味のないことである。
春の日差しに照らされている廊下を曲がれば、もうそこが生徒会室。
もう誰か来ているのだろうか、それとも自分が一番乗りなのであろうか。
ソルジャーを嫌がっていたジョミーだが責任感はあるし任された事はきっちりするタイプなのできっとジョミーがいる。
今にも空へ飛んでしまうのではないか、というぐらいの勢いとステップでトォニィは生徒会室の扉を思い切り開けた。
「ジョミー!!」 
「やぁ、トォニィ」
返ってきた返事は大好きな音声ではなく、どちらかといえば正直この先一生聞きたくはない男のものだった。
「貴方ねぇ、大学はどうしたんですか、暇なんですか?入学したばかりなのに暇ってわけないでしょう?」
「暇ではないよ、ただどうしようもなく君に会いたかったんだ」
「昨日も会いました」
「電話越し、機械越しに君に会っても意味がないよ」
「というか、携帯のテレビ電話機能ってすぐ充電しないと駄目なんで金輪際やめてもらえません?」
完全に自分は置いていかれている。
しかもいつも自分が座っているジョミーの隣は、ブルーが座ってる。
何故!?先月卒業したはずの人間がさも当然のように生徒会室にいるのか。
卒業生なのだから母校に足を運ぶのは変なことではない、でも早過ぎだろ!
トォニィの心の突っ込みが聞こえたのか突然ブルーがこちらを向き、笑みを浮かべた。

「どうしたんだい?立ったままで…まぁ座りたまえ」
元生徒会の人間に上目線でこんなことを言われ、無性に腹が立つ。
彼がジョミーの隣にいる時点で怒りは頂点に達していたのだが。
「っ…!なんでアンタがここにいるんだよ!てかそこは僕の席だ!!大学に帰れ!!!」
疑問に思ったこと、とりあえず言いたかった事を全て吐き出すとブルーはきょとん、とした後に笑った、しかも鼻で。
 
「今日講義はもう終わったし、もし何かあればすぐに帰るよ、大学はここの隣だからね」
 
勝ち誇ったように告げ、黙々と書類にサインし続けるジョミーの肩を寄せようとして失敗する。
「ちょっと…邪魔です。暇ならこれ整理するの手伝ってくださいよ、ほらトォニィも」
つれないね、と残念そうに呟くブルーが抵抗する間さえ与えない速さでジョミーのこめかみに軽く口付ける。
満足げに指定された書類に手を伸ばすブルーと耳まで赤くなって
机に突っ伏してしまったジョミーを、まるで幻でも見るかのような表情でトォニィは見つめていた。
今、彼の脳内にはブルーの言葉がエコーしている。

『今日講義はもう終わったし、もし何かあればすぐに帰るよ、大学はここの隣だからね』

大学はここの隣、つまりはシャングリラ学園の隣、ということ。
全く気にも留めていなかった事実。
ジョミーに会える、という楽しみに今のいままですっかり忘れていたがブルーの進学した大学は隣にあったのだ。
何て小さなミスを仕出かしてしまったんだ自分!むしろ最大の汚点だ!!とトォニィはその場に膝を落とした。


これから輝くはずであった学園生活に早くも陰りが出たこと、小さなミスがこの先大きなミスだった事にトォニィが気付くのはもっと先の話。

 

 


シャン学設定でトニジョミと見せかけてブルジョミ。
ご、ごめ…!ブルジョミ+トニが愛しいのです。
CD聞き直してないから違う箇所がいくつかありそうですが…すいません!(逃)