26 幸せ 

 

「おいし〜」

こんなに美味しい食べ物は食べたことないよ、と大袈裟に喜ぶコレットにロイドは笑った。
味覚が戻って以来、こんな調子だ。

「慌てなくても、飯は逃げねーよ」
「わかってるよ〜でも、美味しいんだもん!…幸せ〜」
「幸せ、か…コレットは本当に大袈裟だなぁ」


世界を再生する為に自分自身を犠牲にしようとした少女の幸せ。


その少女の幸せが、こんなふうに当たり前のように食事する事だなんて。
こちらの神子が聞いたらきっと驚くだろう。
なんとも庶民的ではないか。
でも、そんな当たり前がコレットにとって大切なんだと思う。
神子として16年生きてきたコレットにとって。

「ほら!次のメニューだ!!」

そう言ってロイドが持ってきたのは焦げめのついたオムライス。

「なんつーか…美味い物を食べさせてやりたかったんだけど、慌てたら焦げた…」

頬をかきながらロイドが申し訳なさそうに言うので、コレットはそんなことない、と首をふる。

「謝んないで、ロイドが作ってくれたんだもん。絶対に美味しいよ」


一口食べると、口の中には甘い味がひろがった。


「…えへへ、しょっぱいね…」
「泣くなよ」
「うん、ごめんね」
「謝るなよ」
「うん、ありがとう、ロイド…すごく嬉しい…」

照れたのかロイドは胡座をかいて座りそっぽを向いてしまった。
そんな様子を見て、コレットは小さく笑った。
すると奥から近付いて来る美味しそうな香り。

「泣くのはあたしの料理を食べてからにしておくれよ」

そこには両手に皿を持ったしいなが、その後ろにはジーニアスやリフィルもいた。

「コレットがさっきまで食べてたのは僕が作ったんだからね〜あ、姉さんも手伝ってくれたんだよ」
「失敗はしてなくてよ」
「しいな、ジーニアス、リフィル先生…ありがと…」

いっぱいになった、心が。
また零れる涙が料理の上に落ちる。

「…ほら、またしょぱくなるぞ?」
「うん…ごめんね。いただきます!」


みんなと食べたらもっと美味しくなるかな?
料理を囲んでみんな、一緒に。

 

 


一人より二人、二人より三人。
大勢で食べた方が楽しいです。