25 朝

 

政務が進まない時は散歩でもして気分転換。

これに気付いたのは、つい最近のこと。
気付く以前までは台輔とよく喧嘩していた。
まぁ、市井へ無断で出掛けようとしていた自分が悪いのだけれど。
でも今は違う、一緒にいた景麒にちゃんと告げてきたし、彼も理解してくれている。
一緒に行こう、と誘ったのだけれど、あの不器用な麒麟は首を縦に振らず、こう言ったのだ。

『主上が戻っていらっしゃる頃までには、少しでも作業しやすいように書類をまとめておきます』

何も知らぬ人が聞けば、なんて主上思いの慈悲に満ちた麒麟なのだろう、と思うはずだが。
長年連れ添って来た陽子にしか分からない軽い嫌味だ。

「作業しやすいようにまとめておくから、早く帰ってこいっ意味だよな、あれは…」

それならそうとはっきり言えばいいのに。
回りくどく告げてきた自分の麒麟に苦笑する。

「ま、なんと言われようと私はゆっくり気分転換するだけさ、まとめておいてくれても気分がのらないんじゃ…」

ふと、足を止める。
ある一画の庭園に差し掛かった辺りだ、風と一緒に美しい旋律が流れてくる。

「…歌?この歌声は祥瓊か?」

陽子は即位してから祥瓊以上の歌い手を知らない、だからすぐ分かった。
物音を経てないように静かに近付く、奥に進むほど声もはっきりしてきた。

繊細な声で奏でる美しい旋律はやはり素晴らしいものだ。

つい聞き惚れていたら、足下にあった枝に気付かず踏んでいまった。
中断する物音が辺りに響き、歌は止まる。
陽子はしまった、と頭を押さえた。

「…陽子?なぁに、政務を逃げてきたの?」

くすくすと上品に笑う祥瓊につられて陽子も小さく笑った。

「気分転換さ、祥瓊はこんな所で何をしているんだ?」
「暇が出来てね、ちょっと歌いたくなって…いつもは朝早く歌っているのだけど」
「朝?」

なぜ朝なのだろう?
もっと違う時間はなかったのだろうか。

「朝ってほとんど誰にも会うこともないし…それに、空気が澄んでて声がよくとおるの」
「へぇ〜…いいなそれ、私も聞いてみたい」

普段でもよくとおる声なのに、それ以上だと、どれだけ美しいのか。

「よし、朝だな!!」

何かを決めたように陽子は指を鳴らした。

「陽子…?」
「明日の朝、歌う歌声を私も聞きたいからな、頼むよ祥瓊」

にっこりと笑い陽子は嬉しそうに回れ右をした。

「そうと決まれば、頑張って政務の続きでもするかな!」
「ちょ、ちょっと陽子!?」

「何か楽しみがあったほうが捗るだろ〜!!」

小さくなっている陽子を見ながら祥瓊は呆れたように笑い溜め息をつく。

「楽しみね…仕方ないか」



諦めたように、でも嬉しそうに祥瓊は明日の為に、もう一度、声を風に乗せた。

 

 


祥瓊オンステージ!(笑)